王都に着いた!転生物お約束の門番とのいざこざだ!
前回のあらすじ:燃え盛る森を背後に、変な男に難癖をつけられながらも、始まりの草原を抜け、王都に無事に辿り着く。
「着いたぞー!!王都ー!!うっわー!!門すらでっけー!!すっげー!!」
日が傾き始め、もう少しで夕方になろうかというところで無事に王都に辿り着いた私達。そんな中、王都の入り口である荘厳な正門を前に、愛が元気いっぱい大声を上げる。
突然の愛の大声に、正門近くにいた人達は、驚いた表情で私達を見た後、クスクスと笑い始める。まさに、田舎から来た人を笑う都会人。私達おのぼりさん。正直なところ、すっごい恥ずかしい。
でも、愛が王都を見て、喜びを爆発させてしまうのも仕方ない。
四日間の長い道中の末に辿り着いた王都。木で作られていたファストの町のものとは比べものにならない、鉄製の強固な門と、周囲を取り囲む堅牢な石壁。正門から見える左右の石壁は果てが見えない程であり、王都の広大さを実感させられる。
「愛が大声を上げるのも分かるな…。すごい…。」
転生前はテレビの旅番組でしか見ることのなかった、異国情緒溢れる光景。多くの先人達が少しずつ築き上げてきたであろう石壁を目の前に、自然と感嘆のため息がこぼれる。
ため息と同時、これから私達はこの王都の中で生活するんだという実感が沸き上がり、少しずつ胸が高まっていくのを感じる。
腕をバタバタさせながら走り回っている愛を横目に、他の仲間の様子も確認する。
王都に何度も来たことあるシロ君でさえ、興奮と緊張の入り混じった表情。ユウジは関係が浅いため表情を読み取れないが、色恋ナンパ野郎のことだ。どうせ王都の様々な美女に想いを馳せているのだろう。
「それでは、王都への入門手続きをしましょう!」
今にも王都正門へ走り出しそうな愛、王都挑戦に対して決意を新たにする私へとシロ君が言葉をかける。
入門手続き。ファストの町は、門番のおじさんが一人立っているだけだった上に、領主の息子であるシロ君と一緒だったため、セキュリティのことを意識することは無かった。しかし、これほど大きな都市なら、ちゃんとした受付が必要なのだろう。シロ君の言葉に納得しながら、私達も列に加わる。
「えー!?並ぶの!?待つの!?はやく入ろうよー!!はーやーく!!」
正門脇の入門手続き待ちの長い列に、はやる気持ちが抑えられないとばかりに愛が暴れ始める。
「愛、こっちにおいでー。」
「んー?どうしたのー?そんな優しい声出してー?」
満面の笑みでちょいちょいと愛を呼ぶ。警戒心無しで近付いてくる愛を、私は羽交い締めにする。
「んー!?」
「はい、大人しくしようねー。」
暴れる愛を羽交い締めにし、入門手続き待ちの列に加わり直す。
両手を振り回してジタバタ暴れる、猪突猛進な愛の両肩を抑えながら、私達の順番を待っている間、私は冷静に今後のことを考える。ずっと考えていた懸念点。今の内に解決しよう。愛が王都内で暴走しないように釘を刺すことにする。
「愛。今の内に伝えておくね。」
「何、美雪?」
「王都ではむやみやたらに喧嘩を仕掛けないこと。相手が強そうだからといって殴り掛からない、蹴りかからないこと。」
「頭突きは良いってこと?」
「…頭突きも禁止。とにかく相手に攻撃をしないこと。攻撃禁止。」
「えー!?攻撃禁止ー!?鬼火流の教えに反するー!!」
「新天地で無駄ないざこざを生みたくないの。愛が強い敵を前に、喧嘩を我慢できないのは分かるけど、我慢して。その代わり…。」
「その代わり?」
「我慢出来たら、びっくりするくらいの強者と戦わせてあげるから。」
私の発言ににやりと笑う愛。ジタバタしていた手足も大人しくなる。
どうやら、愛の説得に成功したようだ。これなら、王都でも無駄なトラブルを生むことが無いだろう。私はほっと一安心すると同時に、愛から漂ってくる異常な闘気に少し不安を覚える。羽交い締めのまま、気を抜かず警戒しようと決意する。
「美雪さん、愛さん、ユウジ。僕達の入門手続きの番が来ましたよ!」
愛の説得をしていたところで、私達の順番が来たようだ。シロ君の呼び声に応じて正門の中に入る。
「はいはーい。入門手続きねー。それじゃ、一人ずつ確認していくからー。ちょっと待っててー。」
「お願いします!」
入門手続きの担当なのか、一人の男が私達を迎え入れる。
赤を基調とした、いかにも騎士といった感じの服装を、だらしなく着崩し、気だるさを隠そうとしない中肉中背の青髪の男。ファストの町のギルド長であるシリシュさんが言っていた王都直属の騎士団の一人だろう。
「美雪さんの察しの通り、この方は王属騎士団の一人で、王都の門番と呼ばれるガリク・ガードナーさんです。いい加減な雰囲気ですが、彼の善悪を見極める力は間違いないです。」
やはり彼は騎士団の一人だった。シリシュさん曰く、王属騎士団は冒険者で言うとビリジアン等級以上の高等級の実力を持つ。
つまり、この緩んだ感じの男も、高等級冒険者並みの実力を持つ。愛もそれを本能的に感じ取ったのか、体中に少し力が加わったのを感じる。愛を羽交い締めする私の力も増える。
「まず、ホワイト・ヒューガルド。坊ちゃんは何度も王都に来てるな。その時も大きな問題を起こさず、ファストの町の領主の息子として、堂々とした立ち振る舞い。坊ちゃん、この魔晶石を触ってみて。」
「はい、いつものですね。」
部屋の真ん中に据えられた、大きな水晶玉にシロ君が触れる。すると、水晶玉の中で大きな黄色の玉と白色の玉が回り始める。
「お、坊ちゃんは光属性魔法も使えるようになったのか!地属性魔法も、もう少しで岩魔法に進化しそうだし…。将来が恐ろしい少年だ。今は黒等級冒険者だけど、もう少しで青等級冒険者だし、魔力の能力値も高い。うん、これなら王都入り問題なーし。でも…。」
「でも?何か問題ありました?」
「今日はいつものメイドさん、一緒じゃないの?」
先ほどまでのだらけた雰囲気とは異なり、真剣な表情と声色でシロ君に質問をするガリクさん。そんなガリクさんににっこりと微笑んだシロ君は、ゆっくりと答える。
「メイコは今日はいませんよ!今日は冒険者として、パーティと一緒に来たので!」
「あ…、そう。メイコさんいないの…。そう、冒険者として坊ちゃんは来たの…。なるほどね…。」
美人メイドであるメイコさんの不在に、明らかにガリクさんのテンションが下がる。下がったテンションそのままでユウジのことを観察し始める。
「はぁ、ヤル気なくなったわ。このまま飲みに行きたい気分だけど、まだ定時じゃないんだよなー。あー、くっそー。次は、ユウジ・タチバナか。前に転生神殿に現れたっていう転生者だな。王都在住経験あり。おっけー。はい、次ー。」
「雑!!俺にもあの水晶玉を使わせてくれよ!!」
ユウジが得意のツッコミをするが、ガリクさんはふいふいと手を振って軽くいなす。そして、愛を羽交い締めにする私と目が合う。私達の番だ。
「え…?え?」
愛と私を順番に指差しながら、明らかに戸惑っているガリクさん。そういえば、愛を羽交い締めにしたままだった。ガリクさんが戸惑っても仕方ない。というか、明らかに引いている。
そんなガリクさんにシロ君がフォローを入れる。
「こちらの二人は、僕の冒険者パーティの愛さんと美雪さんです。」
「え?冒険者?殺し屋と、殺した相手の娘じゃなくて?殺した相手の娘が、親の仇ー!!って一矢報いようとしたところを、羽交い締めで抑えた凄腕の殺し屋じゃなくて?え?」
ガリクさんの私に対する評価…。目つきが悪いのは自覚してるけど、殺し屋って…。学生時代はマフィアの娘、ヤで始まる職業の娘、次期親分とか色々と言われてきたけど、殺し屋って…。
ガリクさんに殴り掛からないように抑えていた愛が、小刻みに震えているのを感じる。
「愛…。私が殺し屋って言われて怒ってくれてるのね…。」
「…ぶくっ…。くくっ…。」
いや、笑いを堪えてるー!!愛さーん!!
笑いを堪える愛を睨みつけていると、ガリクさんが震えながら愛と私の観察を続ける。
「長年の経験を基にした俺の善悪を判断する眼は、彼女達のことを善と判断してるけど…、見た目から来る殺し屋の彼女の威圧感が、善ではない何かと判断している…。更に言うと、殺し屋の彼女も怖いけど、羽交い締めにされてる少女も、謎の威圧感を感じて怖いんだよな…。え、なんなの?俺は彼女らを王都に入れて大丈夫なの?」
「大丈夫です!!彼女たちは僕が信頼する仲間です!!見た目と威圧感が怖い上に、喧嘩っ早い二人ですが、心優しい素敵な女性なんです!!」
シロ君が慌てた様子でフォローを入れる。見た目と威圧感が怖い上に、喧嘩っ早いか…。
思わぬ形で、シロ君の普段の評価を聞いた私達は、ちょっと落ち込む。そんな私達の様子など気にすることなく、ガリクさんは私達の評価を続ける。
「いや、この二人…。明らかに只者じゃないだろ…。坊ちゃんはどんな危険な仲間と冒険者パーティになろうとしてるんだ…?俺は王都内に彼女たちを入れても良いのか…?後で何かしらの問題を起こさないか…?善悪を判断する眼を信じるか、彼女達に怯える本能を信じるか…。」
がっちり両手を組み、愛と私を疑問いっぱいの様子で観察するガリクさん。善悪の判断がつかないのか、まじまじと私達を観察している。あれ、まさかの門前払いの可能性が出ている?
そんなガリクさんに、笑顔でシロ君がフォローを入れる。
「ガリクさんに言い忘れていたんですけど、メイコはダースさんと結婚します。」
「どうした坊ちゃん、急に…って、え!?ダースって、坊ちゃんを守ってた冒険者だよな!?え!?メイコさん、ダースと結婚したの!?え!?まじで!?まじでー!?」
私達も初耳のメイコさんとダースさんの衝撃の事実に、ガリクさんは目を見開いて驚く。シロ君の両肩を掴んで問いただした後、頭を抱えて大声で叫ぶ。ひとしきり大げさに驚いたガリクさんは、入り口に置いてあった看板をくるっとひっくり返す。
あれ、営業中って書かれた看板を、休業中に変えたような…?
呆気に取られる私達を気にすることもなく、ガリクさんは帰り支度を始める。支度を終えたガリクさんは、半ばやけっぱちといった様子で、私達に対して叫ぶ。
「だー!!ちくしょー!!入門手続きなんて、やってられっかー!!どうせ、もう少しで定時だ!!俺は飲みに行く!!ヤケ酒だー!!本能より眼を信じる!!坊ちゃん一行、通ってよーしっ!!何か問題を起こしても、坊ちゃんたちの自己責任な!!つまり、ヒューガルド家の責任な!!俺の責任じゃねぇ!!ってわけで、全員通って良ーし!!あー、ちくしょー!!メイコさーん!!なんでだよー!!」
そう叫んだガリクさんは、王都の街中へと走り去る。
悲哀に溢れたその背中を、私達はただただ黙って見守ることしか出来なかった。
「いや、シロ。あのタイミングで、あの発言ってどういうことよ…?」
「え?でも、止められることなく無事に王都へ入ることが出来ましたよ?」
ユウジのじとーっとした目の質問に、さらっと答えるシロ君。
こうして、私達はシロ君のおかげで、無事(?)に王都への入門手続きを終えることが出来た。良いのかなーっていう不安な気持ちを抱えたまま、私達は王都への一歩を踏み出す。




