王都への道中、変な男に難癖つけられる
前回のあらすじ:王都に到着してからの計画。そして、絶望のダンジョンの異名を持つダンジョン、ディスピアへの挑戦という目標を仲間たちと共有した美雪。新たな決意を胸に、王都へと向かう。
キーコキーコと人引き車の独特な音を、始まりの草原に響かせながら、私達は王都セカド・エーデルワイスを目指す。
「あー、暇。退屈だー。草、道、草、たまに岩や木、そして、草、道、道、草、草…。変わらない景色で、すっごい退屈ー。何か面白いこと起きないかなー。強敵が急に現れるとかさー!!」
王都挑戦に向けて決意を新たにし、私達一行は王都へと歩を進めていたが、その道中はあまりにも退屈だった。退屈に耐えきれなかった愛が、大声で不満を漏らす。
「おいおい…、そんな不審なこと言ってると何か起きるぞ…って、妙に暑いな…。」
人引き車を力強く漕ぐ愛とユウジの言葉を聞きながら、私はMP回復ポーションで喉を潤す。移動中もMP回復に努め、体力少なめのシロ君と一緒に、人引き車の後ろの籠でゆったりと周囲の様子を眺める。
「暑い?まだ春先くらいの気温でしょ?不思議な事象には必ず理由があるはず。愛、ユウジ、注意深く周囲を観察して、何か異変があったらすぐに報告すること。王都までもう少しだから、がんばってー!王都では、ふかふかのベッドが待ってるよー!!」
「ふかふかのベッド!!がんばる!!」
「愛は元気だなー!!俺も負けてらんないぜ!!」
私の声に、愛とユウジは元気な声で答える。そんな二人の元気な声に、シロ君は鼻の頭をかきながら、気まずそうな表情を浮かべる。
「体力自慢の二人が人引き車を漕ぐのは合理的ですが、僕達はこんな快適空間の中でのんびりしていて良いのでしょうか…?」
シロ君が気後れしてしまうのも仕方ない。シロ君と私が乗る人引き車の後方の籠は、私の家電魔法クーラーで程よく冷やされている。一日目の朝食の調理でも大活躍だった温度操作魔法は、こういう時にもとても便利である。
「良いのよ、シロ君。二人は人引き車を漕ぐことで、筋力とスタミナのステータスを上げながら、シロ君と私は魔力を上げながら王都に進んでるんだから。退屈な旅路でも、得意分野のステータスの努力値を上げながら進んだ方が効率的でしょ?」
MP回復ポーションを飲みながら、私は人引き車の籠の中を生活魔法クーラーで冷やし、シロ君は地属性魔法で進行方向のボコボコな地面を、人引き車が通りやすいように均しながら進む。
魔法を発動しながら進み、魔力のステータスに対して努力値を上げているわけだが…。シロ君と私は傍目には、力自慢に人引き車を漕がせ、揺れの少ない涼しい籠の中でのんびりしている優雅な旅路。
いや、私だってのんびり休みながら、愛とユウジに人引き車を漕がせてるわけじゃないよ。余った冷気はちゃんと愛とユウジに、振りかけてるよ?
「美雪さーん、異様な暑さの原因が分かったぞー。目の前を見てくれー。」
ふと聞こえてきたユウジの声に、籠の前面の窓を開く。
「どうした、ユウジー…、って、ん?森が燃えてる?シロ君、この森って年中燃えてるとか、そういった異世界特有の不思議フィールド?」
「いえ、そんな森は始まりの草原には存在しません…。」
「じゃあ、得体の知れない異変ね。愛、ユウジー。ストーップ。確認するわよー。」
少し先で木々が勢いよく燃えている。明らかな異変に、私達は燃え移らない位置で馬車を止め、目の前で轟々と燃える森を確認することにする。
「うへー。すっごい燃えてるねー。ここまでも熱が届くよー。暑いー。」
額の汗を拭いながら、愛が文句を言う。うんざりといった感じの愛の様子も分かる。黒々とした煙を上げて燃える森は、遠く離れた人引き車にも大きな熱量を届けてくる。
「ここは、アーティ・アイススタチュー様の私有林のはずですが…。なぜこんな風に燃えているのでしょう…?せっかく私有林を通過する許可を取ったというのに…。これでは、大きく迂回しないと王都には辿り着けません…。王都への今日中の到着は難しいですね…。」
このアーティ・なんちゃらの私有林を通り抜けると、もう少しで王都に着くはずだったのに、燃え盛る炎によって、王都到着は一日の遅延が発生する。計画を立てて早々、その計画が狂ったことに、私は少しばかり怒りを感じる。
「ちっ!!」
イライラとした感情から思わず舌打ちが生まれる。愛、シロ君、ユウジがなぜか怯えた気がするが、私は気にしない。燃え盛る木々に負けないくらい怒りの炎を燃やし、目の前の森を睨んでいると、騒がしい声が燃え盛る森の炎の中から聞こえてくる。
「あちっ!!熱い!!おいこら、ユキオー!!やっちまえと言ったのはうちだけど、さすがにやり過ぎだろうが!!大炎上だよ!!」
「ロコの言う通りですよ、ユキオ!!助けてくれたのには感謝しますが、森全体が燃えてしまってるじゃないですかー!!どうするんですか!?もっと早く逃げないと、自分の放った炎で焼かれ死にますよー!!走ってください!!」
「無理だよ!!二人も両脇に抱えた状態で、走れるわけないだろ!!ロコもルピスも文句を言うなら、自分の足で走れよー!!」
「「無理、MP切れで動けない。」」
「声を合わせて情けないことを言うんじゃねぇ!!動けないロコとルピスを、こうして運んでやってるだけでも、有難く思えよー!!って、不幸中の幸い!!人がいるぞ!!そこ行く方々、助けてくれー!!」
声のした方を確認すると、何かを両手に抱えた青年が燃え盛る森の中を歩いている。よく見ると、青年が抱えていたのは、二人の少女だった。
左手にフードを深く被って顔を隠したローブを着た小さな少女、右手に露出の多い服を着た浅黒い肌の少女を両手に抱え、炎に逆らいながら私達の方へとゆっくりと近づいてくる。燃え盛る森にも負けないくらい赤い髪の青年は、少女二人を抱えているためか、重々しい足取りでなんとか歩を進めながら、私達へ大声で助けを求める。
「ユウジ、なんだか困ってるみたい!!水魔法を使って!!」
「分かった!!水の精霊よ、威力はいらねぇ!!広範囲の水で、目の前の者達を炎の猛威から守り給え!!アクアシャワー!!」
炎の中を全力疾走する赤髪の男と両手に抱えられた少女二人に対して、ユウジは両手を突き出し、水魔法で冷たい水を振りかける。ユウジの水魔法に合わせて、私も温度操作魔法で三人に襲い掛かる熱エネルギーを空へと逃がし、熱さを和らげる。
「うぉ!?って、水魔法か!!助かる!!それに、なんだか火の勢いが和らいだ気がする!!さっきより熱くない!!これなら、助かるぞ!!」
「さっきまではもうダメだと思ったけど、これならなんとかなりそうだ!!ユキオ、もうちょっとだ!!がんばれー!!」
「どなたか知りませんが、援助感謝いたします!!さぁ、最後の力を振り絞って、走ってください!!」
「二人を抱えた状態じゃ、走れねぇって言ってんだろ!!」
気休め程度にしかならないと思った私とユウジのサポートだが、燃え盛る森の中を歩く三人にとっては、効果絶大だった。
両脇に抱えた少女達とワーワーギャーギャーしながらも、私達の援助によって、三人の進むペースが上がる。
「うわー!!助かったー!!」
ついに赤髪の青年は、震える足で私達の下に辿り着く。
「見知らぬ旅人たちよ!!助けてくれたこと、本当に感謝する!!おかげで、なんとか生き延びることができた!!本当にありがとう!!」
疲労困憊、もう限界といった様子の赤髪の青年は、私達へ小さく頭を下げた後、両脇の少女を足元へと放り投げる。
「ぐぇ!!もうちょっと優しく下ろせよ、ユキオー!!」
「まさに荷物を下ろすような感じでしたね…。まぁ、私達はMP切れで何も出来なかったので、荷物扱いされても仕方ないですよね…。」
草原の地面に放り投げた文句いっぱいの二人の少女を無視し、赤髪の青年は恍惚とした表情で、天を仰ぎ見ている。呆けた表情で両手を広げ、太陽の光を全身で余すことなく受けた状態で、すーはーと深呼吸。光合成かな?
妙に大げさな赤髪の青年の様子を不思議に思ったため、こそっと近づく。私の接近に気付かず、青年はぼそりと呟く。
「あー、異世界初めての青空…。異世界転生してから、早一年以上経つけど、初めて異世界の青空を見たぞー…。正直なところ、地球とそんなに変わらないな…。そんなに変わらないけど、やっぱり良いなぁ、太陽の下は…。なんていうか生き返る…。」
赤髪の青年が呟いた言葉の中の、異世界転生、地球という単語を私は聞き逃さない。赤髪の青年の両肩を掴み、言葉の意味を確認する。
「あなたも日本からの転生者なの!?」
「うわっ!!びっくりした!!いつの間にこんな接近してんだよ…って、あなたも日本からの転生者…?あなたも…、ってことはお前も日本からの転生者なのか!?」
赤髪の青年の質問に、私はこくこくと首を縦に振る。私の返答に、赤髪の青年は目を見開く。
「まじか!!俺以外の転生者も多くいるって聞いてたけど、実際に会うのは初めてだ!!うわっ、すっげぇ親近感!!よろしくなー!!」
赤髪の青年が、右手を差し出す。私はにっこりと微笑んだ後、強く握手をする。初対面の人には、とにかく笑顔を意識する。目つきの悪い私は、にこにこと笑いながらでないと、相手の警戒心を無駄に引き上げてしまう。
私の願いが届いたのか、赤髪の青年は笑顔で私の握手に応じる。
「私の名前は、弓弦 美雪。おなたと同じ地球からの転生者です!よろしくお願いします!私だけじゃなく、私達のパーティには他に二人の転生者がいますので、紹介いたしますね!こちらの、愛、ユウジも同じ転生者です!」
「おー!!この小さい女の子と、いかにも筋肉自慢の大男も転生者かー!!」
「多分、美雪が言う日本とは違うけど、同じ転生者!!剛が自慢の鬼火の里出身の転生者!!鬼火 愛!!よろしく!!」
「俺も美雪さんと同じ、日本からの転生者、ユウジ・タチバナ!!よろしく!!」
「僕は転生者じゃありませんが、シロと言います!よろしくお願いします!」
「おう!美雪、愛、ユウジ、シロ、よろしくなー!!俺はユキオ!!同じ日本からの転生者だ!!」
笑顔で自己紹介した愛とユウジに対し、ユキオと名乗った赤髪の青年も笑顔で応え、愛とユウジの肩をバンバンと叩く。終始笑顔なユキオ。どうやら同じ転生者に出会えて気分が高揚しているようだ。
「そっちでぶっ倒れてるのが、ロコとルピス。MPがほとんど残ってないからぶっ倒れてるけど、今の無様な姿は許してくれ。」
「「よろしくー。」」
草原に寝かされた二人は、震える手でシロ君からMP回復ポーションを受け取っている。青い光に包まれる二人は、もう少しすれば、普通に歩けるくらいには回復するだろう。
「おー、すまないな、シロ!ありがとう!!ほら、二人もお礼を言って!!」
「「ありがとー!」」
ペコペコとシロ君に頭を下げる二人の少女を横目に、私はユキオへと近づく。
「ユキオさん、初対面で不躾な相談かもしれませんが…、私達は転生して一か月程度なので、異世界情報が少なく困っております。よろしければ、情報の交換をしましょう!!」
「情報交換!!大事だな!!ぜひお願いするぜ!!」
私の情報共有という提案に対し、ユキオは笑顔で応える。
先ほど独り言で異世界に転生してから早一年と言っていたユキオ。私達よりも異世界経験の長い先輩転生者に、これからの異世界生活に役立つ情報を与えてくれるだろう。
ユキオの警戒心を解くためにも、私から情報を話すことにする。
異世界転生してからの一か月で得た情報と、私達がどんな風に過ごしてきたかを要約してユキオに伝える。私が話す間、ユキオはうんうんと黙って頷き、ユキオが燃え盛る森の中で、両脇に抱えていた少女二人も、興味深そうに私の話を聞いている。
「ほうほう、美雪は始まりの草原に転生して、最弱モンスターに苦戦しつつも勝利。その後、ブラックベアに追いかけられた愛と合流。二人でブラウンウルフに襲われていたシロとその仲間を救う。ファストの町でクエストを攻略しながら、異世界の戦闘を学び、仇敵であるブラックベアを倒す。ついでにファストの町に迫ってた脅威、ジャイアントグラスホッパーの群れを蹴散らす。その勢いのまま、ファストの町のダンジョンを攻略して、次は王都のダンジョンに挑戦ね…。なるほど。なるほど。」
私達の転生してからの約一か月をまとめたユキオは、両手を組んだまま、うんうんと深く頷いている。そして、カッと目を見開く。
「順調過ぎんだろ!!」
私の異世界転生してからの日々をまとめたユキオは、急に怒りながら大声を上げる。順調?私の異世界生活が!?
「順調!?え!?急なアクシデントや強敵で何度か死にかけてるんですけど!!」
「急なアクシデント…?強敵…?さっき聞いた話程度のアクシデントや強敵なら、異世界で冒険者やってれば普通だよ!!むしろ、異世界生活に盛り上がりどころを作る、良い感じのスパイスって感じじゃねぇか!!全っ然、不幸じゃねぇ!!」
私の言葉に、ユキオは目じりをつり上げて言葉を荒くする。先ほどまでにこにこと笑っていたユキオが、なぜこんなに怒りを露わにしているのか。彼の異世界生活に、どんな不幸が訪れたのか気になってくる。
そんな中、ユキオは腰に差していた真っ黒の刀を抜く。
ユキオの怒りに応えるように、真っ黒だった刀は少しずつ、燃え盛る炎のように赤くなっていく。温度操作魔法を使える私には、刀に異常な火属性魔法が溜められていくのが分かる。ダメだ、あれは危険だ。
「きゅ、急にどうしたんですか!?」
「アクシデントってのは、こういうことだ。全っ然、不幸じゃない順調過ぎな美雪達には、俺が転生者の先輩として、異世界の洗礼ってものを教えてやるよ…。」
異常な熱エネルギーを発する赤熱した刀を、大きく両足を広げて低く構えたユキオは、刀の熱エネルギーに負けないくらいの異常な殺気を私達にぶつけてくる。
「美雪さん、下がれ!!そして、出来る限り遠くに離れるんだ!!ここは俺が受け止める!!」
「いや、盾で受けるって考えが軟弱だ!!鬼火流剛術の先制攻撃で止めてやる!!」
姫甲飛虫の盾を構えたユウジが、私とユキオの間に立とうとするが、それよりも早く愛が飛び出す。私も弓を取り出し、援護をしようとしたところで、ユキオの大声によって止められる。
「遅い!!異世界の洗礼を受けよ!!獄炎、あぁぁぁー…。」
もうダメだと思った私達の耳に、情けないユキオの声が届く。
妙に遠ざかっていくその声に、何が起きたのだろうと目を開けると、ユキオが黒いワイバーンに両肩を掴まれて、空の彼方に運ばれていた。
「「ユキオが、ワイバーンに攫われたー!!」」
ワイバーンの両足で両肩を掴まれたユキオは、地上から十メートル以上の高さへと運ばれる。そんなユキオを、ロコとルピスがワーワーギャーギャーと騒ぎながら追いかける。
急なユキオの攻撃から逃れることが出来た私達は、もうほとんど見えなくなったワイバーンに連れ去られるユキオ、それを追いかける二人の少女を眺めながら、呆然と立ち尽くす。
「よっぽどのことがないと人を襲わないワイバーンが、あんな風に人を運ぶなんて…。」
「完全に、巣に餌を運ぶスタイルだったな…。」
「いやー、それにしても…。」
「「「何だったんだ、あの男たちは?」」」
「何だったんでしょうね…?」
各々の武器や防具を仕舞いながら、私達は今起きたことへの感想を述べる。
変な男に難癖つけられながらも、私達は王都を目指して進む。燃え盛る森を大きく迂回した私達は、今日以上の異変が起きることなく、無事に次の日、王都に辿り着いた。




