王都挑戦を前に予定の共有を行う
前回のあらすじ:寝起きドッキリからの朝食を終え、王都に向かっての進行を再開する。
始まりの草原から王都を目指して、早くも三日目。
ファストの町から順調に人引き車を漕ぎ、あと一日もすれば王都に辿り着くところまで来た私達は、近くのセーフティストーンで昼食を取っていた。
「美雪ー。びっくりするくらい、何も起きないよー。毎日毎日ー、キーコキーコって人引き車を漕ぐばかりー。暇で退屈だよー。王都ってとこには強い相手がいっぱいなんだよねー?待ち遠しいよー。」
二日間、人引き車を漕ぎ続けていた愛は、早々に昼食を終えた後、うへーと不満を漏らす。
平均適正討伐レベル6の始まりの草原には、私達の敵になるレベルのモンスターがいないため、強敵と戦うことを生業としている愛は退屈で仕方ないようだ。
「退屈でごめんね。明日には強敵の待つ王都に到着するから、もう少しだけ我慢して。王都に着けば、愛のお望みの強敵との戦いも用意できると思うから!でも、その前に…!!」
「その前に…?」
大事なことを話すため、一拍置く。そして、ゆっくりと一言呟く。
「王都に挑戦する前に…、みんなに話したいことがあります。」
「王都に挑戦する前に、話したいこと?何ー?」
私の言葉に首を傾げながら、ぐいっと乗り出す愛。
シロ君とユウジも、首を傾げる。愛ほど分かりやすく疑問を露わにしないが、昼食を食べる手を止め、私の続く言葉を待っている。そんな三人の仲間達に向かって、私は喉の調子を整え、久しぶりの大声を上げる。
「えー…。昼食を食べながらで構わないので、聞いていただきたい!!シロ君に聞いた王都の情報!!そして、今の私達の能力を踏まえた上で、王都に着いてからの計画を立てました!!魔王と対等な立場での会談を実現するため、私が描く強化計画を共有させてください!!」
仲間達に向かって、私は声高にこれからの計画を説明する。
わざわざ仲間たちとの楽しい昼食を中断してまで話し始めたのには深い理由がある。
私は転生時に異世界を明確化するため、神と一緒に魔王退治を目的とした異世界転生について、要件定義を行った。
転生前のSEという職業で経験してきた要件定義。要件定義とは、システムやソフトウェアの開発において、実装すべき機能や満たすべき性能などを明確にしていく作業のことだが、不思議いっぱいの異世界において、実現すべき魔王退治を明確にしていく作業として要件定義という体で、落とし込もうとしてみた。してみたのだが…。
全然、うまくいかないわー。予想外だらけだわ。異世界はそんなに甘くない。
毎日巻き起こる怒涛の驚愕不思議体験の連続に、私が行った要件定義は今となっては効果があったのか不安だ…。そんな要件定義での不覚を挽回し、この異世界での目標である人族と魔族の戦争を止めるため、私は仲間たちと王都での計画の共有を行う。
「このペースで進めば、明日には王都に着くのですが…。王都に着いたら、まず!!当分の間の宿を借りたいと思います!」
「宿屋ー!?わーい!!久しぶりにふかふかのベッドで眠りたーい!!」
「そうね、この数日は硬い地面の上に寝袋で寝てたため、ふかふかのベッドが恋しいわね!王都ではふかふかベッドの宿屋でのんびりしましょう!!」
私の言葉に、愛は大きくぶんぶんと首を縦に振る。シロ君とユウジも愛程じゃないけど、うんうんと頷いている。文句も言わず黙々と王都に向かって進んでいた二人だが、だいぶ無理をしていたようだ。
王都に着いたら、フィーネさんが教えてくれた異世界流の快適テントを手に入れよう!決意を胸にしつつも、避けては通れない、現状の問題点の説明を始める。
「王都では、ふかふかのベッドでのんびりしたい!!だ・け・ど!!残念ながら、そうもいきません!!」
「え!?なんで!?」
「人引き車を購入したこともあり、私達の持ち金は残り少しです!!具体的に言うと、王都じゃ質素倹約に努めても一週間も生活できません!!」
「大声で胸を張って言うことじゃないよね?」
愛の胡乱げな視線が、私の胸に突き刺さる。愛の視線に気まずさを感じる一方、私より気まずい表情を浮かべながら、シロ君がぺこりと頭を下げる。
「すみません…、僕がつまらない意地を貫いたばかりに…。意地を張らずに恥を捨て、ヒューガルド家のお金を持ち出していれば、もっと皆さんに楽な思いをさせられたのに…。本当に申し訳ないです…。」
シロ君が後悔の表情を浮かべながら謝罪するのには理由がある。シロ君の手持ちゴールドは、貴族の息子にしては心許ない量だったからだ。
なぜか?ユウジ曰く、男の意地である。
シロ君は冒険者として生きていくことを決めた時、実家であるファストの町の領主の力を借りないと心に誓ったらしい。その誓いを示すため、胸を張って自分のゴールドだ!と言える冒険者見習いとして稼いだゴールド以外は持ってこなかった。そのことに対してシロ君は、私達に負い目を感じているようだ。そんなに気にしなくて良いのに…。
暗い表情のシロ君の肩に手を置き、私は笑顔でフォローをする。
「気にしないで、シロ君!シロ君が冒険者として生きていくには必須なことだし、過ぎたことは悔いても仕方ない!それに、ファストの町ではシロ君とメイコさんにお世話になりっぱなしだった!更に持ち金までサポートしてもらったとなっては、さすがの私も心苦しいってもんです!気にしないようにしましょう!というわけで、王都に着いたら金欠を解消するため、私達は冒険者ギルドでクエストを受けることにします!」
「クエストで、ちまちまお金稼ぎー?えー!?すぐにダンジョン行きたい!!ダンジョンだったら、強いモンスター倒して、素材を売ればお金も手に入るでしょ?鬼火流ひもづる式だよー!!ダンジョンに行こうよー!!」
私の提案に対し、いかにも不機嫌といった感じで、ほっぺを膨らませる愛。そんな愛を横目に、剛でなんでも解決しようとする鬼火流の解析をしてみる。
鬼火流ひもづる式は、剛を極めればなんでも思いがままに手に入る、って意味かな?鬼火流はなんでもありだな…と思いながら、ぷくーっと膨らんだ愛のほっぺを人差し指でつんつんしながら、私は説明を続ける。
「愛の言いたいことも分かるよー。確かに、ダンジョンでモンスターと戦って、手にした素材を売って生活するってのは理に適ってる。でもね、王都の近くにあるダンジョンは、最低でも推奨挑戦レベル36以上なんだって。」
「そのくらいのレベル差、剛を極めてれば余裕のよっちゃんだよ!!」
拳を握り、力こぶを作りながら力強く答える愛。脳筋な愛を注意しようと思った私の言葉は、シロ君の差し出した右手によって止められる。
「いえ、ダンジョンを前に油断してはいけません。美雪さん、愛さん、ユウジの三人の転生者特典を考慮しても、王都内で一番易しいと言われる、地下ダンジョンですら、平均レベル22の僕達じゃ正直なところ少し厳しいです。」
「シロ君の言う通り!!ダンジョンを甘く見てはいけない!!ファストの町のダンジョンでは、トウカさんとフィーネさんが助けてくれたおかげで無事だったけど、ベルセルクタイガー相手に命を失いかけました!!ダンジョンは、気を抜いちゃいけないし、危険ってことを忘れちゃいけない。そんなわけで、王都では当面の間、冒険者ギルドでクエストを受けて実力をつけながら資金を集めつつ、私達のレベルとステータスを上げます!!そして、手にしたゴールドを元手に、王都でダンジョン挑戦の礎となる生活拠点を手に入れたいと思います!」
「生活拠点?俺達の冒険者パーティのホームを手に入れるってことか?」
私の言った生活拠点という単語に、ユウジが注釈を入れる。雰囲気合ってる気がしたので、私はユウジの言葉を肯定する。
「ユウジの言う通り、受けたクエストでの報酬をもとに、王都に当分の間の生活拠点であるホームを築きます!!王都近くのダンジョン挑戦を繰り返しながら、魔王と対等に話せるような実力をつける!それが、私の計画です!!」
「うむー。なんとなくは分かったけどー…。王都には、鬼火流でも満足できるような、良い感じのダンジョンってあるのー?」
「良い質問!シロ君曰く、王都の近くには推奨挑戦レベル36、51、79の三つのダンジョンがあります!この三つのダンジョンを、レベルの低いダンジョンから順に挑戦していって実力をつけたいと思います!そ・し・て!!最終的には、王都から少し離れた山の中にある推奨挑戦レベル112のダンジョンに挑戦したいと思います!」
「王都から少し離れた山の中にある、推奨挑戦レベル112のダンジョン!?まさか、絶望のディスピアに挑戦するんですか!?」
先ほどまで静かに私の王都での計画説明を聞いていたシロ君が、急に驚きの声を上げる。驚愕の表情を浮かべるシロ君へ、ユウジが疑問に満ちた表情で質問をする。
「少しの間、王都で生活していた俺でも知らないんだけど、絶望のディスピアってのはそんなにやばいのか?どんなとこなんだ?」
「ディスピアがどんなことか説明すると…。そうですね…、以前、王都の王属騎士団…、その中でも上位四名の実力を持つ騎士を、四騎士と呼ぶとお伝えしましたよね?」
「うん、すっごい強い四人のことでしょ?早く会いたいなー!!」
愛がきらきらの目で頬を桃色に染めながら、まだ見ぬ強者である四騎士へと想いを馳せる。強者を求めて異世界に転生したっていう戦闘狂の愛のこの表情。まさに、うっきうきである。
この様子だと、まず間違いなく四騎士に出会った瞬間、愛は殴りかかる。王都ではより一層、愛の奇行に気を付けよう。心の中で決意したところで、ディスピアについて語るシロ君へとユウジが疑問を告げる。
「その四騎士ってのと、ディスピアってのはどういう繋がりがあるんだ?」
「ディスピアは、今僕達がいる北大陸シャマールの中で最強・最高難易度のダンジョンです。王都最強を誇る、歴代の四騎士が何度も挑戦をしてきましたが、最下層のボスモンスターを倒したのは…、一度も無いそうです。ディスピアを攻略したことがあるのは、伝説の勇者ワタル率いる冒険者パーティ一組のみと言われています。北大陸には、難攻不落なことを表す言葉として、その困難さはディスピアの如し。ってのがあるくらいです。故に、絶望です。」
シロ君の解説に、ディスピアを攻略することの困難さを理解したユウジの表情が曇る。そんな弱腰軟弱野郎なユウジを横目に、私は高難易度ダンジョンである、絶望のディスピアへ挑戦する理由を説明する。
「ユウジはいなかったけど、私達が転生したばかりの頃、魔王軍の幹部の一人であるタツヒロに、あることを言われました。」
「タツヒロ?誰それって感じだけど…、文脈を読むとなんとなく強いやつってのは分かる。そんなタツヒロに何を言われたんだ?」
「今のままの実力じゃタツヒロの部下にも勝てない、目標半ばで倒れたくなければ、最低でもハンドレットオーバー、レベル100超えを目指しなさいと。」
「ハンドレッドオーバー…。レベル100を超えた者の別名だけど…。美雪さんは、レベル100超えを目指すのか?」
「うん。レベル100くらい簡単に超えないと、魔族の王である魔王と平等に会話すら出来ないからね。人族と魔族の戦争を止めるためには、私達は強くなる必要がある。それも、性急に。」
私の言葉に、シロ君とユウジの表情が曇る。
実際に説明した私だって、困難なことは百も承知である。しかし、魔王と同じくらい、せめて魔王の怒りを買った時に一撃で命を失わないくらいの実力は必要、と思っての絶望のディスピア挑戦を目標とした。
最難関なダンジョン攻略という困難な道に、パーティの雰囲気が暗くなる中、にこにこと笑う少女が一人。剛拳剛脚で頂点を目指す愛である。
「困難な道上等!!茨の道上等!!茨の道を突き進むために、鬼火流剛術は花の名前を冠した技が多いんだからねー!!そんな私にとって、ディスピアは通らなければいけない道!!望むところだよ!!私はどこまでも美雪に着いていって、この世界最強を目指すよ!!だから、シロとユウジも軟弱なことを言ってないで、私達のパーティになったんだから、美雪と一緒に剛の道を極めようよ!!」
鬼火流剛術の技の名前の意外な理由と共に、愛がこれ以上ない力強さを言葉にのせながら、私の計画を後押しする。
そんな愛の言葉に、シロ君とユウジはやれやれといった様子で小さく笑う。小さく笑いながらも、二人の目に火が灯るのを感じる。
「ふっ、こんな小さな愛が、力強く頑張ろうってしてるんだ。倍以上体が大きい俺が弱腰になってたらダメだな。困難上等。」
「そうですね。美雪さんと冒険に出るってことは、そのくらいの困難乗り越えなきゃいけないですよね!困難上等!ディスピアがなんのそのです!!僕達ならやれます!!」
いつも愛には助けられっぱなしだ。
愛の力強い言葉に、シロ君とユウジの瞳に火が灯るのを感じる。仲間から漲ってくる気合を前に、私は王都があるであろう方角を指差し、力強く宣言する。
「では、今までの話をまとめます!!王都では、まずクエストを受けて資金を手に入れる!!その資金を元に、パーティのホームとなる拠点を構え、王都近くのダンジョンに挑戦!!高いステータスと実力を身につけ、最終的には北大陸最強のダンジョン、ディスピアを攻略する!!そして、魔王が待つ南大陸へ!!人族と魔族の戦争を止めて、平和な世界を取り戻す!!以上!!」
私の言葉に、三人が力強く頷く。私の無茶な計画を後押ししてくれる仲間を前に、私は大きく右手を上げる。
「そんな感じで、がんばっていきましょー!!」
「「「おー!!!」」」
私の言葉に引っ張られるように、三人の力強い声が始まりの草原に響く。
決意を新たに、これからの予定を共有した私達は、人引き車に乗り込み、ゆっくりと王都に向かって進む。
私達の計画は、半日もしない内に、とある男のせいで崩されるとも知らずに…。




