王都に向けて旅立つ
前回のあらすじ:二日酔いの中、シロ君という頼もしい魔術師を仲間に加え、王都に挑戦する。ついでにユウジも仲間になった。
「はいよー!!しるばー!!」
愛の大きな掛け声とともに、私達を乗せた人引き車はファストの町から旅立つ。キーコ、キーコと愛が人引き車を漕ぐ音と共に、私達は見送りに来てくれたファストの町の住人に、大きく手を振り応える。
見送りに来てくれた住人の中、青を基調としたサマードレスを着た女性が、ひときわ大きな声で私に呼びかける。
「弟のホワイトをよろしくお願いするわよー!!美雪ちゃーん!!」
「弟?あぁ、シロ君のことですか!はい、お任せください!」
シロ君の姉を名乗る快活な美女、ロゼ・ヒューガルドさんに対して、私は笑顔で答える。シロ君お姉ちゃんいたんだ。そんなことを考えながら、私達を見送りに来てくれた周囲を見回す。
宿屋 銀字塔の看板娘であるナチュラさんとラルチさん。ゴルド商店ファストの町支部の店主であるおばちゃん、ダースさんを筆頭にした見知った冒険者達、そんな冒険者を束ねる冒険者ギルドのギルド長、シリシュ・イムクールさん。そして、シロ君の父であり、この町の領主であるクリュー・ヒューガルドさんとシロ君の祖父であるグラン・ヒューガルドさん。
見送りに来てくれた、多くのファストの町の住人に見送られながら、短い間ではあったが、楽しく滞在をしたファストの町へお別れを告げる。
「すごい数の人ね!ファストの町にこんなに人がいたんだ!」
「この町の脅威であるジャイアントグラスホッパーの群れを殲滅し、町に平和をもたらした英雄の出立ですからね!町の人も総出で見送りますよ!」
私達よりも知り合いの多いであろう、ファストの町の領主の息子であるシロ君は、人引き車から大きく乗り出し、両手を振っている。そんな中、愛が漕ぐ人引き車は王都へ向かって、ゆっくりと進む。
「愛ー、大丈夫ー?」
人引き車をずっと漕いでる愛が心配になり、声をかける。人引き車の漕ぐ部分と、人の乗る籠の部分の間には小さな窓がついている。そこから、顔を出し愛の様子を伺う。
「全然余裕だよー!私のスタミナと力を嘗めちゃいけないよー!そんなことより、ユウジー!ユウジって、少し前は王都にいたんだよなー?王都に着いたら、美味しい料理店に案内しろよー!!」
人引き車を漕ぐ愛から、元気いっぱいの声が聞こえてくる。先ほどから一人で人引き車を漕いでいるが、愛にとっては軽い運動らしい。
「任せろー!いっぱい美味しい肉を食わせてやるよ!」
「肉!?どんなの!!」
肉という単語に、愛のテンションが上がる。少し人引き車のスピードも上がった気がする。元気いっぱいで、愛とユウジが王都の料理店について話す中、シロ君が大人しいことに気付く。
少し寂しい表情のシロ君は、徐々に遠く離れていく後方のファストの町を、いつまでも見つめていた。シロ君の表情の理由を察した私は、そっと声をかける。
「シロ君、やっぱり寂しい?」
「あ、いえ、そんなことありません!心配かけて、すみません。正直なところ、寂しさは思っていたよりも小さいです。それよりもこれから起こるであろう未知の体験に、ドキドキが止まりませんから!」
ファストの町は、私達のような転生者には、少し長く滞在した町くらいの感覚だが、シロ君にとっては長く住んでいた町。そんなファストの町を離れる冒険に旅立つシロ君を少し心配していた私だが、シロ君は本当に楽しそうに、にっこりと笑う。その表情に一安心しながら、私も笑い返す。
そんな私達に、ユウジがにやにやといやらしく笑いながら、シロ君に話しかけてくる。
「それにしても良かったのか、シロ?あんなに綺麗なメイドさんがお前のことを慕ってくれてるのに、置いてきちまって?」
「綺麗なメイドって、もしかしなくてもメイコのこと?」
「シロのことが大好きなメイド、って言ったらメイコさん以外にいないだろ!もはや変態的なアプローチだが、あんなに綺麗なメイドさんに言い寄られて、シロも男として嬉しかっただろー?そんなメイコさんを置いてきちまうなんて、酷い男だなー!メイコさん、見送りにも来てくれなかったし、屋敷で泣いてるんじゃないかー?」
不躾で下品なユウジの言葉だが、私も納得してしまう。確かにあんなに綺麗なメイコさんに言い寄られて嬉しくない男はいないだろう。
「ユウジの言いたいことは分かったよ。でも、僕がメイコにそういう感情を抱くことはないよ。」
シロ君の言葉に、私とユウジは頭の上にはてなマークが浮かぶ。
「え?シロ、お前(下品な言葉のため、私は聞き取れなかったことにする)なのか?」
「ち、違うよ!!」
真っ赤な顔でユウジの言葉を否定するシロ君。そのまま言い合いをする二人。大人げなくシロ君をからかうユウジの喉に水平チョップをお見舞いして黙らせ、シロ君に質問をする。
「なんでシロ君はあんなに慕ってくれるメイコさんに、そういう感情を抱かないの?」
震えて片手を上げるユウジを無視し、シロ君にメイコさんについて聞いてみる。少し困った表情を浮かべたシロ君は、メイコさんという女性の真実を話す。
「だって、メイコは僕のお姉ちゃんだよ?血のつながった実の姉に、そういう感情は抱かないでしょ?」
「「へ?」」
私とユウジは、シロ君の言葉に時が止まる。メイドのメイコさんはシロ君のお姉ちゃん?
ずり落ちた眼鏡をゆっくりと元の位置に戻しながら、シロ君の言葉の意味を確認する。
「メイコさんってシロ君のメイドだよね?姉?メイドがお姉ちゃん?へ?」
「恥ずかしながら、メイコは僕のお姉ちゃんで間違いありません。メイコの本名はロゼ・ヒューガルド。間違いなく僕の姉です。」
「シロ君のお姉さんって…、見送りの時にいた青いサマードレスの女性!?え?本当!?」
「姉はメイド流メイク術で、完璧なメイドに変装していますから…。そんな姉が、なぜメイコという名前で、メイドをしていたか…。この辺の事情を話すと、少し長くなってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「「どうぞどうぞ」」
私とユウジは声を合わせ、こくこくと頷く。
シロ君はゆっくりとメイコさんについて話し始める。
「まず、僕とメイコの母さんは、もともと父さんのメイドをしていました。メイドを束ねるメイド長という立場で、いつも明るくニコニコだった母さんに、当時少し病弱だった父さんはあっという間に恋に落ちたそうです。父さんと母さんは大変仲が良く、あっという間に二人は夫婦になりました。町の中でも有名な仲良し二人が結ばれたことは、町民全員に圧倒的な祝福で迎え入れられ、二人の結婚式は三日三晩続いたそうです!」
突然始まったシロ君の両親の馴れ初め。なんとなく気恥ずかしさを感じながらも、私達は黙ってうんうんと頷く。
「程なくして姉と僕が生まれました。僕はまだ幼かったため、鮮明には覚えてないのですが、四人家族になった僕たちは幸せいっぱいだったそうです。」
覚えていないとは言いつつも、笑顔で話すシロ君。当時の幸せが感じられるような素敵な笑顔だ。
「でも、そんな幸せは長く続きませんでした。」
急に声のトーンが下がったシロ君。その理由に、私はなんとなく気付いてしまう。私達はシロ君の家で、シロ君のお母さんに会ったことがない。
「美雪さんのお察しのとおり、母さんは僕が一歳になった頃に亡くなってしまいました。いつも明るく、家族の中心だった母さんの病死に、僕たちの家族は深い悲しみに襲われました。当時、領主を引退していたおじいちゃんが戻ってきてくれたことで、父さんはなんとか立ち直ることが出来ましたが、僕はいつまでも泣き止まなかったそうです。」
恥ずかしそうに鼻の頭をかくシロ君。一歳なんてまだまだ物心がつく前だろう。もし私だったらと考えると、当時のシロ君の号泣にも納得である。
「そんな僕を泣き止ますため、姉さんはメイド長をしていた母の代わりに、メイド服を着てメイドになったそうです。いや、なんで姉さんがメイドになるんだよ!って今の僕ならツッコミを入れられましたが、当時の僕はメイド服姿の姉に母の姿を重ねたそうです。嬉しそうに笑って、泣き止んだ僕を前に、姉はメイドとして生きていくことを決めたそうです。」
ははは、と笑うシロ君。なんと声をかけていいか迷っていた私とユウジに、シロ君は笑顔で話しかけます。
「以上が、僕の姉ロゼ・ヒューガルドがメイドのメイコになった経緯です。」
「メイコさんがシロ君のお姉ちゃんであるロゼ・ヒューガルドさん…、ってのは分かったけど、どうしてこのタイミングでメイコさんはシロ君のお姉ちゃんに戻ったの?」
「それは、僕がこの馬車に乗っている理由に関係します。恥ずかしながら、僕はファストの町の領主の息子です。もしそんな僕が冒険者になるため、家を離れたらどうなるでしょう?」
「領主の跡継ぎがいなくなるわね。なるほど。」
「美雪さんは察したようですが、姉さんは次期領主である僕が、冒険者として生きていく代わりに、ファストの町の領主の跡を継ぐため、メイドのメイコから本来の姿である領主の娘であるロゼ・ヒューガルドに戻ったのです。」
あはは、と力無く笑うシロ君。そんなシロ君に、私は笑顔で答える。
「メイコさん…、いえ、ロゼさん!弟想いの本当に素敵なお姉さんだね!」
「はい、本当に素敵な、自慢の姉です!」
シロ君の冒険者としての出立の裏にあった物語を聞いた私は、もう見えなくなってしまったファストの町にいるであろう、メイコさんのことを思う。
ジャイアントグラスホッパーの群れとの戦いの後や、シロ君の家に滞在していた時など、様々な場でメイコさんにはお世話になった。私達の知恵袋であるシロ君が冒険者として一緒に旅立てたのは、そんなメイコさんのおかげ。
「メイコさん…、いや、今はロゼさんか。本当にありがとうございました。」
誰にも聞こえないくらいの声で、メイドのメイコさんであり、シロ君のお姉ちゃんであるロゼ・ヒューガルドさんに、そっとお礼の言葉を伝える。
そして、人引き車の行く先を指差しながら、決意を新たにする。
「それじゃあ、旅立たせてくれたお姉ちゃんの想いに応えるためにも、王都ではいっぱい頑張ろうね!」
「はい!!」
「もちろんだ!!」
私の言葉に、シロ君は強く頷き、ついでのユウジも拳を突き出す。
シロ君の姉であるロゼさんへの感謝の気持ちと共に、私達はゆっくりであるが次なる目的地である王都を目指して進む。
「王都には、様々な強敵が私達を待っているとも知らず…。」
「美雪さーん!!愛さんが不審なことを呟いてまーす!!」
「王都には、様々な強敵が私達を待っている?なるほど…。愛の呟きは、私達にとっては不審この上ないけど、強敵と戦うために転生した愛にとっては、望むところだってところね。大丈夫、広い王都の中で、そう簡単に強敵に出会うことなんてないわよ!シロ君は心配性ね!」
「フラグー!!嫌なフラグがバンバン立ってるぞー!!」
一人っきりで転生した異世界生活も、気が付くと四人。仲間だけでなく、騒がしさも増した私の冒険は続く。




