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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
転生準備編 -異世界で魔王退治?要件定義で詳細化しましょう-
5/150

異世界を詳細化しますが、要はネタバレです

前回のあらすじ:要件定義の下地はできた、さぁ色々聞いていこう!


「それでは、ノアも協力してくれることになったので、要件定義を始めます!まず、メモ用にペンとノートをもらえない?」


「これで良いー?」


どこかからペンとノートを取り出したノア。

ペンとノートどころか私が座ってる王様イスの前にメモ用の机も置かれてる。どこから出したとか、いつの間に出したとかはもう気にしない。

右手の人差し指と親指で作ったハンドサインでオッケーをノアに伝える。ノアはニコッと笑う。


本当はそろそろ王様イスから離れたかったが、メモ用の机を出されてしまったので動くことができない。最初に座っていたベッドもいつの間にか片付けられている。


「次に、さっきノアが話してくれた異世界と魔王の説明をもう一度お願いします。」


「うん、良いよー!」


少し前に話した長めの説明をもう一度してくれと頼まれたら、普通あまり良い気はしないだろうがノアは快諾しくれた。


「異世界ってのは、魔法世界マグノキスって呼び名で、地球で悲惨な死に方をして磨り減った魂を救済するためにボクが作った世界だよー!転生者が俺つえーをするために、ほとんどの人は普通のマグノキス人が住んでるよー!そのマグノキスで転生者はダンジョン攻略っていう目標と攻略後の美味しいご飯で充実した異世界ライフをしてもらう予定だったんだけど、魔王っていう魔族の王がその他の人族・亜人族と戦争を始めちゃってさー。やれ侵攻だー、やれ防衛だーでダンジョンそっちのけー。だから魔王を退治して欲しいってわけ!」


ふむ、相変わらず分からない部分が多い。

今までの会話で最初よりは理解できる部分は増えたけど、まだまだ不明なとこ、曖昧なとこは多い。そのために、話を聞きながら理解できなかった部分をノートにメモし、疑問点をまとめたわけだ。


それでは、ひとつひとつ詳細化していきましょう!

まずは、転生先の魔法世界マグノキスね。聞いたことがない固有名詞は必ず確認。


「それでは質問に移ります。マグノキスは地球で悲惨な死に方をして磨り減った魂を救済するためにノアが作った世界ってことだけど、マグノキスってどういうところ?魔法世界って頭についてるけど、地球との違いは何?」


「マグノキスと地球の違いー?マグノキスは地球で死んだ人の魂の救済が目的だから基本は地球をベースに作ってるよー。地球と同じで暑いとこ寒いとこがあるけど、美雪(みゆき)ちゃんが生きてく上で問題はないねー。」


メモを取りながら、ノアの説明を真剣に聞く。


「あとはー、地球とそのまま同じだと意味がないから、地球上のファンタジーゲームを参考に魔法を加えたんだよねー。その結果、マグノキスは科学の進歩の代わりに魔法を使って進化してきたーって感じだから魔法世界ー!」


うん、かなり情報が増えた。

ひとまず今聞いた情報では、私が転生しても環境的な意味で悩むことはなさそうだ。

異世界は重力が強すぎて歩けない!空気が薄いから初めの内はまともに動けない!

っていう最悪の結末はないと。ただ情報が増えたことで聞きたいことも増えた。

ひとつひとつ確認しましょう。


「地球上のファンタジーゲームを参考に魔法を加えたって話だけど、魔法ってどういうもの?あと、人は魔法を使えるの?人以外の生物も魔法を使えるの?」


「えっとねー。魔法は人や生物が持ってる魔力を消費して発動するものでー、マグノキスでは人も生物も平等に魔法が使えるよー。美雪ちゃんも転生したら使えるようになるからねー!そんな魔法だけどー、人は普段から火属性魔法と水属性魔法を使ってお湯を沸かしたりー、生物は風属性魔法で自重を軽くできるから重力に縛られることなく身体を大きーく等の独自の進化を遂げてるよー。そういった進化を遂げた生物をマグノキスではモンスターと呼びまーす。」


マグノキスでは限られた人だけが魔法を使えるわけでなく、一般の人も使うことができ、日常生活レベルまで浸透していると。

そして、転生した私も魔法が使えるようになると!

みんなが魔法を使える中、地球出身の私だけ魔法が使えない…という最悪の結末は回避した!良かったー!ということで次の質問!


「抽象的で申し訳ないのだけど、モンスターってどういう生物なの?人はモンスターと戦うことが出来るの?」


「モンスターはー、地球でも有名なドラゴン、ゴブリンといった空想上の生き物から、マグノキスで独自の進化を遂げたモンスターまで色々な種類のモンスターがいるよー。人はそんなモンスターと魔法や剣とかの武器で戦うんだー!マグノキス人は、モンスターを倒して入手したドロップアイテムを売ることでー、お金を手に入れてるよー!」


「ドロップアイテム?」


「マグノキスではー、人やモンスターは死ぬとキラキラーって光の粒子になるんだよねー。ただ、その時にアイテムを落とすことがあるんだー。それがドロップアイテムー。モンスターが強くなれば強くなるほど良いアイテムが手に入るよー!」


死んだら死体じゃなくて光の粒子?質量保存の法則どこいった?


「モンスターが光の粒子になっちゃうのを納得いかないって顔してるねー。モンスターの体はー、神が次のモンスターを創るために持っていってるーっていうのがマグノキスでの基本的な考えだねー。それとー、転生後に文句が来そうだから先に言っておくけどー、たまにモンスターから武器とかがドロップするけどー、それはモンスターに倒された人の装備が回り回ってドロップアイテムになってるんだよー。」


私が疑問に思ったことを、ノアは先回りで説明してくれる。

私は納得できないと文句言うキャラだと思われてるのかしら?心外ね。

まぁ、聞いてない状態でモンスターからモンスターの体以外がドロップしたら文句言っただろうけど。私は納得いかないことは基本許さない女です。


「それじゃ、今まで聞いた情報をまとめるけど、間違った情報があったら言ってね!」


「りょーかーい!」


敬礼で答えてくれるノア。いっぱい質問したのに笑顔で応えてくれる。助かる!


「マグノキスは、モンスター、魔法、ドロップアイテムと本当に地球のファンタジーゲームに似た世界になっている。人は魔法や武器でモンスターを倒して手に入れたドロップアイテムを売って生計を立てている。ここからは予想だけど、ゲームと似た世界ということはレベルという概念もあったりするのかな?」


「さすが美雪ちゃん、レベルあるよー!モンスター倒すと経験値が手に入って、一定量に達するとレベルが上がって強くなるよー!レベルを上げて、より良いドロップアイテムを求めて強い相手と戦うってところはゲームと一緒だねー!あと、補足ー。レベルが低かったりモンスターと戦うのが苦手だったりー、年を取って戦えないって人は生産職になるよー。武器作ったりー、料理作ったりー、お店を経営したりねー。」


みんながモンスターと戦う血なまぐさい世界ではないわけね。まぁ、ドロップアイテムを売るということは、買う人もいるし、それを加工する人もいるわよね。


追加でもらった情報も一緒にまとめると、本当に生前にやってたゲームそっくり。

ほとんどレベル上げの記憶しかないけど、あの時の知識が役立ちそうで良かった!

あのゲームの世界は迷子になって救えなかったけど、アロウ(美雪がつけた主人公の名前)、あなたの意思は異世界に転生した私の中で生き続けるわ!


「マグノキスの基礎について理解できたわ、ありがとう!次に、魔法について詳しく聞きたいのだけど、火属性魔法、水属性魔法って説明の中で言ってたけど、魔法には属性があるの?あと、複数あるみたいだけど、何種類あるか説明してもらえる?」


「良いよー。まず、基本魔法!基本魔法は世界の基礎となる地水火風(ちすいかふう)の4属性を司る魔法でー、地属性なら土を操って相手にぶつけて攻撃したりー、土壁を作って攻撃を防いだり攻守両方に使えるモンスターと戦うための基礎的な魔法でーす。人やモンスターは最低でも1属性使えてー、魔力が高いと複数属性が使えるようになるよー。」


基本魔法はモンスターと戦うための基礎的な魔法と。

この辺はゲームの攻撃魔法とか防御魔法と同じかな?


「次は特殊魔法!特殊魔法は光と闇の2種類で、攻撃には不向きかなー。光魔法は治癒がメインでー、傷や状態異常を回復する魔法ー。闇魔法は逆に相手を状態異常にする魔法ー。10人に1人くらいが使えるねー。」


光魔法は味方を回復する魔法で、闇属性は相手を状態異常にする魔法と。


「最後はレア魔法!これは今まで説明した魔法で分類できない魔法ねー。100人に1人くらいが使えるレアな魔法だよー!氷魔法とか雷魔法は基本魔法の氷版、雷版って感じだけど、転移魔法っていう行ったことがある都市ならどこにでも転移できる魔法もあったりと多種多様だねー。」


レア魔法は人によって色々あると。この辺は奥の手で使われることが多そうね。注意しましょう。


「以上がマグノキスの魔法だけどー、説明としてはこれで十分かなー?」


「うん、なんとか理解したわ。ありがとう。」


異世界の魔法も私がやってたゲームの魔法に当てはめたら理解することができた。ありがとうアロウ、あなたの意思は(以下略)

魔法は私も使えるみたいだから使いながら覚えるようにしましょう。

ノアは何でも聞いてって言ってくれたけど、すでに色々と聞いちゃってるからね。まだ聞きたいことは多いから魔法はこの辺にして、次の質問にいきましょう!


「魔法について長めに説明してもらったばかりで申し訳ないけど、次の質問です。マグノキスは科学の進歩の代わりに魔法を使って進化してきたというけど、文明レベルはどのくらいなの?さっきドロップアイテムを売って生活してるって聞いたから、商業は発達してるみたいだけど。」


「技術的な面で言うと、魔法があると物理学とか数学って発展しないんだよー。魔法で割となんとかなっちゃうからかなー?あと、魔法同士で戦うから兵器関係も発達してないねー。だから銃はないよー。剣とか弓とかに魔法をのせて戦うのがマグノキスの一般的な戦い方だねー。」


銃がないことを知れたのは大きい!

魔法の方が強いのかもしれないけど、生前の記憶的に銃は圧倒的な脅威だったから、銃口を向けられただけで体がすくんで何も出来ないと思う。


「ノアの話を聞いて、なんとなくマグノキスを理解できたよ。一言にまとめると、産業革命が起きてない地球ってイメージかな?」


「そうそうそんな感じー!逆に魔法を使うことで地球より発達した部分もあるから一長一短だけどー、この辺はマグノキスに行ってからのお楽しみだねー!」


ノアはウキウキといった感じの笑顔をしている。

親の誕生日にサプライズプレゼントを用意した子供のような無邪気な笑み。

そんな顔で言われたら、これ以上は聞けないわ。まぁ私は子供いないから想像だけど。


「それじゃあ次の質問だけど、魔王は魔族の王で人族・亜人族と戦争中って話だけど、魔族、人族、亜人族ってどういう風に分類されているの?」


「まず、人族は今の美雪ちゃんと同じ普通の人間だよー。亜人族はエルフ、リザードマンなどの地球の神話にも出てくる人間に似た知的生物だよー。魔力が強いとか力が強いとか種族によって色々な特徴があるよー。魔族はー、稀に角を持って生まれた人族、亜人族ー、または、成長してく内に角が生えた人族、亜人族のことだよー。」


人族、亜人族は地球の分類と変わらないと。

ここまでは良い。魔族の分類が問題だ。


「魔族は角が生えた人族・亜人族ってこと?それじゃあマグノキスでは、元は同じ種族なのに角が有るだけで敵になるってこと…?」


「そうだよー。同じ種族だけど争わないといけないなんで悲しい話だよねー。とある一家で弟が生まれることを待ち望んでた兄がー、生まれてきた弟に角が生えてるのを見てー、その弟を魔法で焼き殺しちゃったーていう悲劇やー、隣人が急に魔族になって迫害されることが日常的にあるねー。マグノキスを作るときに参考にしたゲームの設定をそのまま使ったけどー、戦争が起きちゃったしー、ここは正直失敗だったかなーって後悔してるー。」


同じ種族どころか、家族の中でも角の有無で争いになるなんて…。簡単に信じることができなかった。


「それで人族、亜人族と魔族で戦争にまで発展するの…?」


「そう思うよねー、魔族はその他大勢の種族に比べて数が少ないから戦争にならないんじゃーって思うよねー。まず、魔族に生える角は魔力の塊みたいなものでー、他の種族に比べて倍以上の強さを持ってるよー。でも、数は圧倒的に少ないから昔は迫害されてたんだけどー、そこで魔王だよー。圧倒的な戦力と巧妙な話術で各地に散らばってた強力な魔族をまとめたんだからー。」


やっと魔王が出てきたかと思ったけど、私が思ってた戦争への疑問とは違う。


「数量、戦力的な意味じゃなくて、角があるって理由だけで同じ人族、亜人族同士で争うのかっていう倫理的な意味。」


「君たち人間も少しの違いだけで戦争してるじゃないかー。なにが不思議なんだい?」


そう言われるとそうだけど…。魔王も私と変わらない人なのか、と考えると本当に倒せるか不安になる。


「同じ人間を倒せないっていうなら無理しないでも良いよー。転生は美雪ちゃんの魂の救済が目的だからねー。美雪ちゃんタイプは目的がないと余計に魂が磨り減っちゃうかなー?って思ったから魔王退治を目的にしたけどー、無理そうなら異世界でのんびりスローライフを満喫すると良いよー。平和な場所はいっぱいあるからねー!」


ノアの気遣いの言葉に私は、むっとしてしまった。

だってノアの言葉は要約すると「魔王退治びびっちゃったー?だったら無理しないで平和なとこでひきこもってなー!」でしょ?そんなことは私のプライドが許さない!


「ノア、甘くみないで欲しいわ!私は一度受けた仕事は必ず達成する女!今回の依頼も必ず達成してあげるから待ってなさい!」


声を高らかに必ず魔王を退治することを私は宣言した。

こうやって逃げられないように自分を追い込むことで必ずやりとげるのが昔からの私の必勝術!

あ、現世で死んだときにやりとげられなかった仕事は見逃してください…。


「おー!いっぱい説明したかいがあったよー!それじゃー魔王退治お願いねー!」


「魔王退治は私に任せなさい!それじゃ次の質問だけど、ダンジョンって何?英語を直訳すると、城の地下牢って意味だけど、ノアの言うダンジョンとは違う気がする。ダンジョンについて教えてもらっていい?」


「ダンジョンはねー、


「お話中、失礼いたします。ノア、少しお時間よろしいでしょうか。」


ノアがダンジョンの説明を始めようとした時、執事服を着た一人の男性がノアに声をかけてきた。

窓もないこの部屋にどうやって入ってきたの?という疑問は考えるだけ無駄だろう。ノアの知り合いのようだし、そのくらい出来てもおかしくない。


「あれ?(はじめ)ちゃんじゃーん。どうしたのー?」


この人が前に話しに出た創ちゃんか。

名前の通り日本人かな?年齢は30代後半ってとこで、黒髪パーマ、黒縁メガネ、あごひげが特徴的だけど、ノアの知り合いって考えると見た目は以外と普通の男性。


「ノア宛にお客様が来ております。ダンジョンの説明は私でも可能ですので、お客様の対応をお願いできないでしょうか。美雪様もダンジョンについては私から説明をさせていただきますので、ご容赦ください。」


私はこくこくとうなづく。

わざわざ話に入ってくるということは大事な来客だろうし、ダンジョンのことを聞けるなら問題ない。


「分かったー、じゃあ創ちゃん説明お願いねー。美雪ちゃんはダンジョンのこと城の地下牢って意味だと思ってるから基礎からみっちりお願いー!」


声に振り向いた時にはすでにノアの姿はなかった。まぁそうだろうね。もう驚かないよ。


「ノアの無礼をお許しください。それでは美雪様、ダンジョンについて説明をさせていただきますが、基礎からということですので、座って説明をさせていただきます。失礼いたします。」


軽いお辞儀の後、私のメモ用の机の前にオフィスチェアを持ってきて腰掛ける創さん。

ねぇ、私の王様イスと交換しない?説明してもらう側の方が豪華なイスに座ってるのですが…。


「お願いします。年上に様付けで呼ばれると、むずかゆいから呼び捨てで構わないわ。私は創さんと呼ばせてもらうけど良いかしら?」


「構いません。それでは私も美雪さんと呼ばせていただきます。ダンジョンの説明の前に、急に出てきた男が話を始めても警戒されてしまうと思いますので、私の話をさせてください。」


こくこくとうなづく私。

生前の社内研修でも自分の経歴を最初に話すことで、これから説明する内容は私が講師で問題ないですよと前置きをすることがある。

私は八百屋です、相対性理論を説明しますより、私は大学教授です、相対性理論を説明しますの方が話への説得力が変わるでしょ?


「私は美雪さんと同じ日本からの転生者…。いえ、厳密には地球で死んでいないため、転移者の方が正しいですね。マグノキスでは原初の創造者げんしょのそうぞうしゃと呼ばれる存在です。」


「原初の創造者?」


新しく増えた単語に首を傾ける私。


「原初の創造者とは、ノアがマグノキスを作る際にアドバイスを求めて、地球の現世、過去、未来から集めた三人のことです。私は今から約30年後の未来から、ゲームクリエイターとしての能力を見込まれ、ノアに原初の創造者として勧誘を受けました。」


どうやら創さんは未来人らしい。未来からも人を引っ張ってこれるなんて、神はなんでもありだな。


「ノアがマグノキスはゲームを基に作りたいと言ったので、私が地球で製作していた未発表ゲームを提供させていただきました。」


地球のゲームを参考にマグノキスを作った、と言ってた時はゲーム好きの俗物的な神だなと思ったけど、創さんが知恵を貸したのね。

そして、商業用のゲームが基になったと考えると、魔族の設定が悲劇的なのも納得。

角が生えて魔族になってしまった兄と人族の主人公の戦いとか、愛する人が魔族といった種族を超えた恋愛とかストーリー性を持たせやすいしね。


「現在は新しいダンジョンの作成と以前作成したダンジョンのメンテナンスをしております。ダンジョンの攻略法など、説明を聞くことで他の冒険者より有利になることは教えられませんが、説明できることは全て説明させていただきますので、なんなりと聞いてください。」


創さんは、ダンジョンの運用・保守をしていると!

ダンジョンについて知る上で、最初はこの世界を作ったノアが一番説明に適任と思ったけど、ダンジョンを作ってる人にダンジョンの説明を聞けるのは正直助かる!


「ダンジョンの説明の前に、創さん以外の原初の創造者について聞いて良いですか?創さんが基礎的なゲーム部分を作ったということは、他の二人も何か基礎的な部分を作ったと思うけど、何を作ったのでしょう?」


私が他二人の原初の創造者について聞いた瞬間、創さんが少し嫌な顔をした。あれ、仲悪いの?


「すみません、まず一人目は過去から来た鍛冶屋です。原初の鍛冶屋と呼ばれています。こいつは自由奔放な性格で、武器や防具といった装備品を作りながらマグノキスを旅しています。ダンジョンで見つかる装備品や、強いモンスターを倒した時にドロップする装備品は大体こいつ作です。美雪さんもマグノキスを旅してると巡り合うかもしれないですね、その時は本当に気をつけてください。」


丁寧な話し方の創さんが自然とこいつ呼びとは…。相当嫌っているようだ。

話し方や雰囲気から、創さんはなんとなく私と同じタイプの気がするから、原初の鍛冶屋は私も苦手になりそう…。原初の鍛冶屋、要注意っと。


「二人目は現世から来た料理人です。原初の料理人と呼ばれています。あの方も自由奔放な性格で、マグノキスにはなかった地球の料理レシピを教えながら旅してます。あの方が教えている料理レシピはマグノキスの食文化を大きく向上しました。」


原初の料理人の説明には、なんだか尊敬の念を感じる。

原初の鍛冶屋の説明とは大違い。


「あの方のすごいところは、旅の中で訪れた各地の特産品にあったレシピのみを教えているため、各地にグルメメニューが生まれたことです。あの国に行けば魚を使った美味しい料理が食べられる、あの地方は香辛料をふんだんに使った料理が絶品だから旅をしてでも行ってみたいといった具合で、人が各地の美味しいものを目的に旅を始めました。料理を教えているだけで物流が生まれるとは、とあの方は笑っておりましたが、おかげでマグノキスは大きく発展することが出来ました。」


食でマグノキスに物流をもたらすとは…。原初の料理人はすごい人のようね。

いえ、それよりも重要なことが!美味しい料理がマグノキスにはあるのね!

これは大きい!文明が発達してないと聞いたから堅いパンばかり食べることになるのか…と思ったけど、美味しい料理があるのは嬉しいわ!


やばい、美味しい料理を食べながら旅をするスローライフもありだと思い始めてしまった…。

いや、惑わされるな私!私の異世界転生は魔王退治が目的!たとえ美味しい料理でも私の意志を止めることは出来ない!


ただし、魔王退治の旅の中で偶然入ったお店で美味しい料理が出てきた場合は、例外とする!!


「それでは、私達三人の原初の創造者がなぜノアに呼ばれたかを説明します。ノアは最初、魂が消費してしまった転生者に健康で丈夫な体を与え、農作などをしながらのんびり過ごしてもらうことにしました。時間や人のしがらみが、現代の地球で魂をすり減らす主な原因だったため、それを取り払えば転生者の魂は回復すると思ったのです。」


私も生前は、繁忙期とかに田舎に行ってのんびりしたいなーとよく思ってたなー。


「しかし、転生者の魂は逆に消費していきました。娯楽に満ち溢れた現世で生活していた転生者にとって、のんびり生活することは退屈だったのです。」


確かに、地球の便利な科学を知った状態で、中世の農業をするのは苦痛かも。

草刈り鎌で一本一本手作業で雑草を除去するなら、農薬でまとめて除去しちゃいたいもん。

いや、更に言うと野菜が欲しいならスーパーで買えば良い。


「そのため、私を含めた3人の原初の創造者を呼び、ダンジョンという生きるための目的、ダンジョンで戦うための手段、ダンジョン攻略後の美味しい食事という褒美を作ったのです。ダンジョンに潜って強い敵を倒して美味しい食事、この一連の流れで転生者は達成感を得て、磨り減った魂が回復するようになりました。これがマグノキスによる魂の救済システムです。」


あれ、すごい理に適っている。

マグノキスの話を聞いていく内に、ゲームみたいな異世界に転生して魂の救済ってどうするの?と思っていたけど、創さんの説明で納得することができた。


「続けてダンジョンの説明に移らせていただきますが、ここまでよろしいでしょうか。」


こくこくとうなづく私。

創さんの説明は順序立てての説明な上に、私の疑問を先取りしてくれるから質問がなくなるのだ。


「ダンジョンは美雪さんの言っていた城の地下牢という意味ではなく、一般的なゲームによくあるモンスターの巣窟のことです。」


私が知ってるゲームだと、洞窟とかボスがいる城とかは歩いてるとモンスターが出現して、倒すと経験値が手に入るけど、そんな場所のことかな?


「ダンジョンは、森であったり洞窟であったり城であったりとマグノキスの各地に多種多様な姿で存在します。ダンジョンの各所には宝箱が存在し、中には珍しいアイテムが保管されているので探してみると良いことでしょう。また、ダンジョンの奥にはボスモンスターという強いモンスターが存在し、倒すと特別なドロップアイテムを入手することが出来ます。宝箱の中身とボスモンスターのドロップアイテムは高額で取引されるため、人々は一攫千金を目指してダンジョンに挑むのです。」


「そんなダンジョンを創さんは管理していると。せっかく作ったダンジョンが魔族との戦争が始まったことで、攻略されなくなったから魔王を退治してほしいということですね?」


ノアに聞いた情報から推測し、創さんの説明につい口を挟んでしまった私。


「その質問については正解であり不正解でもあります。魔王の出現後もダンジョンは利用されています。むしろダンジョンに行くことが推奨されるようになりました。」


あれ?ダンジョンそっちのけで魔族と戦争してるんじゃなかったの?ダンジョン推奨されてるじゃん。


「ダンジョンの使われ方が変わったのです。ダンジョンは未知を求める場所ではなくなり、魔族と戦うための装備品を手に入れる場所になりました。そのため、攻略が難しいダンジョンや新しいダンジョンへ更なる宝を求めることはなくなり、より安定して装備品が手に入るダンジョンばかり攻略されるようになったのです。具体的には、大群を率いて目的の装備品を落とすモンスターを形式的に倒す。それは、ノアと私が思い描いていたダンジョン攻略とはかけ離れたものでした。」


ダンジョンそっちのけっていうのはそういう意味か。

せっかく作ったダンジョンを戦争の道具みたいに使われているのだから仕方ない。創さんはダンジョンの管理もしてるから尚更辛いのかもしれない。


「以上がダンジョンの説明となりますが、質問はございますでしょうか。」


「説明ありがとうございました。ダンジョンのことについて理解することが出来ました。ダンジョンのことではないのですが、最後にひとつだけお聞かせください。ノアはマグノキスでは転生者が俺つえー?というものが出来ると言っていましたが、俺つえーって何ですか?魔法を使うから魔術師の持ってる杖にかけて、俺杖ーですか?」


創さんは、私がなにを言ってるか分からないという顔をした。

少しの沈黙の後、私が言ったことを理解出来たようだ。


「ノア、転生者特典の話を美雪さんに伝えていないのですか…!?そして、美雪さんは転生者特典のことを知らずに魔王を倒す決意をしてくれたのですか…。どうやって魔王を退治するつもりだったのですか?」


驚愕といった顔で創さんは私のことを見てくるが、何を驚いてるの?

あと転生者特典って何?特典ってことは何かもらえるの?


「魔王だって同じ人だから、レベルを上げて魔法を極めれば倒せないかなと思ってました。あと、地球の科学知識を使えば魔法も強化できるだろうから、それを武器にすれば優位になれるかなーと思いましたが、やっぱり甘い考えでしたかね?」


「…、っく、くくく、あーはっはっはっは!!」


創さんは私の言葉を聞いた瞬間、こらえきれなかったのか思いっきり笑い出した。

先ほどまでの真面目な雰囲気から想像もつかない爆笑である。どうやら私は変なことを言ったらしい。羞恥心から、顔が熱くなる。


「あのー、そろそろ落ち着いてくれませんか?さすがに恥ずかしいです…。」


真っ赤な顔で創さんに懇願する私。

創さんはふーっと息を吐くと、平静に戻り説明を続けてくれる。


「女性に恥をかかせるとは大変失礼いたしました。美雪さんはもう少し賢い方と思っていましたが、まさかのレベルを上げて物理で殴るタイプとは…。」


いや、レベルは上げるけど魔法を使うつもりだよ?あと創さんの私の評価下がってない?


「それではノアが説明していなかった転生者特典について説明をさせていただきます。そちらを説明すれば美雪さんの俺つえーの質問に対する回答にもなるかと思います。」


「お願いします。」


「転生者には生前の悲惨な死に方に応じて転生ポイントが与えられます。その転生ポイントを使って、基本ステータス適正を上げたり、特殊なスキルを覚えたり、特別に強い武器をもらったりします。これが転生者特典です。転生者は転生者特典を使って、他のマグノキス人より優位にダンジョン攻略をします。そこから俺つえーです。」


俺杖ーではなく俺強いすげーみたいな意味で俺つえーと…。


「俺つえーおよび転生者特典について分かりました。ただ、なんと言うか…、転生者特典で優位に立つ転生者ってずるくないですか?」


「ぶふっ!あーはっはっはっは!!」


転生者特典について、素直に感想を述べたところ創さんはまた爆笑しはじめた。

あのー、すごく恥ずかしいのですが…。


「おやー、創ちゃんが爆笑してるー。めずらしー!何したの美雪ちゃーん?」


間延びした声が背後から聞こえてきた。

ノアが戻ってきたようだ。爆笑されてるところで戻ってくるとは…。恥ずかしさが倍に…。


「何でもございません。ノア、お戻りになったのですね。お客様の対応は終わりましたのでしょうか。」


ノアが戻ってくると創さんは顔を引き締め、真面目な顔で回答する。

切り替えが早いな。私はまだ顔が赤いというのに…。手をパタパタうちわにし、顔の熱を取ろうとしながら2人のやり取りを聞く。


「うん、終わったよー。創ちゃんもダンジョンの説明終わったー?」


「ダンジョンの説明および原初の創造者、転生者特典の基礎の説明が終わったところです。しかし、なぜノアは転生者特典の説明を後回しにしていたのですか?まぁ、おかげで面白い話が聞けたので、私としては問題なしでしたが。」


私にとっては恥ずかしい思いをしたので問題ありです。


「おー!ダンジョンどころか転生者特典の話もしてくれたんだねー!転生者特典の説明がまだだったのはー、美雪ちゃんの場合、マグノキスについて理解してもらってからの方がー、転生者特典を有効に選択できるかなーと思ったからだよー。」


「なるほど。確かにその方が良いのかもしれませんね。浅はかな質問をしてしまったことをお詫びします。それでは、これから転生者特典の選択を行うようですので、私はこの辺で失礼をさせていただきます。最後に美雪さん、私はあなたのことが気に入りました。あなたの魔王退治の旅に幸多いことを祈っております。」


爆笑の後だったため、なんで気に入ったのか気になるけど、いっぱい説明をしてくれた創さんに素直に感謝する。


「ありがとうございます。私も創さんのダンジョン管理が本来の意味を取り戻せるよう全力を尽くします。」


なので私がダンジョンに行った時は何卒よろしくお願いしますと、(よこしま)なお願いをしようとしている時には創さんはすでに姿を消していた。残念。


「それじゃー、説明も終わったことだしー、美雪ちゃんの転生者特典の選択に移っちゃいましょー!」


魔法世界マグノキス、魔法、ダンジョンについて、質問を繰り返すことによって詳細化した。

さすがに全てを理解できたとは思わないが、基礎的な部分を理解したことで、転生した後に右も左も分からないで野垂れ死ぬことは回避することができただろう。


そして、私の転生者特典の選択が始まる。

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