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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
49/150

二日酔いに負けず、王都挑戦への準備を始める

前回のあらすじ:ダンジョン攻略の祝勝会にて、美雪(みゆき)泥酔。


「んー!!…っはー!!あー、背骨ぼっきぼきだぁ…。」


目を開けるとそこは宿屋 銀字塔(ぎんじとう)の食事スペースだった。いつの間にか座った姿勢のままで眠りについていた私は、ぐぐーっと背中を伸ばしながら、周囲の様子を伺う。


「やけに体が軽いなぁ…、って、あれ、朝!?」


寝惚け眼で周囲を観察していた私は、窓から差し込む朝日に驚愕する。あれ、さっきまでダンジョン攻略の祝勝会中だったよね?どういうこと?


「…んー、美雪…、うるさいよー…、どうしたの、急に大声を出してー?」


目をこすりながら、私の膝の上で抗議の声を上げるのは(あい)。現状を理解できず、呆気に取られる私を気に留めることもなく、愛はぐぐーっと体を伸ばす。


「どうしたの?美雪?豆が鳩鉄砲(はとでっぽう)食らったみたいな顔して?…って、この美味しそうな匂いは何っ!?」


むにゃむにゃと目をこすりながら、私に対して不思議な表情を浮かべていた愛は、厨房エリアから香ってくる食事の匂いに気付いたのか、とことこと厨房エリアに向かう。

そんな愛を見送りながら、私は考える。なぜ、愛は私の膝枕の上で眠っていたのだろう?


「だめだ、いくら思い出そうとしても、全っ然思い出せない…。それに、この頭痛はなに…?」


首を傾げていると、宿屋の看板娘姉妹の妹の方、クールな表情に時たま見せる笑顔が可憐なラルチさんが、私の目の前に水の入ったコップを置く。


「あ、すみません。ありがとうございます。いただきます。」


本能が求める水を、ちびちびと飲みながら昨日のことを思い出そうとする。思い出そうとするが、ダンジョンについて他の冒険者にアドバイスをしている途中から記憶が無い。そして、頭痛と吐き気が記憶の振り返りを邪魔してくる。

どこかで味わったことがある症状に首を傾げていると、ラルチさんが申し訳なさそうに頭を下げる。


「父が間違って、美雪にお酒を提供したって聞いた。代わりに、謝る。ごめんなさい。」


人と話すのが苦手なラルチさんは、ゆっくりと私に昨日のことを教えてくれる。その情報から、私を襲う頭痛の正体に辿り着く。


「私に、お酒を…!?」


私の問いに、ラルチさんは黙ってこくりと頷く。


「なるほど…。だから、こんなに頭が痛いのか…。ちなみに、酔っ払った私は何かやらかさなかったですか…?物を壊したりとか、誰かを殴ったりとか、そういったことはしませんでした?」


「物を壊したり、誰か殴ったりしてない。姉に聞いた話だけど…。酔っ払った美雪は、テンション高く色々と話した後、ぐっすりと眠ったらしい。」


ラルチさんから聞いた情報では、今回はそんなにやらかしていないらしい。一安心しながら、ちびちびと水を飲む。


「あー…、水、美味し…。」


二日酔いでズキズキと痛む頭に、ラルチさんが渡してくれた水が優しく染み入る。レモンのような柑橘系の果物の果汁が入っている。さっぱりとした風味が口の中に広がり、吐き気が少し収まる。


「美雪ー!!今日の朝ご飯は、でっかいシューシーなお肉を、パンに挟んだやつだってー!!すっごい美味しそうだったよー!!って、どうしたの、美雪?頭を抱えて?」


二日酔いの頭に、愛の大声が突き刺さる。片手で痛む頭を抑えながら、震える手を愛に伸ばす。言葉が出ない私の代わりに、口の前で人差し指を立てたラルチさんが答える。


「愛ちゃん、静かに。美雪は、二日酔い。大きな声は厳禁。」


「大人しいと思ったら美雪は二日酔いかー!!二日酔いは大変だー!!母ちゃんも二日酔いの時は大人しくて、喧嘩売ったら本気で怒られたもんなー!!だから、今日は大人しくする!!美雪、ごめんなー!!」


大声で大人しくする発言をする愛。その声が頭に突き刺さったが、それ以降の愛は、んっと口を噤んで大人しくなった。猪突猛進な愛が、私を気遣ってくれている…。ほろりと涙がこぼれる。


「はい、朝ご飯。美雪は食べれる?」


ラルチさんの言葉と、愛の前に置かれた異世界流ハンバーガーを確認する。黒パンという異世界独特の硬いパンで、ジューシーなハンバーグが挟まれている。溢れ出る肉汁に、デミグラスソースに似た濃厚なソースがなんとも美味しそう。

とても美味しそうだが…、この見た目は二日酔いの私に食べられるわけがない…。私はゆっくりと首を横に振る。


「美味しそうな肉とパン!!美雪がいらないって言うなら私にちょうだい!!…って、あ、ごめん!!」


しまった!という表情を浮かべる愛は、両手で口を抑える。良いんだよ…、猪よりも猪突猛進な愛が気遣ってくれるだけで、私は嬉しいよ…。

ゆっくりと水を飲みながら、美味しそうにハンバーガーを食べる愛を見守っていた私は、とあることに気付く。

怪我も回復するHP回復ポーションなら、二日酔いにも効果があるんじゃないか…?

思いついたら、即実践。マグカから取り出したHP回復ポーションをぐいっと飲み干す。鼻を抜ける、ミントのようなHP回復ポーションの独特な香り。体が薄い赤い光に包まれ、指先のささくれが回復していく。ポーションの効果を実感する私、襲い掛かる頭痛。


「あー…。ダメだー。効果無いわ。頭痛い…。」


残念ながら、ポーションは二日酔いには効果が無かった。


痛む頭と吐き気を、気合で必死に抑えながら、私は王都に向けての旅立ちの準備をする。短い期間ではあったが、お世話になった銀字塔の看板姉妹のナチュラさんとラルチさんにたっぷりお礼を言った後、諸々のチェックアウトを完了させた私達は銀字塔を後にする。

看板娘であるナチュラさんは、両手を上げて元気いっぱい手を振り、ラルチさんは控えめに胸の高さで片手を振っている。そんな二人に愛は力強く、私は弱々しく手を振り、ゴルド商店ファスト支部へと向かう。

私達がおばちゃんの待つゴルド商店ファスト支部へ向かう理由は一つ。始まりの草原でのジャイアントグラスホッパーの群れとの戦利品、ダンジョン内で入手した大量の素材などなど、今まで入手した素材を売り、王都への旅路の軍資金を得るためだ。


「美雪ちゃん達、この町を離れちゃうのねー!!短い間だったけど、おばちゃん寂しいよー!!」


「おばちゃん、しーっ!!」


「あらあら、大声を出しちゃいけないのね。って、美雪ちゃんのその様子に、昨日の祝勝会…。なるほどね。」


出会い頭のおばちゃんの大声に、愛が人差し指を口元に立てる。愛に注意されたおばちゃんは、生まれたばかりの小鹿のように震える私の様子を確認した後、色々と察したのか、愛と同じく人差し指を立てる。


「そんな状態でも今日来たってことは、ダンジョン産の素材売却かな?」


「…はい。それと、ジャイアントグラスホッパーの群れを討伐した時の素材も買取をお願いして良いですか…?」


「良いわよ!クイーングラスホッパーの素材やダンジョンのボスモンスターの素材を買い取っちゃうと、他の素材が買えなくなっちゃうから勘弁してほしいけど、それ以外なら大丈夫よ!それじゃあ、買い取ってほしい素材をマグカで選んでちょうだい!」


私はクイーングラスホッパーの素材と、大悪魔グラットンの素材以外の全ての素材を、マグカの売却モードに設定する。二日酔いで頭が痛かったため、考えるのが面倒になったのもあるが、このくらいの素材を売却しないと、私が買いたい物には届かない。

私はゆっくりとマグカをおばちゃんに差し出す。私の提示した大量の売却依頼を確認したおばちゃんは、にやりと笑った後に、ぽんっと自分のマグカの買取ボタンを押す。


「あれ、全部買い取っていただけるんですか?」


マグカに表示された所持金が、あっという間に桁一つが増えたことに驚きながら、おばちゃんに確認する。おばちゃんは豪快な笑みを浮かべる。


「正直、この店の資金の多くを使う危険な賭けだけど、おばちゃんは勝ち目ありと判断したよ!ダンジョンも見つかって、これから冒険者たちが武器や防具を買い求めるからね!ダンジョン産の素材は、あそこの装備品屋や、新しく出来るであろう武器屋、防具屋に高く売れるさ!だから、先行投資で全て買わせてもらうわってわけ!」


「なるほど…。それなら、遠慮なく。ありがとうございました。」


今回の買取だけでなく、今までの感謝の気持ちも込め、おばちゃんへと深く頭を下げる。


「ファストの町を訪れる時は、また立ち寄ってねー!美雪ちゃん達の活躍を祈ってるわ!」


大きく腕を振るおばちゃんに見送られながら、ゴルド商店の出口の扉を開けると、そこには短髪、あごひげ、筋骨隆々の男が必死の形相で立っていた。その男に対し、愛は首を傾げる。


「あれ、ユウジじゃん。どうしたの?」


「どうしたの?じゃねぇ…!!銀字塔を訪れたら、もう出発したってもんだから急いで探し回ったぞ…。良かった、まだ王都に向かってなかった…。」


走り回っていたのか、額に汗を浮かべ、ぜぇはぁと息を切らすユウジ。すごく暑苦しい。

深呼吸で息を整えたユウジは、背筋を伸ばし、勢いよく私へと頭を下げる。


「美雪さん、お願いだ!!俺も美雪さんの旅に同行させてくれ!!!」


「ユウジ…。うるせぇ…。」


ユウジの大声に、二日酔いの頭がズキズキと痛んだ私は、頭を抑えながらの一睨みでユウジを黙らせる。ひぃっと小さい悲鳴を上げたユウジへ、愛が解説を始める。


「ユウジ、美雪は昨日のお酒で二日酔い中なんだよ。大声厳禁!」


「あ、あぁ、すまねぇ…。二日酔いか…。二日酔いなら仕方ないな…。って、コップ一杯のフルーツサワーで二日酔い?」


「文句あるか…?」


「無いです!!」


「じゃあ、静かにしろ…。いや、二日酔いが辛い私の代わりに、この金で馬車を購入してこい…。」


私はマグカから取り出した布袋に、二十枚程度の金貨を入れ、ユウジに渡す。

私が王都挑戦のために購入したかったものは、移動の要となる馬車だ。さすがに徒歩で王都を目指すのは辛いため、ダンジョン産の素材売却で手に入れたお金を全て投入し、馬車を購入することに決めた。これから先の旅でも必要になるし。

馬車の相場は大きさや質にもよるが、金貨十五枚程度。約15,000G…。日本円にして約百五十万である。持ってるお金の大半が消えるが、必要出費と自分に言い聞かせる。


「愛、悪いんだけど、ユウジがこの金を持ち逃げしないように見張ってもらっていい?」


「りょーかい!行くよ、ユウジ!」


愛の言葉が周囲に響くが、ユウジは動かない。


「どうした、ユウジ?」


「馬車を買ってくるのは全然良いけど…、その前に、美雪さんの旅に同行させてくれっていう俺のお願いに対する答えを聞かせてくれ。」


「ん?あぁ、さっきは頭痛で聞こえなかったけど、そんなことを言っていたのか。なんでそんなに同行したいか不気味な位だけど、貴重な戦力ってのは否定できない。どうせユウジのことだから、断っても着いてくるか、どこかで待ち伏せするだろ…?そんなわけで、ユウジの同行を許可する。愛も良いでしょ?」


「美雪が良いなら、オッケーだよ!その代わり、精一杯全力で私達を守るんだぞ!!」


愛と私の同行許可に、ユウジは大きくガッツポーズをする。喜び爆発といった様子。よっぽど私達の旅に同行できるのが嬉しいらしい。

いや、本当になんでそこまで?


「ありがとう!!さっそく、馬車の購入に行ってくる!!美雪さんは、ゆっくり待っててくれ!!」


大声で愛と一緒に馬車を購入しに走り出すユウジ。

あー、ユウジの大声が頭に響く…。あれほど大声厳禁と言ったのに…。ユウジを仲間にしたことを少し後悔する。


愛とユウジの馬車の手配を待っている間も、二日酔いの頭がズキズキと痛む。痛みを緩和するために片手で頭を押さえていたところ、またしても大きな声が私の頭に響く。


「見つけましたー!!美雪さん!!美雪さーん!!」


遠くから聞こえてくる大声の主はシロ君。両手を大きく振りながら、大声で私の名前を呼んでいる。

右手で痛む頭を抑えながら、震える左手をシロ君に差し出す。賢いシロ君なら、これで伝わるはず。そんな私の期待は、異様にテンションの高いシロ君によって打ち破られる。


「美雪さん!!美雪さーん!!間に合って良かった!!まだ王都へ旅立っていなかったんですね!!今日は美雪さんに話したいことがあります!!」


「ちょっと、待って、シロ君…!!」


「待ちません!!美雪さん、僕のお願いはただ一つです!!僕も美雪さん達の冒険にご一緒させてください!!お願いします!!」


「あ、うん。良いよ良いよ…。だから、少し声を小さく…」


「淡泊すぎませんか!?あっさり過ぎませんか!?僕は昨日今日と色々あって、諦めかけていた冒険者としての夢が、急に叶ったんですよ!!一緒に喜んでくれたり、一度断られても諦めないで頼むとか、そういうイベントを僕にさせてくだ…って痛たたたた!!!」


「シロ君、少し落ち着いて…。ね?」


転生前の先輩直伝のベアクローで、シロ君のテンションを落ち着かせる。最初はもがいていたシロ君も、しばらくの間ベアクローを続けたところ、くたーっと大人しくなる。私は慌てて手を離す。


「無理矢理に黙らせてごめん…。本当にごめん。ちょっと、自分を見失ってた…。」


「いえ、大丈夫です…。二日酔いが辛い中で騒いでしまって、ごめんなさい…。お詫びと言っては何ですが…。」


申し訳なさそうに頭を下げたシロ君は、すぅっと息を吸い、魔法の詠唱を始める。


「光の精霊よ。我が声に応じて、目の前の女性から状態異常を取り除きたまえ。リカバー!」


シロ君が発動した光魔法リカバーによって、私の体が白く光る。光魔法リカバーは、対象者の状態異常を回復する魔法だが…って、まさか!?

予想通り、私の体から気だるさが消え、心地良さと共に、ズキズキと痛んでいた頭も嘘のように軽くなっていく。


「光魔法リカバーは状態異常を消す魔法ですが、二日酔いにも効果があると聞きました。それで試してみたのですが、効果抜群のようで良かったです!」


「さっすが、シロ君!!!ありがとう!!」


「いえいえ!でも、光魔法リカバーでは風邪や病気は治せないので、無茶してはいけません……って、うわぁ!?美雪さん!!美雪さーん!!」


「あ、あぁ!!ごめんごめん、思わず。」


辛い二日酔いからの解放に、喜びのエンジンがフルスロットルになった私は、気が付くとシロ君に抱きついていた。ごめんごめんとシロ君の頭をポンと叩いた私は、そっと離れる。


「いやー、光魔法リカバーってすごいわね!さっきまでの頭痛がスッキリだ!跳んでも、大声出しても頭が痛くない!!本当にありがとう、シロ君!これからも、よろしくね!」


「あ、はい、よろしくお願いします!」


後でシロ君に聞いた話だが、美雪さんの今のよろしくねは、これからの旅よろしくね!って意味だよね?二日酔いの時は光魔法リカバーをよろしくね!って意味じゃないよね?と自分の旅の同行希望について、心配になったらしい。申し訳ない。タイミングが悪かったのだ。


光魔法リカバーのおかげで二日酔いが解消した私は、シロ君から王都についての話を聞きながら、愛とユウジの馬車購入を待つ。

シロ君から聞いた情報では、現在の王都は大混乱中らしい。

なんでも、王都の生活に必要なモンスター素材や食材の供給源であったトラップタワーという施設が数か月前に大崩壊し、モンスター素材の需要に供給が追い付かなくなった。その結果、冒険者は連日のようにダンジョンへと駆り出されているそうで、毎日バタバタが続いている。端的にまとめた今の王都の状況はそんなところだ。


「王都はトラップタワーが壊れたことで、大混乱と…。ひとつ壊れただけで大混乱になるトラップタワーって、どんな施設なの?」


「トラップタワーは、一言で言ってしまえば、僕達がこの町のダンジョンでも苦労させられたトラップを利用してモンスターを倒す施設です。」


「トラップを利用してモンスターを倒す?どういうこと?」


「トラップタワーの中には、火が吹くトラップやモンスターを発生させるトラップがありましたよね?僕も詳細までは分かりませんが、そんなトラップを利用して、自動でモンスターを沸かせ、自動で処理し、安全に効率よくモンスターからのドロップアイテムを手に入れるための施設…、それがトラップタワーです。」


「なるほど…。危険を冒さずに、モンスターのドロップアイテムを簡単に入手できる施設、それがトラップタワーと…!異世界ならではの、とんでも施設ね!すっごいわ!」


効率化を極めた異世界特有の商業的な施設に、前世の仕事アンテナがぎゅんぎゅんと反応する。


「そんな施設なら、どういう風に動いているか、どう運用しているかを、一度見てみたかったけど…。崩壊してしまったのは残念ね…。って、何この音?キーコ、キーコって、何かを漕ぐような音だけど…?」


トラップタワーという好奇心を煽られる施設について詳細を聞いている中、周囲に謎の音が鳴り響く。音の発生源である馬車屋の裏に行ってみると、そこには木製の何かがあった。


「じゃじゃーん!!見て見て、美雪ー!!お目当ての馬車だよー!!」


「馬車ではないな…。」


胸を張って愛が指し示し、ユウジが申し訳なさそうに指差すのは、馬がいないため馬車とは呼べない謎の車だった。


「馬車?これが?馬は?ってか、何これ?」


疑問たっぷり、はてなマークいっぱいで目の前の謎の車を指差す私。それに対して愛は、むっふーと満足気に胸を張る。

目の前にあるのは、馬車で言う馬が引く部分の代わりに、タイヤの大きな自転車のような物がついている。その後ろに、人が乗るであろう四人乗りの籠がついている。謎車の自転車部分に、愛は意気揚々と跨り、ぐいぐいとペダルを漕ぎ始める。すると、後ろの籠がゆっくりと前進する。


「この車は人引き車って言うらしいよー!!人力で動く車!馬車は馬の管理が大変だから、こっちの方が良いだろって、おっちゃんが特別割引で売ってくれるってよー!!私のトレーニングにも使えるし、お得だよー!!馬車よりこっちの方が私達には良いでしょー!!美雪ー!これにしようよー!!」


愛は満面の笑みで人引き車という名の車を、馬車屋の裏庭スペースをぐるぐると回るように漕ぐ。そんな愛の様子を見ながら、私は人引き車の分析を始める。


「確かに、私には馬の飼い方の知識なんて無いから、実際のところ、馬車よりこっちの方が良い。それに、この車なら生き物である馬がいないから、マグカに仕舞えるわね…。馬の管理費がいらない上に、体力自慢の愛が動力源になる…。確かに、私達にとって馬車より利点が多いわね…。お値段は?」


「金貨二十枚…。美雪さんにもらったお金全部です…。」


いつの間にか隣に立っていたユウジが、私の問いに対して申し訳無さそうに答える。馬車の相場を超えるどころか、余分に渡した金貨全てを使う上に、愛に負担を強いる人引き車。私は腕を組んで考える。


「金貨二十枚…。予算的にはギリギリ買えるけど…。これを買っちゃうと当分の間の食事が、道中のモンスターを倒して手に入れた食材になっちゃうのよね…。」


楽な移動と美味しいご飯を天秤にかけて悩んでいた私へ、馬車屋の主人が手もみをしながら、近づいてくる。


「購入をお迷いのあなた!!今なら、購入された方へオプションパーツを無料でお付けいたします!!そのオプションパーツが、こちら!!なんと、人引き車の要とも言える、漕ぎ車部分をもう一台サービス!!これがあれば、二人で漕ぐことも可能!!今だけ、特別サービスですよ!!今を逃したら二度と手に入らないかもしれない、オプションパーツ!!しかも、簡単に取り外しが可能!!そんな、オプションパーツをお付けしても、お値段は据え置き金貨二十枚!!いえ、今回は勉強をさせていただきます!金貨十九枚!!いかがでしょう!?」


「買った!!」


「毎度ありー!!」


馬車屋の主人のサービスに、私は購入を決意する。

私の言葉に、馬車屋の主人は満面の笑みで、ユウジから金貨を受け取っている。あまりにもにっこにこな馬車屋の主人に、私は裏があるんじゃないかと不安を感じる。

そんな私に、シロ君がすすすっと近寄り、助言をくれる。


「安心してください。実際、この人引き車は金貨十九枚ならお得ですよ。馬車屋の主人は、在庫品が無事にはけて喜んでるだけです。」


「どういうこと?」


「前に聞いた話ですが、あの人引き車は物珍しさから馬車屋の主人が王都で買ってきたらしいのですが、低レベル冒険者しかいないファストの町では買う冒険者がいなく、ずっと売れ残ってる困った在庫品だそうです。」


「なるほど。」


確かに、低レベル冒険者がいっぱいのファストの町では、この人引き車を簡単に漕げる冒険者は少ないだろう。なにせ、後ろに人が乗るための大きな籠があるのだ。人並みの筋力しか持たない私では、いくらレベル20になったとはいえ、人を乗せて漕ぐのは難しいだろう。

そんな中、愛は余裕綽々で人引き車を漕いでいる。試しに私とシロ君、ついでにユウジも乗ってみたが、愛一人の力で問題なく人引き車は前進する。愛の力に驚かされながらも、無事に王都までの足を手に入れられたことを実感する。


「よしっ!!これで問題なく王都へ進むことが出来るわね!!それじゃ、他に必要なものを調達したら、王都へ出発しましょう!!」


王都への心配事はすべて解決した。これで心置きなく王都へ挑戦できる!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] さすがに徒歩で王都を目指すのは辛い だから馬車が欲しかった。 のに人引き車? 愛に引かせて問題ないからオーケー? 愛に何かあったら立ち往生間違いないのに? しかも、速度は絶対徒歩…
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