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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
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【番外1-3】メイドのメイコの素敵な家出

この物語はメイドのメイコ目線で語られる番外編です。

「旦那様!!旦那様ー!!」


皆様、こんばんは。坊ちゃまに向かって全速前進、面舵一杯のメイド、メイコです。

冒頭から大声を上げてしまい誠に申し訳ございません。(わたくし)始まって以来の一大事のため、多少取り乱していることはお許しください。また、屋敷で職務中の旦那様に一大事をお伝えするため、屋敷の扉を力強く蹴破ったこともお許しください。


「メイコよ、どうしたそんなに慌てて…?あと、屋敷の扉はもう少し優しく開きなさい。強盗かと思って驚いたぞ。」


他のメイド仲間が、困惑の表情で立ち尽くす中、のんびりとした様子で屋敷の奥から旦那様が現れました。一大事だというのに、なんでこんなに落ち着いているのでしょう。私は一大事をお伝えするために、語気を強めます。


「旦那様!!坊ちゃまがお戻りになりました!!」


私の言葉に、旦那様は安心したような、でもどこか悔しいといった表情を浮かべます。


「そうか…。昨日ダンジョン攻略に嬉々として向かったばかりだが、もう戻ったか。思っていたよりも速かったな。それほどまでにダンジョンは過酷か…。今日のホワイトは、自分の力不足を悔しく思って居るだろうから、なるべく優しく迎え入れてあげような、メイコ。」


優しい笑みを浮かべて、私の肩をポンッと叩く旦那様。

旦那様の優しい言葉と表情に、最初は何を言っているのか分かりませんでしたが、優秀なメイドである私は旦那様の言葉の意味を即座に理解します。


「旦那様は勘違いしているようですので、訂正をさせていただきます。」


「勘違い?訂正?どういうことだ?ホワイトは、ダンジョンのモンスターがあまりにも強く、一日という短い時間で、ダンジョンから逃げ帰って来たんじゃないのか?」


「その言葉、坊ちゃまが聞いたら悲しみますから、坊ちゃまの前では言わないでくださいね。」


私の言葉の意味が分からないのか、旦那様は首を傾げております。旦那様は坊ちゃまの実力は、ダンジョンに通用するものではないと信じ込んでいるのですね。その幻想は、私がぶち壊させていただきます。


「坊ちゃま率いる冒険者パーティは、逃げ帰って来たのではなく、一日という驚異的なスピードでダンジョンを攻略して戻ってきたのです。」


「逃げ帰って来たのではなく…、攻略して戻って来た!?一日で、情報も何もないダンジョンを攻略してきたというのか!?初級ダンジョンでも、初級冒険者のホワイトには三日は必要だろう!!おかしい、速すぎる!!」


「はい、旦那様の仰る通り、この町のダンジョンは初級ダンジョンでした。それでも、坊ちゃまには苦戦を強いられるレベルです。私も最初は一日という異常な速さのダンジョン攻略に、坊ちゃまへの愛故(あいゆえ)の空耳かと思いましたが、もう一つの情報で私は納得をしました。」


「もう一つの情報?なんだ?」


「坊ちゃまと共にダンジョン攻略をした三人の冒険者ですが、全員転生者でした。」


「三人の転生者…。そうか、美雪さん達か…。美雪さん達と一緒だったのなら、一日という異常な速さのダンジョン攻略も納得がいくな…。」


数日前、始まりの草原からファストの町に向かっていたジャイアントグラスホッパーの群れという脅威を、軽々と殲滅した美雪さん達。そんな三人が一緒だったという情報を聞き、納得する旦那様。そんな旦那様へ、私は説明を続けます。


「異常な強さと成長速度を持つ転生者である美雪さん、愛ちゃん、クソナンパ野郎と一緒であれば一日のダンジョン攻略も可能かもしれません。しかし、私は坊ちゃまの名誉のために一つ補足をさせていただきます。」


私のクソナンパ野郎という言葉に、旦那様は少し眉をひそめましたが、私の言葉の続きを促します。


「補足?なんだね?」


「もし坊ちゃまが美雪さん達の足を引っ張っていたら、一日という異常な速さでダンジョンを攻略できたでしょうか?」


「高レベル冒険者の美雪さん達なら、ホワイトが少しくらい足を引っ張っても片手間に初級ダンジョンなら攻略できるだろう。」


「いえ、あの三名は実は初級冒険者です。三名の中でも最大のレベルを持つ無駄筋肉クソナンパ野郎でもレベル20程度で、美雪さんと愛ちゃんに至ってはダンジョン初挑戦な上、レベル15程度だったそうです。」


「なに!?あの三名が初級冒険者!?そんなわけない!!何かの間違いだ!!」


「間違いではありません。私が直々に、ジャイアントグラスホッパーの群れを殲滅した後に聞いた情報です。間違いございません。」


私の言葉を聞き、黙り込んでしまう旦那様。しかし、私は話すことを止めません。


「坊ちゃまと一緒にダンジョン挑戦した仲間は、そこまで異常な強さを持っているわけではありませんでした。それでも、坊ちゃまが未開のダンジョンを一日という驚異的な速さで攻略したことは、何を意味するのでしょう。」


私は一拍置き、旦那様へにっこりと微笑みかけます。


「旦那様はそろそろ認めるべきです。あなたの息子であり、私の未来の夫である坊ちゃまは、冒険者として転生者三名に引けを取らない実力者であるということを。そして、そんな坊ちゃまが何を望んでいるかを。」


ずっと言いたかった言葉を、私は旦那様に伝えました。

言葉を失い立ち尽くす旦那様を屋敷の入り口に置き去りにしたまま、私は疲れて帰ってくる坊ちゃまを優しく迎え入れるための準備を始めます。



「ただいまー!」


程なくして、喜びの感情を隠すことない、にっこにこの坊ちゃまが帰ってまいりました。


「坊ちゃま、お帰りなさい!ダンジョン攻略、お疲れ様です!坊ちゃまは大変お疲れだと思いますので、本日は私が、メイドとして、尽くさせていただきます!!あーんとご飯を食べさせてあげましょうか?お風呂で全身を洗い流してさしあげましょうか?そ・れ・と・もー、まだ余ってる体力で、私を無理矢理…?」


「そういうの良いから。」


私流の、ご飯にする、お風呂にする、それとも私?を完全に否定しながら、坊ちゃまは着ていたローブを私へ差し出してきます。深い意味は無いですが、すーっと深呼吸をします。


「あぁ、坊ちゃまがダンジョン内で成長したんだなというのが、坊ちゃまのローブ内に残る芳醇な坊ちゃま因子ボッチャマズファクターから感じられ…、ない!?あれ!?坊ちゃまの脱ぎたてローブから、坊ちゃまの香りがまったくしません!!どういうことですか!?」


坊ちゃまの香りを堪能しようとした私は、無味無臭無坊ちゃまのローブに顔を埋めながら、坊ちゃまの方へ振り返ります。そんな私に、坊ちゃまは無邪気に笑いながら指摘をします。


「ダンジョン内で覚えた光魔法フレッシュのおかげで、そのローブは洗い立てと変わらないよ?」


「そうですか…。光魔法フレッシュは衣服の汚れを浄化する魔法ですから、このローブも綺麗さっぱりってことですか…。坊ちゃまの残り香を味わえないことに、私はメイドとして悲しさを感じざるを得ません…、って光魔法!?」


「うん、光魔法!ダンジョン内で覚えたんだ!すごいでしょ!」


にこにこと胸を張り、私へ自分の成長を嬉しそうに報告する坊ちゃま。普段は大人びた坊ちゃまがみせる年相応の表情に、私の水魔法(意味深)が暴走してしまいそうになります。


「光属性魔法は、生まれた頃から適性のある者以外は、なかなか取得することが出来ない属性です!!そんな光属性魔法を、ダンジョン内で取得してしまうなんて…!!さすが坊ちゃま!私びっくりです!!」


「急な説明口調どうしたの?」


混乱から光属性魔法を説明してしまいました。取り乱しました、申し訳ございません。

しかし、坊ちゃまはダンジョンを攻略したことで、確実に成長をしております。坊ちゃまの成長は嬉しいことですが、私としては少し寂しさを感じてしまいます。そんな私に、坊ちゃまは誇らしげに語りかけます。


「これで、メイコから卒業だね!」


「私からの卒業…?」


「今までの僕は、メイコの光魔法に守ってもらってばかりの冒険だったでしょ?でも、最近はメイコに助けてもらわなくても冒険できてる!だから、メイコからの卒業!」


少し前から感じていた、坊ちゃまが私から離れていってしまっているという感覚。

それが、現実となって坊ちゃまの口から告げられました。


胸が張り裂けそうになる寂しさを必死に抑え、私は坊ちゃまへ胸の内を告げます。


「坊ちゃま!どうせなら、あっちの方も卒業してしまいませんか!!私と一緒に!!坊ちゃまを大人の男にするのは、メイドであるメイコの役目ですから!というわけで、坊ちゃま!!一緒に大人への階段を上りましょう!!大丈夫、怖がることはございません!!私も一緒に大人への階段を上るのですから!!坊ちゃまと大人の階段を一緒に上る今日まで、私の純潔は守ってきましたから!!さぁ、さぁ!!」


「そういうの良いから。父さんは?」


「旦那様ですか?奥の私室におりますが、お呼びしましょうか?」


「いや、僕から会いに行くよ。ダンジョンの報告と一緒に、話したいことがあるからね。」


真剣な表情で、旦那様との会話を望む坊ちゃま。私の夜の要求にも、その真剣な表情で望んでくれたら堪らないのに…!!そんなほとばしる愛を伝えようとした私ですが、坊ちゃまの真剣な表情に茶々を入れるようなことはしません。私もメイドとして真剣な表情で応えます。


「分かりました。それでは、私もメイドとしてお供します。」


表情を引き締め、旦那様の私室の前に立ちます。ゆっくりと扉をノックします。

まもなく聞こえてきた旦那様の、入りなさい、という声に私はゆっくりと扉を開きます。


「ただいま、父さん。」


「戻ったか、ホワイト。って、なんでメイコに後ろから抱きしめられてるんだ?」


「僕にも分からない。」


「私が坊ちゃまを後ろから抱きしめている理由ですか?説明しましょう!!まず、見てください!!旦那様!!見事、ダンジョン攻略を達成した坊ちゃまの表情を!!出発の時より、少し大人びており、たいっへん素敵です!!私、危うく主従関係という壁を超えて、押し倒しそうになりました!!水魔法(意味深)も暴走寸前です!!しかし、私はその気持ちをグッと抑え、こうして後ろから抱きしめることで我が身の暴走を堪えております。」


「そうか。離してやりなさい、メイコ。」


旦那様に注意されては仕方ありません。唇を尖らせながら、坊ちゃまから離れます。あぁ、坊ちゃま。


「まずは、ダンジョン攻略おめでとうと言わせてもらおう。」


「ありがとう、父さん。それじゃ、ダンジョンの内容を報告するね!」


「王都のダンジョン調査員から報告を受けるから、わざわざ話さなくても構わない。」


「あ、そうだね。ダンジョン調査員からの報告の方が正確だよね…。ごめんなさい…。」


旦那様の険のある言い方に、坊ちゃまは弱々しく答えます。坊ちゃまにフォローをしようとした私は、次の旦那様の言葉で、動きを止めます。


「それで、いつまでホワイトは冒険者ごっこを続ける気だ?」


「冒険者ごっこ!?旦那様、なんて言い方ですか!!」


「メイコよ、ホワイトは私の跡を継いで、この町の領主になるんだ。そんなホワイトがしている冒険者の真似事を、冒険者ごっこ以外に、どう表現したら良いと言うんだ?」


私は旦那様のあんまりな言葉を否定しようとしましたが、差し伸ばされた坊ちゃまの手によって止められてしまいます。心配しなくても良いという坊ちゃまの表情に、私はゆっくりと後ろへ下がります。


「確かに、僕が今までしていた冒険者ギルドでのクエスト受注や、今日のダンジョン攻略は、父さんの言う通り、冒険者ごっこだったね。ごめんなさい。冒険者ごっこは今日で辞めるよ。」


「ホワイトに自覚があるのなら、構わない。今までは自衛の力を身につけるために許してきたが、ホワイトもそろそろ私の仕事を覚えていってもらわねば困る。明日から、少しずつ領主の仕事というものを教えていくぞ。」


「ごめんなさい、父さん。僕は領主にはならないよ。」


坊ちゃまの言葉に、旦那様は鳩が豆鉄砲を食ったような顔になります。


「え?さっき冒険者ごっこは辞めるって?」


「うん。今日で冒険者ごっこは辞めて、明日から正式に冒険者として生きていく。今日のダンジョン攻略で決めたんだ。僕は美雪さん達と一緒に、この町から旅立って冒険に行くよ!」


「どういうことだ?」


「僕は前から冒険者になりたかった。この世界の未知をもっと知りたいし、いろいろな困難に挑戦していきたい!そして、本の英雄譚に登場するような男になりたい!」


坊ちゃまはきらきらとした表情で、旦那様に今の気持ちを話します。旦那様は険しい表情ながらも、黙って坊ちゃまの言葉を聞きます。


「そんな中で出会ったのが、美雪さんと愛さん!二人は僕に色々な冒険をさせてくれました!領主の息子っていう立場の僕にも、他の人と同じように接してくれた!ダンジョンという未知にも挑戦させてくれたし、ダンジョン攻略の達成感を教えてくれた!この町のことも好きだけど、美雪さん達と一緒に冒険してる内に、僕の中で、まだ見ぬ未知の世界に飛び出したいって気持ちが日に日に強くなっていくのを感じた。僕はこの気持ちを忘れたくない!だから、冒険者になりたい!!」


今までは遠慮していて言えなかったであろう、坊ちゃまの胸の内。私と旦那様は黙って、すべてを聞きました。


「それにね…。」


坊ちゃまは、マグカから昨日まで使っていた杖とは違う、不思議な杖を取り出しました。その不思議な杖を、坊ちゃまは満面の笑みを浮かべ、旦那様へと差し出します。

坊ちゃまから杖を受け取った旦那様は、首を傾げながらマグカを取り出して杖の性能を確認します。


「この杖がどうしたん…だ…、って、星四武器だと!?」


「うん、星四武器、素敵なステッキ。ダンジョンのボスモンスターの攻略品。名前に恥じぬ、素敵な杖でしょ?」


坊ちゃまは何気なく言っておりますが、星四武器は素敵な杖どころではございません。上級冒険者でも星四武器を装備している方は一握りしかおりません。ゴールドを使って手に入れようとしても、この屋敷を売っても全然足りません。それ程の一品を、坊ちゃまは手に入れたというのです。


「どうしたんだ!?この杖は!?」


「美雪さんが、今までのお礼って僕にくれたんだ。なかなか受け取らない僕に、普段言わないような冗談まで言って、無理矢理くれたんだよ。」


「星四武器を!?人にあげる!?」


「うん、おかしな話だよね。僕は二人に助けられてばかりだと思ってたけど、逆に美雪さんは僕に助けられてたんだって。だから、この杖はその感謝の印ってくれたんだけど…。驚きだよね、星四武器を簡単にあげちゃうんだよ?感謝の言葉まで言われちゃったし!」


信じられないという表情を浮かべながらも、旦那様は丁寧に素敵なステッキを坊ちゃまに返します。坊ちゃまはその杖を大事そうに抱きしめながら、言葉を続けます。


「美雪さんは、怖い目つきの女性だけど、とっても心が暖かい人なんだ!無鉄砲で無茶ばかりする愛さんのことをいつも気にかけているし、ナンパ野郎のユウジにも、なんだかんだで優しくしてる。本当に素敵な女性なんだ!僕はそんな彼女の力になりたいと思った!一緒に冒険をしたいと思った!!だから、一緒に旅に出させてほしい!!お願いします!!」


旦那様に対して、深く頭を下げる坊ちゃま。


「惚れた女のために、一緒に冒険者として生きていきたい…か。」


坊ちゃまの言葉を要約する旦那様。あぁ、

そんな旦那様の言葉に、坊ちゃまは耳まで赤くしながらも、力強く頷きます。


失恋に 私の心は 砕け散る 最愛奪われ 遠のく意識   メイコ心の短歌

坊ちゃまの初恋に、思わず五七五七七の短歌(一部字余り)を呟いてしまいましたが、そんな私を気にすることなく、旦那様は口を開きます。


「ホワイトのその気持ちは、この町の住人全員の生活より優先するべきことなのか?」


旦那様は冷徹に、坊ちゃまの言葉を否定する一言を告げます。固まる坊ちゃまに、旦那様は鋭い目つきで言葉を続けます。


「別に言い過ぎってわけじゃないぞ。ホワイトが領主の仕事を継がずに、冒険者として生きていくというのはそういうことだ。領主がいなくなったこの町は、他の領主の領地になるだろう。その領主は、元からある自分の領地と、新しい領地、どちらを優先するかなんて考えなくても分かるだろ?つまり、このファストの町は、領主の目が行き届かなくなる。すると、少しずつこの町は荒廃していく。ホワイトが大好きといったこのファストの町は、お前が冒険者になることでそうなる。それでも、良いのか?」


旦那様の言葉に、坊ちゃまは言葉を失ってしまいます。


「ホワイトが冒険者として生きていくか、それとも、私の跡を継いでこの町を良くしていくか。明日まで時間をあげるから、ゆっくりと考えると良い。」


旦那様の言葉攻めに、坊ちゃまはキッと旦那様を睨んだ後、部屋から飛び出してしまいます。

坊ちゃまに対して言葉攻めをして良いのは私だけ、とか、坊ちゃまの怒り顔も最高です、とかアホな考えは捨て、旦那様の私室に取り残された私は、旦那様の前に立ちます。


「失礼を承知で申し上げさせていただきますが、領主の仕事というのは、自分の子供の夢を奪ってまで続けないといけないものですか?」


「先ほどホワイトにも言ったが、ホワイトにはこの町を発展してもらわなければ困る。新しいダンジョンも見つかり、今はこの町にとって大事な時なんだ。」


「それは、旦那様の残りの寿命とも関係がある話ですか?」


私の言葉に、旦那様は目を見開きます。私はメイドとして旦那様の視線から逃げません。

やがて、旦那様は弱々しく溜息を吐きます。


「メイコは知っていたのか…。私の病気のことを。」


「メイドに隠し事が出来るとは思わない方が良いですよ、旦那様。」


私のウィンクに、旦那様は諦めた表情を浮かべつつ、口元に笑みを浮かべます。


「本当に恐ろしいメイドだな、メイコは。そうだ、メイコの言う通り、私はそう長くない。もって一年の命と医者には言われている。」


「それなら、そのことを坊ちゃまにも伝えたらどうでしょう?優しい坊ちゃまなら、旦那様の言う通り、跡を継いでくれると思いますよ?」


「確かに、優しいホワイトなら私の症状を伝えたら、考えを変えてくれるだろう。でも、本心では私だって、ホワイトの夢を否定したくないんだ。あんなにキラキラした真っ直ぐな瞳で語る息子の夢を、頭ごなしに否定する親なんていないだろ。」


「では、この家と町のことを諦め、坊ちゃまが冒険者になることを認めてあげてください。」


「それが出来たらこんなに悩まんよ…。」


すっかりと弱々しくなってしまった旦那様は、手で目元を隠して俯いてしまう。


「旦那様も悩まれていたのですね。坊ちゃまの言葉を否定した時は、どうにかしてやろうかと思いましたが、考えを改めることにします。それでは、この町を他の領主に譲ってしまえばよろしいのではないですか?」


私の質問に、旦那様は悩みと苦しみに満ち溢れた表情を浮かべながらも、静かに言葉を続ける。


「私だってそうしたいところだが…。メイコも知っているだろう。この町は(かね)てから評判の良くないことで知られる、トナーリの町の領主ワールイに狙われている。私が病気で死に、ホワイトが冒険者になって、この町が正当な領主不在とあっては、簡単にワールイの手に落ちるだろう。そうなったら、あの男のことだ。無駄に税率を上げ、町民のことをいたずらに苦しませる。そんな未来を、今の領主として、私は受け入れられない…。」


「坊ちゃまに領主の跡を継いでもらって、このファストの町を守りたいけど、坊ちゃまの冒険者になりたいという夢も叶えてあげたい。立派な二律背反ですね!困ったものです!」


「そんな笑顔で言われると困るが、メイコの言う通りだ。困ったものだ。本当に困ったものだ…。」


場を明るくするために、少しおちゃらけてみましたが、少しも旦那様の気分を変えることが出来ませんでした。頭を抱えて考え込んでしまう旦那様に、私はなんて声をかけて良いか分からず、旦那様と同じく俯いてしまいます。

少し時間が経ったところで、旦那様は頭を上げ、優しく私に微笑みます。


「ホワイトに明日まで時間をあげるから、ゆっくりと考えると良い。なんて偉そうに言ったが、時間が欲しいのは私の方だ。ははは、親失格だな。」


力無く笑う旦那様。

子供の頃から旦那様と過ごしてきましたが、こんなに弱々しい旦那様は初めて見ました。そんな旦那様の笑顔を見てしまった私は、メイドとしてではなく、(わたし)として覚悟を決めます。


「旦那様!!」


「どうした、急に大声を上げて…?」


「失礼します!!」


覚悟を決めた私は、旦那様の私室の扉を蹴破り、飛び出します。そんな私の背中に、旦那様の小さな声が聞こえてきます。


「メイコ…。扉は静かに…、って、行ってしまったか…。急にどうしたんだ…?」


急に旦那様の私室を飛び出した私へ、旦那様は疑問の言葉を投げかけます。でも、私は足を止めることをしません。屋敷を飛び出し、とある男の下へ向かいます。



宿屋 銀字塔(ぎんじとう)の前に目的の男はおりました。赤らんだ顔が、酒に酔っていることを物語っております。そういえば、今日は銀字塔で美雪さん達のダンジョン攻略の祝賀会が開かれてるんでしたね。

彼は、酔い覚ましのために外の風を受けていたのでしょう。用事がある私にとっては、好都合です。


「ダース!!」


私の呼びかけに、ダースは赤い顔でにへらと笑顔を浮かべます。


「お、メイコじゃねぇか!お前もちょっと顔出せよ!今、酔っぱらった美雪が面白いことになってるから、絶対に見といた方が良いぞ!!」


酔っぱらって浮かれているダースの言葉を無視し、私はここに来た目的を果たします。


「ダース!!明日の早朝、坊ちゃまの屋敷に来なさい!!良いわね!!」


「え?明日の早朝、坊ちゃまの屋敷?いきなり、何だよ…?って、要件だけ言って、走り去っちまうのかよ!?おい、メイコー!!」


ダース如きにこれ以上時間を割いてる暇はございません。伝えたいことを伝えた私は、屋敷に向かって全力で引き返します。


「なんだ、あいつ?」


背後からダースの疑問に満ちあふれた言葉が聞こえてきますが、私は振り返らず全力疾走を続けます。ダースには明日、諸々をお伝えしますので、今はお許しください。


程なくして、私は屋敷に着きました。時間が惜しい私は屋敷の扉を蹴破ります。


「うわぁ!?って、メイコ先輩っすか!いくら先輩でも扉は静かに開けた方が良いっすよー!って、もういない!?どうしたんすかね、あんなに慌てて…?」


驚く後輩メイドの呟きが聞こえてきますが、私は無視して自分の部屋に飛び込みます。

しっかりと部屋の鍵を閉めた私は、メイドの象徴と言っても過言でない、頭のカチューシャを外します。着ていたメイド服も脱ぎ去り、いかにも町娘といった服装に着替えます。

鏡で自分の今の姿を確認した後、私は机の上に置かれた紙とペンを手に取ります。


一通の置手紙を書き残した私は、その手紙を机の上にそっと置きます。ふぅと一息吐いたところで、机の上に置かれた写真立てが目に入ります。


「メイド長、申し訳ございません。私は本日でメイドを辞めさせていただきます。」


写真立ての中で変わらぬ優しい笑顔を浮かべる、今は亡きメイド長に私は謝罪の言葉を告げ、背中を向けます。準備も完了し、部屋を飛び出そうとしたところで、私は何かを踏んでしまったことに気付きます。足元を確認すると、そこにはメイド服が脱ぎ捨てられておりました。


「これは、失礼いたしました。」


脱ぎ捨てられたメイド服をしっかりと折り畳み、机の上の置手紙の隣に、そっと置きます。


「私にとっての戦闘服も、今日でお別れですね。今日まで一緒に戦ってくれてありがとうございます。」


メイド服にお礼の言葉を告げた後、私は部屋の窓を開け、他の人達にバレないよう夜の闇に隠れながら、私はメイドという立場を捨て、長年勤めてきた屋敷を後にします。


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