ダンジョン攻略の祝勝会が開かれる
前回のあらすじ:ダンジョンを攻略した美雪は、次の目的地である王都挑戦への決意を固める。
ダンジョンを出たところで、シロ君は用事があるからと足早に戻ってしまったが、初めてのダンジョン攻略を無事に完遂し、喜びいっぱいで宿屋 銀字塔に帰還した愛と私、ついでのユウジは、大勢の歓声で迎えられた。どうやら、私達がダンジョンを攻略したという話は、すでに冒険者情報網によって、みんなに知れ渡っているようだ。
周囲の冒険者に導かれるまま、銀字塔の食事スペースへと案内され、あれよあれよという間に、宴の席が設けられていく。驚いて固まる私達とは裏腹に、様々な美味しそうな料理が目の前に並ぶ。
「冒険者が偉業を達成したら、他の冒険者に振る舞うものよ!祝勝会ってやつ!」
宿屋の看板娘の姉の方、元気いっぱい笑顔が特徴のナチュラさんが、困惑いっぱいな私の片手にオレンジ色の何かが注がれた木の杯を握らせる。
「え?私、そんなにお金持ってないですよ…?」
「だいじょーぶ!!坊ちゃまのメイドさんから代金はもらってるから、今日はいっぱい楽しんでね!残念ながら、坊ちゃまは用事ありって帰っちゃったみたいだけどねー!」
財布事情を心配する私に、ナチュラさんが笑顔で状況を説明してくれる。あ、それなら良かった!メイコさん、ありがとう!と思ったところで、手の中に握らされた木の杯を確認する。
「美雪さんはお酒は苦手って聞いてたから、銀字塔特性のアップラの実で作ったフルーツジュース!美味しいよ!」
親指を立てて、ばちこーん!とウィンクをするナチュラさん。
「すみません、ありがとうございます。」
私の感謝の言葉に、にこりと笑ったナチュラさんは、厨房の奥へと戻っていく。アップラの実は、味も見た目もリンゴによく似た木の実。そんなアップラの実で作られたフルーツジュースが並々注がれた木の杯を片手に、慌ただしく行われる準備の様子を見守る。
「ダンジョン攻略、お疲れ様!黒熊や巨大バッタの群れの討伐に引き続き、美雪さん達には驚かされることばかりだ!あっという間に差をつけられちまったな!先輩冒険者としては複雑な気持ちになるべきところだけど、美雪さん達ならシンプルに嬉しいよ!おめでとう!」
「ありがとうございます!ダースさん!」
ぼんやりと準備の様子を見ていた私に声をかけたのは、シロ君とメイドのメイコさんの冒険者仲間であるダースさん。ダースさんも私達のダンジョン攻略を祝福してくれている。
私がダンジョンの情報を伝える代わりに、ダースさんから王都の情報を聞き出していると、程なくして、宴の席が完成する。
「おっと、宴の準備が完了したみたいだな!それじゃ、俺はこの辺でー!みんな、今日の主役の一言をお待ちだから、最高の一言をよろしくな!」
ダースさんの言葉に周囲を見回すと、全員の視線が私に集中していた。
あ、これは私の乾杯の発声を待ってる。まだかまだかと待ち侘びる冒険者達を目の前に、私は覚悟を決め、片手に持った木製のカップを掲げる。
「えー、皆さん!!本日、私達はこのファストの町に出現したダンジョンを無事に攻略しました!その喜びを共有するために、この宴の場を開かせていただきました!祝勝会ってやつです!この町のダンジョンでの経験をバネに、私達は明日から王都を目指します!!」
私の王都挑戦の宣言に対し、冒険者から歓声が上がる。
がんばれー、お前らならやれるー、といった応援の声に、胸が熱くなるのを感じる。笑顔の冒険者たちへ、私は乾杯の音頭を続ける。
「目の前に、美味しい料理とお酒があるのに、長い挨拶をしてもなんだかなーって感じですよね!挨拶は短めに締めさせてもらいます!皆さん、準備は良いですかー?カンパーイ!!」
「「「カンパーイ!!!」」」
私の言葉に、周囲の冒険者は杯を掲げながら、歓喜の声を上げる。
その周囲の冒険者の歓声と、差し出してくる杯に応えながら、手元のフルーツジュースをぐいっと一口飲み、口の中に広がるリンゴに似たアップラの実の風味を楽しむ。そのまま、目の前の料理に箸をつけようとしたところで、私は大事なことを思い出す。再び立ち上がり、声を張り上げる。
「ご歓談中に失礼しまーす!!祝勝会の前に、一つ報告です!本日は残念ながら、ダンジョン攻略の立役者の一人であるシロ君…、違った…、ホワイト様は、私用でこの場にいません!領主の息子だから色々と忙しいのでしょう!仕方ありません!でも、ホワイト様は、本日のこの宴を開催するために、多大なるご厚志を置いていってくれました!ホワイト様には届かないと思いますが、感謝の気持ちを込めて拍手をしましょう!拍手ー!!」
「「「ホワイト様ー!!ありがとうございまーす!!!ゴチになりまーす!!!」」」
私の言葉に、すでに少し酔い始めた冒険者達は、両手を上げて拍手をする。慣れない乾杯の発声に、頬が高揚するのを感じる。
乾杯の音頭をやりきり、ほっと一息つきながらパタパタと顔を扇いでいた私は、あっという間に数人の冒険者に囲まれる。
「美雪さん!ダンジョンの特徴を教えてください!!」
「どんなモンスターがいましたか!?注意すべき点はありますか!?」
「ボスモンスターは!?なかなか教えられない情報かと思いますが、せめて中ボスモンスターだけでも、教えてください!!」
突然の冒険者からの大量の質問に戸惑いながら周囲を見回すと、愛とユウジも私と同じく多くの冒険者に取り囲まれていた。
「ダンジョン攻略のコツ~?そんなの剛を極めるに決まってるじゃん!!剛を極めれば、モンスターなんてワンパン、ワンキックだよー!!」
「ワンパン、ワンキックっすか!?すごいっす!!愛さん!!」
愛は筋肉自慢の冒険者たちの中でドヤ顔を浮かべ、自分の剛がいかにすごかったかを得意げに語っている。いつの間にか、この町の筋肉自慢の冒険者たちは愛の舎弟になっていた。
喜び浮かれる愛を横目に、とある男の様子を確認する。
「い、いや~!!俺は全力で美雪さんをサポートしただけです!!俺の活躍なんて大したことなかったんです!!だから、少し離れてもらって良いですか…?その、む、胸が…!!」
「え~、前はあんなに私達に積極的にアプローチしてきたのに、急によそよそしくするなんて、ひどいじゃな~い!で・も、体は正直ね!離れてと言っても、ユウジ自身は動こうとしないじゃな~い!」
ユウジは肉感的な若い女性冒険者にチヤホヤされて、デレデレとしている。さすが、ナンパ野郎のユウジ。
二人のいつもと変わらぬ様子に安心感を覚えながら、目の前の冒険者たちに宣言する。
「よし!みんなの質問に答える!!よく聞くんだぞ!!」
私の声に、周囲の冒険者たちから歓喜の声が上がる。
「ダンジョン攻略だけじゃなく、他のことにも言えることだけど、最も重要なのは情報!!情報を制するものは、ダンジョンを制すと言っても過言じゃない!!と、私は思う!!だから、あなたたちがダンジョンの情報を、私達から引き出そうとするのは、とても好ましいことです!!そんなあなたたちに、私は惜しみなく、情報を提供しましょう!大盤振る舞いです!!」
私の言葉に、周囲にいた冒険者の熱が上がるのを感じる。大きな歓声に応えるように、ダンジョンについて語ろうとした私は、声を張り上げようとしたところで、周囲がシンと静まっていることに気付く。冒険者は、私の一言一句を聞き逃さないように、集中しているようだ。私はそれにも気分を良くする。学ぼうとする姿勢は好ましい!
「まず、先ほどの三人の質問から答えます!!ダンジョンの特徴ですが、とにかくトラップが多いです!かかっても問題ないものもありますが、基本的に危険です!睡眠ガスや、火が噴き出すトラップ、毒沼トラップは命を奪いかねない、危険なトラップです!!下の階に突き落とす落とし穴トラップなんか、私は危うく死にそうになりましたからね!!今思い出しても、腹立たしい!!」
周囲の冒険者は、真剣にうんうんと頷きながら、私の話すダンジョン情報をメモしている。向上心が感じられる冒険者の様子に、私はさらに気分が良くなる。立て続けに話すことによる喉の渇きを、手元のフルーツジュースで潤わせながら、私は次の質問に答える。
「次の質問は、どんなモンスターがいたか、注意すべき点は何か…だったわね!モンスターは、適正討伐レベル10から25ってとこ!でも、たまにベルセルクタイガーとか、強力なモンスターも現れるから注意ね!!あと、中ボスモンスター攻略後の終盤階層は、モンスターの強さが跳ね上がるから要注意!厄介な攻撃を仕掛けてくるってわけではないけど、シンプルな強さで確実に削られる!ボスモンスター挑戦の前に、ポーションを多く使うことになるから、準備不足を感じたら引き返すべきね!!」
「ねぇ、美雪ってあんなに人前で喋るキャラだったっけ?なんか、違和感感じる。」
「確かに…。普段の美雪さんより饒舌というか、テンションが高いというか、違和感があるな。心なしか顔も赤いし…。」
愛とユウジが疑問に満ちた表情で私を見つめているが、話し始めた私はそれにすら気分が良くなってくる。ぐいっとフルーツジュースを飲み干しながら、私は続きを話し始める。
「あとは、ボスモンスターと中ボスモンスターの話だったわね!ボスモンスターは、大悪魔グラットンを名乗る強敵よ!!物理攻撃と魔法攻撃を無力化する強敵だけど、諦めないで!!魔法攻撃を吸収するごとに、体を膨らませるから!根気強く魔法攻撃を吸収させると、最終的には耐えきらずに爆発するわ!中ボスモンスターは、コボルドキャッスルと呼ばれる、砦を築いたコボルドの群れよ!!数の暴力だけど、冷静に敵の攻撃手段を潰していけば、恐れるに足らずよ!!みんなも、しっかり準備して、ダンジョンに挑戦してねー!!私との約束だよー!!ばちこーん!」
手で拳銃の形を作り、ウィンクをする私に対して愛とユウジが絶叫する。
「「やっぱり、おかしい!!」」
愛とユウジは慌て、周囲の冒険者は片手を上げて歓声を上げる。その歓声に、うんうんと満足気に頷きながら、私は手元の木の杯を口元に持っていく。ん?空じゃないか?私のフルーツジュースが無いぞー?
「美雪ちゃーん!!ごめんなさーい!!美雪ちゃんのフルーツジュースかと思ったら、お父さんが間違えてフルーツサワーにしちゃったって!!美雪さんはお酒が苦手なのに~…、って、顔真っ赤じゃーん!!大丈夫!?」
「「お酒のせいか!!」」
慌てるナチュラさんに、愛とユウジが驚きながらも、納得といった表情を浮かべる。冒険者の合間を縫って私に迫る三人。そんな三人に応えなくてはいけないね!私はとびっきりの笑顔で三人に応える。
「大丈夫であります!それよりも、私はお替りを要求するであります!そのフルーツサワーとやらを、私は、もう一杯、いや、二杯要求するで、ありまーす!!」
びしっと敬礼をする私に、ナチュラさんは困った表情を浮かべながらも、うんうんと頷く。
「その様子なら大丈夫だね!お父さーん!!フルーツサワーふたつー!!」
「この様子で大丈夫!?あなたの目は節穴ですか、ナチュラさん!?お酒より、氷水をくださーい!!」
驚いた表情でナチュラさんの下へと駆け出すユウジ。ナチュラさんへ再ナンパに行ったに違いない。そういえば、ユウジは銀字塔を出禁になってたんじゃなかったっけ?なんで、ここにいるの?
首を傾げる私の前に、緊迫した表情の愛が現れる。どうした、愛!?
「美雪、これ以上のお酒はダメだ!なんだか美雪のキャラが壊れてく!!」
「そうだね、お酒はいけないね。愛は飲んじゃダメだよ。それよりも、愛。こっちにおいで!」
疑問に満ちた表情ながらも、私の手招きに素直に応じる愛。手が届くまでの距離まで近付いた愛の手を取り、私は胸の中へと愛を抱き寄せる。ぎゅうっと愛を抱きしめ、愛の耳元へと囁く。
「愛、いつもありがとう。今回のダンジョン攻略だけじゃなく、始まりの草原や洞窟竜の巣で、愛にはいっぱい助けられたね。黒熊に追いかけられてるとこを助けるって不思議な出会い方だったけど、異世界で独りぼっちだった私はずいぶんと愛から力をもらった。愛の剛のおかげで、私も少しだけ力強くなれたかな?それだと、私は嬉しいな!こんな時にしか言えないから、今日はいっぱい感謝の言葉を言わせて。本当にありがとう、愛。」
「美雪ー!!なんだか今日の美雪は甘々だー!!わーい!!」
私の言葉に、愛もぎゅうっと抱きしめてくる。普段の力強さと違う、優しい抱擁。
周囲の冒険者が、良いぞー、やれやれー!と囃し立ててくる。武骨な歓声を無視し、愛のさらさらの髪を撫でながら、私は何度も愛に感謝の言葉を告げる。
程なくして、氷水を持ったユウジが現れる。
「おい、どうしたこの状況?なんで愛は美雪の膝枕で幸せそうに寝てるんだ?」
氷水を持ったユウジは、目の前の光景に驚きの表情を浮かべる。
「愛は、ダンジョンの疲れと、私の抱擁による暖かさで急に眠くなったみたーい!幸せそうな笑顔を浮かべながら眠りについたよ!可愛いでしょー?普段はあんなに活発なのに、眠る姿はまるで猫みたいー!」
体を丸くして、私の右膝の上で眠る愛の頭を撫でながら、なんとも言えない表情のユウジを観察する。愛に感謝の言葉を伝えたことだし、ユウジにも感謝の言葉を告げることにする。今日は大感謝セール!大盤振る舞いだ!
「ユウジ。お前は最初、クソナンパ野郎って感じで目の前に現れたけど、この数日でお前はナンパ野郎に昇格したぞ!とりあえず、悪い奴ではないな!みょーに、私達パーティに仲間入りをしようとしてる感じが気になるが…、今のところは害が無いからオッケー!これからも、私の盾として、精いっぱい精進すると良い!あははははー!!」
突然の私の言葉に、ユウジはポカンと氷水を持ったまま立ち尽くす。そんなユウジに、私はちょいちょいと手招きをする。
「ユウジ、美雪さんの膝、まだ左が空いてますよ。ユウジもダンジョン攻略でお疲れだろ?ユウジも私の膝枕で眠る権利を許可するぞ!ほれ、こっち来い!」
「へ…?」
驚いた表情を浮かべるユウジ。え、本当に良いの?って表情を浮かべながら恐る恐る近づいてくるユウジ。そんなユウジの表情が面白可笑しくなり、私は思わず吹き出してしまう。
「うっそー!!嘘だよー!!残念だったな、ユウジ!!美雪さんの膝枕はそんなに安くないよー!!あははははー!!」
「酔っ払いー!!」
顔を真っ赤にしたユウジが、怒りながらも、どこか安心したかのような表情で、私のことを酔っ払いと称する。酔っ払い?私が?
「あははははー!!この私が、酔っ払いー?何を言ってるんだー、ユウジー!!全然酔っ払ってないよー!って、ユウジなんで三人もいるんだー?ジェットストリームナンパ?あははははー!!って、ありゃりゃー?世界が揺れているよー?ステータス異常攻撃だー!!警戒しろー!!あははははー!!ぐぅ…。」
「酔っぱらった勢いそのままに、眠りについたー!?」
ユウジの叫びが私の耳に届くことなく、私は深い眠りへと導かれる。ダンジョン挑戦の疲れもあったのだろう。薄れていく意識の中、私の旨の中には一つの思いで満たされる。
なんだか、今日は楽しいな。




