初めてのダンジョン挑戦!⑥
前回のあらすじ:怒涛の勢いでダンジョン攻略を進める美雪達。ついに最終階層のボスモンスターの待つ部屋に到着したが、そこで待っていたのは物理攻撃も魔法攻撃も無力化する大悪魔グラットンであった。
「ご馳走様。」
シロ君の地属性魔法ストーンランスまで無効化した、このダンジョンの主である大悪魔グラットンの声が部屋中に響く。物理攻撃も魔法攻撃も通じない強敵を目の前に、私たちはなすすべなく立ち尽くすことしか出来なかった。
しかし、敵は待ってくれない。大悪魔グラットンは両手に火球と冷気の塊を生み出す。立ち尽くす仲間へ喝を入れるため、私は声を張り上げる。
「まだ呆けるのは早い!!風属性と土属性が無効化されたなら、残りの属性を試してみればよいだけ!!ユウジは水属性!!私は火属性と氷属性の攻撃を放つ!!愛とシロ君はサポートをお願い!!」
マグカから取り出したMP回復ポーションをぐいっと呷り、呆ける仲間達へ大声を張り上げる。私の大声に、一瞬仲間たちは驚いた表情を浮かべたが、すぐにみんなの目に火が灯るのを感じる。
「分かった!!色々とやってみなきゃだよね!ひとまず冷気の塊は、これで防ぐよー!!」
大悪魔グラットンの放った冷気の塊に、愛はマグカから取り出したトレーニング用の大岩を投げる。愛の投げた大岩は冷気の塊によって、あっという間に凍り付く。しかし、その愛の機転のおかげでユウジに迫っていた冷気の塊はなんとか防ぐことが出来た。
「火球は僕が防ぎます!!ストーンウォール!!」
私に迫る火球の前に、シロ君の地属性魔法ストーンウォールによって発生した岩の壁がそびえ立つ。迫りくる火球は、岩壁によって爆発霧散する。
その岩壁に隠れ、私は自身の放てる最大威力の大魔法、炎氷双嵐を放つための魔法詠唱を開始する。
「水の精霊よ、俺の呼び声に応じて水の塊を圧縮し、敵へぶちかましやがれ!!ウォーターブラスト!!」
先に魔法が完成したのはユウジの水魔法。
ユウジの放った水の塊が大悪魔グラットンへ迫る。しかし、大悪魔グラットンは少しも怯むことなく、先ほどと同様に、口をパクパクとさせる。
徐々に勢いを失っていく水球を横目に、シロ君が大声を上げる。
「愛さん!!口をパクパクさせてる間は、物理攻撃を無効化できないかもしれません!!」
「確かに!!シロ君ナイス!!くらえっ!!鬼火流剛術 壱の型 牡丹!!」
ユウジの放った水属性魔法ウォーターブラストに負けず、驚くべき速さで、大悪魔グラットンの目の前に迫った愛は、口をパクパクさせる大悪魔グラットンの腹に、豪快な正拳突きを放つ。
正拳突きを受けた大悪魔グラットンの腹がぐにょーんと伸びるが、表情を変えることなく、口パクパクを続ける。そんな大悪魔グラットンに、すっかり勢いを失ってしまい大きな水の塊となったユウジの水魔法ウォーターブラストが当たる。
ぱしゃっと虚しい音と共に、大悪魔グラットンに当たった水の塊は、少しもダメージを与えることず空気中に霧散する。やはり水属性魔法でもダメージを与えることが出来なかった。
魔法を吸収している間ならと放たれた愛の正拳突きも、大悪魔グラットンの表情から、少しもダメージを与えることが出来なかったことが察せられる。
やはり、地水火風の基本属性魔法では大悪魔グラットンにダメージを与えることができない。
しかし、絶望するのはまだ早い。私には、基本属性以外の温度操作魔法で生み出した氷属性魔法がある。シロ君の地属性魔法ストーンウォールに守られながらも詠唱を続け、ついに完成した大魔法を大悪魔グラットンに向けて放つ。
「愛さん、ユウジさん!!美雪さんの魔法詠唱が完了しました!!距離を取ってください!!」
「「分かった!!」」
私の練り上げる魔力を感じ取ったシロ君が、愛とユウジへ声をかける。何が起きるんだと楽しそうな表情を浮かべる観戦者のトウカさんとフィーネさんを横目に、全員が距離を取ったことを確認した私は、にやりと笑う大悪魔グラットンに向けて、最大威力の大魔法を放つ。
「炎氷双嵐!!」
魔法名の宣言により、体から大きく力が抜けていくのを感じる。MP回復ポーションを使ってMPを満タンにしていても、私のMPの大半を使って発動する炎と氷の大魔法、炎氷双嵐。
しかし、使用したMPに恥じない高威力の大魔法が目の前で発動する。猛烈な熱をはらんだ大きな赤い嵐と、凍えるような寒気を持った大きな青い嵐が、凄まじい風切り音と共に目の前に現れる。吹き荒れる猛烈な風の一端を頬で感じながら、赤と青の二つの大嵐が口をパクパクさせる大悪魔グラットンに迫るのを見守る。
この大魔法で大悪魔グラットンを仕留められなかったら…。私の脳裏に、そんな不安が押し寄せてくるが、今は祈ることしか出来ない。
口パクパクによって少々勢いが落ちるが、猛烈な熱風の嵐と凍て付く冷風の嵐が、同時に大悪魔グラットンに炸裂する。始まりの草原でジャイアントグラスホッパーの群れを蹂躙した二つの嵐は、一人の大悪魔に向けてその力を余すことなく炸裂させる。
「ご馳走様。」
炎氷双嵐の余波によって強い風が吹き荒れる中、大悪魔グラットンの無情な声が私達の耳に届く。
この部屋に入った時の痩せ細った姿とは打って変わり、私の大魔法を吸収し尽くした大悪魔グラットンは、筋骨隆々な大男へと変わっていた。
老人のようだった姿は、ボディビルダーのように筋骨隆々な姿へと変わり、膨れ上がる筋肉を誇示しながら、大悪魔グラットンはにやりと笑う。
「貴様らの魔力のおかげで、我は元の大悪魔たる姿を取り戻すことが出来た。感謝する。この恩は、貴様らに安らかな死を贈ることによって、返させていただくとしよう!!」
頼みの綱である大魔法さえも吸収され、途方に暮れる私に向かって、大悪魔グラットンは大声で笑う。その手には、火球と冷気の塊が生み出されている。
「美雪さん!!大悪魔グラットンが攻撃に移ります!!」
「次の手は何か無いっすか!!美雪さん!!」
シロ君とユウジが、期待に満ち溢れる視線で私に向かって振り返る。
「近接攻撃もダメ、魔法攻撃もダメ、全ての攻撃を無力化する大悪魔グラットン…。どうやったら倒せるっていうのよ…。はははは…。」
シロ君とユウジの期待に、私は乾いた笑いで応えることしか出来なかった。
大悪魔グラットンに対して有効な攻撃手段が見つからない私は、弱音を呟くことしか出来なかった。火球と冷気の塊を生み出し、更なる攻撃を繰り出そうとする大悪魔グラットンを目の前に、私の心には諦めに似た悲壮感が襲い掛かっていた。
この世界に来てからのことが走馬灯のように思い返される。
何の苦労も無しに過ごした一か月間。
異世界転生してから今まで、全てがうまくいきすぎていたのだ。
異世界からの転生者ってだけで、他の人より少し強力な力を持っただけの、戦闘とは縁も縁も無い一人の女性が多くの武勲を上げてきた。
ノアが言っていた転生者特典で俺つえーってやつ。私は無意識にその恩恵に甘えていたのだろう。そうでなければ、只の女性が異世界で活躍をすることなんか出来ない。
つまり、私が異世界で活躍出来たのは、運が良かっただけ。
ファストの町の住人が、英雄を見るかのような羨望の眼差しを私へ向けるから、少し調子に乗っていたのかもしれない。強力な物理攻撃を持つ愛と、珍しい魔法を持つ私ならダンジョンも余裕に攻略することが出来ると錯覚していたのかもしれない。
トウカさんとフィーネさんによる早朝トレーニングで、そんな自尊心は打ち砕かれたと思っていた。でも、中ボスであるコボルドキャッスルを蹂躙したことにより、その自尊心は戻ってきてしまった。トウカさんとフィーネさんが異常な強さを持っているだけ、私達の実力はダンジョンにも余裕で通用する、私達は強いと錯覚してしまった。
その結果が、目の前の大悪魔に手も足も出ない現状だ。どこかでダンジョンを甘く見ていたのかもしれない。いや、ダンジョンだけじゃなく、異世界を甘く見ていたのかもしれない。
シロ君とのダンジョン事前学習で、ダンジョン攻略は無理のない攻略を続け、徐々に挑戦可能階層を増やしていき、最終的にボスモンスターの討伐を達成することが出来ると聞いた。それなのに、私は一回でのダンジョン攻略に固執してしまった。
コボルドキャッスルを攻略した後の八階層と九階層のモンスターは、私達の実力では討伐がギリギリなモンスター達ばかりだった。HP回復ポーション、MP回復ポーションを多く使用して、なんとか攻略することが出来た。本来ならそこで実力不足を理由に引き返し、ゆっくりと実力をつけるべきだった。冷静に私達の実力を分析し、時間がかかっても最適な手段を取るべきだった。
ノアに聞いた話ではあるが、魔王軍の侵攻が深刻化するまで、まだ三年の月日が必要となる。余裕があるとは言えない納期だが、無理に焦る必要はなかったのだ。魔王攻略の工程を設定するため、この世界での実力を身につけるために必須なダンジョン攻略を優先したが、本来なら半分の階層で目的は達成することが出来ただろう。
トウカさんとフィーネさんに救われたが、私は六階層で命を失うほどの危険に陥ったのだ。そこで、引き返すべきだった。危機に陥ったのが、自分の命だったから、なんとかなると錯覚していたのかもしれない。自分の実力不足を棚に上げて、楽観的な思考でダンジョン攻略を強行進軍しまっていた。
その結果が目の前の危険な状況だ。
今さら悔いても仕方がない、なんとか対応しなければと頭が警報を上げるが、気持ちとは別に体が諦めてしまっている。目の前には今にも燃え盛る火球と、凍てつく冷気の塊を生み出した大悪魔グラットンが、にやりと笑みを浮かべている。
物理攻撃も魔法攻撃も無力化する強敵、大悪魔グラットン。
後悔と焦燥の念が入り混じり、様々な感情がぐるぐると渦巻く中、私は倒すべき強敵を目の前に、歯を嚙み締めることしか出来なかった。
そんな私の頬に、乾いた音と共に小さな痛みが走る。何が起きたのだろうと、ぼんやりした頭のまま目の前を確認すると、そこには、右手を振り抜いた愛が立ち尽くしていた。
「美雪!!諦めちゃダメだよ!!美雪なら、どんな強敵を目の前にしても、凶悪な目つきをにやつけながら、有効打を思いつくことが出来るでしょ!!敵のにやりに負けず、美雪もにやりと凶悪に笑って、私達があっと驚く戦法で大悪魔グラットンを蹴散らしてよ!!」
愛は私の頬を叩いただけでなく、両肩を掴んで前後に揺さぶる。愛の言葉と行動に、少しずつ私は意識が覚醒していく。
愛の手を震える片手で止めながら、なんとか言葉を振り絞る。
「あー、うん。ごめん、愛。だから、そんな力強く揺さぶらないで。私、三半規管が弱いから気持ち悪くなっちゃう。」
前後運動が止まったことで、目の前の愛の表情を確認する。ぎゅっと口を結んだ愛の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。
私よりも小さい女の子を不安にさせちゃうなんて…。心は大人だと思ってたけど、私もまだまだね。
「不安にさせてごめん。なに勝手に諦めてるのって感じだよね。オッケー!気持ち入れ替わった!反撃に移るよ!!」
不安げな視線を送る愛の頭をポンポンと叩きながら、目の前の大悪魔を睨みつける。私の睨みに応えるように、大悪魔グラットンが火球と冷気の塊を投げ放つ。
「風の精霊よ、吹き荒れる風を圧縮して爆発させろ!!突風爆発!!ウィンドバーン!!」
私達に迫っていた火球と冷気の塊は、風属性魔法と爆発魔法の合体魔法ウィンドバーンで対抗する。ウィンドバーンによって、目の前で発生した大爆発と暴力的な風が吹き荒ぶことにより、火球と冷気の塊は吹き消される。
吹き荒ぶ風に髪をなびかせながら、私は大悪魔グラットンを指差し、力強く宣言する。
「おいこら、大悪魔グラットン!!愛とユウジの物理攻撃、シロ君と私の魔法攻撃を無効化したくらいで勝った気でいるんじゃねぇぞ!!私だって、お前の攻撃を無効化できてるんだ!!つまり、おあいこ!!スタートラインに並んだのと同じ!!これから、お前の弱点を暴いてやる!!覚悟するんだな!!手始めに、爆発魔法バースト!!」
爆発魔法の初級魔法バーストも大悪魔グラットンのパクパクに無効化される。爆発魔法もダメかなんて落ち込んでるわけにはいかない。これ以上、愛を不安にさせないためにも、私は次の攻撃に移る。
「神槍投擲!!」
大悪魔グラットンのパクパクしている口の中目掛け、黒狼の槍を投げ放つ。魔法吸収に専念している口になら攻撃が通用するのではと思ったが、そんなことはなかった。
私の神槍投擲は無効化されるどころか、投げ放った黒狼の槍は大悪魔グラットンの口の中に吸収されてしまった。
「私の黒狼の槍!!て…、てめぇ、その槍は結構価値のあるもんなんだぞ…!!許さない!!絶対に倒してやる!!」
もはや逆恨みと化した私の力強い討伐宣言に、大悪魔グラットンは不敵ににやりと笑う。そんな不敵さに負けないくらい、力強い声が私の耳に届く。
「美雪さんの言う通り、僕たちの攻撃は大悪魔グラットンに通用していないですが、どこかに必ず弱点があるはずです!焦らずに探っていきましょう!」
「あぁ、そうだ。ただ俺たちの攻撃がまだ届いてないだけ!!何度も何度も繰り返せば、そのうち奴にダメージを与えることが出来る!!諦めずに敵の弱点を探るぞ!!」
「ユウジの癖に良いこと言うじゃねぇか!美雪!!これから、いろんな攻撃を試すから、冷静な分析をよろしくねー!!」
仲間たちの表情は、まだまだ諦めないという不屈の気持ちに満ち溢れていた。
強敵を目の前に諦めかけてしまった少し前の私を恥じらいながら、力強く仲間達の言葉へ頷きながら、力強く叫ぶ。
「物理攻撃と魔法攻撃を無効化するのには何か裏があるはず!!奴の弱点を探っていきましょう!!」
私の言葉に、愛とシロ君、ユウジが順に力強く頷く。仲間たちに感謝しながら、私は指示を続ける。
「ユウジは火球と冷気の塊を防ぐことに集中!!愛は合間合間で物理攻撃が本当に効かないか検証!!シロ君は支援魔法で二人のサポート!!私は魔法攻撃で弱点を探る!!効果は少ないかもだけど、少しでも何か異変を感じたら報告!!ポーションでの回復を優先に、少しずつ攻めていきましょう!!」
「「「了解!!!」」」
私の作戦に、各々の武器を力強く握りしめ、三人が力強く頷く。
決意を新たに大悪魔グラットンに向かう私達。そんな私達の様子を、ダンジョン入り口からトウカさんとフィーネさんは観察を続ける。
「あの大悪魔グラットンの口の動き…。それに物理攻撃無効と魔法吸収。大食デビルの進化系ってとこかな?」
「えぇ、そうですね。私のスキル鑑定で確認しましたが、大悪魔グラットンは大食デビルのボス固有進化種で間違いありません。適正討伐レベルは32程度でしょうか。」
魔法攻撃を口パクパクで無効化する大悪魔グラットンを遠くから観察しながら、トウカさんはため息を吐く。
「大食テビルの進化種がボスモンスターとは、このダンジョンは意地悪いな…。」
「適正討伐レベル32なら、美雪さん達でも倒せるレベルですが…、大食デビルは対応の仕方を知らないと強敵ですからね。このダンジョンの道中には、大食デビルが現れませんから、事前に対応の仕方を知ることも出来ません。美雪さん達には尚更倒すのに苦労するボスモンスターです。」
大悪魔グラットンと苦戦する美雪達を観察しながら、ダンジョン調査員の二人は冷静に感想を述べる。
「まぁ、私なら銀琴をかき鳴らしてれば倒せる相手だから、余裕のボスモンスターだな。」
「私なら物理攻撃無効を無効して切り裂けるから、余裕のボスモンスターですね。」
トウカさんとフィーネさんが、私達の苦戦を無に帰すようなことを告げる。必死に大悪魔グラットンと戦っている私達は、二人の言葉に気付くこともなく戦闘を続ける。
大悪魔グラットンの繰り出す火球と冷気の塊に、体の傷を少しずつ増やしながらも、有効な攻撃が無いか探りを入れるため、技を変え、武器を変え、様々な攻撃を行う。
長い時間、攻撃を無効化されてきた愛が、不満だらけといった表情で私の隣に並び立つ。
「うーん、美雪ー。あいつ私達の物理攻撃はぐにょーんと無効化するし、魔法攻撃はパクパクで無効化しちゃうよー。どうしたらダメージを与えられそうか、そろそろ良い案思いつかない?」
「うーん、まだ案ってほどじゃないけど…。なんとなく違和感がひとつ。」
「お!違和感!なにそれなにそれ!」
私の言葉に、愛の表情が見るからに明るいものに変わる。
大悪魔グラットンの攻撃を必死に避けながら、隙を探すように私達は攻撃を続けてきた。その中で看過できない違和感が私達の目の前で起こっていた。
「でゅるふふふ!美雪殿、愛殿~!!何度やっても無駄でぶよ!拙者は物理攻撃無効であり、魔法攻撃も吸収しちゃうでぶからね!でゅるふふふ!」
ボスモンスターの部屋の中に、物理攻撃と魔法攻撃を無効化する大悪魔グラットンの笑い声が響く。そんな大悪魔グラットンを睨みつけながら、私は違和感の正体を呟く。
「いや、大悪魔グラットン…、太ってるよね…?」
「太ってる…?いやいや、いくら悪魔でもそんな簡単に太ったりしないよ…、って、本当だー!!めっちゃ太ってるー!!」
最初は痩せ細った老人だった大悪魔グラットンは、私の大魔法炎氷双嵐を吸収し、筋骨隆々なボディビルダーに変わった。
そんな大悪魔グラットンだが、弱点を探るために度重なる魔法攻撃を吸収したためか、ぽっこりお腹のたぷたぷ三段腹に変わっていた。なんだか全体的にムチムチしている。
「でゅるふふふ!そんなに拙者を熱視線で見られると、照れちゃうでござる!!どうやら、美雪殿も拙者の魅力に気づいちゃったでぶねー!!拙者、罪づくりでござる!!でゅるふふふ!」
この部屋を訪れた時の大悪魔の威厳に満ちた言葉遣いも、現在は残念なものに変わっていた。そんな大悪魔を睨みながら、シロ君とユウジを確認すると、二人の表情は驚きに満ち溢れていた。
「美雪さんの言う通りですね…!!大悪魔グラットンの体つきが、いつの間にか大きく変わっています!!」
「さすが美雪さん!!戦闘中にも敵の小さな変化を見落とさないなんて…!!大悪魔グラットンが姿を変えたのは何か理由があるはず!!探っていくぞ!!」
え?あんなに分かりやすく太ってるのに、みんなは気付かなかったの?
大悪魔グラットンが太った理由の推察を、私は仲間たちに説明する。
「大悪魔グラットンは、私達の魔法攻撃を口パクパクして吸収した後に、少しずつ体系を豊かなものに変えていたわ!!つまり、大悪魔グラットンは口パクパクで魔法を無効化するのではなく、その体の中に魔力を溜め込んでいたの!!」
「「「な、なんだってー!?」」」
「そんなことないでぶー!!拙者が魔法を吸収する際に体が大きく膨らんでいくことと、拙者の弱点は関係ないでぶー!!まったく関係ないでぶー!!」
語るに落ちる、とはまさにこのこと。
今まで不敵に笑ってきたことへのお返しとばかりに、私も笑いながら大悪魔グラットンに語りかける。
「さぁ、大悪魔グラットンさん。お前は魔法を吸収する代償に、少しずつ体を大きくしていた。魔法をカロリーにでも変換してるのかな?」
私の言葉に、大悪魔グラットンは最初の余裕な態度からは考えられないほど、額に冷や汗を浮かばせながら取り乱す。
そんな大悪魔グラットンに、目論見は正しかったことを実感しながら私は言葉を続ける。
「さぁ、大悪魔グラットンさん。ここからは実験のお時間です!魔法を吸収して、体を膨らませるあなたですが、どこまで魔法を吸収することが出来るのでしょう?これから、私達はそれを検証するため、あなたにありったけの魔法攻撃を放っていきます。」
「そ、そんなことしてもMPの無理でぶよー!!拙者の口パクパクで魔法攻撃は無効化しちゃうでぶ!!だから無駄でぶ!!」
必死に首を左右に振りながら、釈明する大悪魔グラットン。私は構わず言葉を続ける。
「さぁ、大悪魔グラットンさん。あなたはどれだけ魔法攻撃を溜め込むことが出来るでしょう?たくさん蓄えた後にはどうなるのでしょう?その様子ですと、無限ってわけではないですよね?」
「無限でぶ!!だから、魔法攻撃は無駄でぶ!!やめるでぶ!!」
必死な表情の大悪魔グラットンに、私は優しく笑いかける。
生前働いていた会社の先輩に、一番怖いと言われた笑顔。その笑顔を大悪魔グラットンに向け、私はこれからの検証について説明する。
「さぁ、大悪魔グラットンさん。これから楽しい耐衝撃試験、いや、負荷試験かな?とにかく楽しい試験の始まりです!試験対象はあなた。負荷を加えるのは私達。」
恐怖の表情を浮かべる大悪魔グラットンに、ゆっくりと近寄りながら私は笑いかけ、言葉を続ける。
「あなたは、どこまで私達の魔法に耐えられるでしょうね?ふふふっ、あなたの申告通り、魔法を無限に蓄えられるなら余裕で耐えられるでしょう。もしかしたら、私達の方が先に力尽く可能性もありますよね?私達のMPも有限ですから!」
すこし希望の表情を浮かべた大悪魔グラットンに、私は笑いかけながらマグカを取り出す。
「まぁ、MP回復ポーションはまだまだいっぱいありますけど。」
大量のMP回復ポーションをマグカから取り出す私。そのポーションを仲間たちと分け合いながら、目の前の大悪魔グラットンに微笑む。
「ふふふっ、検証の準備が整いました。さぁ、シロ君、ユウジ、魔法攻撃で攻めてくよ!!」
「「りょ、りょーかい!!」」
なぜか頬を引きつらせ、恐怖の表情を浮かべるシロ君とユウジ。そんな二人を安心させるため、首を傾げながら笑顔を向けると、二人は早口で魔法の詠唱を始める。
「ストーンブラスト!!」
「アクアスプラッシュ!!」
普段はなんとなくいがみ合ってるシロ君とユウジが、声を合わせて魔法攻撃を放つ。シロ君は地属性魔法、ユウジは水属性魔法を大悪魔グラットンに向けて放つ。
大悪魔グラットンは口パクパクでそれに応えるが、なんとなく表情が苦しそうである。そんな大悪魔グラットンに笑いかけ、MP回復ポーションを飲みながら、私も爆発魔法の詠唱を始める。こうなると、もはや新しい魔法の実験と変わらない。
「どの属性の精霊に頼めば良いか分からない爆発魔法。どの精霊でも構わないから、我が魔力に応じて爆発魔法を発動させよ!!ハンドレッドバーン!!」
爆発魔法を取得した際、頭の中に呪文名が浮かんだ爆発魔法ハンドレッドバーン。
小さな爆発を何度も起こす爆発魔法に対して、大悪魔グラットンは口パクパクで無力化する。無効化するが、心なしか口パクパクの速度も落ちている気がする。
そんな大悪魔グラットンを気にかけるとこなく、私達は様々な属性の魔法攻撃をひたすらに繰り出した。その結果…。
「な、何度やっても…、む、無駄でぶふぅ。む、無駄でぶから、こ、これ以上の魔法攻撃はやめるでぶ…、ぶふぅ…。」
私達の魔法攻撃を何度も吸収し、風船のようにパンパンに膨らんだ大悪魔グラットン。
もはや自分の足で立つことができず、大きなお腹を上にし倒れている。何もしていないが、口をパクパクさせながら白目をむいている。短くなった手足をパタパタとさせながら、風船グラットンは吐き気をこらえるような表情でこちらを睨んでいる。
「さぁ、愛!!!!出番だよー!!こんなにパンパンだったら、物理攻撃も通るはず!遠慮なくやっちゃってー!!」
魔法攻撃ばかりで出る幕がなく、少ししょげていた愛に声をかける。
パンパンに膨らんだ風船なら針の一刺しでパーンだ。パンパンに膨らんだ今の大悪魔グラットンなら、少しの衝撃でパーンするだろう。最後の止めともいえるその攻撃を、愛に託すことにする。
「りょーかい!!それじゃ、私達を苦しめた腹いせだー!!咲かせて魅せよう!拳撃による花!!奥義!百花繚乱!!」
愛の拳が何度も大悪魔グラットンに突き刺さる。
パンパンに膨らんだ大悪魔グラットンは、必死に口元を両手で押さえながら、必死に愛の拳撃に耐えるが、何度も繰り出される拳撃に、やがて耐えきれなくなり、大きな破裂音と共に大悪魔グラットンは吹き飛ぶ。
大悪魔グラットンが溜め込んでいた魔力が爆発したせいか、強い風と共に大量の光の粒が周囲に巻き散らされる。その光景を見ながら、思わず言葉がこぼれる。
「はぁ、なんとか勝つことが出来た…。」
きらきらと光る光の粒が、勝利を収めた私達を祝福するかのように降り注ぐ。
まるで新雪が降りたつかのような光景。そんな幻想的な光景の中、私は戦いの緊張感から解き放たれたことにより、全身の力が抜け、思わずその場に座り込む。
周囲を見回すと愛とシロ君、ユウジも同じように緩み切った表情で降り注ぐ光の粒を眺めていた。
遠くから観察していたトウカさんとフィーネさんが、祝福を込めた拍手を贈ってくる中、私はダンジョンのボスモンスターへ勝利を収めたことを実感する。
こうして、私達は初めのダンジョン挑戦に対して、無事にボスモンスターを討伐する、言い換えると無事にダンジョンを攻略することが出来た。
魔王討伐という大きな目標に対しての小さな一歩目だが、その一歩目を踏み出せたことに安心感を感じる。小さくグッと拳を握りしめながら、勝利の余韻に浸る。




