初めてのダンジョン挑戦!⑤
前回のあらすじ:上級冒険者からの早朝トレーニングの後、ダンジョンの中ボスであるコボルドキャッスルを殲滅し、ボスモンスターの待つ十階層に到着した美雪達と愛。
十階層へと降り立った私達を待っていたのは、やけに豪華で堅牢な扉だった。
今までの階層では、ダンジョン内を明るく照らすヒカリダケのおかげでランプ等の灯りが不要だったが、この階層はヒカリダケが一本も生えておらず、扉の両脇に置かれた松明のみが不気味にボスが待つであろう部屋の入り口を不気味に照らしている。
「久しぶりにボスモンスターの部屋入り口の扉を見たけど、相変わらず無駄に豪華だな!さて、ここがこのダンジョン最後の階層であり、ボスモンスターが待つ部屋の前だ!扉に入るまではモンスターが現れないから、充分な準備をしてボスモンスターとの戦闘に臨むぞ!」
「私とトウカさんは戦闘には参加しません。あくまでも調査のために、美雪さん達がこのダンジョンのボスモンスターとどう戦うかを観察させていただきます。危ない時には助力をしますが、過度な期待はせずに自分達の実力だけで勝利を掴んでください!応援しています!」
ここまで私達のダンジョン攻略に同行していたトウカさんとフィーネさんが、私達のボスモンスターへの挑戦を応援してくれる。
二人の応援に応えるためにも、私達はボスモンスターの待つ部屋の前でボスモンスターとの戦闘準備を整える。
まずは装備品。
基本的にはダンジョンに入る時と変わらないが、右手の薬指にきらりと青く光る指輪が増えている。この指輪は、五階層の落とし穴トラップを発動する原因になった忌まわしき宝箱の中に眠っていた、魔力のステータスを高める青水晶の指輪だ。
魔法主体で戦うシロ君が装備することを提案したが、シロ君はサポートが主であるため、最大の魔法攻撃威力を持つ私が装備することになった。念のため、青水晶の指輪の性能を確認する。
名:青水晶の指輪
分類:アクセサリー
ランク:3
性能:魔力+20
重量:1
説明:魔力との親和性が高い青水晶を用いた指輪。装備者の魔力を高める。
現在の私の魔力のステータスは173。この指輪を装備するだけで、魔力のステータスが約一割増しだ。命を危険に晒してまで手に入れたアクセサリーだが、その労力に見合った性能だったため満足である。
さらに、ダンジョンのモンスターとの戦闘によって、私のレベルは19にまで上がった。やはり、レベル20の壁があったため、途中からレベルが上がらなくなったが、この扉の先に待つボスモンスターとの戦闘によってレベル20へと上がることが出来るだろう。矢の残り数を確認しながら、決意を新たにする。
同じくレベル20の壁に阻まれ、レベル19でレベルアップが止まってしまった愛も、体中の筋を伸ばすためか屈伸運動をしている。ボスモンスターを倒し、レベル20の壁を超えようと意気揚々といった様子だ。準備運動にも熱が入ってる。
そんな準備運動の中でも、アフロは縦横無尽に揺れ動く。いちいちシリアスな雰囲気を壊すアフロ。中ボスであるコボルドキャッスルもアフロのせいで、コメディ調に終わってしまったが、この扉の先で持つボスモンスターとの戦いはそうならないように願う。
その願いが通じたのか、満点の笑顔のフィーネさんが解決策を引っ提げて現れる。
「愛ちゃんのアフロですが、これなら治せるかもしれません!」
元気いっぱい動くアフロ愛に、きらきらと幻想的に虹色に光る液体が入った、丸いフラスコのような瓶を持ったフィーネさんが笑顔で話しかける。フィーネさんの提案に、愛の表情もぱぁっと明るくなる。
「え!?ポーションでもダメだったのに!?それなら、治せるの!?これ以上、美雪たちに笑われるのは耐えられないから、お願い!!治して!」
私達が笑っていたことを愛は気にしていたのね…。申し訳ない。後でちゃんと謝ろう。
私が心の中で愛に謝ってる中、フィーネさんは笑顔で言葉を続ける。
「これなら、愛ちゃんのアフロも治るはずです!そーれっ!」
瓶の中の虹色の液体を愛のアフロに振り掛けるフィーネさん。両手を広げたまま頭を下げ、笑顔で虹色の液体を頭で受け止める愛。
しっとりしたアフロは、この世の物とは思えない幻想的な虹色の光を放つ。しばらく眩い光に耐えきらず目を逸らしていたが、光が収まった時、ちりちりだった愛の髪は元のさらさらの髪に戻っていた。元のツヤを取り戻すどころか、以前より煌びやかな髪になっている。なんだか神々しさすら感じる。
「ん!?お!お!お!」
愛は元アフロだった髪を両手で撫で回す。せっかくさらさらになった髪が、ぐしゃぐしゃになるが愛は気にも留めない。その顔は徐々に笑顔へと変わり、喜びの表情へと変わる。
「おー!戻ったー!!もこもこしてない!!元通りだー!!ありがとう、フィーネ!!」
「ふふふっ、無事に治って良かったです!」
元気いっぱいにフィーネさんに抱きつく愛。フィーネさんは、少し困った顔を浮かべながらも、優しく愛の頭を撫でる。慈愛に満ちた笑顔を浮かべるフィーネさんに、私は感謝の言葉を伝える。
「愛の髪を治してくれてありがとうございます、フィーネさん。素晴らしい回復力の液体だったのですが、その虹色の液体は何ですか?後学のためにお教えいただけないでしょうか?」
愛の頭に振りかけたことで、ほぼ空になった瓶を左右に振りながら、フィーネさんは何の気なしに答える。
「これですか?エリクサーっていう、上級冒険者ならありふれた回復薬です!ポーションの上位版ってとこですね!」
「「エリクサー!?」」
へぇー、そんな回復薬があるんだー、アフロまで治せるなんてすごいなーと思っていた私に、トウカさんとユウジの驚き声が重なる。どうしたのだろう?エリクサーという単語を聞いて、二人の顔が引きつっている。
「フィーネさん、今使ったの、エリクサー?ホントニー?」
アクセントがおかしくなりながら、たどたどしく質問するユウジ。
「はい!エリクサーです!いっぱいあるので、気にしないでください!少し値が張る回復薬ですが、愛ちゃんのアフロが治ったのです!安い出費です!」
そんなユウジの質問に、満面の笑みで答えるフィーネさん。
「少し値が張るって…。エリクサーですよね…?」
「はい、エリクサーです!私はいっぱい所持しているので、本当に気にしないでください!」
引きつった表情のまま、フィーネさんに更なる質問を続けようとするユウジ。そんなユウジの質問は、トウカさんが肩に手を置いたことで止められる。ゆっくりと振り返るユウジに、優しい表情のトウカさんは首を左右に振る。
そんな達観した表情の二人を横目に、なんとなくエリクサーという回復薬が普通でないことを悟った私は、徐々になんだか申し訳ない気持ちになってくる。
「フィーネさん、貴重な回復薬を愛のために、ありがとうございます。エリクサーというものが、どのくらい価値があるものか分かりませんが、いつか必ず同じ物をお返しさせていただきます!」
「いえいえ、気にしないで構いませんよ!このエリクサーは、これからボスモンスターと戦う皆様への私からの贈り物として受け取ってください!」
「いえ、いつになるかは分かりませんが、必ず恩返しをさせていただきます!恩を受けたままってのは私の流儀に反しますので!!」
「本当に気にしなくて構いませんのですが…、短い付き合いでもなんとなく分かります。美雪さんの性格上、この申し出は断れませんよね。分かりました!それでは、私がピンチの時に美雪さんのエリクサーを振りかけてください!」
「分かりました!お任せください!」
エリクサーをいつかフィーネさんに返すと約束した私。
そんな約束をした私の背後で、トウカさんとユウジが引きつった笑みを浮かべているが、私は気付かなかった。
後に知ったが、フィーネさんが気軽に使っていたエリクサーは、どんな怪我や病気も一瞬で治癒する伝説の霊薬であった。ひとつで屋敷が立つほど高価なものであり、いざという時のために貴族や上位冒険者達が買い漁る回復薬。そんなエリクサーを返すために、私は大陸をまたいで奔走することになるが、この時の無知な私はまだ知らない。
また、そんなエリクサーを、大量に所持しているだけでなく、アフロを治すためというアホな目的でポンッと使ってしまうフィーネさん。彼女は何者なのだろう?謎が深まる。
アフロから回復したことで、喜びいっぱい元気いっぱいの愛を横目に、ボスモンスターへの準備へと戻る。愛と私のコンディションは確認出来たので、次はシロ君だ。
緊張した表情のシロ君は、マグカで自分のステータスと装備品、所持アイテムを確認している。コボルドキャッスルとの戦闘でレベル20の壁を超えたシロ君は、パーティ支援のために光魔法を取得した。
そんなシロ君は、同じく光魔法を取得しているフィーネさんに支援魔法と回復魔法を教わっている。教わりながらも、後方が気になるのか、ちらちらとそちらを見ている。
シロ君の視線の先にはユウジ。
ユウジはジェネラルコボルドのドロップアイテムである星三防具、狼将軍の鎧を身にまとい、防御力を大きく上昇していた。
狼将軍の鎧は近接戦闘者の重い金属鎧だったため、ユウジ以外装備することができず、消去法でユウジにあげた。消去法だったのだが、始まりの草原で入手した姫甲飛虫の盾に続いて、またしてもレアドロップアイテムをユウジにあげたためか、シロ君はずっと頬を膨らませていた。ボスモンスターのドロップアイテムは、シロ君が装備できるアイテムであることを願う。
「さぁ!私のアフロも治ったし、準備バッチリってことで、ボスとの対戦にいくよー!!みんな準備オッケー?」
愛の元気いっぱいの宣言に、私たちは力強く頷く。そんな私達を待ち構えるのは、ボスモンスターが待つ堅牢な扉。独特な不気味な雰囲気に気圧されることなく、愛は力強く扉を左右に開く。
「よくぞ参った、勇気ある若者たちよ。我はこのダンジョンを守る炎と氷を司る大悪魔グラットン。」
「お前がボスモンスターか!!私の名前は、鬼火 愛!!よろしく!!」
扉を開けると、広い薄暗い部屋の真ん中に、痩せ細った老人のような男があぐらをかいて、私たちの様子を伺っていた。
がりがりの見るからに弱そうな老人だが、ただの老人でないことは簡単に察することが出来る。身長は私の倍近くあり、頭からは角が生え、肉食動物のような鋭い牙を持っている。赤黒く筋張った上半身に、真っ黒な毛で覆われた下半身、背中には小さな翼も生えている。老人のようにしわくちゃだが、その異形な姿は、物語の中に登場する悪魔といった出で立ちだった。
真っ赤に充血した目でこちらを睨む老人は、ダンジョンの入り口に置かれていた禍々しい悪魔の石像そのものだった。大悪魔グラットンと名乗った目の前の男は、このダンジョンのボスモンスターで間違いないだろう。
そんな大悪魔グラットンは、にやりと笑いながら私達を挑発する。
「我が守る宝物狙いで、このダンジョンを訪れたようだが、そう簡単にくれてやるわけにはいかない。我を打ち破ることが出来たら宝物はくれてやるが、貴様らにそれが可能かな?」
大悪魔グラットンはにやりと笑った後、ゆっくりと立ち上がる。それだけの所作だが、私たちは警戒心から思わず手に持っていた武器を大悪魔グラットンに向けて構えてしまう。
そんな私達に対して、満足気な笑みを浮かべながら大悪魔グラットンは両手を上げる。右手からは真っ赤な火球、左手からは青い冷気の塊が発生する。拳大の火球と冷気の塊を両手に掲げた大悪魔グラットンは不敵に笑う。
「さぁ、我の右手の炎で燃やし尽くし、左手の氷で凍てつかせてくれよう!!いざ、参る!!」
大悪魔グラットンの火球と冷気の塊による始球式によって、戦いの幕は切って落とされた。迫りくる火球と冷気の塊に対し、ユウジが前に出る。
「魔法防御の低い愛は下がってろ!!火球と冷気の塊は俺が盾で受ける!!」
「うん、分かった!!ユウジ頼んだ!!」
「ユウジ!!私がサポートする!!」
姫甲飛虫の盾を構えるユウジを前に、私も温度操作魔法でサポートを名乗り出る。同時に迫る火球と冷気の塊に対して、熱エネルギーの操作を行う。イメージは火球から冷気の塊へ熱エネルギーの移動。
「美雪さん、ありがとう!!これなら、俺でも防げる!!」
火球と冷気の塊が、ユウジの持つ盾に続け様に炸裂する。ユウジの盾で防ぎきれなかった熱気と冷気が私達を襲うが、なんとか小さいダメージだけで受け切ることが出来た。
出来れば相殺しようと思った火球と冷気の塊だが、大悪魔グラットンの魔法耐性が高いためか、思ったように熱エネルギーを操作することが出来なかった。私の温度操作魔法では、少しタイミングをずらし、威力を下げることしか出来なかった。
大悪魔グラットンは追撃など考えず、余裕満々の様子で腕を組んだまま私達の様子をにやにやと見ている。まるで、先ほどの火球と冷気の塊は小手調べといった様子。
そんな余裕綽々な姿に、今までのモンスターとは異なり、ダンジョンのボスモンスターである大悪魔グラットンの討伐は一筋縄ではいかないことを感じる。
「私とユウジが前に出る!!シロ君は支援魔法を!!美雪は弓で援護をお願い!!」
反撃とばかりに、愛が大悪魔グラットンへ駆け寄る。
「分かりました!!支援魔法アタックアップ!!スピードアップ!!」
愛の体が薄く赤色に光り、ユウジの体が薄く緑色に光る。支援魔法アタックアップ、スピードアップはそのままの意味で攻撃力アップと速さアップの魔法だ。
どうやら、シロ君は支援魔法を使って愛の攻撃力を上げ、ユウジの速さを上げたようだ。スピードアップによって愛に追いついたユウジは、大悪魔グラットンに向かって神話級の大剣デュランダルを振り上げる。アタックアップによって攻撃力の上がった愛と一緒に、ユウジは同時攻撃を放つ。
「鬼火流豪術 壱の型 牡丹!!」
「くらえっ!!魔法剣アクアスラッシュ!!」
愛の豪快な正拳突きが大悪魔グラットンの顔で炸裂し、水属性魔法をスキル魔法剣で大剣デュランダルに乗せ、爆発的に威力を上げたユウジの横振りの武技アクアスラッシュが大悪魔グラットンの左脇腹に突き刺さる。
「「!?」」
攻撃を放った愛とユウジの表情が曇る。
原因は二人の必殺の攻撃を受けた大悪魔グラットンの異様な姿のためだ。
「なんだこいつ!?全然手応えがないぞ!!」
「手応えがない!?こっちは異様な手応えで止まったぞ!!まるででっかいゴムの塊を切ってるみたいな感覚だ!!」
愛の正拳突きを受けた頭はぐにゃりと曲がり、後頭部が背中にくっついている。ユウジのデュランダルは大悪魔グラットンの左脇腹から深く突き刺さり、右胸の位置で止まっている。しかし、切り裂いたわけではない。大悪魔グラットンの体はゴムのようにぐにょーんと伸び、ユウジのデュランダルの勢いを止めている。
「素晴らしい威力の攻撃だ。だがしかし、残念ながら我に物理攻撃は効果がないぞ?」
背中にくっついた大悪魔グラットンの頭から、声が聞こえてくる。
不敵な笑みを浮かべた大悪魔グラットンの頭が、ゆっくりと背中から元々頭のあった場所に戻る。右胸の位置にあったデュランダルも、ゆっくりと押し戻される。
今までの階層のモンスターなら余裕で爆発霧散した二人の攻撃。そんな強力な攻撃でも、大悪魔グラットンには1ダメージすら与えることが出来なかった。
「私の剛が通用しない!?そんなわけない!!牡丹!!睡蓮!!」
目の前の光景が信じられない愛は、何度も正拳突きと蹴りを放つが、ぐにょんぐにょんと体が波打つだけで、大悪魔グラットンの余裕綽々の笑みを崩すことは出来ない。
「二人とも離れて!!物理がダメなら、魔法攻撃をするわ!!くらえっ!!テンペストアロー!!」
愛とユウジが横っ跳びで大悪魔グラットンから離れたのを確認し、私がすぐに放てる魔法攻撃の中で最大威力のテンペストアローを放つ。高音の風切り音を響かせるテンペストアローが迫る中、大悪魔グラットンは口をパクパクとさせる。
餌をねだる鯉のような間抜けな行動だが、その効果は絶大であった。大悪魔グラットンの口の動きに合わせて、テンペストアローからみるみる風属性魔法と矢の速度が失われたのだ。私のMPの多くを使って放たれたテンペストアローは、最終的にただの矢になり、コツンと虚しい音と共に大悪魔グラットンの胸に当たる。
「高威力の風属性魔法、大変美味であった。ご馳走様。」
「あいつ、私の魔法を食べたっていうの…!?」
私のテンペストアローを口パクパクで無効化した大悪魔グラットンは、心なしか先ほどより体が膨れている。痩せ細っていた体は魔力を吸収したためか少し筋肉が膨れ、痩せマッチョくらいの体つきになっている。
愛とユウジの攻撃に続き、私のテンペストアローまで無効化された。途方に暮れて立ち尽くす私に、シロ君の声が聞こえてくる。
「大悪魔グラットンは風属性魔法を吸収するようです!!ここは地属性魔法で対抗します!!ストーンランス!!」
シロ君が詠唱破棄で放った岩の槍が大悪魔グラットンに迫る。しかし、大悪魔グラットンは少しも怯むことなく、先ほどと同じように口をパクパクとさせる。
私達の嫌な予感は的中し、大悪魔グラットンの口の動きに合わせて、ストーンランスは少しずつ勢いを失い、全体にヒビが入っていく。最終的にヒビだらけになった岩の槍は、大悪魔グラットンに触れた瞬間、細かい砂となり霧散する。
「僕の地属性魔法まで…!?一体、どの攻撃ならダメージを与えられるというのでしょうか…?」
シロ君が驚愕の表情を浮かべながら、ぽつりと呟いた。誰もシロ君のその呟きに答えることが出来ない。
風属性魔法に続いて地属性魔法まで吸収した大悪魔グラットンに、私たちが驚愕と戦慄の視線を向ける中、にやりと笑いながら大悪魔は呟く。
「ご馳走様。」




