初めてのダンジョン挑戦!④
前回のあらすじ:無事に仲間と合流した美雪は、ダンジョン一日目を終える。
王都の外れのとある施設。私は師匠のお供として、施設内を歩いていた。
普段は燃え盛る炎によって、ある程度の明るさを持つ場所だが、今はその炎が消えているため、足元も怪しいくらいに薄暗い。そんな闇の中を、周囲を警戒しながら歩いていた私達の目の前に、この場所を訪れた目的のモンスターが現れる。
赤いオーラを纏った、異様な威圧感を放つ巨大な飛竜。大きく翼を羽ばたかせながら、堂々と私達の目の前に降り立った。大きく口を開け、私達を威嚇するように咆哮を上げている。
事前に聞いていた話と違う。私達の討伐目的は、こんな危険なモンスターじゃない。
巨大な飛竜を視界に捉えた時、全身の細胞が危険信号をあげた。このモンスターにはどう足掻いても私達では敵わない。本能的に感じる大きな力の差に、全身が震え上がり、持っていた武器を落としそうになる。
「むぅ…!!この赤いオーラは異常種!?こいつは無理じゃ!!わしらじゃ絶対に勝てない!!ここはわしが止める!!先に行くのじゃ!!」
巨大な飛竜を目の前に、真っ先に大声を上げたのは、眠たげな腫れぼったい目、口が塞がるくらいの長いひげ、顔に大きな傷を持つ痩せた白髪の老人。私の師匠だ。
そんな仙人のような私の師匠が、立派な槍を飛竜に向かって構えながら大声で叫ぶ。
「わしの魔力昇華と能力解放で時間を稼ぐ!!わしが殿を努めている間に、お主らは出口にシールドを張って、安全を確保するんじゃ!!って、何をしておる!!お主が皆を先導するんじゃ!!トウカ!!」
大声で名前を呼ばれたことで、私はハッと我に変える。飛竜と戦う老人を背後に、他の仲間を引き連れて走り出したところで、私は夢から覚める。
「夢…?」
ダンジョン挑戦二日目。前日にフィーネさんが張ったテントの中で夢から目を覚ました私は、冷静に現状を確認する。
「また不思議な夢か…。異世界に来てからこういう変な夢を見ることが多いけど、今日の夢は今までと少し様子が違かったな…。なんとなく私の目線って感じじゃなかったし、老人が最後に叫んだ名前はトウカ…。」
私が知っているトウカという名前の女性は、昨日ダンジョン内で出会った、王都で銀琴のヤクモの異名で知られるトウカさん。彼女と関係ある夢だったのだろうか。
「なんとなく、トウカさんの過去を追体験って感じだった…。昨夜にトウカさんが師匠の話をしていたからかな…?んー、何だろう…?」
不思議な夢に首を傾げながらも、これ以上考えても結論は出ないだろうと、考えることを放棄する。マグカで時間を確認すると、朝五時だった。
まだまだ早朝だったため二度寝をしようと毛布を手繰り寄せたが、目の前の異変に慌てて起き上がる。
隣に寝ていたはずの愛がいない!!
テントから転がり出て周囲を確認すると、少し離れたところから愛とトウカさんの声が聞こえてくる。ただ事ではない二人の声のする方に慌てて向かうと、愛とトウカさんが戦っていた。
「鬼火流剛術 壱の型 牡丹!!」
愛の豪快な正拳突きがトウカさんを襲う。
「愛さーんっ!?朝から何をしてますかー!?」
「お、美雪も起きたか!おはよう!愛ちゃんは私と早朝トレーニング中だよ!」
愛の正拳突きを横に受け流しながら、笑顔でトウカさんが答える。対する愛は必死そのもの。私の声に気付くこと無く、トウカさんへ全力の攻撃を放っている。
早朝トレーニングと言う割には、愛が放つ殺気が本気のような?
今放たれた、トウカさんの首に向かっての跳び蹴りとか、もし当ってたら致命傷だ。どう見ても、愛はかなり本気だ。トレーニングという雰囲気ではない。
愛の鬼気迫る様子にも驚きだが、そんな愛の全力攻撃を簡単に受け流してるトウカさんにも驚かされる。
「へいへいへーい!愛ちゃん!寝てた私を起こして、腕試しをさせろって言い放った威勢はどこいったー?武器を装備してない私相手にこんな調子で、マグノキス最強になれるのかーい?」
トウカさんは簡単に攻撃を受け流しているだけじゃない。愛の更なる全力攻撃を引き出そうと、笑いながら煽っている。トウカさんの煽りを受けた愛の顔は、みるみる赤くなっていく。
「うるせぇ!!私は強くなるために、この世界に来たんだ!!美雪の目標達成のためにも、強くならなきゃいけないんだから、黙って私に倒されろー!!」
私の目標達成のために愛が強くなろうとしてくれるのは、とっても嬉しいことだけど…。トウカちゃんは倒しちゃダメだよ。私の命の恩人の一人なんだから。
「あら、美雪さん!おはようございます!」
心の中で愛に注意をしていると、背後から透き通るような美声が聞こえてくる。この声は、もう一人の命の恩人に違いない。
「おはようございます、フィーネさん!」
振り返ると、昨日と変わらぬ素敵な笑顔のフィーネさんが立っていた。早朝でもジャラジャラと手錠と足枷の音を周囲に響かせている。
「しかし、愛ちゃんはすごいですね!黒等級の冒険者とは思えない物理戦闘力です!」
愛とトウカさんの早朝トレーニングという名の戦闘を見ながら、楽しそうにフィーネさんは笑う。
「フィーネさんに褒められると嬉しいところですが、私はそれよりも申し訳ない気持ちでいっぱいです…。どうやら愛はトウカさんが寝てたところを無理矢理に起こしたようなので…。言葉遣いもかなり悪くなっているので、トウカさんに申し訳ない気持ちでいっぱいです…。」
「ふふふっ、それなら大丈夫ですよ!口では厳しいことを言っていますが、後輩冒険者である愛ちゃんの戦闘力が高いことを、トウカさんはとても喜んでいます!愛ちゃんも念願の強い人と戦えて嬉しそうですし、二人ともうきうきです!羨ましいです!」
うきうき?羨ましい?
私の認識と違う言葉に、二人の戦闘をもう一度確認する。
「へいへいへーい!愛ちゃーん!疲れてきたのかーい!攻撃の威力と手数が減ってきたよー!!私にダメージを全っ然与えられてないけど、最強の鬼火流剛術ってのは、この程度なのかーい?」
「うるせぇ!!ふらふらと私の攻撃を受け流しやがってー!!お前だって疲れてきてるじゃねぇか!!私の攻撃を受け流しきれなくなって、少しずつダメージを受けてるだろうが!!美雪に使うの禁止されてる鬼火流剛術の終の型を使ったら瞬殺なんだからな!!」
二人ともうきうき?羨ましい?
フィーネさんに向かって首を傾げると、うんうんと頷いている。フィーネさんから二人の戦闘は、うきうきで羨ましく見えているらしい。
「あーん?本気の実力を隠してるのが自分だけだって思ってるのかーい!?甘えた考えすぎて、口から上白糖だぜ!!私の異名は銀琴のヤクモ!!銀琴は私の武器からつけられてんだけど、今は素手のヤクモだ!!銀琴を取り出した本気のヤクモなら、愛ちゃんなんか瞬殺だぜー!!相手の実力を正しく理解しないと、冒険者失格だぜー!!」
「じゃあ本気出せ!!私を舐めてんじゃねぇぞ!!ばーかっ!!」
「ばかー!?私か!?私のことか!?親切に色々と教えてやってるのに、バカだとー!?ふざけんじゃねぇぞ…、この…、この、アホーっ!!」
今までは攻撃を受け流すだけだったトウカさんが、愛の言葉で攻撃に転じる。掌底で少しずつ愛のHPを削っていく。
子供の喧嘩のような悪口を言い合う二人だが、目の前で繰り広げられる戦闘は、まさに死闘である。
「あーっ!!くっそー!!ぺちぺちと攻撃のタイミングをずらしやがって!!私の拳が届かねぇ!!うっとうしいぞ!!バカ!!」
「またバカって言ったな!?って怒ると思ったら、大間違いだぜー!!大人な私は暴言を許して、笑顔でアホな愛ちゃんに教えてやるよ!!柔よく剛を制す、って有り難い先人の言葉があるんだぜー!!愛ちゃんの剛なんか、私の八雲流柔術の、柔の前じゃセイッ!!なんだよー!!」
「柔よく剛を制すー!?なんじゃ、その軟弱な考えはー!!鬼火流剛術の教えは、剛を極めれば柔すら制すだー!!私の剛で、八雲流、柔術なんか、セイッだ!!セーイッ!!」
フィーネさんにもう一度確認しますね。
二人の様子はうきうきですか?羨ましいですか?
「まさに切磋琢磨!お互いが高め合ってる感じで、二人ともうきうきです!羨ましいです!」
フィーネさんは私の心の声に重ねるように、うきうきと羨ましいを連呼している。二人の死闘も、フィーネさんの前ではお互いが高め合っている稽古風景に見えるようだ。
そんなフィーネさんは突然私の手を取り、ギュッと握り締めた後、満面の笑みで私へ恐怖の提案をする。
「美雪さん!お恥ずかしながら、私も二人の闘気にあてられて、いてもたってもいられなくなりました!私達も朝のウォーミングアップをしましょう!そうしましょう!」
「へ?」
フィーネさんは私の返答を待つことなく、無邪気な笑顔で走り出す。そんなフィーネさんに私の手は握り締められたままのため、抵抗する余地も無く、一緒にダンジョンの奥へと向かう。
「ここまで来れば、トウカさんと愛ちゃんの戦闘の邪魔をしませんね!さぁ、しと…、朝のトレーニングといきましょう!」
しと…?フィーネさんが濁した言葉の意味を考える。
うん、死闘だな!
…ふぅ。
朝から物騒なことを言うヤル気満々の美女を目の前に、溜息がこぼれる。死闘レベルのトレーニングではなく、簡単な組み手程度にしてもらおう。
「フィーネさん、ちょっと待ってください…。」
「大丈夫、みなまで言わなくても分かってますよ!なんたって、冒険者フィーネですから!」
うんうんと頷きながら胸を張るフィーネさん。良かった、これなら本当にウォーミングアップで済みそうだ。
「美雪さんの主装備は弓でしたね!こんなに接近してたら、攻撃できません!少し離れますので、遠慮なく一番威力の高い攻撃を私へ放ってください!」
残念ながら私の言いたいことは伝わらなかった。スキップで私から距離を取るフィーネさん。少し離れたところから両手で丸を作って攻撃を促すフィーネさん。
マグカから黒影剛弓-極-を取り出してみたものの、今までモンスターに向かってしか矢を放ったことがないため、人に向かって放つことにどうしても躊躇してしまう。
「どうしたんですかー?早く美雪さんの最大級の奥義を私に放ってくださーい!もし、私を殺してしまうんじゃないかーって遠慮してるんでしたら、大丈夫ですよー!光魔法シールドを使いますので!」
いつまでも攻撃を繰り出さない私に疑問を感じたのか、大きく両手を振りながら私へ攻撃を促すフィーネさん。
フィーネさんは薄い水色の壁、光魔法シールドを目の前に張り、私の攻撃を待っている。フィーネさんの大丈夫という言葉を信じつつも、念のため少し狙いを外し、黒影剛弓-極-に矢をつがえる。おそらく神槍投擲の方が威力が高いが、技名を言うのが憚られたため、私のもう一つのオリジナル武技を放つ。
「ロケットアロー!!」
大きな爆発音と共に、爆発的な推進力を得た矢がフィーネさんに迫る。
ロケットアローの爆発による煙によって目の前が白んでるため、私からはフィーネさんの様子が見えない。そんな私の耳にパリーンと何かが割れる音が聞こえてくる。あれ、光魔法シールド破っちゃった?
不安を感じて駆け寄る私の耳に、フィーネさんの声が聞こえてくる。良かった、無事のようだ。
「ふむふむ。風魔法と火魔法で爆発を起こして矢の威力を上げてるんですね。でも、矢自体は熱で溶けることなく、むしろ冷たいくらいです。大気との摩擦っていうやつで、高速で迫る物体は熱を持つはずなのですが、美雪さんの放った矢は氷のように冷たいです。不思議ですね?美雪さんのレア魔法によるものでしょうか?」
無事どころか、私が放った矢を片手に持ち、小さな声でぶつぶつと冷静に私のロケットアローを解析するフィーネさん。
もしかしなくても、私が放ったロケットアローを手で受け止めました?爆発の威力をのせた、異常な速度の矢を手で受け止めました?
「初級冒険者が放つ武技にしては異常な攻撃力な上に、爆発も相まって見た目も派手な武技ですが、所詮は爆発の威力を矢にのせて推進力を得るだけの武技。強力な弓で放った攻撃と大差ないですね。属性攻撃がのってるわけでもないですし、これなら暴虐のなんとかさんの弓の通常攻撃の方が威力が上…、いえ、私が手錠をつけた状態で投げた方が強いかもです。それに、大きな音が出てモンスターの群れを呼んでしまうのが弱点ですね。こんな風に。」
いつの間にか背後に現れたゴーレムに向かって、フィーネさんは手に持っていた矢を投げ放つ。体の真ん中に矢を受けたゴーレムは衝撃音と共に吹き飛び、ダンジョンの壁に激突する。ぴくりとも動かなくなったゴーレムは全身にひびが入り、呻き声を上げた後に光の粒へと変わる。
私が弓で放つよりも高威力なフィーネさんの投擲。開いた口が塞がらない私に気付いたフィーネさんは、笑顔で私に近付いてくる。
「あ、美雪さん!美雪さんのオリジナル武技のロケットアローですが、初級冒険者にしては素晴らしい威力の技でした!これは、将来が楽しみです!」
先ほどの辛辣なコメントが無かったかのように、笑顔で私のロケットアローを褒めるフィーネさん。
明らかに気を遣われている。
お願いして放ってもらった武技が思ったよりも大したことなくて、フィーネさんは申し訳なく感じてるようだ。言葉の端から、フィーネさんの気遣いを感じてしまう。
その後、フィーネさんにお願いされるがままに放った、私最大の威力の武技である神槍投擲でさえも、フィーネさんには簡単に受け止められてしまった。フィーネさんは、満面の笑みで神槍投擲を褒めてくれたが、無理して褒めていることが私には伝わった。伝わってしまった。
銅等級冒険者のトウカさんに、手も足も出なかった愛。
ビリジアン等級のフィーネさんに、気を遣わせてしまう程度の私。
初めてのダンジョン挑戦の二日目。朝食前のウォーミングアップで、私達は実力不足に歯を食い縛るのであった。
「美雪、遠距離の敵は任せたー!!くらえー!!鬼火流剛術 壱の型 牡丹!!裏牡丹!!三連牡丹!!」
愛の連続攻撃によって、鋭い爪を武器にするネイルコボルドの群れは、その爪の威力を発揮することなく、光の粒へと姿を変える。
「風の精霊よ、我が魔力を糧にし、吹き荒れる竜巻にて敵を切り刻め!!トルネード!!」
私の風魔法トルネードによって発生した小さな竜巻は、粗末な杖を構え、遠くから魔法攻撃を行おうとしていたマジックコボルドの群れへと襲い掛かる。マジックコボルドの群れはなすすべなく切り裂かれ、光の粒へと姿を変える。
朝食の後、順調に私達はダンジョンの攻略を進めた。七階層に到達した私達は、コボルドキャッスルと呼ばれる、砦を築いたコボルドの群れと戦闘を行っていた。ダンジョンの全階層の三分の二ほどの階層には、中ボスと呼ばれる強力なモンスターの群れが現れるが、ファストの町のダンジョンはコボルドキャッスルが中ボスのようだ。
「木の盾ごときで私の攻撃を防げると思ってんじゃねぇぞ!!鬼火流剛術 壱の型 狂咲睡蓮!!」
木の盾を構えていたシールドコボルドの盾に豪快な連続蹴りを放つ愛。木の盾は愛の蹴りの威力を受け切ることが出来ず、木片へと姿を変えていく。盾を失い、最早普通のコボルドになってしまったシールドコボルドに、愛の容赦の無い蹴りが突き刺さる。何かが砕ける音と共に、元シールドコボルドは体をくの字に曲げ、光の粒へと姿を変える。
「その砦も正面からの攻撃には強いだろうけど、がら空きの上からの攻撃は防げまい!!ウィンドシュート!!」
私も愛に負けじと、風魔法ウィンドシュートを放つ。しかし、砦に向かって放ったわけではない。
地面に向かってウインドシュートを放ち、私自身を上に大きく飛翔させる。岩を積んで作られた三メートルほどの岩壁よりも高く飛び、上空から弓矢による三連攻撃を放つ。
「くらえ!!三連ボムアロー!!」
新しく取得した武技を放ち、地に降り立つと同時、岩壁の向こう側から三度の爆発音が聞こえる。
レベル15になったことにより、追加可能スキルがひとつ増えたため、私は爆発魔法を取得した。攻撃力の向上のために取得した爆発魔法だが、弓矢攻撃と合わせることにより、新しい武技ボムアローを取得した。
先人が既に取得していたためオリジナル武技ではなかったが、矢の刺さったところに爆発を発生させるボムアローの威力は絶大。敵に直撃しなくても、近くにさえ矢が刺されば爆発による広範囲攻撃に敵を巻き込むことが可能になった。そのため、三本の矢を一気に放つ三連ボムアローとしてコボルドキャッスルへと放った。
その効果は絶大。岩壁の向こうから、数多くのコボルドの悲鳴が聞こえてくる。
そんな私達の様子を遠くから見守る二人。シロ君とユウジだ。
「なんだか美雪さんと愛さんの様子がおかしいような…。いつもより鬼気迫る戦闘というか、モンスターに対しての容赦が無くなっている気がします…。」
「あぁ、そうか。シロは今日の朝はぐっすりだったもんな。実はかくかくしがじかで…。」
どうやら、ユウジは私の武技の爆発音で起きて、早朝トレーニングの様子を見ていたらしい。ぐっすり眠っていたため、私達のトレーニングを知らないシロ君に、ユウジは解説を始める。
「なるほど、まるまるうまうまってわけですね…。だから、美雪さん達はあんな様子でモンスター達を蹴散らしてるんですね。納得です。」
シロ君とユウジが、鬼気迫る表情でモンスターと戦う愛と私の様子を見ながら、うんうんと頷く。
「それなら、僕達がやることは一つですね!」
手に持っていた杖を構えるシロ君。
「あぁ、俺達にできることは一つだ!!」
神話級の大剣デュランダルと姫甲飛虫の盾を構えるユウジ。
「二人に負けてられません!!行きましょう!!」
「二人に負けてらんねぇ!!行くぞっ!!」
コボルドの群れに向かって走り出すシロ君とユウジ。四人はコボルドキャッスルの攻略に挑む。
そんな私達を見守る二人。早朝トレーニングにて私達の戦意を高めた銀琴のヤクモことトウカさんと、冒険者フィーネさんだ。
「このダンジョンの中ボスは、コボルドキャッスルか。一匹一匹は初級冒険者でも余裕だが、こう多く群れると少々厄介なんだよな。大量のモンスターの群れが築いた砦に対する攻城戦。浅い層で経験を積んだ初級冒険者なら、大人数でパーティを組めば攻略が可能かな?」
「レベル15の冒険者四人パーティが三組ってとこですかね。強力なモンスター一匹との戦闘より、大量のモンスターとの戦闘の方が、個人個人の力はそこまで必要ではないので、初級冒険者が強力して戦うには最適かと思います。ダンジョン内で攻城戦はなかなか経験できないので、貴重な経験も積むことが出来ます。色々なダンジョンに挑戦してきましたが、やはり、このダンジョンは初級冒険者にとって最適ですね!」
二人は頷きながら、私達の戦闘を確認する。
「しかし、美雪達はすげぇな。初級冒険者四人で倒しきれる規模じゃないコボルドキャッスルを、もうほぼ攻略しちまったぞ!」
「本当ですね!すごいです!将来が楽しみな四人ですね!いずれは私達と肩を並べる冒険者に成長すること間違いなしです!」
「はは!姫様と肩を並べる冒険者への成長とか、とんだ無茶クエストだな!勘弁してやれよ!はっはっは!」
「姫様?私は冒険者フィーネですよ!それに、トウカさん!自分は関係ないって顔してますけど、私と肩を並べるのはトウカさんもですよ?親友ですもんね!」
「はは!私が冒険者フィーネと肩を並べる?はは、は、は…。は…?まじですか…?」
笑っていたトウカさんの顔が少しずつ青ざめていく。引きつった笑みでフィーネさんに確認する。
「まじです!もしトウカさんがよろしければ、私のトレーニングルームを貸してあげますよ!」
「姫様のトレーニングルーム…?って、あそこのことか!?遠慮しておきます!!」
「あらあら、そんなに力強く遠慮しなくても良いですよ!私達が不在の日付分、トレーニングルームは素敵なことになっていると思います!ちゃんとトウカさんの分も残ってますので、遠慮は不要ですよ!って、どこに行くのですか、トウカさん!私から逃げられるとお思いですか!」
逃げるトウカさんと、それを追いかけるフィーネさん。結末の決まった二人の追いかけっこが始まった。
そんな二人のやり取りなど露知らず、私達はコボルドキャッスル攻略の締めくくりに入る。
目に入る全てのコボルドを倒した私達は、砦の最奥で一匹のコボルドに出会った。最後に残ったその一匹は、今までのコボルドの倍以上もある巨大な個体であった。大剣を地面に突き刺し、威風堂々と構えている。
「なんか強そうな一匹が残ったな。モンスターのくせに鉄製の鎧を着てやがるし、大きな剣を持ってる。仲間が全員倒されたってのに、堂々と構えやがって。この砦のリーダー的な存在か?」
「あのモンスターは、ジェネラルコボルド!?皆さん、注意してください!!ジェネラルコボルドは、適正討伐レベル26の強敵で、地属性魔法とあの大きな剣での攻撃が脅威のモンスターです!!協力して戦っていきましょう!!」
シロ君の言葉に頷いたユウジは、神話級の大剣デュランダルを両手に構える。シロ君もサポートは任せてくださいとばかりに、魔法杖を構える。二人ともコボルドとの戦闘で、あちこちに傷を負っているが、堂々と武器を構えている。男二人は準備万端のようだ。
そんな二人の間から、一人の少女が飛び出す。
「しゃらくせぇ!!敵を目の前に落ち着いてる場合じゃねぇ!!先手必勝!!鬼火流剛術 壱の型 睡蓮!!」
ジェネラルコボルドの前に飛び出したのは、体のあちこちに擦り傷を作りながらも、まだまだ元気いっぱいの愛。強烈な跳び蹴りを、ジェネラルコボルドに向かって放つ。
咄嗟にジェネラルコボルドは大剣を構えて受けるが、構えた大剣は愛の強烈な蹴りに耐え切らず、パキィンという音と共に、真ん中ほどで折れてしまう。愛の奇襲にジェネラルコボルドは少し怯んだが、さすがは将軍の名を冠する者。すぐに反撃の体勢を整え、愛の頭へ折れた大剣を振り下ろす。
愛は負けじと両手をクロスし、頭への攻撃を防御するが、ジェネラルコボルドの振り下ろしの威力に勝てず、大きく吹き飛ばされてしまう。
体勢を崩した愛へと追撃を繰り出そうとするジェネラルコボルド。その胸に、トスッという軽い音と共に、一本の矢が突き刺さる。
「ん!?この矢は、まさか!?」
突き刺さった矢は赤熱する。
「やっぱりー!!美雪の新技ボムアローだー!!ぎゃー!!」
赤熱した矢から逃げようと、愛がジェネラルコボルドに背中を向けたところで、矢は爆発する。爆発が直撃したジェネラルコボルドはもちろん、近くにいた愛も一緒に吹き飛ばされる。
「こら、愛!独断専行はダメって常々言ってるでしょ!!ジェネラルコボルドの反撃で手痛いダメージを受けてるじゃない!!」
「独断専行の件はごめんだけどー!!美雪のボムアローの方が大ダメージだよ!!ジェネラルコボルドの攻撃は、黒熊で防いだよー!!」
黒い煙の中から愛の反論が聞こえる。愛が爆発に巻き込まれた時は、少しやばいと思ったがどうやら無事のようだ。良かった。
とはいえ、愛を攻撃に巻き込んでしまったのは事実。黒い煙の中から姿を現した愛へ謝罪をすることにする。
「ごめんごめ…ぷっ!!」
黒い煙の中から抗議の声を荒げながら近づいてくる愛を目にした時、私は思わず噴き出してしまう。
「なんで、急に笑ったー!?まだジェネラルコボルドは倒してないよー!!不注意だよ!!」
「ご、ごめ…、ごめん…!!」
震えながらも、両手を合わせて愛に頭を下げる。
「めちゃくちゃ笑いを堪えてるじゃないかー!!なにー!?なにがそんなにおかしいのー!!」
愛を直視できない私は、震えながら口元を押さえ、必死に目線を逸らす。そんな愛と私に、ユウジとシロ君が近づいてくる。
「なんだ、さっきの爆発する矢は!?徹甲榴弾か!?って、ぶふっ!!」
「無事ですか、愛さん…、ふふっ!」
「美雪だけじゃなく、シロ君とユウジにまで笑われてるー!!なに、なんなの!?」
「あ、愛、その頭…!!」
笑いを堪えてる三人の中からユウジが代表で、震える片手をなんとか持ち上げ、私達を笑いの渦へと導く、愛の頭を指差す。
「あ、アフロ…!!ダンジョン内に、見慣れた顔のアフロがおる…!!」
「アフロー!?」
両手を上げて頭を抱えた愛は、やっと自分の状況に気付く。爆発に巻き込まれた愛の頭は、見事な球体のもこもこヘアー、アフロになっていた。
「なんじゃこりゃー!?」
爆発に巻き込まれても、そうはならないだろう。と最初は思ったけど、実際に愛の頭はアフロになっている。異世界特有の不思議現象として受け入れることにする。
受け入れることにするが…、ダメだ。目の前で揺れる愛のアフロが視界に入る度に、笑いがこみあげてくる。
「みんな、笑いすぎだよー!!」
愛は両手を上げながら、その場で地団駄を踏み、全身で抗議の声を上げる。
しかし、見事なアフロは持ち主の抗議など気にも留めず、地団駄を踏む度に、もこもこと上下に揺れ動く。そんな元気いっぱいのアフロを目の前に、私達は笑いを堪えるのに必死である。
「美雪ー!!まだ敵は生きてるぞー!!なーに、敵を目の前に笑ってるんだー!!ギャグパートは敵を倒してからにしろ…って、愛ちゃんの髪ー!!アフロ!!アフロじゃん!!フィーネ、見ろよ!愛ちゃんの髪、見事なアフロだぞ!!マルモコよりも、丸くてもこもこだぞー!!ぶひゃひゃひゃひゃ!!」
なぜかフィーネさんに首の後ろを掴まれて現れたトウカさんは、私達に注意をしつつも愛の姿を見て爆笑している。
「トウカさん、笑うのは失礼ですよ…。」
声を上げて笑ったりはしないが、赤い顔で震えながら最低限の注意をするフィーネさん。どう見ても笑いを堪えるのに必死である。
その様子に気付いた愛は顔を真っ赤にしながら、爆発の衝撃から起き上がろうとしていたジェネラルコボルドへ向かう。
「お前も腹を抱えて笑ってるんじゃねぇ!!鬼火流剛術奥義!!百花繚乱!!」
おそらく胸部で爆発したボムアローの衝撃によって、胸を押さえていたジェネラルコボルド。愛から見たら腹を抱えて笑ってるように見えたらしい。
納得いかないといった表情のジェネラルコボルドは、怒りの力を拳にのせた愛の私怨たっぷりの連撃によって、光の粒へと姿を変えるのであった。
多少のハプニングもあったが、難なくダンジョンの中ボスを倒した私達は、勢いそのままに八階層と九階層を攻略した。
さらに強くなったモンスターに苦戦しながらも、大量に持ち込んだポーションのおかげでなんとか切り抜けることができた。
そんな私達の目の前に、このダンジョン最後の階段、十階層目へと続く階段が現れる。
今までの階段とは異なり、異様な雰囲気を放っている。この先にダンジョンのボスモンスターが待っているのだろう。私達は決意を固める。
「それじゃ、みんな行くよ!!」
颯爽と階段を降りる愛に続いて、私達も階段を降りる。
その度に上下に揺れるアフロ。固めた決意が揺らぎそうになるのをなんとか堪え、ボスモンスターの待つ十階層へと向かう。上下に揺れるアフロと供に。
愛のアフロはポーションでも治らなかった。




