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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
38/150

初めてのダンジョン挑戦!①

前回のあらすじ:ダンジョン挑戦に向けて、準備完了


「やってきました!ファストの町のダンジョン!というわけで、はい!全員集合!」


ダンジョンの入り口と思われる大きな岩の扉と禍々しい石像を目の前に、私は両手を腰にあて声高らかに宣言する。

パーティメンバーである(あい)とシロ君、ついでのユウジが私の前に集まる。

ちなみに、ダンジョンの入り口は、ファストの町の東にある涸れた古井戸の中にあった。涸れた古井戸を撤去しようと思ったら、中に異様に広い空間があることに気付き、調べてみたらダンジョンの入り口があったらしい。


美雪(みゆき)だいじょーぶ?朝は頭を抱えて、悩んでたけど?」


近くにかけつけた愛が、心配そうに私の顔を見上げる。そんな愛へ、私は元気いっぱいサムズアップで応える。


「だいじょーぶ!!問題なしっ!!」


愛の言うとおり、朝食の前はすごい悩んでいた。


「神からの忠告ー!美雪ちゃんには、明日大きな選択肢が訪れまーすが!その選択肢を誤ると、美雪ちゃんは死んじゃいまーす!!」」


悩んでいたのは昨夜突然ノアから宣告された、選択肢を間違えたら死ぬ、という神からのお告げ。朝の内にしっかりと考え、考え抜いた末に、ノアからの忠告は無視することに決めた。

いつ、なんの選択肢を間違えたら死ぬのか不明、という曖昧なリスク。ダンジョンに行かなかったら生きれるのか。逆に、ダンジョンに行くことで生きれるのか。ダンジョンに行っても行かなくても死んでしまうのか。何も分からない。

そんな意味不明なものを気にして停滞していては、何も決められない。

そんなわけで、リスクを受容することに決めた!

何をしたら回避できるか、軽減できるかが分からず、適当な対策が見つからないのだから、受容するしかない。受容なんて良い感じに言ってるが、要はノアの警告は無視するということ!助言するなら、もっと有用なこと言ってよー!と、どこかにいるノアに、頭の中で文句を言う。


「この大きい岩扉は、力自慢の冒険者が何人も束になって押したんですが、びくともしなかったんです。ダンジョンの入り口は、見つかったばかりの頃は封印されているとよく聞きますが、このダンジョンも何かしらの封印が施されているようです。この石版が、封印を解く鍵だと思うのですが、我々では解読できずに困っているのです。」


ノアへの文句が積み重なってきたところで、シロ君がダンジョン入り口の大きな岩扉を目の前に、溜息をつく。上半分が黒、白半分が白の二色で作られた両開きの岩扉。固く閉ざされ、ダンジョンへ向かおうとする者を容赦なく拒んでいる。


「あれ?前に来た時は、すべて真っ黒の扉だったのですが、今日は下半分が白いですね?なぜですかね…?」


首を傾げるシロ君と一緒に、前日から色が変わったという重厚な扉を眺める。確かに私の胸くらいの高さで上下に色が分かれている。扉を観察していると、突然、ズズンと重い打撃音が響く。

音の出所を確認すると、愛が岩扉に向かって、豪快な正拳突きを放った後の姿勢で佇んでいた。


「ちっ、ダメか。」


まぁ、愛なら目の前に障害があったら、壊そうとするよね。

ユウジが愛に向かって、封印されてるんだから無理だろとか、出会い頭に攻撃するなとか色々と言ってるけど、シロ君と私にとっては見慣れた光景。


「それじゃ、ダンジョンの封印ってのを確認していきますかー!」


片手をぐるぐる回し気合を入れ、ダンジョンの封印を確認していくことにする。

まずは、目の前に堂々と立つ悪魔の石像。両手を大きく掲げ、鋭い牙を剥き出しにして、こっちを睨んでいる。

悪魔が睨み合ってる…という愛の呟きは聞かなかったことにし、禍々しい石像の前に置かれた石版を確認する。そこには、日本語(・・・)でこう書かれていた。


我は炎と氷を司る大悪魔。石に姿を変えられても、右手に炎、左手に氷を望む。

我が望みし炎と氷を与えし者には、我への挑戦権を与えよう。

ダンジョン名:罠の試練

難易度:初級

推奨挑戦レベル:15

ボス階層:地下10階


「シロ君、推奨挑戦レベルって何?」


「四人パーティでダンジョンに挑む際のパーティ内平均レベルですが…、って美雪さん!!この石版の文字が読めるんですか!?」


「うん。私達、転生者にとっては簡単な文字。だって、私達の転生前の世界の言葉だもん。」


石盤の文字は、日本語で書かれていた。

確かにこの世界の人達には、解読が難しいだろう。明らかに日本から来た転生者向けのメッセージだ。


そして、炎と氷を同時に発生させなければ封印を解けないということから、このダンジョンが誰に向けてのものか察してしまう。心の中で、ダンジョン作成者である(はじめ)さんへ感謝の気持ちを伝えながら、温度操作魔法を発動する。イメージは、石像の右手から左手へ熱エネルギーの移動。


石像の右手が燃え上がり、左手が凍りついたところで、大きな岩扉が重々しい音を周囲に響かせながら左右に開かれる。


「開いた!!さすが、美雪さんです!!」


私に向けて、満面の笑顔を浮かべるシロ君。私は元気いっぱいのサムズアップで応える。


「さぁ、入り口は開かれた!!みんな、準備するよー!!」


「「「りょーかい!!!」」」


ダンジョン挑戦に向けて、装備を整えていく。

無いよりはマシ程度の防御性能だが、勝負服であるスーツの上からでも装備できるレザーコートを身に纏う。愛とお揃いで作ってもらった幸運鳥(こううんちょう)の首飾りは首からかけ、胸元からスーツの中へ。モンスターの攻撃で壊れたら大変だからね。これで防具の装備は終了!次は武器。

背中に矢筒、腰にホワイトアイアンナイフを装備し、右手に黒影剛弓(くろかげごうきゅう)-(きわみ)-を持つ。武器の装備も終了!最後は身だしなみ。

後でまとめていた髪を一旦ほどき、首を左右に振った後、もう一度まとめる。目つきの悪さ緩和のための伊達メガネをかけ直し、全ての準備が完了!近くにいた愛へ声をかける。


「愛、準備オッケー?」


「準備万端!!これからモンスターだらけのダンジョンかー!!腕が鳴るぜー!!」


頭に力のハチマキ、両腕に黒熊剛拳(くろくまごうけん)-(きわみ)-、足にはホワイトアイアンブーツ+、全身に鬼火(おにび)の道着を装備した愛が、準備運動とばかりに、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

胸には私とお揃いの幸運鳥の首飾りがきらりと光る。愛も準備万端だ。

他の仲間達にも声をかける。


「シロ君!準備は大丈夫?」


「もちろんです!準備万端です!!」


上等な生地で作られたことが容易に察せられる立派なローブを身に纏い、きらきらと輝く大きな魔石の

ついた杖を両手に抱えるようにして持っている。なにやら呪文の刻まれた大きな金色の円盤がついた首飾りも装備し、まさに、魔法使いといった出で立ちだ。

レベルこそ13とパーティ内で一番低いが、生まれつきの完全記憶力による魔法とモンスターへの知識、秀でた魔法適正のおかげで、転生者ばかりのパーティの中でも遜色しない実力を持つ。


「ついでに聞くけど、ユウジは?」


「俺も準備万端だ!俺は今回のダンジョンで、ついで扱いという汚名を返上するぜ!!」


鉄製の粗末な胸当てを装備したユウジは、身に纏う防具こそ貧弱であるが、神話級の大剣であるデュランダルと、先日のクイーングラスホッパー討伐時のドロップアイテムである姫甲飛虫(ひめこうひちゅう)の盾を装備している。攻守兼ね揃えた優秀な前衛である。

実はレベル21と、パーティ内で一番高いレベルを持ち、ダンジョンへの挑戦経験もある実力者だが、そこはユウジ。雑に扱うくらいが丁度良い。


最後に全員をぐるっと確認した私は、左右に開かれたダンジョンの入り口を指差す。


「みんな準備万端ね!それじゃ、ダンジョンに挑戦だー!!目指すはボスモンスターの討伐!!」


「「「おー!!」」」


私のかけ声に応える三つの威勢の良い声を背に、私はダンジョンへの一歩を踏み出した。



「愛さん!!右側にゴブリン!!」


「りょーかい!鬼火流(おにびりゅう)剛術(ごうじゅつ) 壱の型 牡丹(ぼたん)!!」


「ゴブリンアローの矢は俺が受ける!!スキル挑発(ちょうはつ)!!」


「ナイス、ユウジ!!ゴブリンアローは私が倒す!!ウィンドアロー!!」


ダンジョンに入って早々、人間の子供サイズの鬼型モンスター、適正討伐レベル11のゴブリンの群れに遭遇した。適正討伐レベルは、冒険者ギルドが定めたモンスターの強さの目安のことであり、適正討伐レベル11なら、11レベルの冒険者が一対一で勝てるかどうかの強さらしい。

そんなゴブリンの数匹の群れに遭遇したが、愛の近接戦闘の殲滅力、ユウジによる敵の攻撃集中と防御、シロ君の的確な指示と援護魔法、私の弓矢と魔法による遠距離攻撃により、危なげなく殲滅した。


「他にモンスターはいないな…。よし、ここは倒しきれたな!」


周囲をキョロキョロと見回すユウジ。


「ダンジョン挑戦早々、モンスターの群れに囲まれて焦りましたが、無事に倒しきることができましたね!」


「でも、動いたから汗かくー!ここ、じめじめしてて気持ち悪いー!!」


ゴブリンの群れを倒しきったことだし、仲間達も戦闘の中で大きなダメージを受けた様子も無いので、周囲を観察することにする。

ダンジョンは古井戸の中にあるせいか薄暗くじめじめとしている。

天井は少し低いものの、壁と地面は想像よりもしっかりしており、心配していた行動への支障は無い。


それよりも、あちこちに生えているキノコが気になる。確認しましょう。


「この光ってるキノコは何?」


「そのキノコはヒカリダケです。地下ダンジョンを明るく照らすキノコです!」


そうか、このキノコはヒカリダケというのか。

ダンジョン内はヒカリダケがところどころに生えているおかげで、陽の光が届かない地下でも薄暗い程度で済んでいる。試しにヒカリダケを指先でつついてみると、青白く光る胞子が空気中に漂う。


「ほう、これはなかなか。」


蛍のような幻想的な光をもたらすヒカリダケに、思わず感嘆の溜息が漏れる。

私、このキノコ気に入りました。ヒカリちゃんと名付けることにします。


「ねぇねぇ、このヒカリダケって食べれるの?」


ぶちぶちとヒカリダケを引き抜きながらシロ君に確認する愛。あぁ、ヒカリちゃん…。


「毒は無いので食べられますが、アクが強くて独特のクセもあるので食用には向かないです。」


「そっかー、残念。」


食べれないと分かるや否や、ヒカリダケをぽいっと捨てる愛。あぁ、ヒカリちゃん…。


「しっかし、なかなかモンスター出ないねー!拍子抜け!」


「普段なら通路にもモンスターがちらほらいるはずなんだけどな。今日は部屋にしかモンスターいないな。」


「まだ一番最初の階ですからね。次の階からがダンジョンの本番ですよ!さぁ、階段を探しましょう!」


ダンジョンはおおまかに言うと、部屋、通路、階段の三つで構成される。

様々な大きさと効果を持つ部屋、その部屋と部屋をつなぐ通路、次の階層に進むための階段の三つ。

人が数人並んで歩ける広さの通路を進み、各部屋で待つモンスターや罠を潜り抜け、階段を見つけてダンジョンの奥へと進み、最終階層で待つボスモンスターを倒して、特殊なボスドロップアイテムを入手する。それが、冒険者がダンジョンに挑戦する目的。

私達の場合は、ダンジョンのモンスターを倒して経験値を積む方が優先だけど、装備を良いものにするのも大事なので、出来る限りアイテムは回収していきたい。


数回の戦闘の末、地下二階への階段を見つける。地下一階のモンスターはあまり強くないので、すぐに次の階に移動することにする。


「皆さん、ここからは気を引き締めて進みましょう!」


階段を降りたところで、シロ君が私達へ忠告をする。


「なんで?」


愛が小首を傾げる。私は昨日の勉強会で聞いているが、愛は初耳。シロ君に説明をお願いする。


「ダンジョンは二階層目からトラップが出現します。トラップとは罠のことで、地面、壁、天井に設置されています。このトラップを誤って発動してしまうと、矢が飛んできたり、岩が降ってきたりと様々なアクシデントに見舞われます。注意しましょう。特に、愛さん!注意しましょう!!」


「大丈夫、大丈夫!シロ君は気にし過ぎだよー!私は野生の勘ってのが働くから、ダンジョンなんかにかからないよー!」


笑いながら愛は目の前の部屋の中に突入していく。なんとなく嫌な予感はしていたが、愛の足元からぶしゅーっと白いガスが噴き出す。


「うわーっ!!なに、このガスって…、あれ…、なんだか…、眠くな…。ぐー。」


「早々にフラグ回収かよー!!愛!!寝るなー!!寝ると死ぬぞー!!」


眠りについた愛へユウジが駆け寄る。


「睡眠ガストラップですね。」


「睡眠ガストラップですか。」


お約束となりつつある愛の猪突猛進な行動。もう慣れっこになってしまったシロ君と私は冷静に頷く。


「美雪さん!!シロ!!冷静に分析してないで、愛を起こすの手伝ってくれー!!」


睡眠ガストラップと連動してか、ユウジが大きい声を出したからか、青くて丸いもこもこしたモンスターがどこからともなく大量に現れる。


「青マルモコの群れです!水属性のため、火属性への耐性がありますが、地属性が弱点です!!」


「お!じゃあシロ君の地属性魔法が有利じゃん!私はフォローにまわるね!!」


「ありがとうございます!ストーンショット!!」


シロ君が前に突き出した杖の先から、無数の小石が放たれ、迫っていた青マルモコの体に突き刺さっていく。まるで、散弾銃。英語で言うと、ショットガン。


転生前に、この世界は銃の無い世界と聞いて安心したが、魔法の方が怖いじゃないか。

シロ君の放った地魔法ストーンショットによって、体のあちこちに小石が突き刺さったモンスターが悲鳴を上げながら光の粒に変わっていくのを目の前に、そう思うのであった。



「愛、トラップには気をつけるように!!敵を目の前に無防備に眠って、一人だったら死んでたよ!!本当に危なかったんだからね!!」


熟睡から目を覚ました愛に、説教をする。


「ごめんなさい…。トラップには気をつけます。」


頭を下げて反省する愛。真面目に反省しているようなので、説教はここまでにする。


実は、シロ君の勉強会でトラップのことを聞いて、愛は絶対にかかるだろうなー。低レベルモンスターが出る階層の内に、実際にトラップにかかって痛い目に合ってもらわないとなー。と思っていたので、実は被害の出なかった今回の睡眠ガストラップの件はラッキーだったりする。


初めてのダンジョン挑戦に浮かれていた愛も落ち着きを取り戻し、危なげない戦闘を繰り返す中で、見覚えのある敵に出会う。


「あ!いつぞやの熊!でも、今日は茶色!」


「ブラウンベアですね!美雪さん達が倒したブラックベアは、このブラウンベアの進化系です!」


「じゃあ、大したことないね!」


「じゃあ、ここは私が!お前の仲間に、転生早々に追いかけられた恨み!!くらえ、ウィンドアロー!!って、うわっ!!」


走りながら目の前のブラウンベアに向かって、ウィンドアローを放とうとしたところで、体が横にずれる。体がずれたことにより、放った矢も横に逸れ、ブラウンベアの肩をかすめるにとどまった。


「流れる床トラップです!!上に乗ると、体が流されます!!」


「またトラップか!!」


「美雪、任せて!!鬼火流剛術 参の型!竜胆(りんどう)!!って、うわ!!」


蹴りを放った愛の体が、横にずれる。体がずれたことにより、放った蹴りも横に逸れ、ブラウンベアの肩をかすめるにとどまった。


「うがーーー!!またトラップか!!」


「そこにも流れる床トラップです!!愛さん、美雪さん、気をつけて!!ブラウンベアが攻撃を繰り出してきます!!」


見上げると、ブラウンベアが右腕を振り上げている。鋭い爪がキラリと光る。愛と私は思わず、体の前で手を組み、防御体制を取る。


「うがぁぁぁぁああああ!!!うがっ!!」


爪攻撃を放とうとしたブラウンベアの体が、横にずれる。体がずれたことにより、放った爪攻撃も横に逸れ、空を切る。


「お前もトラップにかかるんかい!!」


私のツッコミ(ウィンドアロー)が、ブラウンベアを光の粒に変える。


その後も様々なトラップに苦しめられる。


「なんか、急に体が重くなったんだけど…。」


「重力増加トラップ!!体が重くなります!!」


「この状態で筋トレしたら倍の効果がありそう!」


「ポジティブ!!」


踏むと体が重くなる重力増加トラップ。


「愛、あそこには近付いちゃダメよ。」


「さすがの私でも分かるよ。あれは毒でしょ。ユウジも気を付けろよ。」


「そう言いながら、さりげなく俺を押すな!!まじで危ないから!!」


ポコポコと明らかにやばい音をたてる毒沼トラップ。


「きゃっ!」


「急に火が噴いたよ!これは何トラップ?」


「火炎トラップです。」


「火炎トラップかー!だから、急に火が噴いたんだね!そりゃあ、急に火が噴いたら驚くよ!だから、きゃっ!なんて普段のキャラに似合わない可愛らしい驚き声をあげちゃっても仕方ないことだよ!だから、気にするな!美雪!」


「全力で煽るなよ!!本人だって気付いて顔真っ赤になってるけど、何事も無い表情を必死で装ってるんだから!!って痛い!!美雪さんが顔を真っ赤にしながら、俺を蹴ってくる!!美雪さん、怒りの矛先を間違ってませんかー!?」


火が吹く火炎トラップ。


本当に危ない凶悪なトラップが、ダンジョン内にはあちこちに仕掛けられていた。

しかし、私達を真の意味で苦しめたのは、そんな凶悪なトラップではない。


(くさ)い!!ユウジ、やりやがったな!!」


「違う!!俺じゃない!!きっとトラップだ!!」


「これは、オイニートラップ!!」


「オイニー?って(にお)いのことか!!なんで業界用語!?」


なんかくさい(にお)いが、どこかから香ってくるオイニートラップ。


「あれ?なんか焼いたお肉の臭いがしてきたよー!!美味しそう!!美雪、お昼ご飯にしよー!!」


「あの強烈なユウジのおならの後に、よく食欲が湧くわね…。」


「だから、俺じゃないですってー!!」


美味しそうな臭いが、どこかから香ってくるオイシートラップ。


「なんだ!?どこかから緊迫感を煽る音楽が聞こえてきたぞ!!」


「まさか、突然の強敵!?」


「皆さん、警戒してください!!きっと、強敵が現れます!!」



「待てど暮らせど、何も起こらない!!」


臨場感漂う音楽が流れるだけの緊張トラップ。


「くそっ!!さっきのBGMは何だったんだよ…。何も起きないじゃねぇか…。って、わりぃ!!トラップを踏んだ!!」


「なんか玉が降ってきたよ!!」


「何か文字が書かれてます!!これは…、ハズレ?」


「ハズレ!?ハズレのトラップって何だよ!!無事だったのに、腑に落ちないこの気持ちは何だよ!!」


何も起きないハズレトラップ。


ダンジョンの中には、嫌がらせとしか思えない、存在が謎なトラップも数多く仕掛けられていた。これらの謎トラップは、私達を精神的に苦しめた。


「ぜぇぜぇ…。」


精神だけじゃないところにも、ダメージを負った男が一人。ツッコミ気質な男。ユウジである。

発動するトラップに全力でつっこんでいたためか、疲労感が凄まじい。


ユウジほどではないが、そこそこに疲れがたまってきた私達は、地下三階に降りたところにあったセーフティストーンの近くで休憩を取ることにした。


「トラップ多すぎ!!」


パンにベーコンをはさんだだけの簡単な昼食をとりながら、開口一番、今日のダンジョンの感想を述べる。


「モンスターとあんまり戦闘できてないな…。初級ダンジョンなのに、半日近くダンジョン潜って半分の階層も突破できてない…。しかも、この疲労感…。正直しんどいな…。」


同じくパンにかぶりついていたユウジは、少ししゃがれた声でダンジョンについての感想を述べる。

ユウジの言葉通り、私達のダンジョン攻略は進捗がよろしくない。

ジャイアントグラスホッパーの群れと戦った時は、半日で4レベル上がったが、今日はまだ1レベルしか上がっていない。せっかくのモンスターの巣窟であるダンジョン内にいるのに、ダンジョン内のトラップのせいで、思い通りに経験値を稼げられていない。


「このダンジョンは、出現するモンスターのレベルこそ僕達に合っていますが、トラップの数は異様に多いですね。それに、ファニートラップの数が多すぎます。まるで、僕達を嘲笑っているかのようで、正直なところ腹が立ちますね。」


シロ君がにっこりと私に笑いかけるが、苛立ちを隠せていない。

シロ君も度重なるトラップに苛立っているようだ。


「ふっふっふ!ダンジョン内のトラップに、こんにゃろうってなってる全員に良いお知らせ!!罠感知(わなかんち)のスキルを取得したよー!!」


なんだか大人しいなと思っていた愛は、どうやらスキルを取得していたようだ。

何度も罠を発動させることで手に入るスキルだが、愛の話を聞いたところでは、罠の場所が分かるようになるスキルらしい。


「このスキルがあれば、ダンジョン内のトラップはもう怖くない!!ってことで再び進軍だー!!」


両手を上げて元気良く立ち上がる愛。セーフティストーンの外へ走り出す。

手に持っていたパンを口の中に無理矢理押し込み、私達も愛の後を追って走り出す。


愛が衝動的に取得したスキル罠感知だが、このダンジョンにとっては効果てき面だった。

スキル罠感知を持つ愛を先導にすることで、先ほどまで苦しめられていたトラップを発動させることが減り、私達はダンジョン攻略を効果的に進められるようになった。


そんな私達に転機が訪れたのは、五階の階段を下りてすぐのこと。


「あー!!宝箱ー!!美雪ー!!こっちに宝箱があるよー!!早く来てー!!」


部屋に飛び込んだ愛を追って私達も部屋に入ると、部屋の真ん中に置かれた豪華な箱の前で、愛が両手を広げていた。周囲の地面より少し高い石の台座の上に置かれ、土や岩が剥き出しの地面や床に、全く馴染まない豪華な装飾がほどこされた箱。


「うわっ、あやしい。明らかにトラップね…。」


「明らかにトラップですね…。」


「愛、開けるなよ!!絶対に開けるなよ!!」


「分かった!!トラップでしょ!私、学んだ!!」


度重なるトラップ発動で、愛も学んだようだ。以前の愛なら、止まらずに宝箱を開けていただろうが、今回は私達の到着を待ってくれている。

豪華な宝箱を目の前に、作戦会議が始まる。


「ダンジョン内にはこのような豪華な宝箱が出現し、強力な装備品や特別なアイテムを手に入れられると聞きますが、この箱がそうでしょうか?」


「こんな、まさに宝箱って感じの箱、ゲームでしか見たことないが…。こうやって部屋の真ん中に堂々と置かれてると、流石にトラップを疑うよな。わざわざ仰々しい台座の上に置かれてるし。」


目の前の宝箱は、他の地面より少し高い台座に置かれている。まるで、宝箱の存在を誇示するかのように。


「でも、この宝箱からはトラップの気配を感じないよー!安全だと思う!開けようよー!」


「愛がトラップは無いって言ってるし、開けてみましょうか。一応の警戒のために、私が少し離れたとこで見張ってるから、さっと開けて、さっと中の物を手に入れるのよ!」


「りょーかい!」


今まで助けられた愛のスキル罠感知を信じ、宝箱を開けることに決める。

私は台座から降りて、なにかあった時のために弓矢を構える。


「警戒オーケー!愛、宝箱を開けちゃって!何か異変を感じたら、すぐに手を止めるのよ!」


「りょーかい!それじゃ、オープン!!」


愛は勢いよく宝箱を開ける。


「おー!きらきらの指輪!これは強力な装備品でしょ!」


「強い魔力を感じます!これは良い装備品に違いありません!」


「魔力のステータスが大きく上がる、青水晶の指輪か。これなら、美雪さんかシロが装備するべきだが、どうするー?って、あれ…?美雪さんは?」


ユウジの質問に答える者はいなかった。


確かに愛の罠感知は正しく、宝箱にトラップはなかった。

しかし、宝箱のすぐ後ろに感知系のトラップが仕掛けられていた。愛が勢いよく開いた宝箱の蓋は、その感知系のトラップを発動させた。


発動したのは、落とし穴トラップ。

台座以外の地面が急にぱかっと開き、警戒のために一人台座から降りていた私だけが、下の階に落とされた。閉じていく地面を視界におさめながら、私は必死に風魔法を発動させる。

下の階に打ち付けられる直前、発動した風魔法によって落下の勢いを殺す。勢いを殺しきれなかったため、全身に痛みが走るが、なんとか命を落とすことは防いだ。


痛む体をポーションで回復しながら、なんとか立ち上がって現状を確認する。

暗い洞窟の中で一人、仲間達とはぐれ、モンスター達の鳴き声が聞こえる中で、私は途方に暮れ立ち尽くしている。


「あはは…。選択肢、間違えちゃったかな?」


既視感を覚える光景を目の前に、私は宝箱を開けるという選択をしたことを後悔する。

ダンジョンの中で私は一人、完全に孤立した。


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