英雄の凱旋
前回のあらすじ:メイドのメイコさんから魔法による奇襲を受けた。
「皆さん!!あそこを見てください!!二人が戻ってきましたよ!!」
裏門からぐるっと回って正門に現れた愛と私を確認したシロ君が大声を上げる。
そんなシロ君の声に、私達の登場を心待ちにしていたファストの町の住人全員が、わぁっと大声を上げる。しかし、私達の姿を確認した住人達は、一瞬にして言葉を失う。
静寂の中、ゆっくりとした足取りで、愛と私はファストの町の住人の前へと歩を進める。
「町を救った英雄って、あの二人の少女なの!?私達より、全然小さいじゃない!そんな小さな少女が、あんなにボロボロの姿に!?そこまでして、私達の町を守ってくれたっていうの…!?服もあちこち焦げているし…!!まさに、命がけじゃない!!」
土まみれ、ボロボロになったコートを引きずりながら現れた私に、主婦が驚愕の声をあげる。
「それよりも見ろ!!あの格闘家少女がひきずってる足!!あの足はまさか!?クイーングラスホッパーの足!?群れの中に、クイーンがいたってことか!?あの少女は、あんなにボロボロになりながら、群れの原因であるクイーンを討ち取ったってことか!?俺よりも若いあの少女が!?」
私と同じく、土まみれの道着でクイーングラスホッパーの足を片手で引きずりながら現れた愛に、男性冒険者が驚愕の声をあげる。
「なんで美雪さんと愛ちゃんはあんなにボロボロなんだ?始まりの草原で別れた後に、ワイバーンにでも襲われたのか?」
私達のボロボロな外見を確認したダースさんは首を傾げる。隣のシロ君も、何ででしょうと首を傾げる。そりゃそうだ。私達が始まりの草原で別れた時は、こんなにボロボロじゃなかった。
私達が、こんなボロボロの服装で現れたのには理由がある。裏門にて、メイコさんから火魔法による奇襲を受けたからだ。
レベルアップによって高まった魔法防御力のおかげで、ダメージこそ少なかったが、信頼していたメイコさんからの奇襲。何か理由があるだろうと思い、即座に反撃しようとする愛を押さえながら理由を聞いたところ、毅然とした態度でメイコさんは答える。
「突然の魔法、大変失礼いたしました。本来であれば、ちゃんと理由を説明してから行うことだったのは重々承知しておりますが、私にも理由がございまして、今回の奇襲を実行させていただきました。」
「理由?教えていただけませんか?」
「御二人の姿には、死闘を繰り広げてきた感が足りなかったので、ダメージを与えさせていただきました。」
死闘を繰り広げてきた感が足りないから、ダメージを与えた?どういうこと?
首を傾げた私達に、メイコさんは補足する。
「モンスターの大群を無傷で追っ払ったとなれば、賞賛よりも恐怖の心が勝ってしまうでしょう。それほど、今回の勝利は異質なものです。ギリギリの戦いの中、ギリギリのところで勝ったようにしなければ、平和ボケした住人は納得することが出来ないでしょう。そのため、お二人には少しボロボロになっていただこうと思ったのです。」
メイコさんの、賞賛よりも恐怖の心が勝るという言葉に、最初は何を言ってるんだろうと思ったが、深く考えると、確かにと納得する。
転生前の感覚で考えると、交差点で猛スピードの車に轢かれても、無傷のまま笑顔で立ち上がったら、その人は化け物と感じるだろう。しかし、腕と足を骨折したが、なんとか一命を取り留めた、だったら少し頑丈な人程度で済む。
今回の場合も、一万匹を超えるモンスター相手に、無傷の勝利を収めるような私達は人間じゃない。人間の皮を被った化け物と感じられてしまうだろう。
そのため、メイコさんは楽勝ではなく、苦労の末の辛勝を装うために火魔法を使ったと。確かに、私の服はあちこちが焦げ、すすで汚れ、激戦を繰り広げた雰囲気が少しかもし出されている。
「なるほど。魔法による奇襲について理解しました。でも、次は事前に言っていただけると幸いです。少し、驚きました。」
詠唱破棄とはいえ、私の最大の火魔法を少し驚きました程度とは…。もう化け物扱いで良いんじゃないでしょうか。メイコさんが小さな声で呟いたけど、聞かなかったことにする。
「事前に教えてしまうと、身構えてしまい私の魔法では美雪さんにダメージを与えられないでしょう。そのための不意打ちです。驚かせてしまったことついては、誠に申し訳ございませんでした。と、メイドのメイコは、更なるダメージを加えるために、魔法を受けていただくことを打診します。」
まるで、日頃のストレスを晴らせるチャンス、といった表情を浮かべるメイコさん。あれ、私情が入ってませんか?
「事前に断ったので、詠唱有りの本気魔法をぶつけても問題ないですね。と、メイドのメイコは、日頃のストレスを晴らしつつ、新しく取得した地魔法を試せるチャンスが到来したことを、内心では喜びながらも、そのような感情を感じさせないように平常心のまま静かに笑いかけます。」
「本音が駄々漏れ!!メイコさん、隠しきれてませんよー!!」
私の抗議の言葉に、メイコさんは静かに笑いかけてくる。美人ってお得だな。そう笑いかけられると、これ以上反論できないもん。
「よっしゃー!火魔法でも、地魔法でもなんでも来ーい!!剛を極めるため、魔法も克服してやるー!!」
「愛もヤル気なんで、やっちゃってください!!でも、私達を光の粒に変えないように注意してくださいねー!!」
覚悟を決めた私達は、メイコさんに対して両手両足を広げ、魔法を全身で受け止める体制を取る。
その後、メイコさんから何回も火魔法と地魔法を受けた私達は、更なる激闘感を加えるため、わざと地面をごろごろと転がり、全身をボロボロにした後、こうして正門に現れたのだ。
そんなボロボロの私達に、集まったファストの町の住人全員の視線が集まる。なんとなくだが、全員が私達に何かを期待しているような?
あー、この視線は見覚えがある。確実にこれは待ってる。私達の言葉を、期待のこもった視線で待っている。
仕方ないと、ネクタイを締め直している私の前に、愛が堂々と立つ。
「静まれーい!!」
愛の強い口調に、わいわいがやがやと話していた全員が口を閉じる。全員がごくりと息を飲む中、愛はゆっくりと口を開く。
「この町に迫っていた脅威は、私達が苦難の末に討ち取ったー!!見よ!これが敵の大将なりー!!」
愛はクイーングラスホッパーの足を天高く掲げる。まるで、敵の対象の首を掲げるように。
「「おー!!!」」
愛の戦国武将のような勝どきに、住人は歓喜の雄叫びを上げる。周囲の期待に応える、お手本のような愛の勝どき。
以前、指きりげんまんをした時も、愛の出身地である鬼火流の誓いと言って、急に難しい言葉を並べていたが、これも鬼火流かな?気になるところだが、住民達が喜んでいるので一旦は気にしないことにする。
「おい、みんな!!町を救ってくれた二人は、激闘でお疲れのはずだ!!こんなとこで立ち話をしていたら迷惑ってんだ!!」
歓喜の声を上げていた住人の中からダースさんが声を上げ、喜びで暴走しそうになっていた住人を止めてくれた。歓喜の住人達によって、もみくちゃにされていたところだったので、ダースさんの静止はすごく助かる。大柄な男性達は胴上げの準備をしていたし、喜ぶ子供達は私達の手足に抱きついてきていた。
「それなら、僕の屋敷に招待します!そこで、疲れを取りましょう!」
「領主の家なら、お二人を案内するのに一番だぜー!!なんせ、この町で一番豪華だからな!!というわけで、坊ちゃん!お二人を頼んだぜー!!」
まだまだ喜び足りない住人達を、ダースさんは無理矢理になだめながら、私達をシロ君の馬車の中に乗せる。
こうして、喜ぶ住人達に見送られながら馬車に乗り、町の奥にある領主の家、つまり、シロ君の家へと案内される。
馬車に乗ること数分。目の前にいかにもな西洋の大きな館が現れる。
色とりどりの花に囲まれ、白と緑を基調とした、豪華な装飾が施された三階建ての館。確認したところ、目の前の大きく立派な館が、シロ君の家で間違いないらしい。お金持ちだろうなとは思っていたが、ここまでとは…。
そんなシロ君の家の前には、三十代後半くらいの男性が立っていた。立派な服装に、シロ君と同じ金髪碧眼。シロ君をそのまま大きくしたかのような男性。思っていたより若いが、その特徴からシロ君のお父さんと確信する。
「ホワイト、戻ったか!!」
「父さん!」
男性の声にシロ君は馬車から降り、男性の下へ駆け寄る。シロ君のお父さんで合っていたようだ。
「わしもいるぞい。」
「おじいちゃん!」
シロ君のお父さんに隠れて見えなかったが、屋台スペースで出会った老人も入り口に立っていた。どうやら、シロ君のおじいちゃんだったらしい。
「お父さんから無事にジャイアントグラスホッパーの群れを討ち取ったと聞いたが、その様子では本当のようだな!怪我は無いか!!」
「僕は大丈夫だよ!この方達に助けてもらったからね!父さん、おじいちゃん、紹介するね!」
シロ君の言葉に、私達は馬車から降りる。シロ君のお父さんと言ったら、この町の領主だよね?失礼の無いようにしなければ。
「こちらの女性が、弓弦 美雪さん!先日のダンジョン発見報告の帰り道でも、弓と魔法で、ブラウンウルフの群れから救ってくださいました。」
「ほう、あなたが!!ホワイトから話は聞いております。息子を助けていただき誠にありがとうございます。私は、このファストの町の領主を勤めておりますクリュー・ヒューガルドと申します。」
「わしはグラン・ヒューガルド。ホワイトの祖父じゃ。先ほどは話の途中で走り出してすまなかったのう。」
シロ君のお父さんとおじいさんは深々とお辞儀をする。
「そんなに畏まらないでください!シロ…、いえ、ホワイト君には、私達の方が助けられているくらいなんですから!ジャイアントグラスホッパーの群れとの戦いでも、シロ君のおかげで勝利を収めることができました!」
「そんな、ご謙遜を。優秀な息子ではございますが、ジャイアントグラスホッパーの群れを討ち取れる程じゃないのは承知しております。お二人の力が大きかったのは百も承知です。」
「いえ、謙遜ではございません!私は転生者として、この世界に来たばかりですので、この世界のことに疎いのです。そんな私達に、シロ君はこの世界のことを色々と教えてくれています。そのおかげで、何度も救われてきました!今回ももちろんそうです。ですので、こちらこそ感謝を言わせてください。ありがとうございます!」
私の言葉に、シロ君のお父さんの表情が驚きの色に変わる。つい話してしまったが、転生者という情報は内緒にしといた方が良かっただろうか。
「大丈夫ですよ、すでに僕が話しています。」
私の心配を察したシロ君が、そっと小声で教えてくれる。さすが、シロ君。
「なるほど、あなた方がホワイトが話していた転生者ですね!話は息子達より聞いております。それでは、そちらの道着を着た少女が、愛さんでしょうか?」
「そうだよー!私の名前は、鬼火 愛!美雪と同じ転生者!剛を極めるために、この世界にやってきました!この拳と足で、モンスター達を殴り飛ばし、蹴り飛ばすよー!!おっちゃん、じっちゃん、よろしくなー!」
シロ君のお父さんの問いかけに、愛は元気いっぱい答える。かなり失礼な態度だったが、シロ君のお父さんは笑顔で、よろしくと答える。シロ君のおじいちゃんも、元気でよろしいと笑っている。二人とも寛大で良かった。
「そして、俺の名前は、ユウジ・タチバナ!領主には、前に挨拶をさせてもらったが、改めてよろしくな!」
愛と私に続いて、ユウジが自己紹介をする。あれ、ユウジいたの?
「あれ、ユウジいたの?」
愛も気付いてなかったようだ。首を傾げながらユウジの顔を覗き込む。
「一緒に馬車に乗って来たじゃないか!!美雪さんも、なんで周囲の警戒をしてるんですか!!」
「いや、どこから湧いて来たのかなと思って。」
「湧くって…!?モンスターじゃないんですから!!」
私達のあほなやり取りが落ち着いたところで、シロ君のお父さんがユウジにもお礼の言葉を述べる。
「ユウジくん、君もホワイトを助けてくれたんだな。いけ好かないナンパ転生者だと思っていましたが、あなたも強かったのですね!」
シロ君のお父さんが、ユウジのことを見直している。いや、ユウジはいけ好かないナンパ野郎で間違いないですよ。
「いや、ユウジはいけ好かないナンパ野郎だよ。」
愛がうんうんと頷きながら一言。私も一緒にうんうんと頷く。
ユウジが否定の言葉を続けようとしたが、みぞおちを思いっきり殴って黙らせる。疑問と苦しみに満ちた表情で、ユウジが見上げてくる。
「領主様、申し訳ございません。ぎゃあぎゃあ騒いで迷惑をかけそうだったので、黙らせました。仲間の非礼をお許しください。」
「い、いえ、お気になさらずに…。ここで立ち話もなんですから、中で話すことにしましょう。御礼を兼ねて、今日は泊まっていってください。」
「わしが特別に入手した秘蔵の食材を使った、とびっきりのご馳走もあるぞ!」
「やったー!ご馳走!お腹空いたー!!」
シロ君のお父さんに連れられて家の中に入ると、数人のメイドさんが私達をお辞儀で迎えいれてくる。
テレビでしか見たことのないような光景に驚いていると、メイドさん達の中からにこやかな笑顔のメイコさんが現れる。愛と私をボロボロにした後、先に戻っていたようだ。
「旦那様、美雪さん達はお召し物が汚れておりますので、食事の前にお風呂へとご案内してもよろしいでしょうか。」
ジャイアントグラスホッパーとの戦いで苦戦したように見せるため、愛と私の服装はボロボロになっている。領主様の家に踏み入るのに、この姿では失礼だろう。まぁ、私達がボロボロなのは、ほぼメイコさんのせいだが、今は気にしないことにする。
また、ブラックベアの討伐に向かってから、お風呂に入れていない。つまり、丸二日以上。私の中の残り少ない乙女心が、すぐにお風呂に入りたいと警鐘を上げている。
「美雪さん、よろしいでしょうか?」
「ぜひ!メイコさん、よろしくお願いします!」
領主様の確認に、全力で縦に首を振る。メイコさんの案内に従い、シロ君の家のお風呂へ案内してもらう。シロ君の家のお風呂は、愛と一緒に全身を伸ばしても問題ない、とても広いものだった。体の疲れが抜けていくのを感じながら、のんびりお風呂につかる。
二人ともゆるみきった顔で、恒例になりつつあるお風呂作戦会議を始める。
「美雪ー、明日の予定ってどんな感じー?」
「明日の予定ー?ギルドに行ってクエストの報酬をもらって、ゴルド商店で素材を買い取ってもらってー。手に入れたお金で、ダンジョン挑戦に向けて買出しかなー。」
冒険者ギルドに行けば、お尋ね者モンスターであるブラックベアの討伐クエストの報酬が手に入る。それだけでなく、クエストとしては受注していないが、特例としてジャイアントグラスホッパーの群れを討伐した特別報酬もギルドから出るらしい。
大量のジャイアントグラスホッパーの素材もある。ダンジョン挑戦を控えた現状、当面は財布事情を気にしないで済むのはとても助かる。
「じゃあ、午後くらいからダンジョン挑戦ー?」
「そう思ってたんだけど、方針転換ー。知識がないまま、ダンジョンに挑戦したら危ないと思うんだよねー。シロ君にお願いして、ダンジョン挑戦に向けての勉強会を開いてもらおうかなー。」
「シロ君は断らなそうだけどー、もし断られたらどうするのー?」
「古書店に行って、ダンジョンの情報が書いてある本か、新しい魔法を覚えるための魔道書の買出しかなー。それを使って、勉強だねー。」
始まりの草原でシロ君がくれた炎氷双嵐の魔道書は、古書店で買ったと言っていた。古書店に行けば様々な本が手に入るだろう。使える魔法を増やすためにも、魔道書の調達は重要だ。
「どっちにしろ勉強かー。私、勉強嫌ーい。」
「愛も一緒に勉強してほしいけど、無理強いは出来ないねー。その辺は私の役目だし、愛は明日休日にしようか!好きなことをして過ごして良いよー!」
両手をパタパタ、お風呂の水面をちゃぷちゃぷとしながら、愛は上を向いて考え事をする。
「お休みかー。ぼーっとしてても辛いし、簡単なクエストを受けようかなー!」
「愛が一人でクエスト?うわ、心配。私もついていく。」
「それじゃ意味無いじゃーん!大丈夫だよ、ユウジつれていくよ。」
「愛がユウジと一緒にクエスト?うわ、心配度が上がった。絶対に私もついていく。」
あんな危険な男を、愛と二人にするわけにはいかない。ユウジの毒牙から守るため、同行を提案する。
「だから、それじゃ意味無いじゃーん!確かにユウジと二人は面倒そうだから、ダースに頼んでみるよー!」
「ダースさんと一緒なら安心ね。私からも頼んでみるね。」
「ありがとー!それじゃ、そろそろ風呂上がって食事にしようー!腹ペコだー!」
勢いよく風呂から上がって、脱衣所へダッシュで向かう愛。もう少しのんびりしたかったところだが、着替え終わった愛から生活魔法ドライヤーを熱望されたため、渋々と風呂から上がることにする。
愛はドライヤーを妙に気に入ってるなーと思いながら、髪を乾かしてあげる。メイコさんが用意してくれたパジャマのような洋服に身を包み、すっきりさっぱりとした私達は、ご馳走の待つダイニングルームへ向かう。
「うひょー!ご馳走だー!」
私達を向かえたのは、まさにご馳走といった料理の数々だった。色とりどりの料理の中でも一番目を引くのは、大きな鳥の丸焼き。こんがりと焼かれた、七面鳥より一回り大きい鳥の丸焼きがテーブルの真ん中に置かれている。まるでクリスマス。
「シロ君、モンスターって倒すと一部が素材や食材で手に入るんじゃないの?あの鳥の丸焼き、どう見ても一匹丸々だけど、ああいう風にすべて手に入ることもあるの?」
「このご馳走を目の前にして、気になるのはそこですか…。質問は、ワイルドターキーの丸焼きのことですね。確率は低いですが、モンスターを倒すと全て素材として入手することがあるのです。今回は祖父が特別に入手したワイルドターキー全身を豪快に丸焼きにしました!」
「町を救ってくれた英雄達へのお礼です。遠慮せずに楽しんでください。」
「ほっほっほ!今日は無礼講じゃ!いっぱい食べてくれ!お替りもいっぱい用意しとるからのう!」
「やったー!!いただきまーす!!」
領主様の言葉に、愛は元気いっぱいに応える。しかし、あまりにも大きい鳥の丸焼きに、どこから手を出して良いのか戸惑っている。すかさずメイコさんが切り分けてくれた。
美味しい料理に舌鼓を打ちながら、シロ君に勉強会を、ダースさんにクエストへの同行を依頼した。二人とも快く了承をしてくれたため、無事に明日以降の予定が決まった。
たくさんのご馳走を堪能した私達は、お客様用の宿泊部屋に案内される。豪華なベッドに少し気後れをしたが、たまった疲れと、ふかふかの布団に誘惑に耐えることが出来ず、すぐに眠りにつく。
程無くして、私は夢を見た。
暗い洞窟の中で一人、仲間達とはぐれ、モンスター達の鳴き声が聞こえる中で、私は途方に暮れ立ち尽くしている。
迫り来る多種多様なモンスター達を、なんとか弓矢と魔法で撃退していたが、そんな私を虎視眈々と狙うモンスターが一匹いた。どこかで名前を聞いたことあるモンスター、ベルセルクタイガーだ。
死角から現れた白い虎型のベルセルクタイガー。鋭い牙を剥き出しにし、私を威嚇している。咄嗟に、手に持っていた矢でロケットアローを放つが、矢が爆発による推進力を得る前に、ベルセルクタイガーは私の懐へ潜りこむ。
一瞬にして目の前に迫ったベルセルクタイガーは、鋭い爪で私の右腕を薙ぎ払う。鋭い爪が肉に食い込み、深く切り裂かれ、一瞬にして私の右手は血まみれになる。力を加えようとするが、ぴくりとも動かない。
今まで味わったことの無い激痛が右腕に走り、意識が遠のくが、目の前の白い虎の戦意は衰えない。牙を剥き出しにし、鋭い両手の爪で私へ飛び掛る。とっさに左腕で攻撃を防ごうとするが、持っている弓では白い虎の猛攻は防ぐことが出来ない。
白い虎に押し倒され、首筋に噛み付かれる。白い虎の鋭い牙が食い込んでいく。ぶちぶちという音と共に肉が食い千切られ、生暖かい血が噴水のように噴き出す。凄惨な状態だが、もはや痛みを感じない。体中から力と熱が失われ、意識が深い闇に飲み込まれていく。
そこで、眠りから目覚める。
体中汗だくだ。白い虎に切り裂かれた右腕を確認するが、傷ひとつ無い。寝る前と変わらない右手。
そりゃそうだ。私は寝ていただけ。夢を見ていただけだ。
だが、先ほどの夢は普通のものとは到底思えない。妙に現実味を帯びた夢だった。
もしかして、これから挑もうとしているダンジョンでの出来事を予言した予知夢だろうか。
今までも、仲間になったばかりの愛を矢で貫いたり、ノアに会って黒い影と戦ったりと、不思議な夢は何度も見てきた。今回も同じような不思議な夢と考えてもおかしくない。
いや、ただの夢だ。これからのダンジョン挑戦に何も関係ない、ただの夢だ。
頭に浮かんだ嫌な予感を振り払いながらも、否定しきれない先ほどの夢のリアルさに背筋が震える。明日からのダンジョン挑戦に向けての準備は念入りにしよう。そう心に誓う。




