メイコさんの奇襲
前回のあらすじ:ダンジョンの挑戦に向けて、始まりの草原から走って帰還
「戻ってきたよ、ファストの町ー!ただいまー!!」
ファストの町の入り口に立ち、大声を上げる愛。
近くにいた数人が驚いた表情で振り返るが、声の主を確認したらすぐに元の作業に戻る。なんだかみんな慌てているような気がする。
「二日ぶりね。なんだか人が少ないし、みんな慌ててるような気がするけど、何かあったのかな?」
いつもなら、行き交う人がそれなりにいる町の入り口だが、今日は数人しかいない。その数人でさえも、ばたばたと慌しい様子だ。町の祭りとかが近いのかな?後でゴルド商店を訪れた時、おばちゃんに確認することにしよう。
「ここからだと…、装備品屋が近いから、作成を依頼してたオリジナルアクセサリーの回収から行きましょうか!」
「その前に、お腹空いた!屋台のとこで、なにかおやつ食べよう!」
ファストの町には、子供達が遊ぶ広場の手前に、数軒の屋台が建つスペースがある。そこに行けば、串焼きや果物、簡単な麺料理など、何かしら簡単に食べることが出来る。
昼前に始まりの草原で、メイコさん特製ブルシチューを食べてから時間が経った上、ファストの町まで草原を走り抜いたおかげで、だいぶ空腹だ。夕食前だが何か軽く食べるのはありと思い、愛の提案を受け入れることにする。
「おやつ食べようか!それじゃ、屋台スペースに行こう!」
「わーい!」
二人で楽しく、屋台スペースに向かっている間も、数多くの人達とすれ違う。みんな異様に急いでるが、何かあったのだろうか。
ただならぬ様子に疑問を感じるが、すれ違う人のあまりにも焦った様子に、呼び止めて理由を聞くわけにもいかない。不思議に思いながらも、屋台スペースへ歩を進めることにする。
「なんてこったー!!美雪ー!!屋台一軒も無いよー!!」
屋台スペースに着いて早々、愛が大声を上げる。愛が驚くのも仕方ない。普段は屋台の商人と買い物をする客で、活気に満ち溢れている屋台スペースだが、今日は一軒も屋台が建っていなかったのだ。閑古鳥が鳴くとはまさにこのこと。
さすがにおかしいことに気付いた私は、ベンチに座っている老人へ、この有様について聞いてみることにする。
「ん?今日はなぜ屋台が一軒も建っていないかって?みんな逃げちまったよ。昨日からあんなに騒いでたのに、おぬし達は知らんのか?」
「ちょっと町を離れていたので…。何かあったのですか?」
「服装から判断するに、おぬしらは冒険者か?クエストかなんかで出かけてたんじゃな。運の悪いタイミングで町に戻ってきたのう。それなら、お主たちも早くこの町から逃げた方が良い。」
「逃げる?なぜでしょう?」
「今、この町は危機にさらされとる。近くにジャイアントグラスホッパーの大群が来ておるんじゃ。」
老人の言葉に、愛と私は顔を見合わせる。
「そうか、近頃の若者はジャイアントグラスホッパーの大群を知らぬか。ジャイアントグラスホッパーは、十年に一度、大群を率いて大陸間を移動するんじゃ。あまりの数に、群れが通り過ぎた後には、何も残らん。その群れがこのファストの町に接近しておる。悪いことは言わない、おぬし達も早く非難するんじゃ。」
そういえば、シロ君はジャイアントグラスホッパーの群れが、ファストの町に向かってるから様子見で始まりの草原に訪れたと言っていた。
その間、住人達は避難の準備をしていたのだろう。老人の言葉を聞いて、ファストの町の住人の様子が慌しかった理由が分かった。
「体力自慢の若いのが王都に救援を求めに向かったが、間に合わないじゃろうな。実力自慢の冒険者パーティが討伐に向かっておるが、倒しきれなかった場合、この町は終わりじゃな。抵抗虚しく、ジャイアントグラスホッパーの群れに蹂躙されるじゃろう。」
「おじいさんは逃げないの?」
「わしは子供の頃からこの町で過ごしとるんじゃ。逃げる気にはなれんわい。やれることは少ないじゃろうが、この町を守るため、わしは最後まで抗うぞ!」
愛の質問に、最後まで戦うと覚悟を決め、鬼気迫る表情で応える老人。そんな老人の表情に、私達は少し言いにくい気持ちを感じながら、大事なことを伝える。
「覚悟を決めた表情をしているところ、申し訳ありません。おじいさん、そのジャイアントグラスホッパーの群れですが、先ほど全て倒してきてしまいました。」
「蹴散らしたよー!」
「ほえ?」
私達の言葉に、老人は呆気に取られたような顔になる。二人の少女がモンスターの群れを全て倒したと言っても信じられないのが普通か。もう一度、説明をすることにする。
「草原にブラックベアの討伐に向かった私達の帰り道、ジャイアントグラスホッパーの群れに遭遇したので、領主の息子さん達と一緒に全て倒してきてしまいました。こう見えても私達、強いんです!」
「強いんだぞー!」
「嬢ちゃん達が?近頃、噂になっていたブラックベアも一緒に?ホワイトと?」
ホワイト?あぁ、シロ君の本名か。シロ君、シロ君言っていたから、忘れがちだが、シロ君の本名はホワイト・ヒューガルド。この町の領主の息子である。私は肯定するため、大きく頷く。
「冗談じゃろう?老人をからかうんでないわい。」
老人が全然信じてくれないので、群れを討伐した際に入手した素材、クイーングラスホッパーの足をマグカから取り出して、老人に渡す。
「これは、クイーングラスホッパーの足…?はえー、初めて見た。どうやら本当に群れを倒したんじゃな。やはり、冒険者の強さは見た目によらないのう。」
驚いた表情で私達の全身を確認する老人。愛はボディビルダーのように力強さをアピールするポーズ。
「おっと、こうしてられないわい!!みんなに群れが討伐されたことを伝えにいかないといけないのう!!すまんが、ここで失礼するぞい!」
急に元気になった老人は、町の真ん中へ走っていく。
老人を見送った私達は、お目当ての屋台が無かったため、本来の目的である腹ごしらえが出来なかったため、とぼとぼと屋台スペースを後にする。手持ち無沙汰になってしまった私達は、空腹を堪えながら本来の目的をひとつずつこなしていくことにする。
装備品屋の道中、空腹に耐え切れずにわーわー文句を言い始めた愛には、非常食であるビーフジャーキーのような干し肉を渡す。干し肉をがじがじ齧る愛と一緒に装備品屋を目指す。
装備品屋を訪れた私達は、依頼していたラッキーバードの羽根を素材にしたオリジナルアクセサリーを受け取る。ジャイアントグラスホッパーの群れの襲来により、装備品屋も閉まっているかと思ったが、変わらずに開店をしていた。私達にアクセサリーを渡すまで逃げないで待っててくれたらしい。嬉しいことだ。
そんな、装備品屋の人達へ、ジャイアントグラスホッパーの群れは私達が倒したことを報告する。店主のドワーフさんと、店員の犬人族のポナギさんは最初信じてくれなかったが、クイーングラスホッパーの足を見せたことで、私達の言葉を信じてくれた。
脅威が取り除かれたことによる歓喜の二人を横目に、受け取ったオリジナルアクセサリーを確認する。
ラッキーバードの羽根を象った、銀色の小さい羽根が可愛らしいネックレス。華美な装飾は無く、シンプルなネックレスだが、細かいところまで丁寧に仕上げられ、職人の技術力を感じさせる見事な一品。
手の中の、見事なアクセサリーに満足しながらも、肝心の性能を確認することにする。この世界には、アクセサリー等の装飾品も、装備することでステータスアップすることができる。
作成したポナギさんは、会心の出来と言っていたが、どれほどの性能だろうか。確認するため、マグカを取り出す。
名:幸運鳥の首飾り
分類:ネックレス
ランク:3
性能:防御+10、運+5
重量:1
説明:ラッキーバードの羽根で作られたネックレス。装備する者に幸運をもたらす。
運のステータスが上がるのにも驚きだが、防御力の上昇数値に驚かされる。私が今装備しているレザーコートは防御力+8。このネックレスを装備するだけで、私が着ているレザーコートよりも高い防御力上昇を得られるらしい。
愛にも幸運鳥の首飾りを渡し、首からかけて装備する。きらきらと光るネックレスに愛も満足の笑みを浮かべる。
見た目、性能ともに満足だったため、残り二本のラッキーバードの羽根も、同じアクセサリーの作成を依頼し、装飾品屋を後にする。
日も傾き、景色が朱色に染まってきたため、ギルドへのクエスト達成報告は明日にし、モンスターの素材を売却するため、おばちゃんのゴルド商店へ向かうことにする。
「ねぇねぇ、美雪ー。あそこに人が集まってるけど、どうしたのかな?」
向かっている途中、愛が町の入り口近くに人だかりが出来ていることに気付く。なんだろうと不思議に思いながら近付いてみると、全員で町の入り口を見ている。なんとなく、何かが来るのを心待ちにしているような?
「お嬢ちゃん、みんなは何を待っているの?」
少し観察してみたが、全員が何を待っているのか分からなかったので、近くの女の子に何があったのか聞いてみた。
「ひ、ひぃ…!!え、えーっと…、わ、私達は今、この町を救ってくれた人の到着を待ってます!ご、ごめんなさい!!」
怖がらせないように精一杯の笑みを浮かべたが、持ち前の目つきの悪さで、女の子を少し怖がらせてしまった。申し訳ない。
しかし、この集団がなぜ集まっているか分かった。この町を救った人、つまりシロ君のことを待っているらしい。先ほどまで、この町はジャイアントグラスホッパーの群れに襲われかけていた。危険を顧みず、接近する群れの討伐に向かったシロ君は、英雄として迎えられるだろう。こうして多くの人達が、シロ君の凱旋を今か今かと待っているのも納得である。
愛と私も、一緒にシロ君の到着を待つことにする。そんな私の耳に、とある声が聞こえてくる。
「皆さん!夕方になってしまいましたが、ジャイアントグラスホッパーの群れを見事に討ち取った英雄は必ずこの町に戻ってきます!」
聞こえてきた声は、みんなが待っていると思っていたシロ君張本人の声だ。あれ?この人達はシロ君待ちじゃないの?
「僕達と一緒に、この町に迫る脅威を討ち取った、二人の冒険者!美雪さんと愛さんが、今この町へ戻ってきてます!!諸事情で、僕達は馬車で先に戻ってきましたが、お二人は今も走ってこの町に向かっております!!息も絶え絶えで現れると思いますので、皆さんで温かく迎え入れましょう!!この町を救ってくれた英雄を!!」
「「おー!!!」」
シロ君の声に、周囲にいた人達が同意とばかりに大声を上げる。なぜか愛も一緒に大声を上げている。
周囲の人達の様子に、私は勘違いに気付く。シロ君待ちの人だかりだと思っていたが、どうやら愛と私のことを待っていたらしい。
予想していなかった事態に言葉を失っていると、周囲を見回していたシロ君と一瞬目が合う。シロ君は気付かなかったのか、そのまま視線が通り過ぎたが、すぐに私達に視線を戻す。すごい勢い。見事な二度見だ。
そんなシロ君の表情が語っている。
なんで馬車より早く到着してるんですか!?ここにいる人全員が、美雪さん達の凱旋を心待ちにしてるんですよ!!後ろから現れたら大混乱ですよ!!
そんなこと言われてもー!と思っていると、肩をたたかれる。
「美雪さん、こちらです。私の後に付いて来てください。と、メイドのメイコは坊ちゃまの威厳を守るために提案をさせていただきます。」
声の主は、シロ君の側近のメイドさんである、メイコさんだった。私達の状況にいち早く気付いたのか、助け舟を出してくれるようだ。この状況を改善するため、素直に従うことにする。ちょいちょいと手招きをするメイコさんの後を追う。
周囲にばれないように、こっそりとメイコさんの後を追うこと数分。小さな門の前に辿り着く。町の正門より、だいぶこじんまりと落ち着いた門。位置的には正門のちょうど反対側だ。
「ほえー、こんなところにも出入り口があったんだねー!」
周囲をきょろきょろしながら愛がメイコさんに確認する。
「ここはファストの町の裏門です。道が整備されていないため、あまり使われることがありません。ここからなら、集まってる住人に気付かれずに正門に回り込むことが出来るでしょう。住人の期待に応えるため、正門から堂々と凱旋してください。」
どうやら、メイコさんは裏門に案内をしてくれたようだ。
ここからなら大きく迂回をすれば正門に辿り着くことができるだろう。メイコさんに感謝の気持ちを伝えようとしたところで、私の全身をメイコさんが真剣な表情で確認していることに気付く。どうしたのかな?
「ここなら、正門から離れているから、大きな音がしても気付きませんよね。」
メイコさんは、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべる。その表情に嫌な気配を感じた私は、思わず少し後ずさりをする。
そんな私にメイコさんは手の平を向け、魔力を練り上げ始める。
「ファイアブラスト!!」
メイコさんは声を張り上げ、詠唱破棄での火魔法ファイアブラストを私に向けて放つ。
裏門に呼び出された私は、安心しきっていた相手からの不意の火魔法ファイアブラストによって、火に包まれながら吹き飛ばされる。なぜメイコさんが急に、火魔法を使ったのか。真実は次回。




