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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
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戦いの後の一休み

前回のあらすじ:無事にジャイアントグラスホッパーの群れを殲滅!


ジャイアントグラスホッパーの群れの原因であるクイーングラスホッパーを無事に討ち取った(あい)と私。互いの奮闘を称えあっている私達に、遠くから手を振りながらシロ君、少し遅れてダースさんが近付いてくる。


「シロ君!この魔道書ありがとうね!これが無かったら、雑兵バッタと戦っている間に、クイーンに逃げられていたと思う!」


片手に持っていた魔道書を掲げながら、シロ君に感謝の言葉を述べる。


「いえ、感謝を言いたいのはこちらですよ!クイーンが逃げ出した時は諦めかけましたが、なんとか無事にファストの町を守ることができました!美雪(みゆき)さんと愛さんに出会ってから、感謝しっぱなしですが、もう一度言わせてください!ありがとうございました!」


「坊ちゃんが言うとおり、助けられてばかりだな!年上なのに恥ずかしいぜ…。ブラックベアから助けられたのも含めて、ありがとな!」


改めて二人から一気に感謝を言われると、なんだか照れくさい。照れくさいけど、素直に嬉しい気持ちが込み上げる。


「通りがかったついでの討伐だったんだから、そんなに畏まらないで!助けられたのは私も一緒だし!あ、この魔道書お返しするね!」


私の差し出した魔道書を、シロ君は手で遮り首を横に振る。


「そちらの魔道書は差し上げます!ファストの町に戻ったら、正式なお礼をさせていただきますが、ひとまずのお礼として受け取っていただけると幸いです!」


「ありがとう!遠慮なくもらうわね!」


シロ君がくれた炎氷双嵐(アイスフィアストーム)の魔道書をマグカにしまう。

背景に描かれた恋愛物語が気になっていたところだから、すごく助かる。眠りにつく前の読書として、少しずつ読んでいくとしよう。


「愛さんにも何かお礼をさせてくださいね!」


「気にしないでー!バッタ達を倒して大幅レベルアップで、私もラッキーだからねー!!でも、お礼くれるなら、美味しい食べ物をいっぱいお願い!」


「こら、愛!遠慮というものを覚えなさい!」


「えー?くれるっていうんだから貰っておこうよー!良いよね、シロ君?」


「もちろんです!ファストの町に着いたら、ご馳走を用意しますね!」


「やったー!」


愛が両手を上げて喜ぶ。そんながら空きになったお腹から、くーっと可愛らしい音が聞こえてくる。


「美雪ー、お腹空いたー。」


「朝から何も食べてなかったわね。朝ご飯というか、早めの昼食って感じの時間帯だけど、どこかでご飯にしようか!」


「やったー!でも、何食べるのー?」


「お任せください!こんなこともあろうかと、あそこのセーフティストーンで食事の準備をしておりますので!」


シロ君が指差した先には、すでにメイコさんが焚き火を使い、鍋で何かを作っていた。


「ゆっくりご飯を食べても、ここから僕の馬車で日が沈む前にファストの町に帰れますし、助けていただいたお礼も兼ねて、ご馳走させてください!メイコの料理は絶品ですよ!」


「「さすがシロ君!!」」


愛と私は声を合わせて、シロ君の抜かりない準備を称える。


「調理器具が限られているため、あまり凝ったものは作れませんでしたが、体力回復には効果抜群の、ダッシュブルの肉を使ったブルシチューを用意させていただきました。もう少し煮込めば完成しますので、そちらに座ってお待ちください。」


シロ君の近くにメイコさんがいないのは珍しいなと思っていたが、どうやら食事の用意をしてくれていたらしい。感謝の言葉を述べながら、メイコさんが用意してくれた席に着く。


草原を包み込む美味しそうな料理の匂いに、期待を膨らませていると、ビーフシチューによく似たスープが目の前に並べられる。どうやらこれがブルシチューらしい。ごろごろとしたお肉が食欲をそそる。


「うわー、美味しそう!!食べて良い!?良いよね!?」


「ダメよ!全員分が並べ終わるまで、待ちなさい!」


今にもブルシチューにかぶりつきそうな愛の肩を押さえる。しかし、止めている私自身も目の前の美味しそうなスープから視線を外せない。正直に言うと、早く食べたい。すごく美味しそう。


「待てない気持ちは分かるぜー!メイコのブルシチューは絶品だからな!王都の料理大会でも、決勝戦に勝ち進むくらいの腕前だぜ!」


ダースさんの言葉に期待がさらに膨らみ、早く並べ終わらないかなーとメイコさんを観察する。

スキの無いテキパキとした動きで食事を並べるメイコさんは、誰も座っていない、六席目の席にも食事を並べる。


誰も座っていない、六席目の席。さも当然のように置かれた六人目の食事。


え、そこには誰もいないよ!?メイコさんには私に見えない何かが見えているというの!?


まさか、幽霊…?


いや、違う!!なにか理由があるはずだ!!

頭を左右に振り、浮かんだ嫌なイメージを払拭する。霊的な物が苦手な私は、背筋に冷たいものを感じながらも、必死に六人目の食事の理由を考える。


一つ目、数え間違い。

再度食卓にいる人数を確認する。愛、シロ君、ダースさん、メイコさん、私の五人。

間違いなく五人だ。数え間違いじゃない。


二つ目、異世界の文化。

神に感謝するため、神の分の食事も用意するといった感じの文化的な配膳。

多分、違うな…。今まで、こっちの人たちと何回も食事をしたが、そういうことをしていた記憶はない。

つまり、六人目の食事は異世界の文化じゃない。


ということは…?

いや、違う!絶対に幽霊じゃないと自分に言い聞かせながらも、否定するためのそれらしい理由が見つからない。

仕方ない。恐る恐るメイコさんに確認することにする。


「メイコさん…、その食事は…?」


震える指で、空席に置かれた食事を指差す。


「私のお替りだよね!」


私のシリアスな雰囲気など、どこ吹く風。愛は嬉しそうに笑いながら質問する。


「いえ、美雪さんの背後の(かた)への食事ですが?どうかなさいました?」


「え…!?」


私の背後!?

氷水を頭からかけられたような戦慄とともに、背後に嫌な気配を感じる。

夏によくやる心霊現象を取り上げたテレビ番組では、振り返ると幽霊がいた、というのはよくある話。

しかし、まさか自分が体験することになるとは…。体の震えを必死に抑えながら、嫌な気配の発生源である後ろを、恐る恐る振り返る。

そこには、大柄の筋肉質の男が一人立っていた。


「ひぃ…!!」


霊感は無い方だと思っていたが、私にもはっきりと背後の男が見えた。短髪、あごひげ、筋骨隆々のワイルドな男が、こっちを未練がましく睨んでいる。恐れていた心霊現象が、実体験になってしまったと体が震えるが、とある結論に辿り着き震えが収まる。

この特徴を満たしている男を、私は知っているような?


「なんだ、ユウジか。」


愛が、つまんなそうに背後の男の正体を述べる。背後の男は幽霊ではなく、いけ好かないナンパ転生者のユウジだった。


「なんだ、ユウジかじゃねぇ。俺のこと忘れて、食事をしようとしてなかったか?俺がナイトグラスホッパーの残りと戦っている間に、食事をしようとしてなかったか?」


「ユウジが、スキル挑発を使ったからだろー!!自業自得じゃんよー!!自分の後始末くらい、自分でしろよー!!」


ユウジに対して怒る愛に、私は手を伸ばし止める。大人しくなった愛とユウジの間に、私は立つ。


「お、美雪さんも分かってくれるんだな…、って、なんだか様子がおかしいぞ…?どうしたんだ、美雪さん…?」


「おい、ユウジ。お前は二度と私の背後に立つんじゃねぇ。」


「なんで美雪さんはこんなに機嫌が悪いんだ!?」


幽霊じゃなく、実体があるなら問題ない。心霊現象かと私を震え上がらせたユウジの襟元を、腹いせに渾身の力でギリギリと締め上げる。


「私は背後に立たれるのが嫌いなんだ。特に、音もたてずに後ろに立つような真似は絶対にするな。自分の死角である背後をとられるイコール死だからな。」


「美雪さんは、どっかの凄腕スナイパーなの!?」


「スナイパー?違うよ。見たら分かるだろ?何言ってるんだ?」


「ダメだ!!話が通じねぇ!!」


「まぁまぁ、喧嘩は後にして、ご飯にしましょう!せっかくのブルシチューが冷めてしまいますよ!」


シロ君の仲裁を受け、渋々ながらも私は大人しく席に着く。愛が、どうどうと声をかけてくる。まるで、猛獣を鎮めるかのように。

ん?私もしかして猛獣扱いされてる?


「美雪も落ち着いたようだし、いただきます!!」


「いただきます!!」


「いただきます?」


待ちきれないとばかりの愛のいただきますに続き、私以外の全員が元気良く答える。猛獣扱いされたことにモヤモヤを感じていたが、目の前のブルシチューの美味しそうな香りが鼻腔をくすぐったことで、どうでもよくなってしまった。


すごい勢いでバクバクと食べる愛を横目に、私も木で作られた匙を手に取る。木の匙でも簡単にほろほろと崩れる柔らかく煮込まれたお肉。適度なサイズにほぐしたお肉を、シチューと一緒に口へ運ぶ。


「美味しい!!お肉が柔らかくてジューシーで、少しスパイシーなところが食欲を増進させて!匙が止まらない!!」


「うまい!!おかわり!!」


私の賞賛と、愛の元気いっぱいのおかわりに、メイコさんの表情が少し明るくなったように感じる。愛のおかわりをよそいながら、味の秘訣を教えてくれる。


「ブルの肉は十時間ほど煮込むことで、このように柔らかく仕上げることが出来ます。また、少し獣独特の臭みがありますが、ルーと一緒にスパイスを使うことで臭みを抑え、旨味に変換することが出来ます。」


「十時間?あれ?そんなに煮込んでる時間ありました?」


「事前に煮込んでいた物を、マグカに収納しておきました。こうすれば、時間短縮でブルシチューを作ることが出来ます。」


「なるほどー。さすが、メイコさんですね。」


どうやら、マグカに収納すると、物の時間経過を止めることが出来るらしい。生物を生きたまま保管することは出来ないが、マグカを利用することで、山奥でも新鮮な魚を食べることが出来るらしい。

どんなに大量の荷物も、ポケットにしまえるサイズのカードに収納できるマグカ。これ一枚で現代の運送業者は真っ青になる性能だ。


「ねぇ、美雪ー。これからどうするー?」


マグカを観察していた私に、三杯目のブルシチューを満喫している愛が質問を持ちかけてくる。


「レベル10の壁も超えたし、ファストの町に戻ったらダンジョン行ってみようかー!」


「それなら、俺がダンジョンの案内をするぜ!王都のダンジョンにも挑戦したことあるからな!ファストの町のダンジョンは、なぜか領主に入り口を塞がれてて一般人は入れないけど、抜け道を見つけたからな!まぁ、ダンジョンの入り口の扉は、暗号で封印されてたから入れなかったけどな!」


ここは見せ場と、ファストの町のダンジョンについて、得意気に語るユウジ。情報を手に入れられるのは助かると、ユウジに案内を依頼しようと思っていた矢先、シロ君が私に話しかける。


「美雪さん、僕なら正面から正々堂々と入れるので、僕がダンジョンを案内しますね!その代わり、ダンジョンの入り口の封印に施された暗号解読を手伝ってください!あ、ユウジは後で抜け道の情報を教えてください。塞ぎますので。」


「坊ちゃん、何の権限があってお前は領主が塞ぐダンジョンに入れるんだ?あ?」


言葉を遮られたユウジが、柄悪くシロ君につっかかる。そんなユウジに臆することなく、シロ君は落ち着いた声で答える。


「僕は領主の息子なので、ダンジョン調査の権限をもらっています。ユウジと違って、僕は、問題なく堂々と正面からダンジョンに入れます。」


ユウジと違って僕は、の部分を強調しながら、シロ君がユウジに回答する。ユウジは反論の余地無く、ぐぬぬと唸るだけである。シロ君の勝利。


「美雪さん、坊ちゃまが領主の息子と初めて言ったはずですが、驚いていませんね。やはり気付いていましたか?」


ユウジとシロ君の舌戦を眺めていた私に、メイコさんが耳打ちをしてくる。突然、美少女の顔が急接近したため少し怯んだが、表情に出さずにメイコさんの質問に答える。


「ファストの町に住んでたら、さすがに気付きますよ。私達が泊まってる宿屋の銀字塔(ぎんじとう)には、シロ君の幼馴染のナチュラさんとラルチさんがいますしね。二人から、シロ君が領主の息子だってことは聞きました。」


「ナチュラルチーズに聞いたんですね。あの二人なら、確かに話してもおかしくないですね。」


「ナチュラさんとラルチさんで、ナチュラルチーズですか…。」


ナチュラさんとラルチさん、略してナチュラルチーズ。確かにその通りだけど、どうしてもネズミが好きな乳製品を連想してしまう。


「しかし、美雪さんと愛さんは、坊ちゃまが領主の息子と知っても、態度が変わらないのですね?」


ファストの町の領主の息子、しかも長男らしいので、次代の領主と言っても過言で無い。そんな人に、私は気軽に接している。いくらシロ君が怒ってなくても、周囲の人に怒られても仕方ない。

その辺りを恐る恐るメイコさんに確認する。


「ダメでしたかね?」


「いえ、坊ちゃまも楽しそうなので、そのままの口調でお願いします。美雪さんと一緒にいる時の坊ちゃまは、とても表情豊かで、私としても嬉しいです。」


「では、遠慮なく今のままで!領主の息子って知る前の口調で慣れちゃったからね!」


「お願いします。」


領主の息子であるシロ君への態度を、側近であるメイコさんに許されたことに一安心していた私の耳もとに、表情を引き締めたメイコさんが語りかける。


「坊ちゃまは領主の息子という立場上、どうしても気軽に話せる相手が少ないのです。寂しい子供時代を過ごしてしまったかもしれません。そのため、美雪さんや愛さんのような方々は、坊ちゃまにとってとても貴重なのです。これからも、坊ちゃまと仲良くしていただきますよう、お願いいたします。」


「そう言ってもらえると助かりますが…。なんだか、家族のような目線ですね。」


普段のシロ君大好きなメイドさんとは違う、メイコさんの慈しみに満ち溢れた表情に、思わず家族みたいと言ってしまったが、私のその言葉にメイコさんは笑顔を浮かべる。


「ふふ、私は坊ちゃまのことが大好きで仕方ないですが、あくまでも坊ちゃまのメイドです。家族だなんて、おこがましいですよ!ただ、私が坊ちゃまのことを心配していたのは、秘密にしてくださいね!」


自分が男性だったら、心を射抜かれていてもおかしくない美少女の微笑み。そんな微笑みに言葉を失っていると、私達の様子に気付いたシロ君が声をかけてくる。


「メイコが笑っているのは珍しいですね!なにか、楽しいことがあったのですか?」


「メイコさんと私の二人だけの秘密だよー!いくらシロ君でも教えられないよー!」


「そうです。どうしても教えて欲しいなら、私のお願いをひとつ聞いていただきますよ?」


「メイコのお願いをひとつ…?秘密で構いません…。」


メイコさんのお願いという言葉に、何かを思い出したのか震えだすシロ君。

マグカから杖を取り出し、怯えながらも杖を構えるシロ君。そんなシロ君を恍惚の表情で見ながら、ちろっと小さく舌なめずりをするメイコさん。一体、二人の過去に何があったのか。

とても気になるところだが、シロ君に聞きたかったことを思い出したので、妙な雰囲気を変えるためにも聞いてみることにする。


「そういえば、シロ君に聞きたかったことがあるんだけど、良いかな?」


「聞きたかったこと?何でしょう?」


怯えから立ち直ったシロ君が私の問いかけに応じてくれる。


「クイーンを討ち取った時に、白い光の粒がぐるっと愛の周囲を回ったけど、あれって何かな?愛に何か異変が起きたわけではなかったけれど、ずっと気になってて。」


「確かにキラキラってしたー!あれ何ー?」


メイコさんが鍋いっぱいに作ったブルシチューを、遠慮なくすべて食べ尽くした愛も質問に加わる。

そんな私達の質問に、シロ君の表情が明るくなる。数日過ごして分かったが、これは良い報告の時の反応だ。


「それは、レアドロップですね!モンスターを倒すと、レアな装備品や素材を手に入れる時がありますが、その時に愛さんが体験したような現象が発生します。白い光の粒なら、レア度が星三の何かをドロップしたんだと思います!愛さんのマグカに、レア物が収納されていませんか?」


「レア物!確認するー!」


愛は自分のマグカを取り出して、アイテム一覧を開く。左隣に座っていたユウジが、愛にソート機能というアイテムの並べ替えを教えてあげている。意外と面倒見が良いことに驚く。


「あったー!これだー!美雪、確認お願い!」


「どれどれ。」


愛は、右隣に座っていた私にマグカを突き出してくる。そこには、こんなレア装備が表示されていた。


名:姫甲飛虫(ひめこうひちゅう)の盾

分類:片手盾装備

ランク:3

性能:防御+24、魔法防御+17

重量:6

説明:クイーングラスホッパーの甲殻を用いたことにより、軽さと堅牢さを両立させた盾。性能だけでなく、見た目の美しさも兼ね備えている。


「良い感じの盾ね。愛、装備してみたら?」


「んー、鬼火流(おにびりゅう)剛術(ごうじゅつ)に、盾で防御っていう考えは無いからなー。美雪あげるー!」


「じゃあ、お言葉に甘えて装備してみるね!」


愛のマグカから姫甲飛虫の盾を譲渡してもらい、早速装備してみる。

私の左手に、直径五十センチメートルくらいの白銀の円形の盾が現れる。見た目以上に軽く、きらきらと太陽の光を反射する綺麗な盾。真ん中にクイーングラスホッパーに似たマークが描かれている。


「そうか、右利きだと右手で剣を持つから、左手に盾を装備するのか。軽い盾とはいえ、この状態で弓を構えられるかな?」


黒影剛弓(くろかげごうきゅう)をマグカから取り出し、装備してみる。


「盾に弓か…。普通は見かけない装備だが、王都の騎士にはそういう装備もいるって聞いたことある。さて、美雪さんはどうかな?」


左手に盾を装備した状態で、左手に弓を持ち、右手で矢を引く。そのまま、近くの木に矢を放ってみるが、想定より低いところに矢が刺さる。


「んー、いくら軽い盾とはいえ、さすがに狙いが下がるわね…。愛には悪いけど、はっきり言って邪魔だわ。」


「仕方ないねー!気にしなくて良いよー!」


黒影剛弓をマグカに戻しながら、左手に装備したままの盾を眺める。


「なぁ、ユウジ。お前は片手でデュランダル使えるのか?」


「ん?デュランダルは重さが変わるから、片手でも問題なく使えるぞ。威力は下がるけどな。それがどうかしたか?」


「察しの悪い男ね。ほれ、受け取りなさい。」


左手から外した盾をユウジに投げ渡す。ユウジは呆気に取られた顔で、盾を受け取る。混乱した表情で、私の顔と盾を交互に見る。


「盾があった方が戦略の幅が広がるでしょ?愛と私じゃ、その盾を扱えないから、お前にあげるよ。ブラウンウルフの群れに襲われた時に助けてくれた礼ってとこかな?遠慮せずに、もらってちょうだい。愛も良いでしょ?」


「良いよー!ユウジ、大事に使え!!」


「この盾を、俺に……?ありがとう!!大事にする!!」


私から受け取った盾を、ユウジは異様に嬉しそうに装備する。デュランダルも一緒に装備して、盾を構えたり、デュランダルを振ったりの模擬戦闘を行っている。まさに、喜びいっぱいといった感じだ。


いつまでもユウジに貸しを作ったままは嫌だからこの盾でチャラにしよう、くらいの気持ちであげたのに、こんなに喜ばれると調子が狂う。それに、嬉しそうなユウジと私を交互に見ながら、シロ君がほっぺたを膨らませている。


あれ、怒ってる?え、シロ君も盾ほしかった?

シロ君は魔法で戦うから、盾は装備しないと思ってのユウジへの贈与だったけど、シロ君も欲しかったのか…。シロ君には、色々とお世話になってるし、町に戻ったら何か別の物で埋め合わせをしよう。


でも、シロ君って領主の息子でお金には困ってないだろうから、あの町で手に入る物は大抵手に入るよね…。そんな中で、シロ君が喜びそうな物を手に入れる。これは、ダンジョンのドロップ品に期待しなきゃ…。

ダンジョンでレアドロップを多くするため、目の前で模擬戦闘を続けているユウジに向かって、強めに厳命する。


「ユウジ、その盾を上手く使って、ダンジョンの中でも私達を精一杯守りなさい。」


私の言葉に、ユウジは勢いよく振り返る。


「ってことは、俺もダンジョンパーティに加えてくれるんだな!!やったー!!ついに、実力が認められたんだな!!美雪さんには、モンスターの攻撃を少しも通さないぜ!!全力で守る!!」


「あ、うん。お願いね。」


どうしてこんなにユウジは私達の仲間になりたいのか?と、いつもの疑問を浮かぶ。

でも、これでシロ君に良い物を贈れる可能性が少しは上がったかなと思いながら、シロ君の表情を伺うと、ほっぺたが先程よりも大きく膨らんでいる。あれ、更に怒ってる?


「美雪さん!!もちろん、僕もダンジョンパーティに加えてくれますよね!!いえ、絶対に一緒しますから!!良いですよね!?良いですよね!?」


「シロ君が良いなら、ぜひお願いしたいけど…。良いの?危険かもしれないよ?」


「もちろん!!ユウジに負けたくないですから!!」


ユウジに負けたくない?

その言葉に、私はシロ君がユウジに対抗心を抱いている理由に気付く。

ファストの町の領主の息子としては、ファストの町で見つかったダンジョンは、一番先に踏破したいよね。ぽっと出のナンパ野郎に先に踏破されたくないよね。風の噂で、シロ君にとって大事なメイコさんも、ユウジは口説いたって聞いたし、対抗心を抱いても仕方ないよね。


シロ君の気持ちを完全に理解した私は、優しく微笑みかける。


「それじゃ、シロ君とユウジ。よろしくね!力を合わせて、ダンジョンを踏破しましょう!」


「よろしくお願いします!!」


「俺に任せろ!!」


「それじゃ、さっくりとファストの町に戻ろう!!そして、ダンジョンへ挑戦だ!!」


元気いっぱいの愛は、草原の向こうを指差し立ち上がる。愛の大きな声が草原に響く。


「ダンジョンへの挑戦は明日よ。今から戻ったら夕方だし、ギルドへのクエスト達成の報告、ゴルド商店へ素材の売却、使った消耗品の調達、装備品屋に頼んだアクセサリーの受け取り、とやらなきゃいけないことがいっぱいなんだから!」


「じゃあ、早く戻ろう!シロ君、馬を出せー!!」


「分かりました!今、ポーション入りのエサを馬たちに食べさせているので、少しお待ちください!」


「待てなーい!!馬車より自分で走った方が速いし、ブルシチューのおかげで元気いっぱいだから、私は走っていくよー!!」


「こら、愛!待ちなさい!」


私の制止を聞かず、愛は指差した方向へ走り出してしまう。やれやれと思って、走る愛を見守っていると、メイコさんが呟く。


「ブルシチューにはスタミナ回復効果があります。また、わずかながら高揚効果があるので、少女はいてもたってもいられず走り出したのでしょう。と、メイドのメイコは明後日の方向へ走り出した少女を横目に、冷静に解説いたします。」


「明後日の方向に走り出したなら、冷静に解説せずに止めようぜー!!」


ダースさんのツッコミを背後に、私は愛を追いかけるために走り出す。


「愛、ファストの町はそっちじゃないわよ!!って聞こえてないわね…。シロ君、私は愛を追いかけるわ!愛を捕まえたら走って追いつくから、馬車で先にファストの町に向かって!!」


「分かりました!!なんとか追いつけることを祈ります!!」


シロ君の応援を背に、必死で前を走る愛を追いかける。しかし、速さのステータスで愛に負けている私に、愛に追いつくことは容易でない。少しずつ、愛の姿が小さくなっていく。


こうなっては仕方ない。

出来るなら使いたくない手だが、愛に追いつくためには、これしかない。

私は黒影剛弓(くろかげごうきゅう)を構える。矢尻を潰して刺さらなくなった矢を愛に当て、ひるんだところを捕まえる。スキル必中があるから、致命傷になるようなところには当らないし、こっちの世界には、ポーションもあるから怪我をしてもすぐに回復できる。

痛い思いをさせるかもしれないけど、ごめんね。と心の中で愛に謝りながら、弓を引き絞る。


「美雪ー!勢いで走り出しちゃったけど、ファストの町ってこっちじゃないかなー?」


前を走っていた愛が、急に振り返る。今にも矢を放たんと弓を構えていた私と、ばっちり目が合う。


「ごめんなさい。打たないでください。」


謝罪の言葉と一緒に、流れるように愛は土下座の姿勢に移る。日本人の私でも惚れ惚れとする綺麗な土下座。


「打たないよ!!」


「打たない、本当に?」


「本当に打たないよ!!まったく。でも、止まってくれて良かった。愛、ファストの町はそっちじゃないわよ!」


私の本当に打たないという言葉を信じてくれた愛が、元気いっぱいに立ち上がる。本当は矢を放って愛を止めようとしていたのは内緒の話。


「やっぱり、ファストの町はこっちじゃないよねー!!なんか違う感覚がしてたんだよねー!」


愛は動物的な勘が鋭いから、帰巣本能で違う方向に向かってるのに気付いたのかもしれない。


「本能的に飛び出すのはダメよ。異世界で右も左も分からない状況で孤立したら、さすがの愛でも危険なんだから!」


「大丈夫!鬼火流剛術なら、どんな困難でも、どんな強敵でも切り抜けられるよ!」


「次は本当に射るよ?」


「ごめんなさい。」


私の笑顔の脅迫に、すぐに腰を九十度に曲げ、謝罪の言葉を述べる。


「それじゃ、無駄話はこの辺にして、ファストの町に戻るわよ!愛の希望に応えて、走ってファストの町に向かいましょう!ただし、私は愛の全力にはついてけないから、程ほどの速さでね!」


「りょーかい!」


こうして、私達はファストの町へ向かって走り出す。



「でも、美雪もこうして一緒に走るとは思わなかったよ!なんでー?」


しばらく走り続けたところで、愛が質問をしてくる。確かに転生前の私だったら、自分からこんなに走ろうとは思わなかっただろう。


「夢の中でノアに聞いたけど、努力値ってのがあるんだよね!いっぱい走ればスタミナが多く上がるって感じ!だから、いっぱい走った!」


「へー、そんなのがあるんだー!じゃあ攻撃版もある?」


「筋トレいっぱいすると攻撃が上がるわよ!」


「おー!!じゃあ、まだまだ時間あるし、そこの岩使って筋トレする!!」


そう言って、愛は自分と同じくらいの大きさの岩を、頭の上に持ち上げて走り出す。


「これなら、移動と筋トレが同時に出来て、一石任侠(いっせきにんきょう)だよ!」


「一石二鳥かな…?それとも、鬼火の里には一石任侠って言葉があるのかな?石投げたらヤで始まる職業の人達に当って、任侠渦巻く世界へ。同じ職業の人達との抗争に巻き込まれていくも、強者を求める鬼火の里の人達にとってはラッキー、って感じ?」


「美雪、なに言ってるの?」


自分でも途中から何言ってるんだろうって思ってた。普通に一石二鳥の覚え間違いのようだ。


「まぁ、良いわ。でも、走りながらトレーニングってのは、悪くない考えね!私も魔力の努力値アップのために、魔法を使いながら移動しよう!レベルアップでMP全快してるし!そういうわけで、スピード上げるよー!!」


魔力を練り始めた私に、愛は首を傾げる。


「魔法を使ったらスピードアップってどういうこと?と思ったら急に、追い風がー!これは走りやすい!」


「風魔法で、背中に風が当るようにしたよー!さぁ、この調子でファストの町へ一気に走りぬけちゃいましょう!」


「うぇーい!!」


こうして、風魔法で発生させた風を背に感じながら、がむしゃらに走り続けたところ、夕方になる前にファストの町に到着することができた。

ブラックベアの討伐のために町を飛び出し、一騎打ちで討伐したと思った矢先、狼の群れに襲われピンチ。しかし、ユウジの助太刀により、危機を逃れる。夢の中でも強敵と戦って勝利をもぎ取り、起きてすぐにバッタの群れに遭遇し殲滅。


濃密な二泊三日だったが、得る物も大きい日々を過ごした私達は、確かな成長と共にファストの町へ凱旋を果たす。準備を整えたら、目指すはダンジョン。次の挑戦に向けて、意気揚々と町の入り口の門をくぐる。


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