蹴散らせ!バッタの群れ!
前回のあらすじ:新武器の性能を試すため、ジャイアントグラスホッパーの群れと戦う!
バタバタ、キシキシ、あちこちからジャイアントグラスホッパーの羽や甲殻がぶつかり合う音が聞こえてくる。ユウジの言ってたとおり、ジャイアントグラスホッパーは、地球のバッタを小型犬くらいに大きくしたバッタに似たモンスターだった。
そんなバッタが、足の踏み場も無いとはまさにこのこと、と言わんばかりに、目の前で所狭しと蠢いている。あまりの数に、飛び跳ねたバッタ同士がぶつかり合う。落ちた先にもバッタがいるため、バッタ同士が互いに絡み合い、群れ全体がなかなか前進できずにいる。
「うねうね、うごうご、きしきし…。一般的な感覚で見ると、なかなかグロテスクな光景…。キャーとか、気持ち悪いーとか言って逃げた方が、女性としては正解なのかもだけど…。」
足の蹴り場を見つけた個体が羽をバタバタと飛び跳ねて近付いてくる。
目の前に飛んで来た一匹のバッタを、腰のナイフで振り払う。バッタは緑色の体液と羽や足を飛び散らせながら、光の粒に変わる。
「光の粒に変わる前に、一旦グロい感じで吹き飛ぶのね…。きゃー、気持ち悪いー…。」
抑揚の無い悲鳴が草原に響く。
「女性っぽく、きゃーって叫んでみたけど、キャラじゃないわね…。うん、平気だ。愛は大丈夫?」
「確かに気持ち悪いけど、そんなことで戦えなくなるような柔な育ちはしてないよ!鬼火流剛術 参の型 竜胆!!」
力強い言葉を証明するためか、目の前に飛んできたバッタ一匹を鋭い蹴り一発で吹き飛ばす。
「大丈夫、戦える!調子絶好調だよー!!」
愛は得意気に笑った後、気合を入れ直すためか、腰の帯をぎゅっと締める。
そんな中、私達に追いついたユウジが、ジャイアントグラスホッパーの群れを目の前にし、ふーっと溜息をつく。
「しっかし、小さいバッタでもこうして数が集まると、さすがに驚異的だな。まるで巨大なモンスターみたいだ。」
ユウジの言うとおり、目の前のバッタ一匹一匹は小さいモンスターだが、群れとして一塊になり、波のように押し寄せるその姿は、巨大モンスターから感じる威圧感にも引けを取らない。
群れの威圧感から、少しとまどっていると、私達とバッタの群れの間に生えていた木が、群れの中に飲み込まれていく。ばきばきと嫌な音がし、先ほどまで青々とした葉っぱに覆われていた木は、枝だけになって倒される。
「うわ、飲み込まれちまったら、ひとたまりもないぞ。まさに数の暴力。近距離攻撃は少し勇気がいるな。さて、どうやって戦っていくか……。」
あごに手を当て、考え始めたユウジの隣で、私は弓を構える。
「考えていても始まらない。こういう時の遠距離武器!ってことで、ウィンドアロー!!」
バッタの群れに向かって、挨拶代わりにウィンドアローを放ってみる。放った矢は風魔法を纏っているため、周囲のバッタを巻き込み光の粒に変えながら、群れの中に消えていく。牽制のつもりで放った矢だが、多くのバッタを倒すことが出来た。新しい弓の威力は上々だ。
新しい弓による威力の高い矢により、バッタの群れの中に小さな穴が開くが、周りのバッタによって、すぐさま埋まってしまう。
「まさに多勢に無勢って感じね。効果無しってわけではないけど、ちまちま倒してたら群れに飲まれて、無事じゃすまないわ。効果的に戦う策を考えないと…!」
「考えても仕方ないよー!!剛を極めれば、数を制す!!鬼火流剛術 壱の型!! 牡丹!!」
バッタの群れに向かって、愛は豪快な正拳突きを放つ。新しい腕甲の性能を試したかったのに違いない。
衝撃波が生まれ、拳がぶつかったバッタ達はまとめて吹き飛び、大量の光の粒に変わる。群れに大きな穴が開くが、開いた穴を埋めるように、大量のバッタが愛に向かって押し寄せる。さすがの鬼火流剛術も、群れの異常な数には勝てず、愛はバッタ達によって群れの中に飲み込まれていく。
「うわー!!美雪助けてー!!」
「愛がバッタに飲まれたー!!」
バッタの群れの中から、愛の両足だけが突き出た状態。ぴくぴくと震えている。
急いで突き出た愛の両足を掴み、バッタの群れの中から引っこ抜く。軽く白目を剥いている愛に高性能ポーションをぶっかけ、頬を叩く。
高性能ポーションのおかげで、愛が負った細かい傷はあっという間に塞がり、ほどなくして正気を取り戻した。すっと立ち上がった愛は、バッタの群れを見ながら、なぜか得意気な表情でうんうんと頷く。
「鬼火流剛術は基本的に一対一で戦うからね!こう数が多いと大変だよ!何か策を考えないと!」
「さっき群れに飲み込まれたことは無しにするのね…。」
ひゅーひゅーと右斜め上を見ながら、愛は口笛を吹いている。
「俺のスキル挑発も、この数に使ったら、さっきの嬢ちゃんみたいに群れに飲まれちまうから使えねぇな。神話級の武器であるデュランダルも、リーチはそう長くないからなー。こう多くちゃなかなか戦えねぇ。何か良い策を考えないと…。」
近くに飛んで来るバッタを、デュランダルで切り払い、光の粒に変えながら、真剣な表情でユウジが答える。その様子を観察しながら、私は困った表情で現状からの結論を導く。
「ふむ、武器を使っての戦闘じゃキリが無い。広範囲攻撃が必要だけど…。現状で、効果的な広範囲魔法は思いつかない。結論、何か良い策を考えないと!」
「何か良い策を考えなきゃだねー!!」
「何か良い策を考えなきゃだな。」
「策も無しに、この大群に立ち向かおうとしてたのかよー!!」
そんな中、私達に追いついたダースさんが、ツッコミを放つ。
「あら、ダースさん。」
「あら、ダースさん、じゃねぇよ!!意気揚々と飛び出していったから、何か良い策があると思ったけど、無策かよ!!大群を目の前に悩むのかよ!!」
「そうは言っても、思ったより数が多くて、ちまちま倒していくのが面倒だなー。って思い始めてしまって…。」
「面倒って…。倒せることは倒せるんだな…。でも、美雪さん達の規格外さを考えれば達成できそうなのが怖い…。」
なにやら、呆れた顔でぶつぶつ呟いたダースさんは、目の前のバッタの群れを仰ぎ見る。
「しかし、いざ目の前にすると、うじゃうじゃと恐ろしい数だな…。この群れの多さには、確かに俺も困っちまう。どうしたものか。」
ダースさんと私で、効率的な戦いはどうしたら良いかの作戦会議をしていると、遠くから一台の馬車が猛スピードで近付いてくる。
なんだろうと首を傾げたところで、馬車の窓からシロ君が顔を覗かせる。
「美雪さん!!ダース!!無事ですか!!」
「あら、シロ君。」
「あら、シロ君、じゃないですよ!!なんでジャイアントグラスホッパーの群れの最前線で戦っているんですかー!?」
なぜか怒った表情のシロ君と、対照的に涼やかな表情の、メイドのメイコさんが馬車の中から現れる。シロ君の質問に私は答える。
「なんで群れの最前線で戦ってるか?流れかな?」
「どんな流れですかー!?」
私の言葉に、シロ君は頭を抱える。
「そんなシロ君はどうしたの?全速力でここに向かって来たけど?」
頭を抱えて悩んでいたシロ君は、目の前のバッタの群れに気付き、さらに頭を抱えて悩みだす。
「坊ちゃまはお悩みのようなので、その疑問には私がお答えします。ジャイアントグラスホッパーの群れがファストの町に向かっていると聞き、これは一大事と、坊ちゃまと私の婚姻の儀式を投げ出し、広範囲魔法を持つ坊ちゃまが自ら討伐を志願したのです。結婚早々に、未亡人になっては堪らないと、私もご一緒させていただきました。すると、群れの最前線で戦っている冒険者パーティを発見。これは大変と早急に助けに参ったら、まさかの美雪さん達。今ここです。」
「今そこですか。ひとまずシロ君、結婚おめでとう。」
「美雪さん、婚姻の儀式はメイコの妄言なので、無視してください。妄言が混じっておりましたが、ここに来るまでの流れとしては、おおよそ正しいです。」
「妄言はメイドの嗜みですので。」
さも当然のように、得意気な表情を浮かべるメイコさんを、シロ君は無視する。
「次は、僕からの質問です。美雪さんはなぜここにいるのですか?」
「うーん、なぜここにいるか。レベル10の壁を超えるために、ブラックベアの討伐に来たら、ダースさんと合流。愛がブラックベアを一騎打ちで討伐。その後、ブラウンウルフの群れに襲われたところで、ユウジと合流。愛と私は無事にレベル10になり、一緒に手に入れた新しい武器にテンション上がり、武器の性能を試そうと思ったら、ちょうど格好の標的が近くに現れた。これは好都合と戦いに来たけど、あまりの数の多さに正直面倒になってきた。今ここ。」
「今そこですか…。なんで数日でそんなに多くのイベントに遭遇できるのですか…。」
私の言葉に、シロ君はまた頭を抱える。
「お悩みのところ申し訳ないけど、聡明なシロ君に質問!この数の群れと効率的に戦う方法ないかな?」
私の質問に、シロ君は明るい表情へ変わる。
「効率的に戦う、ちょうど良い方法がありますよ!こんなこともあろうかと、とっておきの一品を手に入れておいたのです!」
「とっておきの一品?」
私の疑問に答えるように、シロ君はマグカから一冊の本を取り出す。
「この魔道書が使えそうです!はい、美雪さん!」
シロ君は大事そうに抱えた魔道書を私に渡してくる。意外と重いなと思いながら、受け取る。
「魔道書?この本がどうしたの?」
「魔法初心者の美雪さんのために、多くの魔道書を集めていたのですが、この本はその中の一冊です!この本には、大昔の大魔法使いが記したと言われる、とある強力な大魔法が記されています。美雪さん、使ってください!」
「私のために?ありがとうだけど、強力な大魔法ならシロ君が使えば良いんじゃ…?なんで私に?」
「僕も使いたいところですが、この魔法の発動は多くの属性魔法を使えないといけないのです!火魔法、風魔法の二属性魔法と、レア魔法である氷魔法を使えないと発動できません!なので、僕には使えません!」
火魔法、風魔法、レア魔法である氷魔法が使えないと発動できない魔法。
「温度操作魔法なら火魔法と氷魔法を同時に使えて、私の基本属性は風属性。確かに私なら使えそうね。」
「はい!美雪さんなら使えると思い、特別に手に入れてきました!」
「特別と大げさに言っておりますが、本当のところは、誰も使えない魔法だからと古書店に投げ売りされていた魔道書を偶然、見つけただけ…とは、坊ちゃまの名誉のためにも口が裂けても言えません。と、メイドのメイコは呟きます。」
「なんで言っちゃうのー!!」
シロ君は、頬を膨らませながら、メイコさんに向かってぽかぽかと拳を振り回す。シロ君にぽかぽかされて嬉しそうなメイコさんは、一旦そっとしておき、手元の魔道書を確認する。
「古書店で手に入れた本でも、この大魔法なら現状を打破できるとシロ君が言うなら、試してみる価値はあると思うわ!愛!ダースさん!シロ君!メイコさん!ついでに、ユウジ!私がこの大魔法を唱えるまで、バッタの群れの侵攻を食い止めて!!」
私の言葉に、みんなは力強く応える。
「分かったよー!!あんまりのんびりしてると、私が全部倒しちゃうからねー!」
「ブラックベアから助けてもらった恩を返させてもらう!」
「風属性のジャイアントグラスホッパー相手じゃ、僕の土魔法は効果薄いですが、足止め程度ならできると思います!」
「あなたの指示に従うのは、少し癪ですが、坊ちゃまのぽかぽかで充電したラヴパワーを、開放させていただきます!!」
「なんで俺だけ、ついでに!?っていう疑問は捨てて、美雪さんのためにがんばるぜ!!」
五人がそれぞれの武器を構え、目の前のバッタに向かっていく。奮闘に応えるためにも、魔道書の解読を進めなければ!
みんなには悪いと思いながらも、集中して魔道所を読むため、バッタ達との戦いに背を向ける。視界がすっきりしたところで、厚い魔道書の表紙をめくる。
「まずは、この魔道書の著者の経歴が書いてあるわね…。少し気になるとこだけど、今は読み飛ばしましょう。」
「そうしてくれ!!食い止めるのにも限界があるぞ!!って思った矢先、ナイトグラスホッパーが現れやがった!!ジャイアントグラスホッパーの進化系で、硬い甲殻と重い攻撃が特徴だ!!これじゃ、硬い甲殻で攻撃が通らね…、いや、嬢ちゃんとユウジは難なく倒してるわ…。相変わらず、転生者やべぇわ…。」
背後からダースさんの声が聞こえる。気にせず、私は魔道書のページをめくる。
「次は、背景ね。こういう本の背景と言ったら、魔道書が書かれた理由がまとめられてそうだけど…、一応、読んでみようかしら。この魔法を作ることになったのは…、ほうほう、そんな事情が…。」
「美雪さん!!ゆっくり不要なとこ読んでる場合じゃないですよー!!ナイトグラスホッパーが連携で防衛の陣を組んできました!!これは、群れの奥にクイーングラスホッパーがいるかもしれません!!」
背後からシロ君の声が聞こえる。背景に書かれている魔道書の作成者と幼馴染の恋愛エピソードが、とても気になるところだが、シロ君の慌てる声を無視してまで読むものではない。私は魔道書のページをめくる。
「背景は後で読むとして、今は読み飛ばしましょう…。って、だいぶ背景が多いわね…。ってこの魔道書、ほとんどが背景じゃない!」
「美雪ー!!無駄なとこは読み飛ばしてー!!敵の動きが変!!なんだか嫌な予感がするー!!」
背後から愛の声が聞こえる。愛の動物的な勘は侮れない。異常な量の恋愛エピソードは読み飛ばしてしまいましょう。
「ぱらぱらーっと飛ばして…。お!この魔法を唱えるための前提条件!これは、大事ね!火魔法、風魔法、氷魔法は使えるから大丈夫。って、MPが400必要なの!?足りてるかしら?マグカで確認しましょう。」
「確認は大事ですが、なるべく早めにお願いいたします。目の前の強敵に悠然と立ち向かう勇ましい坊ちゃまと、うっすらと汗ばみ少年特有の色香を振りまく坊ちゃまに、私の中の何かが暴走しそうです!!」
背後からメイコさんの上ずった声が聞こえる。続いて、シロ君の真面目に戦ってー!という声が聞こえてくる。私も真面目に魔道書を読まなければ!
「私の今の最大MPは432!ウィンドアローを使って少しMP減ってるけど、ギリギリ足りるわね!というわけで、肝心の魔法詠唱部分は…。ん?おかしいな。私の読解力が正しければ、ここに書かれてるのが詠唱部分のはずだけど…?」
書いてある内容が信じられず、何度も何度も魔道書を確認する。
「おおよそ魔法の詠唱っぽくないことが書いてあるけど、これで合ってるっぽいなー。うわ、こんな魔法詠唱もあるんだ…。」
「美雪さん!そろそろ魔法を発動してくれないかー!!数が減ってきて、バッタ共の機動力が上がってきて、風魔法も使ってくるしで、なかなか厳しくなってきた!!」
「うるさい、ユウジ!!男なんだから文句言わず働きなさい!!」
「相変わらず、俺にだけ辛辣だなー!!ちくしょー!!働きで見返す!!」
ユウジの大剣の振りが、より強く鋭いものに変わる。ユウジには、こうやって挑発するくらいが丁度良いわね。なんだか取り扱い方が分かった気がする。
奮戦するユウジを横目に、魔道書を見返す。
「うー、変な詠唱のせいで、なかなかヤル気が出ない…。でも、みんなが戦って時間を稼いでくれてるのに、わがままは言ってられない…。覚悟を決めて、魔法を使いますか!」
五人が戦っている姿を視界に収めながら、バッタの群れに向かって魔力を練り上げる。一呼吸置いた後、魔道書を片手に詠唱を始める。
「ほとばしる君への愛情は炎よりも熱く、抑え切れない溢れ出る気持ちが渦巻き、その身を焦がさんと燃え盛る。」
「美雪ー!!ふざけてる場合じゃないよー!!」
愛が大きな声で注意してくるが、残念ながら、ふざけていない。私はいたって真面目だ。
この恋愛ポエムみたいなのが、魔法詠唱なのだ。魔法で発動する炎の嵐を、燃え盛るような恋心に例えているらしい。
「そんな俺の愛情の炎をものともせず、君は氷のように冷たい視線を俺に向ける。まさに背筋を凍らせる凍て付く吹雪。全てを凍らせんと吹き荒ぶ。」
「美雪ー!!本当にふざけてる場合じゃないよー!!」
愛が大きな声で再注意してくるが、残念ながら、ふざけていない。私はいたって真面目だ。
これも魔法詠唱部分なのだ。魔法で発動する氷の嵐を、好きじゃない男に言い寄られた女性の冷ややかな拒絶心に例えているらしい。
「背筋も凍るような君の視線の鋭さに、俺の愛の炎は熱く燃え滾る。燃えれば燃える程、君の視線は冷たく冷ややかに変わる。燃え盛る愛情と、凍て付く拒絶。渦巻く二つの感情は、業火灼熱の炎の嵐と絶対零度の吹雪となり、我が敵全てを蹂躙する。」
詠唱はよく分からないものだが、練りあがる魔力は確かなもの。あの長い恋愛小説の背景も、このためだったのかな?だとしたら、結末はバットエンドなのかもしれない。報われてほしい、魔道書の作者。
そんなことを考えていると、シロ君と目が合う。シロ君の視線が、準備が出来たか聞いてくるように感じたため、私は力強く頷く。
「皆さん!!美雪さんの魔法が完成しました!!このままでは、僕達も巻き込まれてしまうので、美雪さんの後ろに逃げましょう!!」
シロ君の言葉に、バッタと戦っていた全員が私の後方へと逃げる。戦線が崩れたため、バッタ達が私へ押し寄せるが、もう遅い。
高まる魔力を感じながら、バッタの群れに向かって両手を突き出す。必殺の魔法名を力強く唱える。
「炎氷双嵐!!」
魔法名の宣言により、体から大きく力が抜けていくのを感じる。異常な虚脱感に、たまらず膝をつくのと同時、猛烈な熱をはらんだ大きな赤い嵐と、凍えるような寒気を持った大きな青い嵐が目の前に現れる。
赤い嵐に触れたバッタは、猛烈な熱風によって体を燃やしながら引き裂かれていく。対して、青い嵐に触れたバッタは、凍て付く冷風によって一瞬の内に凍りつき、吹き飛ばされ粉々になる。
二つの大きな嵐は、あちこちに光の粒を輝かせながら、ゆっくりとバッタの群れを飲み込んでいく。
「まさに一網打尽だな…。苦戦させられた硬い甲殻を持つナイトグラスホッパーさえ、簡単に粉微塵だぜ…。」
「やっぱり転生者って規格外だね…。普通ならMP切れで倒れてもおかしくない大魔法を発動させた張本人は、少し休憩って雰囲気で、平然とMPポーション飲んでるし…。」
二つの大きな嵐を見ながら、ダースさんとシロ君が溜息を吐いている。嵐だけじゃなくて、私の事を見て、溜息を吐いてるような気もするけど…。
全然平然じゃないよ、魔力切れの影響なのか、膝ガクガクなんだから。今にも倒れそうなのをバレないようにMPポーションがぶ飲みしてるんだから。
「ミユキはレベル11に上がった!HPとMPが全回復した!
攻撃が2上がった!防御が4上がった!魔力が11上がった!魔法防御が4上がった!速さが11上がった!スタミナが6上がった!状態異常耐性が2上がった!」
MPポーションを飲んでいる私に、レベルアップの音声が聞こえてくる。たくさんのモンスターを蹴散らしているからか、続けて何度もレベルアップの音声が響く。
「ねぇ、二つの嵐が段々近付いてるよー!!あのままだとぶつかって消えちゃうんじゃない?」
MPポーションを飲んでいた私のスーツの袖を、くいくい引きながら愛が尋ねてくる。
「あれがこの魔法の終わり方だから大丈夫よ!」
そんな会話をしていた私達の目の前で、赤い嵐と青い嵐がぶつかり合い、上空へ多くのバッタを吹き上げた後、二つの嵐は跡形も無く消え去ってしまう。
「魔法は消えたけど、バッタは残り少しまで倒せたわね。もう百匹も残ってないんじゃない?」
「でも、残ってるのは強そうなバッタばかりだよ!あそこに他より大きい変なバッタいるし!」
愛が指差した方向を見ると、通常のバッタの倍以上の大きさを持つ、真っ白なバッタが立っていた。大きな赤い目に、体のあちこちから多くの棘が飛び出しているが、高貴さを感じる不思議なバッタ。
そんな白い高貴なバッタを、生き残ったナイトグラスホッパーが取り囲むように守っている。
「やはりいましたか…、クイーングラスホッパー。」
「シロ君、解説をお願い。」
流石シロ君、目の前の白い高貴バッタについても知っているようだ。すかさず、解説をお願いする。
「クイーングラスホッパーは、この群れ唯一のメスのモンスターです。クイーンが一匹発生すると、一日の内に大量の卵を産むため、このような大きな群れを、あっという間に築いてしまう危険なモンスターです。俊敏な動きですが、ここで取り逃してしまうと、第二第三の大群を築いてしまいます!!絶対に打ち倒しましょう!!」
この群れの元凶は、あの高貴バッタと。地球で言うと、女王蜂みたいなものかな?
絶対に倒さなきゃと一歩を踏み出すが、愛の伸ばした手によって止められる。
「美雪は大魔法の疲れがあると思うから、そこで休んでてー!私とシロ君と、ついでのユウジでクイーンってのをサクッと倒してきちゃうよ!!ダースとメイコは美雪をよろしくね!」
「はい!お役に立てるか不安ですが、魔法でサポートします!」
「やっぱり、ついでかよ!!くそー!!」
「愛!私も行くわよーって聞こえてないわね…。」
私の呼び止める声を聞かず、愛、シロ君、ユウジの三人が颯爽と駆け出していく。
一直線にクイーンを狙う三人の前に、数匹のナイトグラスホッパーが現れ、キシキシと顎を鳴らしながら行く手を遮る。
ナイトグラスホッパー達は、硬い体を使っての飛び掛かり攻撃を仕掛けるが、愛とユウジによって光の粒に変えられてしまう。三人の猛進は凄まじく、難なくクイーンの目の前まで接近することが出来た。
「美雪の魔法でだいぶ減ったから、余裕でクイーンの前に来れたよー!!」
「それじゃ、クイーンの視線を集めるためにも、使うぞ!!スキル挑発!!」
「あ!!挑発はまずいです!!」
草原に残っているバッタ達が一斉にユウジの方を向くが、目の前のクイーンだけは真反対を向く。
「クイーンは、自分さえ無事なら群れを再作成できるので、強敵が現れた場合は真っ先に戦線から離脱します!!つまり、挑発を使うと逃げます!!」
「逃げちゃうの!?逆にピンチじゃん!!ユウジ、なにやってんの!?」
「すまん!!いつもの調子で挑発使っちまった!!」
何やってるんだ、あの男は。そんなユウジに愛は声をかける。
「私とシロ君はクイーンを追うから、ユウジは挑発したバッタ達をよろしくね!!」
「分かった!ここは俺に任せて先に行け!!」
ユウジを横目に、愛とシロ君は逃げるクイーンを追う。クイーンの逃げるスピードは、愛の走るスピードにも負けず、なかなか距離を縮めることが出来ない。
そんな逃げるクイーンの目の前に、上から数本の矢が突き刺さる。私が放った矢だ。
愛は私のことを、大魔法を使った反動で疲れてると言ったが、大魔法でバッタの群れを殲滅したレベルアップで全快している。そのため、こうして少し高いところに登り、逃げるクイーンを矢で牽制しているのだ。
スキル必中があっても、クイーンは動き回るため、直接当てることは出来ない。そのため、こうしてクイーンの目の前に矢を放ち、進行を阻止する。
「ロックウォール!!」
シロ君も私の意図に気付いたのか、石の壁をクイーンの前に作り出す。目の前に急に現れた壁と私の矢に、堪らずクイーンは動きを止める。
その隙を愛は見逃さない。
「追いかけっこは終わりだー!!鬼火流剛術 参の型!! 桔梗!!」
鋭い正拳突きがクイーンの頭で炸裂する。動きを止めたクイーンに、ものすごい勢いで追いかけていた愛は、ついに一撃を入れることに成功する。爆発的な威力の正拳突きだったが、クイーンはぐっと堪える。
「クイーンの甲殻は、ナイトの倍以上の硬さを持ちます!!ちょっとやそっとの一撃じゃ、ダメージが入りません!!」
遠くからシロ君の解説が聞こえる。
「おー!この黒熊剛拳の一撃でも倒れないなんて、さすがクイーンだね!じゃあ、これはどうかな!!」
愛はぴょーん、ぴょーんと飛び跳ねながら力を溜めていく。クイーンが頭に受けた衝撃から回復し、鋭い蹴りを放つが、愛は目にも止まらぬ速さで避け、一気にクイーンとの距離を詰める。
「咲かせて魅せよう!拳撃による花!!奥義!百花繚乱!!」
愛の肩から先が消えたと思った時、どどどどどどどどどと工事現場のような音が聞こえてくる。
何の音と思ったが、クイーンの頭や体の角が吹き飛び、立派だった羽がボロボロになっていくことで、音の正体に気付く。
どうやら、愛の連続パンチがクイーンを襲っているようだ。一発一発が重い正拳突き。それが、何発も何十発もクイーンに炸裂する。
しばらくの間、続いていた打撃音が止まり、クイーンは光の粒へと変わっていく。愛の連撃は止まっていないが、クイーンのHPがゼロになったようだ。
「クイーンの首、討ち取ったりー!!おー!すごいレベル上がっていくー!!」
光の粒になって消えていくクイーンを目の前に、愛は力強くガッツポーズをする。
そんな愛の体を光の粒がぐるっと囲み、消えていく。この黒影剛弓を手に入れた時に似ていたが、なんだろう。
「あ!美雪ー!見て見て!無事にクイーンを倒したよー!!やったー!」
笑顔で駆け寄ってくる愛に、ぐるっと囲んだ光の粒のことは忘れることにする。愛は元気いっぱいだから、なにか悪いことが起きたように見えないし!
「お疲れー、愛!今回もピンチいっぱいだったけど、なんとか乗り切れたわね!」
クイーンを討ち取った愛に駆け寄り、笑顔で労う。
愛は握りしめた拳をスッと差し出してくる。やれやれと思いながら、私も片手を握り締め、同じように拳を作る。
少し笑い合った後、愛の拳に私の拳をぶつける。
こうして、私達は大量のモンスターの群れを殲滅し、無事に群れの発生源であるクイーンも討ち取ることが出来た。




