要件定義は実は終わっていなかった!
前回のあらすじ:黒い影に勝ち、私もついにレベル10に到達する!
「美雪ちゃん、ちょっと良いかなー?」
広い空間があるから丁度良いやー、と黒い影を倒したことで新しく手に入いれた黒い弓の試し撃ちをしていると、後からノアが話しかけてくる。どうしたのかなと振り返ると、ノアが恐る恐る話し始める。
「突然だけどー、美雪ちゃんが転生ゲートを通過する時に、横から邪魔された黒い布の乱入者って覚えてるー?」
「うん、それって、愛のことでしょ?」
「そう、愛ちゃんのことー!やっぱり、遭遇してたねー!今は合流して、一緒に行動してるみたいだけど、邪魔じゃないー?転生時にも言ったけど、美雪ちゃんの目的に不要って感じたなら、神の権限で排除するよー?」
「愛のことを…、消す?」
「ひぃっ!!」
ノアが何かに怯えたような声を出す。どうしたんだろう。
「愛のことを消すって言った?冗談だよね?冗談でも、本気で止めてね。愛は私が強くなろうと思う根幹になっているから。愛に何かしたら、いくらノアでも許さないわよ?」
「分かったよー、だから、そんな怖い顔で睨まないでー!こっちの不手際で転生させちゃったから、ちょっと心配だったのー!!」
ノアの聞き捨てならない不穏な言葉に、無意識に私の目つきは鋭くなっていたらしい。
創造神であるノアを睨んで威圧してしまうとは…。愛のことになると、少し周囲が見えなくなっているかもしれない。冷静沈着がセールスポイントの私、気持ちを落ち着かせることを意識しよう。
美雪ちゃんが冷静沈着…?っていう顔でノアが見てくるけど、気にしない。私は冷静沈着だから。
「じゃあ、気を取り直して…。美雪ちゃんが夢から覚めるまで、もう少し時間があるけど、どうするー?なにか聞きたいこととか、あるかなー?」
前回は倒されたところで夢から覚めたけど、今回は夢から覚めるまで時間があるらしい。勝利したからかな?ひとまず、思いついたことをひとつお願いしてみる。
「私の家にあったスーツやブラウス。要するに仕事着ね。全部こっちに持ってくることって可能?」
「スーツ?もっと動きやすい服の方が良いんじゃないのー?」
「確かに動きづらいけど、気持ちの問題かなー。」
「気持ちの問題ー?」
「説明が難しいところだけど…。私は転生前の職業で培った要件定義の技術、それを総動員して手に入れた知識で、異世界でも戦っていく。っていう心構えだから、異世界は職場みたいなもんなんだよね。だからかな?仕事着であるスーツを着てる方が、身がしまって良いのよね。」
私の言葉に、ノアは涙を拭うマネをする。どうしたのかな?
「異世界に転生しても、美雪ちゃんはまだ社畜根性が抜けてないんだねー。」
「社畜っていう言葉の意味は分からないけど、褒めていないことは分かるわ。まぁ、良いけど。」
「まぁ、良いんだー。」
「話を戻すと、異世界でもスーツを着ていたいけど、一着しかなくて困ってるの。王都っていうところには売ってるらしいけど、ファストの町では売ってるのを見たことないし。宿屋の生活魔法で毎朝綺麗になるんだけど、毎日同じ服ってのもね…。」
私のお願いに、ノアは手を組んで考え始める。少しの沈黙の後、間延びした声で回答する。
「美雪ちゃんが願うなら良いけど、無償で与えちゃうと他の転生者に悪いからねー。代わりのものをもらうよー!」
「代わり?」
「今日ブラウンウルフの群れと戦った時の素材すべて!それと交換なら良いよー!」
「それなら構わないわ!スーツ、ブラウス、下着類などなど、職場に着ていく服を一式よろしくね!」
「なんか希望が増えてる気がするけど、りょーかい!じゃあ、マグカに入れておいたから、起きたら確認してねー!」
当面の服の心配がなくなり、ひとまず一安心。
冒険者は防具を装備する関係で、毎日同じ服を着ている人が多いけど、気分を変えるためにも、たまには他の服も着たい。他の服って言っても、スーツだけど。
「まだまだ時間あるけどー、服以外に何かあるかなー?」
まだまだ時間はあるらしい。これは、ノアに会えたら聞こうと思ってたことを聞くチャンス!
「もちろん!聞きたいことがいくつかあるわ!」
「聞きたいことー?異世界で一週間くらい生活して疑問が生まれたかなー?」
「そう!聞きたいことがいくつかあります!よって、これより要件定義の続きを行います!!」
「えー?転生時ので要件定義は終わったんじゃないのー?次のフェーズに移行したんじゃないのー?」
要件定義の続きという言葉に、ノアの表情が少し曇る。
「この約一週間は、現地調査や利用体験ってところ!要件を具体化するため、実際にお客様環境を確認することで、要件をより明確にする期間!要はお試し期間ってところ!だから、まだ要件定義フェーズだよ!」
私の力強い言葉にノアは観念したのか、一呼吸置いてから、やれやれといった笑顔を浮かべる。
「分かったよー。聞きたいことあるー?って聞いたのはボクだからねー。諦めて、ちゃんと答えるよー!」
ノアが元気いっぱい両手を上げる。協力的なノアに感謝しながら質問を開始する。
「ありがとー!では、一点目!転生時に、転生ポイントを基本ステータス補正に振ったけど、この値って変更とか出来るの?」
「んー?振り直したくなっちゃったー?残念ながら一度使った転生ポイントの再使用は出来ないよー!その代わりに、努力ポイントや、スキルによる成長補正があるから、そっちを狙ってみてー!」
「努力ポイント?スキルによる成長補正?説明をお願い!」
聞き慣れない単語はすぐ確認。ノアに説明をお願いする。
「りょーかい!まずは、努力ポイントからねー!例えば、筋トレいっぱいして筋肉ムキムキだと、攻撃のステータスアップに補正がかかるって感じー!努力は実を結ぶー、って感じだねー!各ステータスの努力ポイントについては、説明が長くなるから、そこの紙にまとめておいたよー!」
気が付くと小さな机があり、そこにA4サイズくらいの紙が置かれている。いつの間に?と一瞬思ったけど、ノアならこのくらい造作もない。
紙に書かれている文章量も大して多くなかったので、早速確認してみる。
~努力ポイント入手条件~
攻撃:体に筋肉が多い。物理攻撃を多く行う。
防御:体に筋肉が多い。物理攻撃を多くくらう。
魔力:体に筋肉が少ない。魔法攻撃を多く行う。
魔法防御:体に筋肉が少ない。魔法攻撃を多くくらう。
速さ:瞬発的な素早い動きを多く行う。
スタミナ:いっぱい走る。長時間動き続ける。
状態異常耐性:状態異常を多く受ける。
「ふむふむ。まぁ、筋肉ムキムキの方が、ガリガリの人より攻撃力が高そうよね。」
「そのイメージで合ってるよー!」
努力ポイント。意識するだけでステータスの上昇に補正がかかるなら重要だ。
筋肉関係は、鍛えたら物理系が上がる、鍛えないと魔法系が上がる、と片方上げたら片方は上がらない、といったトレードオフのため、特に意識しないことにする。しかし、魔法攻撃の威力に影響の大きい魔力については、魔法攻撃を多く行う必要がある。
実践するのはそこまで難しくないが、のほほんと過ごしていたらMPを無駄にしてしまう。寝る前にMPが余っていたら、使い切ることを意識しよう。
「次に、スキルによる成長補正の説明をするよー!例えば、攻撃促進ってスキルを持ってると、攻撃のステータスアップに転生ポイント10ポイント分くらいの補正がかかるよー!」
5レベルアップごとに1つしか取得できないスキルを使って、10ポイント分の成長補正か。なんだか少ない気がする。
「んー、10ポイントって少ないな…。って顔してるねー!転生者にとっては、10ポイントって少ないと感じるかもだけど、一般人の平均が10ポイントだからねー!一般人からすると、このスキルを取得すると、その後の成長は大きいんだよー!」
その成長促進スキルを取得すると、普通なら二倍の才能を持っていることになるのか。そう考えると、私の魔力50っていうのは一般人の五倍か…。そりゃ、シロ君が魔法を発動した時に驚くわけだ。
「努力ポイントと、スキルによる成長補正について理解したわ!次の質問に移っても大丈夫?」
「大丈夫だよー!どんとこーい!!」
「ありがとう!私の魔王退治っていつまでにっていう期限とかある?」
「んー、特にないけどー。強いて言うなら、戦争が苛烈を極めて、人族や魔族が滅んじゃう前かな?ちなみに、ボクは地球の未来や過去からマグノキスに人を連れてこれるけど、マグノキスの未来は分からないんだよねー。だから、人族か魔族のどちらかが滅ぶのがいつかー、っていうのは分からないよー!」
「ふむふむ。じゃあ、私が何年か後に、また別の異世界に移動しなきゃいけない、みたいな私にまつわる制限ある?」
「それもないけどー、強いて言うなら、加齢に伴うステータスダウンかなー?」
加齢によるステータスダウン?詳しく聞こう。
「加齢に伴うステータスダウン?詳しく教えて!」
「マグノキスでは、年齢が寿命に近付いてくるとステータスが下がってくるんだよー!ほら、地球でもおじいちゃん、おばあちゃんに近付いてくると、段々と能力ダウンするでしょー!それと同じー!」
「それって私ならどのくらい?」
「個体差や、生活習慣、若い頃に何レベルになったかにもよるけど、人族の場合はだいたい五十歳だねー!」
「そうか、だいたい五十歳からステータスダウンが始まるか…。」
戦争によって人族や魔族が滅ぶ…、五十歳からのステータスダウン…。今聞いた情報を基に、腕を組んで考える。
「腕組んで考えて、どうしたのー?」
「今回の魔王退治の案件の納期をどうしようかと思って。」
「納期ー?何それー?」
「納期…、それは、私が地球にいた頃の業界で、最も恐ろしいとされる言葉よ…!!」
「な…!?あの美雪ちゃんが怯えている…、だと…!?」
ノアが変なテンションで怯えている。
「納期っていうのは簡単に言うと、ここまでにこの案件を完了します!っていう日のことだけど、私は今回の魔王退治を仕事として実行してるから、納期を明確にしようと思ったの!」
要件定義で大事になるのは、品質、コスト、納期の三つだけど、今は納期について考察している。
転生時は突然のことに驚いて、納期を詰め切れなかったため、現状を踏まえての確認である。
いつまでに実現しなければいけないかの納期を考えるのは重要。実現しようと思ったら、手遅れでしたじゃ取り返しがつかないからね。
「そうかー!じゃあ、その納期ってのはいつになったのー?」
「もうひとつ情報が必要かな。納期について考えて思ったことだけど、マグノキスでは、人族と魔族が戦争中って聞いたけど、そんな物騒な雰囲気じゃないよ?ファストの町は平和で、今のところ戦争って話題を聞いたことないし。」
私達が数日過ごしたファストの町の様子を思い出す。子供達は楽しく近くの広場で遊び、すれ違う人々は笑顔で挨拶を交わす平和な町だった。
遊んでいた子供達も、私が近付くと泣き始めるし、すれ違う人々に私が挨拶すると、引きつった笑みを浮かべるけど、ファストの町は平和そのものであった。
「マグノキスの南大陸では、魔族の侵攻によって戦争が始まりつつあるけど、北大陸にあるファストの町はまだまだ平和だからねー!ファストの町の領主も、つい最近になってようやく、南大陸で魔族が侵攻してるって気付いた位だからねー!」
「南大陸から北大陸までどのくらいの距離があるか分からないけど、私の老化より戦争の開始の方が確実に早いわね。ノアから見て、どのくらいで戦争激化しそう?」
「多分、五年ってとこかなー?十年は流石にもたないと思う!南大陸は軍事関係が強いから、そこそこ耐えると思うけど、魔族は強力だからねー!そのくらいだと思うよー!」
「じゃあ納期は、五年で!五年でタツヒロを超えるくらいまで強くなれるか、魔王との差を埋められるか難しいところだけど、納期が明確になったからには、効果的に強くなるわ!」
「今のレベルアップの速度なら、レベル100なんて簡単に超えられるー!って思ってるかもだけどー、ざんねーん!レベルが上がるにつれて、必要な経験値は多くなるし、倒さないといけないモンスターはどんどん強くなってくるからねー!転生者スキルの恩恵があっても、まっとうな方法で、五年でレベル100の壁を超えるのは、かなり大変だよー!」
「一筋縄でいかないのは、百も承知よ!異世界に転生して、ハプニングがいくつあったことか…!その辺を考慮した上で、今回の魔王退治に全力を尽くそうっていうんだから、応援してよね!」
私は笑顔でノアに、今回の目的に対する意気込みを発表する。ノアもにこーっと笑顔を浮かべる。
「地球からの転生者で、ここまでマグノキスのことを考えてくれるのは、美雪ちゃんくらいだよー!みんなゲーム感覚だからねー!」
ノアの言葉に、直近で出会った転生者であるユウジのことを思い出す。異世界で、運命の人が待ってるとのたまうナンパ野郎、ユウジ・タチバナ。
完全に私利私欲である。
他の転生者もそんな感じで私利私欲なら、魔族との戦争は不可避だろう。それどころか、転生時に種族を選べるということから、魔族側に転生者がいてもおかしくない。
もしかしたら魔王も転生者かな?いや、十中八九、魔王は転生者ね。
魔族で一番強いのが魔王と呼ばれるなら、魔族に転生することを選んだ、強力な力を持つ転生者が魔王をやってると考えるのが当然。ゲーム感覚なら、魔族を選んでもおかしくないし。確認しよう。
「ねぇ、ノア。魔王って転生者でしょ?」
「えー!?なんで分かったのー!?美雪ちゃんには、緑ちゃんのこと言ってないよねー!?」
ノアのリアクションから確信。魔王は転生者。
はぁ、魔王は転生者で…、同じ女性か…。
ノアに聞いた転生者情報では、前の世界で辛い思いをした人が、弱った魂を回復するためにマグノキスで来世を迎えると言っていたけど、魔王が転生者ってことは、他の転生者と同じように辛い生き方をしてきたってことよね…。
そんな魔王を前に、私はいざという時、変わらずに戦えるかどうか…。
うん、戦うという考えは、やっぱり捨てよう!魔王が人格者であることを願って、どうやったら手を取り合えるかを考えよう!
まずは、魔王の情報を手に入れるところかな!魔王になった転生者が、どういう考えで魔王になったか知らないと、手を取り合うのも難しいもんね!
そう思った私の目の前に、ちょうど色々な情報を持っている神がいる。ノアなら魔王の転生前の情報とか知らないかな?
「いくら美雪ちゃんでも、他の転生者の情報を教えることは出来ないよー!だから、ボクに聞いても無駄だよー!!」
私の思考を読んだのか、ノアは両手をクロスし、バツ印を作る。残念ながら、最も効率の良い手段は取れないようだ。
仕方ない。地道に情報を入手していこう!納期だけではなく、ひとまずの方針も決まった!
魔王の情報を教えないよーと言わんばかりに、ボクシングの素振りのように威嚇してくるノアに、次の質問いってみよう!
「魔王の話は自分で調べるから良いよ。そんなことより、次の質問!ノアに言われた私の転生目的って、異世界に転生して魔王退治だけど、それって本当の目的?」
「それってどういう意味かな?」
私の質問に、ノアは今までの間延びした声を止め、にやーっと笑い、質問の意味を確認してくる。
もしかして怒ったかな?そりゃ、お願いされたことが本当に合ってるかと聞かれたら、快く思わないよね…。ここはしっかり説明しよう。
「要件定義を続けてる内に、ノアの真の目的は、魔王を退治したその先にあるんじゃないかって思ったの。」
「ん?どういうこと?」
私の質問に、ノアはにやにやしながら、先ほどと同じ口調で答える。ノアの怒りを収めるため、説明を続ける。
「ダンジョンをせっかく作ったけど、魔族との戦争のためにダンジョンを使われるのが嫌だから、魔王を退治してほしいって話だったよね?それなら、魔王を倒すだけじゃダメって考えたの!いえ、なんだったら、魔王を倒さなくても、ダンジョンが本来の意味で使われるなら、それで目的達成って思ったの!」
「魔王を倒さなくても、ダンジョンが正常に使われるようにー?どういうことー?」
私の言葉に、ノアが普段どおりの間延びした声で首を傾げる。間延びした声が戻ってきた。私の説明のおかげか、どうやら怒りは収まったらしい。
魔王と和平を結ぶ。転生して最初の日に愛に話した私の真の目的。その目的を依頼者であるノアに納得してもらうため、私は説明を始める。
「ダンジョンが正常に使われなくなったのは、人族が魔族の侵攻を恐れ、武器や防具の獲得のためにダンジョンを活用したからが原因よね?じゃあ、魔族の侵攻が無くなれば…、つまり、人族と魔族が友好な関係を結べば、ダンジョンは本来の目的どおりに使われるようになるんじゃないか!私は、そう考えたの!」
「つまり、美雪ちゃんは、魔族の侵攻を、魔族との親交に変えるってことー?ダジャレはいまいちだけど、良い考えだと思うー!」
ノアの頭の上で、侵攻という文字が浮かんだと思ったらバツ印がつき、親交という文字に変わる。漢字ダジャレを表現するには最適だけど、なにその技?後でやり方教えて。
「まぁ、ダジャレは置いておいて…、私の考えはそんなところ!要件が、魔王退治からダンジョンが正常に使われるような平和な世界作り、に変わるけど良いかな?」
「良いよー!魔族は、マグノキスの種族の中でも強力な魔力を持つ種族だから、本当は手を取り合ってダンジョンを攻略してほしいと常々思ってたんだよねー!だから、大歓迎だよー!いやー、美雪ちゃんは着眼点が違うねー!」
「これがノアと私で繰り返してきた要件定義の成果よ!要件定義の結果をまとめた要件定義書は、近い内に作るから少し待ってて!長いこと協力してくれてありがとうね!」
「こちらこそ、本気で考えてくれてありがとうー!」
ノアが片手を私に差し出してくる。
握手を求めているのかな?少し恥ずかしいけど、私はノアの手を取り、固く握手を交わす。しばらくの間、お互い笑い合い、握手をしていた手を離したところで、地震のように地面が揺れる。
「こ、この揺れはー!どうやらもう少しで美雪ちゃん目覚めるみたいだねー!次で最後の質問になりそうだけど、何かあるかなー?」
ノアが笑顔で最後の質問を促す。
「んー、聞きたいことは聞いたからなー。と思ったけど、ひとつだけあった!達成する前に気にするなって思うかもだけど、色々うまいこといって、人族と魔族の戦争が終結して、平和な世の中になったら、ダンジョンも使われなくなるんじゃない?もう武器も防具もいらないでしょ?」
「そんなことないよー!ダンジョン以外からも強力なモンスターは出現するから、防衛するために戦力は必要だしー、原初のダンジョンっていう七つの特殊なダンジョンをクリアすると、ボクが叶えられる範囲で願い事を叶えてあげるからねー!実際、魔王が現れる前も、みんなダンジョン攻略してたしねー!」
「へぇ、そんな特典が!そのことはマグノキスの人達は知ってるの?」
「マグノキス人はみんな知ってるよー!ダンジョンをいっぱいクリアすると、願い事を神が叶えてくれるーって伝承があるからねー!原初のダンジョンクリア時にも、レベルアップの時と同じように案内音声が流れるしー!」
「それなら大丈夫か!でも、最短でダンジョン七つ踏破って難しくない?今までクリアした人いるの?」
「多くはないけど、いるよー!美雪ちゃんも余裕があったら狙ってみてー!」
魔王退治のために動かなければいけないのに、どこにあるかも分からない原初のダンジョンを七つ攻略。さすがに厳しいと思うから、強くなるためのダンジョン挑戦時に、狙えたら狙うって感じにしよう。
「狙えたら狙うで良いよー!いずれ、魔族と和平を結ぶっていう目標を達成して、暇になったら挑戦してみてー!」
「うん、そうする!」
私が力強く頷いたところで、ノアが天を仰ぎ見る。
「さっき、最後の質問って言ったけど、少しだけ時間があるねー!ってことで、アドバイスー!」
「アドバイス?」
「美雪ちゃんはユウジくんに苦手意識を持っているみたいだけど、優しくしてあげてー!仲間にすると損はしないと思うよー!転生者だから、強いし、ユウジは……き……ん…。」
ノアはユウジの売り込みをしているようだが、途中から聞き取れなくなる。
どうやら、夢から目覚めの時間のようだ。私の状態を察したのか、前と同じようにノアは話すのをやめ、私に手を振ってくる。
動かなくなっていく体で、なんとかノアに手を振り返す。薄れていく意識の中で、ノアがにこーっと笑った気がする。




