壁は越えるためにある
前回のあらすじ:ナンパ野郎のユウジが一時的に仲間になった。
壁すら無い広い空間に私は立っている。無限に続く白い空間の中、弓を持ち、腰には矢筒を装備した状態。始まりの草原の中、野営をしていた先ほどまでとは変わりすぎた状況。しかし、少しも不思議なことはない。
「これは、夢の中で夢と自覚できる夢。明晰夢だね…!」
「前にボクが教えたことじゃーん。よくそんな得意気に言えるよねー。」
背後から間延びした声が聞こえてくる。
振り返ると、私を異世界に転生した張本人、この世界の創造神でもあるノアが、黒い水が波打つような影で作られた少女と一緒に立っていた。
「数日ぶりね。今日はリベンジに来たわよ!!」
数日前に、今日と同じような夢の中で、本気で戦ったのに敗北してしまった黒い影に向けて指を刺し、声高らかにリベンジ宣誓を行う。
私の声に黒い影はびくっと驚き、一歩後に下がる。なんだか怯んでいるようにも見えたが、ぐっと拳を握った後、私の目の前に立つ。相手もヤル気のようだ。良かった、これなら全力で戦える。
「おー!思っていたよりも早いリベンジだねー!美雪ちゃん、レベルが上がってるみたいだけど、影ちゃんのレベルも上がってるから、苦戦するかもよー!影ちゃんは、美雪ちゃんに勝ったことで、レベル10の壁を超えたからねー!大人しく負けてたまるかって言ってるし、そんな影ちゃんとの再戦に勝機あるのー?」
ノアは黒い影のことを、影ちゃんって呼んでるけど、その黒い影は影ちゃんって言うの?黒い影だから影ちゃん?名づけが安直過ぎないかい?
まぁ、今はノアの安直なネーミングセンスを気にしていても仕方ない!影ちゃんとの再戦への意気込みを強く宣言しよう!
「えぇ!今日のために傾向から対策を練ってきたわ!準備万端よ!」
「力強い良い返事だねー!それなら早速、影ちゃんとのリベンジ戦いってみよー!!」
「いきなり!?え、この距離で!?」
ノアの開戦の合図を聞くやいなや、黒い影は腰の刀を引き抜き、私に向けて鋭い突きを放つ。私も咄嗟に腰のナイフを引き抜き、すんでのところで黒い影の突きを受け止める。就寝前にダースさんに教わったナイフでの護身術が役に立って良かった。
まぁ、ナイフでの護身術は、ユウジというナンパ野郎から身を守るために教わったのだけど…。役に立ったなら良いか。細かいことは考えないことにする。
「おー!美雪ちゃんも近距離武器を装備したんだねー!弓使いなら、いざって時の近距離武器をサブ武器として装備するのは重要だよねー!」
渾身の突きを受け止められた黒い影は、私から距離を取り弓矢を構える。飛んでくる矢を避けながら、私も弓矢を構え、お返しの矢を放つ。
お互いが牽制に矢を放ちながら、隙を伺う。このまま、どちらかの矢が尽きるのを待つ、という選択肢も考えたが、私の付け焼刃の近距離戦闘では勝機が薄いだろう。勝ちを狙うためにも、先に動く!!
「ウィンドアロー!!」
今回、私がリベンジのために考えた策の第一打目として、風魔法を乗せた矢、ウィンドアローを放つ。
前回と同じように、私の風属性の攻撃に対し、黒い影は籠手を構え、受け止める態勢を取る。
「ロケットアロー!!」
ウィンドアローが黒い影の籠手に受け止められるタイミングで、ロケットアローを放つ。
前回の戦闘で、あの籠手は風属性の攻撃を無効化することを知っている。ウィンドアローを放てば、籠手で受け止め、無効化しようとするだろう。その隙をロケットアローでつく。
「おー!影ちゃんが装備している防風の籠手の特性を活かした、見事な不意打ちだねー!さすがの影ちゃんも、これには手が出せないかー!?」
私と黒い影が戦う場に、ノアの声が響く。どうやら戦闘中は退屈だったらしく、解説を始めたようだ。心なしか普段より間延びが少なく、戦闘の臨場感を演出している。
そんなノアの解説の後、ドゴォォォォオオオンと轟音を響かせた私のロケットアローが、爆風と共に、黒い影に迫る。迫る矢を目の前に、黒い影が何か叫ぶ。すると、目の前に風の壁が作られ、私の放った矢の進路を上空へと変えてしまう。
「おー!美雪ちゃんの不意打ちのロケットアローに負けじと、影ちゃんも下から上へ吹き上げるウィンドウォールを発動ー!!ロケットアローを無理矢理、上空へ吹き飛ばしちゃったよー!ロケットアローは、魔力操作によって生まれた爆発による、計算づくされたすごい勢いの攻撃だけど、攻撃に使ってるのは軽い矢だからねー!ウィンドウォールでも防げちゃうよー!」
くっ、弓矢と短刀での攻撃しかしてこないから失念していたが、相手も魔法を使えるんだった!!でも、大丈夫!こうなった時のために次の策を用意してある!
周囲にロケットアローの煙が立ち込める中、私は魔法の詠唱を開始する。
「ロケットアローの爆発によって発生した黒い煙が、この空間を埋め尽くしているー!二人はどこに行ってしまったのか、こちらからは確認することが出来ませーん!!しかし、矢による攻撃は止まりましたー!どうやら、お互い相手の位置が分からず、動けないようでーす!」
「ウィンドシュート!!」
ノアの解説に負けじと、私はシロ君に教わった風魔法ウィンドシュートを発動する。相手が魔法なら、私も魔法だ!
「おー!煙の中から、何かが上空に飛び出したよー!!どうやら、どちらかが魔法を使って打ち出したようでーす!!これは何だー!って、美雪ちゃーん!?」
私は風魔法ウィンドシュートを自分の背中に向かって発動し、体を無理矢理に上空へ吹き飛ばした。
ウィンドサーペントが風魔法を使って穴から脱出したのを参考に、私も風魔法を使って上空からの攻撃を試みたのだ!
黒い影が使ったウィンドウォールは下から上に風を発生させていた。それなら、上空からの矢は防げまい!!ウィンドシュートによって発生した風により、黒い煙が吹き飛び、黒い影の位置も把握できるという一石二鳥だ!
にやりと笑った私に、黒い影は何かを叫ぶ。すると、黒い影の上空に渦巻いた風の盾が現れる。
「おー!どうやら美雪ちゃんは、上空からウィンドウォールの死角である上面を攻撃しようとしたみたいだけど、影ちゃんはウィンドスパイラルウォールによって、上面にも盾を張ったねー!これなら、死角なーし!」
ノアが解説をしてくれるとおり、黒い影は私の上空からの攻撃を防ぐ魔法の盾を作ってしまった。そんな黒い影からの攻撃を警戒したが、黒い影は私の足元を狙っている。
「しかも、影ちゃんは、美雪ちゃんの着地地点を狙ってるよー!何も出来ずに着地してしまったら、美雪ちゃんは影ちゃんの必殺の矢で貫かれちゃうー!せっかくの策なのに、これは美雪ちゃんピンチだー!」
上空という死角からの私の奇襲は、黒い影が上面に張った風の盾によって防がれてしまう。仕方ない、次の策だ。
「ウィンドシュート!!」
私はもう一度、風魔法を使い上空に飛び上がる。今度は斜めに魔法を発動させ、黒い影の上を飛び越えるように発動する。
「おー!美雪ちゃんはウィンドシュートを再び使い、影ちゃんの上を跳び越そうって考えだねー!でも、影ちゃんも慌てず、再び美雪ちゃんの着地地点に弓矢を構えなおしたねー!」
私の動きに合わせて、黒い影も攻撃の対象を調整したが、私は慌てずマグカを操作し、装備を変更する。
「おいおい、影ちゃんよー!そんなところを見ていて良いのかい!」
「おー!美雪ちゃんが影ちゃんを挑発して、狙いを逸らそうとしているー!でも、影ちゃんは無視だー!狙いを変えないー!美雪ちゃんが着地する隙を外さないよう集中しているー!挑発には乗らないー!!って、あれー?美雪ちゃんの装備が変わってるー!影ちゃん、上ー!上ー!」
私は装備していた弓をしまい、ブラックウルフの戦闘で手に入れた戦利品である黒狼の槍を装備した。ズシッとした槍の重さが手に伝わる。
その槍を黒い影に向かって構える。大きな重量を持つ槍を、ロケットアローと同じように射出すれば、あの風の盾ごと貫けることが出来るだろう。しかし、この槍を投げることは私の筋力では無理だ。そのため、上空から槍を投げ落とす!!
「くらえー!!」
ノアの実況と、私の声に黒い影が、こちらを向くが時すでに遅し!!
必殺の槍を投げ落とす。私が投げた黒狼の槍は、ロケットアローと同じ原理でドゴォォォォオオオンと爆発し、轟音を響かせながら、黒い影に向かって猛烈な勢いで飛来する。
黒い影は、突然の目の前での爆発と、風の盾で守られているという慢心からか、動くことが出来ず、黒狼の槍を腹に受け、地面に縫い付けられてしまう。普通の人間だった場合、なかなか衝撃的な絵になる状態だが、黒い影のため、グロさは抑えられている。
「おー!美雪ちゃんのオリジナル武技ロケットアローと同じ原理で、槍を投げ放ったー!!しかし、槍で敵を串刺しとか、すっかり美雪ちゃん悪役だねー!って、ぶふっ!悪役じゃなくて、ギャグキャラだねー!!なに、その格好!!あははははー!!」
魔法による跳躍の後、着地のことを考えていなかった私は、槍の爆風も受けたため、無様に顔から地面に激突していた。両手は伸び、膝は折り曲がり、お尻を上に突き出した姿勢。かなりマヌケな体勢である。そんな私を指差してノアが爆笑している。
「ノア、恥ずかしいから笑うのを辞めて欲しいのだけど…。というか、黒い影は!?」
無様な体勢を立て直し、黒い影の方を確認すると、槍に刺さった体勢のまま光の粒に包まれている。
「無事に倒せたねー!リベンジ達成おめでとー!!」
「リベンジを出来たのは嬉しいけど、黒い影は倒しても大丈夫だったの?基にした人がいるって聞いたけど、その人が死んじゃうわけじゃないよね?倒した後に言うな、って感じだけど、急に不安になってきたわよ!」
突然の不安におろおろしている私に、ノアは笑顔を浮かべながら親指を立てる。
「黒い影は、ボクがとある人のデータを謎物質で再現したものだから、倒しても本人が死んじゃわないから安心してー!まぁ、記憶は本人と共有してるけどねー!相手にとっては、美雪ちゃんが黒い影に見えてるよー!」
「ふむふむ、そうなのか。黒い影は私に関連の強い子って言ったけど、いずれ会えるのかな?」
「いずれ会えるだろうけど、美雪ちゃんと影ちゃんが出会うのは、まだまだ先だからねー!今は気にしなくて大丈夫だよー!あ、それより、いつものが始まるっぽいよー!そっちに集中してー!」
いつもの?と疑問に思った私に、聞き馴染みのある機械のような声が響く。
「ミユキはレベル10に上がった!HPとMPが全回復した!
攻撃が3上がった!防御が5上がった!魔力が12上がった!魔法防御が5上がった!速さが12上がった!スタミナが6上がった!状態異常耐性が3上がった!」
「あれ?なんかいつもよりステータスの上がりが大きいような気が?」
「レベル10の壁を超えたからねー!ここからは一桁台の時より大きくステータスが上がるよー!だいたい二倍ってとこかなー!」
レベルアップの時のステータス上昇が一定じゃないなら、レベル差によるステータスの違いは馬鹿に出来ないわね。転生者だからレベル10の違いくらい問題ないでしょ、みたいな感覚は捨てましょう。
そんなことを考えていると、機械のような声が再度響く。
「オリジナル武技を覚えました。技名をつけてください。」
「オリジナル武技?あー、もしかして先ほどの槍投げ?」
「あなたが初めてこの武技を使いました。十分な威力が確認できたため、この武技は承認されました。あなたが命名権を得ました。」
素直に考えるとロケットランスだけど、なんだか安直すぎる気がする。ロケットと付いた技ばかり使ってたら、いずれロケットガールやロケットレディって言われかねないし。
「投げ放たれる神の槍って意味を込めて、神槍投擲なんてどうー?」
私が悩んでいると、ノアが技名を提案してくる。技名に神って!!そんな仰々しい名前の技、おこがましくて使いづらいよ!!
「管理者権限による命名を確認しました。武技 神槍投擲を覚えました。MPを大きく消費し、槍を爆発的な威力で相手に投げ放ちます。」
私がノアの提案を遠回しに断ろうと思ったその時、頭の中で不穏な音声が響く。
「なんか私の新武技、神槍投擲って技名で確定しちゃったんだけど…?」
「あー、ごめーん!神であるボクが提案しちゃったから、優先されちゃったねー!でも、上空から投げ放たれる槍って、神の審判みたいな神話感あるから、良い名前だと思うよー!神槍投擲!うん、良い名前だねー!」
神槍投擲と書いて、神槍投擲と読む。
マグノキス人には、漢字って概念が無いから良いけど、同じ転生者に会ったら笑われてしまうかもしれない。私の新しい必殺技は、色々な意味で使いづらい技になってしまった。
「ま、まぁ、めったに使う技じゃないから良いけど…。それにしても神槍って…。」
なんだかノアが気まずい顔をしている。名づけ親も困惑してるじゃん。
「あー!!美雪ちゃん、見てー!!ほら、何か異変がー!!」
ノアが場の雰囲気を変えるように、大げさに声を上げる。ノアが指差した方を確認すると、黒い影が光の粒に変わっていく。しかし、普段のモンスターを倒した時とは異なり、光の粒は天に消えることなく、ぐるっと私の周りを包んだ後、左腕に集まる。
「へ、なにこれ?」
「大丈夫、大丈夫ー!レアドロップを手に入れた時に、たまに起きることだよー!」
光が弱まってきたところで、私の左腕に黒い弓が装備されていることに気付く。さっきまで戦っていた黒い影の力が感じられる不思議な弓。
「黒い影が美雪ちゃんの力になりたいってさー!」
戦ってる間は一度も黒い影の声が聞こえなかったけど、今はなんとなくノアの言ってるような、私に協力的な雰囲気をこの弓から感じる。
「うん、よろしくね!」
こうして私は黒い影の力を宿した弓「黒影剛弓-極-」を手に入れた。




