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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
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熊との激闘を制し、町へ帰る

前回のあらすじ:(あい)は見事ブラックベアに勝利したが、(しゅう)の型を使った反動で眠りについてしまう。


「ダースさん、このペースでファストの町を目指したら、どのくらいかかりますかね?」


「このペースだと…、最低でも二日。いや、三日はかかるな…。」


強敵であるブラックベアを討ち取った愛を背負った私、ブラックベアから受けたダメージのせいで大剣を杖代わりに歩くことしか出来ないダースさん。

二人の足取りは重く、ブラックベアと激戦を繰り広げた場所から思ったように進めないでいた。


「あー、無防備な状態で最悪三日ですか…。控えめに言っても状況最悪ですね…。」


「控えめに言っても状況最悪だな…。ふらふらな俺、スタミナ切れで寝てる嬢ちゃん。モンスターが現れても、俺と嬢ちゃんは戦えない。後衛の美雪(みゆき)さんが前線で戦わないといけないんだもんな…。」


青ざめた顔を更に青くしながら、ダースさんは応える。まだ昼前であり、太陽も燦々(さんさん)と照らす中、私達の中に寒気が走る。


「マルモコやホーンラビットなら余裕で倒せますが、私達が出会った時のようなブラウンウルフの群れが現れたら絶対絶命ですね…。ってなんだか嫌な予感が…。」


「おいおい、そんなこと言ってると…。」


「ワオオォォォォオオオオン!!!!」


遠くの方から聞き覚えのある鳴き声、というか遠吠えが聞こえてくる。


「おいおい、勘弁してくれよ…。」


嫌な予感は確信に変わる。

草葉の陰、木々の隙間から、一匹、二匹、三匹…、十匹を超え、数えるのも億劫になる数のブラウンウルフの群れが目の前に現れた。


「おうおう、先日はよくもうちらのリーダーを討ち取ってくれたな!!敵討ちをさせてもらうぞ!!って雰囲気ですね…。これは、絶体絶命かな…?お父さん…、お母さん…、妹…、先立つ不幸をお許しください…って向こうじゃ私すでに死んでるのか!はっはっは!」


「美雪さんが壊れたー!?」


ダースさんが大声を上げる。どうしたんだろ?なんか私が壊れたって言ってるけど…?


「くっ…!!まずいわね…。確かに壊れてる…。でも保証書が見つからない!!保証書が無いとメーカーは修理依頼を受けてくれないのよ!!」


「保証書って何だよ!!頼む、しっかりしてくれ!!美雪さんは冷静さが取り得なんだろ!!」


ダースさんは私の両肩を掴み、がくんがくんと前後に揺する。ダースさんの強引な行為に、正気を取り戻す。


「おっと、どうやら現実逃避をしてたみたいね…。私は正気を取り戻したわ、ありがとう。確かに絶望的な状況だけど、精一杯抗わせてもらうわ!!」


「あ、あぁ…、頼むぞ!!」


「さてさて、この状況…。どう切り抜けましょうか…!!」


目の前に増えていくブラウンウルフを眺めながら、状況を分析する。愛とダースさんが戦力にならない現状で、この数。うん、どう頑張っても無事じゃ済まないな。

私は背負っていた愛を降ろし、弓矢を構える。私の弓矢なら接近される前に数匹は倒せるだろう。接近されても腰のナイフを使えばよい。初めて使う武器だけど、決死の覚悟を決めた今なら数匹くらいなら刺し違えられるだろう。


「ダースさん、私がブラウンウルフを引き付けるので、愛を背負って逃げてください。体が辛いのも分かりますが、必死で逃げる覚悟を決めてください。私も決死の覚悟を決めて囮になるので。」


覚悟を決めた私の表情に、ダースさんは苦渋の表情を浮かべる。周囲を見回すと、ブラウンウルフがぐるるると喉を鳴らして威嚇をしたり、空に向かって遠吠えをしている。


「早く!!いつ襲って来てもおかしくない!!」


私を殿(しんがり)にすることに対して抵抗するダースさんを睨みつけ、行動するよう急かす。


「くっ…!!分かった!!だが、出来る限り死ぬんじゃねぇぞ!!」


ダースさんは精一杯の力を振り絞り、愛を背負う。ふらふらの体をひきずりながら、一歩一歩ゆっくりながらも私から離れていく。


「ダースさん、嫌な役回りをお願いしてごめんね。」


聞こえないであろう謝罪を小さく一言呟いた後、目の前のブラウンウルフの群れを睨む。


「さぁて、それじゃ精一杯、抗ってみますか。愛が無事に逃げ切るまでの時間を稼がせてもらうわよ!!」


「お嬢さん、お困りかい?」


私が覚悟を決めて、ブラウンウルフの群れへ叫ぶ中、どこかから男性の声が聞こえてくる。声の発生源を探そうとしたその時、目の前に何かが降って来る。


「あなたは、ユウジ…?」


目の前に降って来た男は、連日なぜか遭遇するナンパ野郎こと、転生者のユウジだった。


「なぜここに!?」


「女性のピンチに俺参上!といったわけで、俺も加勢するから、この状況を抜け出すことに集中しようぜ!」


「わ、分かった!!」


ユウジの言葉に、思わず頷く。私に親指を上げて笑いかけたユウジは、ブラウンウルフの群れに向かっていく。


「俺は前衛!!ブラウンウルフのタゲを取るから、弓矢で援護をしてくれ!!もしバフやデバフがあるなら、それも頼む!!」


「分かった!!」


突然のユウジの登場、タゲ、バフ、デバフという謎の単語に戸惑ったが、一対多から二対多へと状況が良くなったことは理解。窮地を脱することを祈り、ユウジの指示通りに私も弓矢を構える。

突然現れた大男に戸惑っているブラウンウルフの群れの中、ユウジはマグカから大剣を取り出すと、堂々と群れの真ん中で大剣を構える。銀色に光る大剣。なんだろう、あの大剣からは普通の装備から感じない威圧のような力強さを感じる。

そんな大剣を構えたユウジは大きく息を吸う。


「おい、狼ども!!寄ってたかって一人の女性を襲うとは良い度胸じゃねぇか!!俺にぶった切られる覚悟は出来てるんだろうなぁ!!!」


ユウジの一喝に対して、ブラウンウルフの群れは一斉にユウジの方を向き、ぎゃんぎゃんと吠える。ブラウンウルフ達は、私なんていなかったかのようにユウジのみを敵に見据える。ブラウンウルフの突然のターゲット変更に戸惑った私へ、ユウジが声をかける。


「スキル挑発を使った!!ここからはしばらくの間、狼どもの攻撃が俺に向く!!」


襲い掛かるブラウンウルフにユウジは大剣を振り下ろす。ユウジの斬撃を受けたブラウンウルフは、まるでバターを切るように真っ二つになり、光の粒となって消える。


「さすがに一人じゃ捌き切れないから、サポートを頼むぞ!!」


ユウジの大剣の切れ味に驚いている私に、ユウジは声をかけながら、横振り一閃にて数匹のブラウンウルフを光の粒に変えていく。数匹だろうがお構いなしにブラウンウルフは真っ二つに切り裂かれる。


目の前のブラウンウルフに集中していたユウジへ、背後の死角から数匹のブラウンウルフが飛び掛る。


「ロケットアロー!!!」


飛び掛るブラウンウルフ数匹をロケットアローで吹き飛ばす。矢が当ったブラウンウルフだけでなく、直前の爆発に巻き込まれたブラウンウルフ達も吹き飛んでいく。


「近くで爆発音が響くと耳がキーンってするな…!!でも、助けてくれてありがとな!!」


ユウジは子供のような笑顔を私に向けてくる。


「安心するのはまだ早い!!倒しきってないでしょ!!早く大剣振って敵を倒しなさい!!」


「お前、俺に厳しいな!!」


「ナンパ野郎っていう悪い虫が愛につかないように警戒するのは当然でしょ!!」


「くそっ、出会い方を間違ったせいで完全に敵扱いだ!!なんとしても狼どもを蹴散らして、ポイントを稼がせてもらうぞ!!」


ユウジはブラウンウルフの群れに再び向かう。なぜこんなにユウジが私達に固執するのか疑問に思いながらも、弓での援護を続ける。



「これで最後だ!!アクアスラッシュ!!」


ユウジが振るった剣先から大量の水しぶきが飛び、ブラウンウルフ数匹をまとめてなぎ払った。数多くいたブラウンウルフの群れも、今の攻撃で最後の一匹を光の粒へと変えた。


「ふーっ、転生者が二人もいれば、ブラウンウルフの群れも余裕で殲滅できるな!!どうだ!タンク役がいると戦いやすいだろ!俺を仲間にする気になったんじゃ…って、おい!どこへ行くんだ!?」


ユウジが戦いの感想を言っているが、私は気にせず愛の元へ向かう。逃げてる愛とダースさんがモンスターに襲われていたら元も子もない。

少し走ったところで、ふらふらながらもなんとか愛を背負って歩くダースさんが目に入る。良かった、モンスターに襲われてない!私は二人へ駆け寄り、声をかける。


「ダースさん!無事で良かった!」


「え、美雪さん!?ブラウンウルフの群れを蹴散らしちまったのかい!?化け物か!!」


「化け物って…。女性に対して失礼ですよ!あの数のブラウンウルフの群れ、さすがに私だけじゃ無理でしたよ!今回は助っ人が現れたんです。」


ふらふらのダースさんから愛を預かりながら、化け物扱いの誤解を解く。


「助っ人?」


首を傾げたダースさんの目の前に男が現れる。


「どうも、助っ人のユウジです!偶然にブラウンウルフの群れに襲われている美雪さんを見かけ、助太刀させてもらいました!」


ユウジがダースさんと私の間に入り、自己紹介をしてくる。


「お前は転生者の…。」


「あぁ、転生者のユウジ・タチバナだ。よろしく!」


ユウジの名前を聞いたダースさんは、名前を聞いたことがあるのか両手をポンッと打つ。


「ユウジっていうと…、初対面でメイコをナンパしてキレさせたって噂の転生者…!」


ユウジ何してんの?と思ったけど、とびっきりの美人メイドのメイコさんを、この男が口説かないわけないかと納得する。助けてくれたことで上がった評価が少し下がる。


「まぁ、そんなことはひとまず置いておいて…、助けてくれてありがとうな!俺の名前はダース!よろしくな!」


ダースさんとユウジは握手を交わす。


「しかし、たった二人っきりであの数のブラウンウルフを倒しちまうとは!ユウジもなかなかの実力を持ってるな!」


握手をしたままダースさんはユウジを褒める。


「そうだよ!俺は優秀な前衛なんだぜ!スキル挑発で敵の攻撃を一身で受ける優秀なタンク!転生者だからステータスも高い!そんな俺だが、幸いにも今はパーティを組んでないフリー冒険者!どこかタンク役を探してるパーティいないかなー?」


露骨なアピールをしながら、ユウジはニヤニヤと私を見てくる。そんなユウジに先ほどの戦いから疑問に感じていたことを聞く。


「ねぇ、ユウジ。前に会った時も不思議に思ったけど、なんでそんなに私達の仲間になりたがるの?」


私の質問に、ユウジは一瞬びくりとした後、笑顔で答える。


「俺は転生者!二人も転生者!強い力を持つ転生者同士がパーティを組みたいと思うのは普通だろ?しかも、美雪さんは同じ日本からの転生者!異世界人には伝わらない日本トークも出来るってことでパーティを組むならベスト!ってことで、パーティを組みたくなるのは当然だろ?」


確かにノアから、高いステータス、強いスキル、強い武器といった特典をもらった転生者は常人より強い。それは、今までの戦闘の中でも実感している。

しかし、私達の強さは、一人で戦っていける程の強さではない。

先ほどのブラウンウルフの群れと相対した時も、私一人では切り抜けられなかっただろう。いかに強力な転生者でも、お互いの弱点を補い合うようにパーティを組むのは重要だ。


「それに、俺は防御特化の転生者!魔力と速度特化の美雪さん、攻撃と速度特化の寝てる嬢ちゃんをサポートするには、もってこいの人材だ!実際、さっき戦って分かったろ?俺が攻撃を受けた隙に、美雪さんが敵を貫く!それを繰り返すことで、あんな大量のモンスターも一網打尽だぜ!というわけで、どうだい?俺をパーティに加えようぜ!」


私が考えている間も、ユウジの自分売り込みが止まらない。

確かに、私達は防御に不安がある。今までの敵は速度でカバー出来ていたが、私達より速い敵、範囲攻撃が得意な敵、圧倒的な数で押してくるような敵、といった速度でカバー出来ない敵に出会ったら、私達だけでは対応できないだろう。

そんな時に攻撃を受け止める仲間がいたら…。目の前の男は、いけ好かないナンパ野郎だが、私達の弱点を補える男だろう。


「それに、悠長に考えてる暇もないだろ?飛天剣(ひてんけん) 水纏(みずまとい)!!」


ユウジは背負っていた大剣を構え、勢いよく振り下ろす。魔力を纏った斬撃が天に向かって放たれ、水弾の爆発が起きる。

急なことに驚く私の目の前に、大きな蝙蝠(こうもり)に似たモンスターが数匹落ち、光の粒になって消える。


「グランドバット!!ちっ、遠くから狙ってやがったか…!!」


ダースさんが舌打ちをしながら、目の前に落ちてくるモンスターに目を向ける。どうやら空から蝙蝠型のモンスターに狙われていたらしい。

察知できないほど上空にいたモンスターの群れを一撃でなぎ倒したユウジは、得意気な笑顔を浮かべ、私に向けて親指を立てる。


「ここは始まりの草原。低レベルのモンスターが多いとはいえ、こうして強いモンスターも稀に現れる。そして転生者はトラブルメーカー体質。稀に起こることも日常的に起こるし、そういった強力なモンスターは転生者を優先的に狙う。眠り姫の嬢ちゃんを背負って、ふらふらの男と一緒じゃ、今の状況を無事に切り抜けられないぜ!」


ユウジは現状と自分がパーティに入ることのメリットを提言する。説得力が強い。なんだろう、この外堀から埋められる感じ。


「ファストの町に戻るまでのお試しでも構わない!俺をパーティに加えてくれ!!頼む!!」


頭を腰の高さまで下ろすユウジ。深い角度の最敬礼。どうすんのといった雰囲気のダースさんは、横目に私の顔色を伺う。


「はぁーっ。分かった、根負け。私達がファストの町に辿り着くまでの間、お・た・め・しで!!私達のパーティに加えてあげる!!」


私の言葉に、ユウジの顔色は目に見えて明るくなる。


「やったー!!」


「た・だ・し!!愛と私を襲おうとしようもんなら、お前のデコにこの矢が突き刺さる。無駄なことは考えず、誠実に精一杯、私達を守りなさい!」


喜び飛び跳ねるユウジへ、私は制約事項を伝える。


「おう!一時的とはいえ、パーティに加えてくれてありがとう!美雪さん達を全力で守らせてもらうぜ!!」


「えぇ、私達の身を守らせてあげるんだから、精一杯励みなさい!!」


「あぁ!!たとえ、この身に代えても全力で守らせてもらう!!」


私達のやり取りを見ていたダースさんは冷静に一言つぶやく。


「なぁ…、助けてもらうのは俺達だよな…?助けてもらう側が、こんなに偉そうで…。助ける側が、こんなに低姿勢…。普通は逆だよな…?」


冷や汗を浮かべながらのダースさんの言葉に、私は人差し指を口の前に持っていく。せっかく助けようとしてくれるユウジに水をさしても仕方ない。

ダースさんに、いざという時はユウジから私達を守ってくれるよう、そっとお願いをしたところで、なんかよく分からないユウジの忠誠心を頼りに、ファストの町への帰り道を一歩ずつ進める。


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