【幕間】夢の中でも熊さんに出会った
「んー?ここはどこだー?」
周囲を見回すと、霧に包まれてるみたいにボンヤリしてる。
「鬼火の里でもこんなに霧が立ち込めてないよー。美雪ーーー!!ここどこーーーー!!!近くにいないのーーーー!!?」
力いっぱいの大きな声で仲間の名前を呼んだけど、声は霧の中に消えてしまう。
「美雪いないみたいだねー。んむー、困った困った。」
腕を組み、体を傾けて考えてみたけど、この場所に全く覚えがない。
「こんな時は、まず自分の置かれた状況を冷静に判断することーって美雪が言ってたね!よーっし!」
両足は肩幅より広く、左手は腰、右手は拳を作って前に。胸を張って、鬼火流の発声スタイル。
「私の名前は鬼火 愛!!鬼火の里長である母ちゃんを倒すため、強敵求めて異世界にやって来た!!そこで数々の強敵と、かけがえのない仲間である美雪に出会って、強くなって、ついに強敵の一人である黒熊を倒したー!!今ここ!!うん、ちゃんと覚えてる!!」
「つまり俺は、親に反抗するための力を欲する家出少女に討ち取られた、ってわけか。」
隣から男の声が聞こえてくる。声のした方を見ると、黒熊が短い手足を器用に折り曲げ、体育座りで私を見ていた。
「反抗じゃないよ。私と母ちゃん普通に仲良いもん。」
「そうか。では何故、自分の母親を倒したいと?」
「ん?親を超えたいと子供が思うのは普通でしょ?」
私の言葉に、黒熊は目を大きく開いた後、すぐに下を向く。
「親を超えたいと子供が思うのは普通、か。確かにそうかもな。」
なんだか黒熊が笑ってるような気がする。
「なぁ、黒熊。ここどこか知ってる?あと、なんで倒した黒熊がここにいるんだ?」
「そこそこ話してから気になるのか。と思ったけど、まぁ良い。」
黒熊は溜息をついた後、この場所について話し始める。
「ここは、お前の夢の中。だから、倒された俺も存在することが出来て、お前と話してられる。ほら、死者は夢枕に立つというだろう?」
「夢枕?なにそれ、聞いたことない。」
黒熊は、ふーっと溜息をつく。やれやれ、これだからみたいな表情。なんか腹立つ。
「まぁ、いい。転生者は、今回のように不思議な夢を見ることがある、とノアが言ってたが、実際に体験するのは俺も初めてだからな、戸惑っても仕方ない。」
「ん?黒熊も転生者なの?」
「そうだ、俺は元人間だ。」
目の前の元人間を上から下まで観察する。黒い毛皮、鋭い爪、牙。
「熊じゃん。」
「熊ですが、なにか?人間の頃は、マタギっていう熊を猟銃で狩る仕事をしていたんだが、不慮の事故で死んじまってな。転生して熊さ。」
なんとなく黒熊が落ち込んでる気がする。
「不慮の事故?」
「それを説明するには、俺流の熊の狩猟の仕方を教えないとだな。」
「熊の狩猟の仕方?鼻っ柱を思いっきり殴って、ひるんだところをボコボコ?」
鬼火流の熊の狩り方を説明したとこで、黒熊が引いてる気がする。なんだか、鬼火流の説明をした時の美雪の表情と似ている。
「そんな熊狩り、平和主義の日本人じゃ無理だ。俺は熊の毛皮を着込んで、相手に仲間だと思わせて油断したとこをズドン、っていう狩り方を得意にしていた。」
「そんな方法があるのかー。頭良いね!じゃあ、不慮の事故ってのは、変装を見破った熊に襲われたってとこかな!」
私はドヤ顔で答える。
「得意気な表情のところ申し訳ないが、違うぞ。」
「え、違うの?」
「残念ながら違う。俺の変装は完璧だから熊に見破られたことはない。」
黒熊の言ってることが分からない。
「じゃあ不慮の事故って何?」
「変装が完璧すぎて、仲間に撃たれた。」
「アホじゃん!!」
黒熊の死因に腹をかかえて笑う。笑いの止まらない私に対して、黒熊が明らかにイライラしはじめる。
爆笑が収まってきたところで黒熊は話しかけてくる。
「おい、笑いは収まったか?」
私の笑いが収まるまで待っててくれた黒熊。見た目と違って大人の対応だ。そんな黒熊に私は気になっていたことを聞いてみる。
「黒熊は元人間なんだよね?熊に間違われて死んじゃったんなら、なんで熊に転生したの?」
黒熊は少し言葉につまる。視線を右下に逸らした後、ぽつぽつと話し始める。
「生きてた頃はな…、より熊に、より熊にって変装を極めようとしてたんだ…。そんな時に死んじまって、異世界転生ってきたもんだ。こうなりゃ、いっそ熊にー!!って転生申請用紙に種族、熊って書いちまったんだ…。」
「アホじゃん!!」
黒熊の転生経緯に、再び腹をかかえて笑う。
「死んだことで混乱してたんだよ、そんなに笑わなくても良いだろ…?」
黒熊が反論するが、私の爆笑は止まらない。腹を抱えながら、片手で地面をドンドンと叩く。
「おい、俺の生き様を腹抱えて爆笑するってんなら覚悟は出来てるんだろうな?」
イライラの限界が来たのか、黒熊は立ち上がり両手を広げて私の前に立つ。牙を剥き出しにし、戦意みなぎる威嚇の体勢。そんな黒熊に、私は笑いの質を変えながら立ち上がる。
「さっき私に倒されたっていうのに、もうリベンジマッチかーい!良いよー!もう一回、打ち倒してあげる!!」
黒熊の威嚇に、私も戦闘態勢で応える。
「その獰猛な笑い、さっきの戦いを思い出すなぁ!!今回は負けないぞ!!」
はじまりの草原で戦いあった時と同じ体勢で、私達は再び相対する。思いがけず始まった再戦に、両者は笑いながら拳と爪を交える。
どのくらいの時間が経っただろう。
お互いにダメージ量は蓄積し、肩で息をするようになってきた。私は、最後の一撃を繰り出す。
「咲かせて魅せよう!拳撃による花!!奥義!百花繚乱!!」
「ぐがぁぁぁああああ!!!」
黒熊との戦いは、私の奥義によって幕を閉じた。
「くそっ!!最初の戦いと同じくらい、全力を尽くしたってのに!!全然、歯が立たなかった!!」
「なんだか体がすごい軽いし、攻撃の威力も上がってる!!黒熊を倒したことでレベル10になったからかな!より強くなれたことに感謝だよ!!」
終の型や、私の最大の奥義である満開万花を使わずに黒熊を倒すことが出来た。これがレベルアップの恩恵かな?
そんなことを考えていると笑い声が聞こえてくる。見ると、黒熊が笑ってる。
「思い返せば、お前との出会いも不思議なもんだったな。急に目の前に現れたと思ったら、殴りかかってきて。ってお前、転生直後で俺に殴りかかってきたんだな?人のことアホアホ言うけど、お前も大概だぞ。」
「美雪にもよく言われる!考えてから行動しなさいって!」
「なんで胸張ってるんだよ…。美雪ってのはお前の隣にいた凶悪な目つきの女だよな?あいつも出会い頭で俺の右目に爆発する矢を撃ちこみやがって…!なんで異世界に徹甲弾があるんだよ、と思ったら普通の矢だもんな…。俺は、ボコボコにされたお前より、あの女の方が怖いぞ…。」
黒熊はぶるぶる震えてる。
「美雪、見た目は怖いけど、誰よりも優しいよ?」
「俺は信じないぞ…、あの目つきで優しい訳ないだろ…。」
美雪の優しさはなかなか伝わらない。震えが収まった黒熊は話の続きを始める。
「次に出会ったときは、大剣持った大男との戦いで傷ついたとこだったな。なんとか大男を倒したのに加勢が来て、万事休すかよって思ったらポーションで回復だもんな。なんで敵に塩を送った、お前?」
「塩?そんなもの使ってないよ?」
黒熊は笑う。なんで笑われてるの?
「まぁ、回復してくれたおかげで、最後に最高の戦いが出来たんだけどな。熊に転生した時は後悔したけど、お前とこうして死力を尽くした戦いが出来て、俺は結果的に満足だよ。ありがとな。」
「私も強敵と戦えて大満足!ありがとう!」
黒熊の言葉に、私も笑顔で応える。
黒熊が眠るように目を閉じると、先ほどの戦いと同じように黒熊の体が光の粒になる。
しかし、先ほどとは違う点がひとつ。光の粒は天に消えることなく、ぐるっと私の周りを包んだ後、両腕に集まる。
光が弱まってきたところで、私の両腕に黒い腕甲が装備されていることに気付く。さっきまで戦っていた黒熊の力強さが感じられる不思議な腕甲。
「お前のことが気に入った。こうしてお前の旅に同行させてもらうぞ!」
黒い腕甲から黒熊の声が聞こえてくる。
「おー!よろしくな!」
こうして私は黒熊の力を宿した腕甲「黒熊剛拳-極-」を手に入れた。
「無事にレベル10になれたし、多分だけど強力な装備も手に入った!確実に強くなってる!これなら母ちゃんに勝てる日もそう遠くないかな?あー、次はどんな強敵に出会えるかなー?楽しみだー!」
次なる強敵との出会いに心を弾ませながら、新しい装備の具合を試すため、型の素振りをしながら夢から覚めるのを待つ。終の型を使ったから、当分起きないだろうな。
「待ってろよー!!母ちゃん!!いつか絶対に勝つぞーーーー!!!」




