壁を越えるための準備
前回のあらすじ:魔法を覚え、レベル10の壁、モンスター食材の美味しさを知り、色ボケ転生者の誘いを断る。
「おはようございます。本日のご用件は何でしょう。」
一夜経ち、私達は朝早くから冒険者ギルドを訪れていた。
スモールケイブドラゴン討伐と卵納品のクエスト報酬を受領するためだ。昨日のゴルド商店での素材買取金と合わせて、レベル10の壁を越えるための軍資金にする。
クエストの報酬金は、なんと合計で960ゴールドになった。スモールケイブドラゴンを少し多めに討伐していた分とウィンドサーペントを討伐したことが評価され、追加の報酬をもらえたのだ。手持ちは1000ゴールドを越えたため、この後の買い物の軍資金としては充分だろう。
財布事情が大きく回復した私達は装備品を販売しているお店を訪れた。
王都のような大きい都市では、武器屋、防具屋、装飾品屋、アクセサリー屋のように分類ごとに販売店が分かれてるそうだが、ファストの町は、装備品屋としてまとめた商店が二軒しかない。今回は冒険者ギルドから近い方の装備品屋を訪れた。
「すみません、少し装備品を見せてほしいのですが。」
「ウェポス装備品店へようこそ!さびれた店ですが、以前は王都で職人をしてたドワーフが店主なので、装備品の品質は良いですよ!」
元気な挨拶で迎え入れてくれたのは、犬耳が目印の少年だった。
「僕はこの店で見習いをしている犬人族のポナギです。商品について聞きたいことがありましたら、どんどん仰ってくださいね!」
「それでは早速案内をお願い!拳で戦う冒険者用の武器と、私でも扱えそうな小回りの利く刃物系の武器、軽めの防具を見せてもらって良い?オススメを教えてくれると助かるわ!」
「拳で戦う冒険者ってのは私のことねー!蹴りでも戦うから足に装備する武器も見せてー!」
私の言葉に愛も希望を重ねる。要望いっぱいだけど大丈夫かなと少年を観察していると、嬉々とした答えが返ってくる。
「分かりました!!多くの要望ありがとうございます!!それでは、ひとつひとつオススメ品を紹介させてもらいますね!まず、そちらの少女ご希望の近接戦闘用の殴る蹴り用装備から紹介します!こちらへどうぞ!」
剣や槍が置かれたスペースの奥に、拳と足に装備するであろう武器が置かれたスペースがあった。
「わー!色々な武器がいっぱい!すごーい!」
愛が目をキラキラしている。昨日行った服屋では興味を示さなかったのに。女の子としては間違ってるかもしれないけど、冒険者としては正解なのかな?
「でも良いの?美雪の弓は買わないのに、私の武器を優先して?」
「私にはシロ君からもらった和弓若葉があるからね。マグカで調べたらまだまだ戦力として充分だし、今回は愛の装備品を優先しようかなって。それに、私用の近接武器を買うからね!弓は後回し!」
「じゃあ私も足につける武器だけにしとく!拳はシロ君に貰ったこれがあるし!」
愛はマグカからウィンドナックルを取り出す。難しい操作はまだまだ私頼みだが、愛もマグカの操作に慣れてきたようで嬉しい。
「あれ、シロ君に返さなかったの?借りた物は、ちゃんと返さないとダメよ!」
「違うよー!返そうとしたら、ウィンドサーペントから同じ物をドロップしたからって、これをくれたんだよー!」
ここで、ドロップアイテムについてシロ君から聞いた内容を整理。
冒険者が複数人パーティでモンスターを倒した場合、ドロップアイテムは自動でそれぞれのマグカにランダムに分けられる。そのため、シロ君が手に入れたウィンドサーペントのドロップアイテムはシロ君しか知らないのだ。
ちなみに、パーティの中にマグカを持っていない人がいた場合は、その人が手に入れられるドロップアイテムは近くの地面に置かれる。私達が始まりの草原でブラウンウルフの群れを倒した時、足元にドロップアイテムが落ちていたのはそのためだ。
「さすがシロ君は太っ腹ね。ちゃんとお礼を言った?」
「いっぱい言ったー!」
「それじゃ、問題なしね!拳はウィンドナックルを装備するとして、蹴りの威力強化のために足に装備する武器を選んでいこうか!」
「うんー!」
「それでは、足に装備するための装備品、足装備を案内しますね!こちらになります!」
私達二人のやり取りを見ていた店主のポナギさんは、商品棚の一角に案内してくれる。そこには、様々な素材で作られたシューズや足甲が置かれていた。
「足装備は本来は防具ですが、堅い金属製の物でしたら蹴った時に威力が上がりますよ!気になったものがあったら言って下さいね!試着も可能です!」
「愛、自分に合う最高の足装備を見つけようね!時間あるから、ゆっくりで大丈夫よ!」
「じゃあ、これー!試着させてー!」
愛は早速ごてごてと金属がついた長靴のような物を持ってきた。マグカで調べてみる。
カメラのように調べたい対象をマグカの画面に表示することで、その物の詳細を知ることができるのだ。さっそく目の前にある足装備を調べてみましょう。
名:アイアングリーブ
分類:足装備
ランク:2
性能:防御+10
重量:10
説明:鉄で作られた一般的な足装備。
アイアングリーブ。際立った特徴の無い一般的な装備ね。
「愛、試着しての感想はどう?」
足にアイアングリーブを装備した愛に試着しての感想を聞いてみる。愛は私の問いに足を上げ、軽く蹴りの素振りをする。カチャカチャと金属音が店内に響く。
「うーん、少し重いかなー。もう少し軽いのない?」
「それでは、こちらはいかがでしょう?少し値段が上がりますが、店主が丹精込めて作成したものなので、性能は保証しますよ。」
店員は白い金属で作られたブーツを棚から取り出す。愛が試着をしている横で、私はマグカで性能を確認する。
名:ホワイトアイアンブーツ+
分類:足装備
ランク:2
性能:防御+8、速度+8
重量:7
説明:白鉄で作られた足装備。製造時にホワイトラビットの耳を付与したため、速度にボーナスがつく。
「愛、どう?」
試着をした愛は先ほどと同じように蹴りの素振りをする。
「さっきより良い感じだね!というか、体が軽くなった感じがして、すごいしっくりくる!美雪、私これが良い!」
「愛も気に入ったようなので、こちらを購入したいのですが、いくらでしょう?」
「こちら320ゴールドになりますが、よろしいですか?」
良い金額だが、性能は間違いないため購入を決意する。
「問題ないわ。次は私用の近接武器を見せてもらって良い?」
「ありがとうございます!ナイフ、小刀等はこちらになります!案内しますね!」
さらに店の奥に進むと、様々な形のナイフや小刀が置かれていた。
「こちらが近接の軽武器になります。先ほどの会話を聞いたところ、メイン武器ではなく、いざという時のサブ武器を探しているようですが、合っていますか?」
「そうですね。私は弓矢がメイン武器なのですが、弓矢って懐に潜られると何も出来ないんですよね。そこで、防衛のために近接の軽武器が欲しいなと。」
店員はうんうんと頷いた後、棚から一本のナイフを取り出す。
「こちらなんていかがでしょう。重量が少ない割には切れ味よく、扱い易い良い武器ですよ。」
私は店員から受け取ったナイフを鞘から取り出し、刃を確認する。自分の顔が反射するほど、綺麗な刀身だ。さすがに店内で振り回すわけにもいかないため、試使用は出来ないが持った感じ重さも問題ない。マグカを使って性能を確認する。
名:ホワイトアイアンナイフ
分類:ナイフ
ランク:2
性能:攻撃+6
重量:5
説明:白鉄で作られたナイフ。軽さの割には切れ味鋭い。
愛の足装備と同じ素材で作られたナイフのようだ。ナイフの良し悪しはいまいち分からないが、持った感じと直感で購入を決意する。
「うん、悪くないわね。こちらの金額は?」
「220ゴールドになります!今ですと、砥石などがワンセットになったナイフお手入れセットもおつけしますが、いかがですか?」
おまけが出てくるとは、通販番組かな?でも、買った後のナイフの手入れは意識してなかったため、こういった物がおまけにつくのは、素直に嬉しい。
「商売上手ね。買ったわ!次は愛と私の防具を見せてもらって良いかしら。」
「良いですけど、愛さんが今着ている道着より良い防具は、うちに置いてないですよ…。」
「え?そうなの?」
店主さんの言葉に、愛の着ている道着をマグカで確認する。
名:鬼火の道着
分類:防具 上下
ランク:3
性能:攻撃+10、防御+36、速度+10、スタミナ+10、自動修復
重量:22
説明:鬼火の里の門外不出の技術で作られた道着。見た目よりも丈夫であり、追加効果も多く付与されている。
「ほんとだ、愛の道着すごい性能ね。前に持った時、妙に重いなと思ったけど、そういうことだったんだね。」
「ふっふふーん!この道着は、鬼火の里周辺に巣食う凶暴で凶悪な獣の毛を束ねて固めて作ってるからねー!ちょっとした刃物じゃ切れないし、傷ついても自動で直っちゃうんだよ!鬼火の里は意外と技術力が高いんだよー!見直したかな?」
愛は両手を腰に胸を張る。私は思わず愛の頭を撫でる。
「それじゃ愛の防具は不要ね!武器でそこそこの出費になってたから助かるわ!」
「美雪の力になれたなら何よりだよー!じゃあ、美雪の防具を選んでいこうか!」
その後は、店員さんのオススメの防具を代わる代わる装備し、購入する防具を探す。その中から私はスモールケイブドラゴンの皮で作られたレザーコートを260ゴールドで購入する。
名:レザーコート+
分類:防具 上
ランク:2
性能:防御+8、魔法防御+8、水耐性10%
重量:5
説明:スモールケイブドラゴンの皮で作られたコート。付与された鱗によって水耐性を持つ。
「ホワイトアイアンブーツ+、ホワイトアイアンナイフ、レザーコート+の三点で合計800ゴールドになります!おまけのお手入れセットはこちらになります!」
店員さんはマグカに購入物の一覧と金額を表示する。内容に問題がなかったので、私は自分のマグカを取り出し、店員さんのマグカに近づけ購入処理を完了させる。
「ご購入ありがとうございます!」
私達は購入したものを装備していく。いざという時に、すぐ抜けるようにナイフを横挿しで腰に装備する。仕事着のスーツは脱ぐわけにはいかないため、レザーコートをビジネスコートのようにスーツの上から着る。愛も足にホワイトアイアンブーツを装備し、足踏みしている。
装備品の着心地を確認していると、入り口近くのポスターが目に入る。
「オリジナルアクセサリーはいかがですか?50ゴールドとあなたが用意した素材で世界にひとつのアクセサリーをお作りします!性能は素材と運次第!気軽に店員に相談してください!」
そのポスターを見た時、私は名案を思いつく。
「すみません、そのポスターのオリジナルアクセサリーを二個作ってもらっても良いですか?」
「オリジナルアクセサリーですね!仕上がりは明日の夕方以降になりますがよろしいですか?」
意外と早く完成するもんだ。
「良いですよ!素材はこちらでお願いしたいのですが。」
私はマグカからラッキーバードの羽根を四本取り出す。私が取り出した羽根を見て、店員は驚いた声を上げる。
「わぁ!!これ、ラッキーバードの羽根ですよね?初めて見ましたよ!」
「これを二本ずつ使って二個アクセサリーを作ってもらっていい?首からかけるネックレスタイプでお願い。」
「ラッキーバードの羽根を素材に…。それですと、運を上げるアクセサリーが出来ますね!分かりました!引き受けましょう!」
犬人族の店員は、任せてくださいとばかりに自分の胸をドンッと叩く。同時に犬耳がピンッと立つ。
「あ、お代は結構です!こんなに珍しい素材を加工できるなら、加工屋冥利に尽きるってもんですよ!こちらからお金を出したいくらいです!」
「無料!お願いします!」
店員の無料という言葉に甘えることにした。聞いた話では、アクセサリーの加工はドワーフの店主でなく、鍛冶屋見習いの犬人族の店員が担当らしい。
貴重らしい素材を見習いが加工することに少し抵抗を感じたが、店員の言葉と目に宿る信念を信じ、思い切ってお願いすることにした。どうせ偶然手に入れた素材だし、成功したら儲けってことで。
お目当ての物は買えたので、愛と一緒に装備品屋を後にする。新しい装備に身を包んだため、否応なしにもテンションが上がる。
「愛、装備品は購入できたから、お昼ご飯にしようと思うけど、他に買いたい物ある?手持ちゴールドそんなに多くないから、あまり高いものは買えないけど。」
うーんと唸りながら愛は両手を交差し、考え事をする。愛の頭の上にびっくりマークがつく。どうやら何か名案が思いついたようだ。
「じゃあ、買える範囲で構わないから、一番良いポーションを頼む!」
「ポーション?どうして?」
「なんとなくだけど、レベル10の壁が分かった気がするんだよね!そいつと戦う時に使う!」
「え?レベル10の壁の相手、分かったの?」
「うん!この世界に来て、一番最初に強敵と思ったモンスター!黒熊!」
「あー、あの黒い熊…。確かにレベル10の壁として倒す強敵には相応しいかも。」
愛と出合った時に追われていた黒い熊。どうやら愛は、レベルの10の壁はあの時の黒熊じゃないかと感じたようだ。
考えてみれば、確かに相応しいかもしれない。黒熊は、強敵を求めて転生した愛が、初めて出会い逃げることしか出来なかった相手。越えるべき相手として、これ以上の相手はいないだろう。
ちなみに、タツヒロは例外。強すぎる。レベル10に上がったところで倒せるイメージが出来ない。レベル100の壁とかがあったら、きっとそれ。
「あの黒熊と戦ってレベル10になるには、強力なポーションが必要なんだ!買って良い?」
「強敵と戦うから怪我もするだろうし、回復手段は必要ね!もちろん買って良いわよ!それじゃあ、ゴルド商店に向かいましょー!」
「おー!」
愛が元気いっぱい片手を上げると、ぐぐぐぐぅ~と愛のお腹が鳴る。
「先に食事にしようか?」
「うん!肉!肉が食べたい!」
愛の肉が食べたいという要望に、周囲を見回す。ちょうど看板に肉の書かれたお店があったため、昼食はその店で食べることにする。お店の中に入ると、肉料理の良い香りが鼻腔をくすぐる。ひとまず、オススメの肉料理を頼む。
頼んだ料理が出てくるまでの間、これからの作戦会議を始める。
「黒い熊と戦うんだと、始まりの草原に行かなきゃだよね。馬車で半日くらいの移動だったから、歩いて移動となると野営が必須よね。」
「シロ君に馬車を借りたら良いんじゃないの?」
「シロ君にはお世話になりっぱなしだからね。私達の事情で始まりの草原に連れて行ってもらうのは流石に迷惑をかけ過ぎだよ。」
ファストの町まで馬車で連れてきてもらったし、私の弓矢と愛のウィンドナックルをもらってるし、宿屋にも泊めさせてもらってるしといった具合で、年下の少年にお世話になりすぎている。年上の面子はもうボロボロだ。これ以上お世話になるわけにはいかない。
「美雪がお願いしたら、シロ君はすぐオッケーって言ってくれそうだけど、確かにおんぶにだっこ過ぎるねー。今回は頼るの遠慮しようかー。私は野営上等だよー!」
「見張りで寝落ちしたくせに、よく上等って言えるわね…。まぁ、セーフティストーンがあるから今回は野営でも安全だけど。」
「セーフティストーン何それ?」
私がセーフティストーンの説明をしようと思ったところで、頼んでいた料理が届く。冷めてしまうのはもったいないため、料理を食べながら説明することにする。
「いただきまーす!!」
「いただきます。食事しながらで良いから聞いてね。」
愛は肉料理にかぶりつきながら首を縦に振る。
「セーフティストーンっていうのは、この世界のあちこちに存在している青い石のことで、モンスターが近寄れない結界を周囲に作り出すの。始まりの草原にもいくつかあって、そこなら野営してもモンスターには襲われなくて安全ってわけ!」
私は胸を張りながら、セーフティストーンの情報を得意気に披露する。
「シロ君情報?」
「…うん、シロ君情報。」
得意気に知識披露したが、愛には情報源がバレバレのようだ。
「話をまとめると、始まりの草原でも安全に野営できるってこと?」
「そう。モンスターに襲われなくなるだけで、盗賊といった悪い人は結界に入ってくるけど、始まりの草原にいる初級冒険者を狙う盗賊はいないからねー。安全に野営が出来るわ!」
私は胸を張りながら、始まりの草原での野営情報を得意気に披露する。
「シロ君情報?」
「…うん、シロ君情報。」
得意気に知識披露したが、やはり愛には情報源がバレバレのようだ。
「野営するなら、簡単な食事を作るための鍋やフライパンは買わなきゃね。ゴルド商店に売ってるかなー?」
「もぐもぐ。」
「そうね。実際に商店に行ったら分かることだし、今は食事に集中しようか。」
「むしゃむしゃ。」
少し冷めてしまった肉料理を、生活魔法レンジで温めなおし堪能する。
私達が宿泊している銀字塔に比べたら、おおざっぱな味付けだが値段の割には量が多かったため、大食いの愛と一緒に入るお店としては最適だった。
食事を終えた私達は、おばちゃんのゴルド商店へ向かう。
「いらっしゃーい!あら、美雪ちゃんと愛ちゃんじゃない!今日も素材の買取かな?美雪ちゃん達が持ってきてくれる素材は良いのが多いから、おばちゃん歓迎よー!」
ゴルド商店に入るとおばちゃんが変わらぬ笑顔で迎え入れてくれる。
「今日はポーションの購入に来たわ!出来るだけ高品質だと助かる!あと、鍋や外で寝るための道具があったら売ってほしいのだけど、あるかな?」
「どれも在庫あるわよー!いくつか候補を持ってくるわねー!あ、その前に大事なこと言い忘れてた!この間の黒狼の素材、完売したわよー!手数料を引いた売上金も渡すわね!」
店頭買取に出していた黒狼素材の売上金を手に入れた私達は、財布に余裕が出来たため、ゴルド商店で一番品質の良いポーションを数本購入する。なかなかな金額だったが、一週間以内の怪我なら何でもたちどころに治るという性能らしい。愛要望の品だし、黒熊という強敵と戦う私達には必要な物のため、採算度外視で奮発することにした。
他には、取り立てて特徴の無い鍋、マルモコの毛で作られたという寝袋のようなもの、岩塩を購入した。
「おばちゃん、ありがとー!」
「こちらこそありがとう!買ったもの的に遠征かな?素材を楽しみに待ってるわねー!」
愛の元気いっぱいの言葉に、おばちゃんも笑顔で答える。
ゴルド商店を後にした私達は再び冒険者ギルドへ向かう。せっかく始まりの草原に行くし、ついでにクエストをいくつか達成できないかと思ったわけだ。
冒険者ギルドのクエストボードには、様々なクエストが貼り出されている。
「美雪ー!これこれー!まさに私達が受けるためのクエストがあるよー!」
そのクエストは、お尋ね者コーナーに貼り出されていた。
お尋ね者コーナーとは、犯罪者、進化し強力になったモンスターなど、特定の討伐対象が記載されたクエストのみが張り出されたクエストボードである。
お尋ね者がモンスターの場合、クエストを受注することで、マグカのマップ画面にお尋ね者モンスターの位置情報が表示される。受注しておけば危険なお尋ね者モンスターの接近から逃れることが出来るため、ほとんどの冒険者が受注しているらしい。昨日シロ君から聞いた情報をまとめるとこんな感じだ。
そんなお尋ね者コーナーの中に目的のクエストが貼り出されていた。
ブラックベアの討伐1600ゴールド
ブラックベアとは、私達が倒そうとしている黒熊のことだろう。
ギルドの受付にブラックベアの特徴を聞いたところ、私達が必死で逃げた黒熊の特徴と一致した。私達はこのブラックベアの討伐クエストを受注することにした。
「こちらのクエストを受注するのですか…?女性二人で?ブラックベアはすごい強いから危険だと思いますけど…。」
「大丈夫だよー!私達こう見えても強いから!」
愛の元気いっぱいの言葉に、ギルドの受付は私達の全身をゆっくりと確認する。
「装備品もしっかりとしていますし…、分かりました…。クエストの受注を許諾します。」
「ありがとうございます。」
クエストが無事に発行され一安心だが、ギルドの受付さんの表情はなにやら暗い。このクエストに何かあるのかという懸念が生まれたため確認することにする。
「どうかしましたか?表情が暗いようですが。」
「あ…、あの、本来、冒険者さんにお願いすることではないのですが、ひとつお願いを聞いていただけないでしょうか?」
「お願い?ひとまず話を聞きましょう。」
ギルドの受付は少し時間を置いてから、話し始める。
「実は、少し前に他の冒険者も同じクエストを受けたのですが…。その方、一人でクエストを受注してしまって…。この町では有名な高レベル冒険者ですが、さすがに一人ではブラックベアの討伐は無理かと…。」
「なんでその人はそんな無茶をしたのですか?」
「私もそう思って確認したのですが、弟子として可愛がっていた冒険者をブラックベアに倒されたとかで…、敵討ちのためにって私達ギルド職員が止めるのを聞かずに、一人で討伐に向かってしまいました。」
「なるほど、分かりました。私達はこれから向かうため、確実に助けられるかは分かりませんが、もし見かけたら止めるようにします。その男性の特徴を教えてくれますか?」
「大剣を背負った大きな男性、あの…、ダースさんってご存知ないですか?」
ダースさん。始まりの草原でシロ君と出会った時に一緒にいた大剣を持った大柄の男性。シロ君が冒険者業をする時に一緒にパーティを組むと言っていた男性だ。
「ダースさん!!シロ君の隣にいた大男!!美雪、助けに行かなきゃ!!」
「そうね!ギルドの受付さん、すぐに助けに向かいます!!」
ダースさんは強い冒険者と聞いているが、私達にはブラウンウルフの群れ相手に、頭に怪我をしていた記憶しかない。正直、あの黒熊に単独で勝てるとは思えない。助けに向かうことを即決する。
私達の言葉に、ギルドの受付は深々とお辞儀をする。
「ありがとうございます!!」
愛と私は冒険者ギルドを飛び出し、一目散にファストの町の出口へ向かう。
次回、ブラックベアとの死闘。




