表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
23/150

初めてのクエスト

前回のあらすじ:スキルを入手しレベルアップのためクエストを受けよう!


「やってきました!洞窟竜の巣!というわけで、はい!全員集合!これから今日の目的を確認します!!」


クエストの討伐対象であるスモールケイブドラゴンの生息地である洞窟竜の巣を目の前に、私は両手を腰にあて声高らかに宣言する。

パーティメンバーである(あい)とシロ君が私の前に集まる。


「集まったよー!準備体操もばっちりだよー!」


首と拳をコキコキ鳴らしながら、愛が笑顔で駆け寄ってくる。


「今回の目的は、スモールケイブドラゴンの討伐および卵の納品です!!クエストを達成するためには討伐数、納品数がありますが、意識せずモンスターを倒し卵を手に入れていきましょう!数は多ければボーナスも出るので、各々全力を尽くしましょう!」


転生前のSE(システムエンジニア)時代に上司がやっていた朝会を思い出し、今回は私が上司役で仲間を鼓舞する。


「もちろん全力を出すけど、美雪(みゆき)テンションどうしたのー?」


愛の質問に私は人差し指を向け解説をする。


「良い質問!なぜ私がこんなにテンション上げてクエストの説明をしているかというと、絶対にこのクエストを失敗できないからです!!」


「絶対に失敗できない?なぜでしょう?」


愛に向けていた人差し指をシロ君に向け解説をする。


「これまた良い質問!それでは、クエストを受注しギルドを出た後を思い返しましょう!」


「ホットドック美味しかったー!」


「うん、ホットドック美味しかったね!でも、いま重要なのは昼食の前!」


愛は昼食に食べた屋台のホットドックに満足してくれたようだ。良かった。


「昼食の前?美雪がなんかいっぱい買い物してた!」


「そう!ギルドを出た私達は、HP回復ポーション、MP回復ポーション等の回復アイテム、私の武器に必須の矢、いざという時の解毒薬、暗い洞窟でも物が見える暗視ポーションを買ってきました!」


「これでスモールケイブドラゴンとの戦いも万全だ!」


愛の合いの手に私は親指を立てたサムズアップのポーズで応える。


「そうです!万全の準備をしました!その後、近くの食料品店で飲み水と保存食も買った後、屋台で売っていたホットドックを少し早めのお昼ご飯に食べながら三十分ほど歩いて、やってきました!洞窟竜の巣ってのが現状です!」


「そうですね、今の状況に間違いありません。でも、それとクエストに失敗できない理由のつながりが分からないのですが…?」


シロ君の質問に私は笑みを浮かべる。私の今の悩みはシロ君に程遠いものだからね…。


「現状、調子に乗って買い物をいっぱいした結果、手持ちゴールドが風前(ふうぜん)(ともしび)、昼食のホットドックすら買えないレベルです!!よって、今回のクエストは失敗できません!!」


ブラウンウルフの素材を売って手に入れた生活資金は、今回の準備でほぼ使い切ってしまった。

先行投資だからと自分に言い聞かせ、減っていくゴールドから目を背けていたら見事に財布がすっからかん。おばちゃんの店に店頭買取品があるけど、いつ売れるか分からないため、今日のクエストの成否はとても重要だ。


「大丈夫だよー!鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ)ならスモーなんちゃらドラゴンなんて海のもずくだよ!」


スモールケイブドラゴンね。あと、ここは海じゃないし、たとえ海でももずくじゃなくて藻屑(もくず)ね。

でも、注意して愛のヤル気を損なうわけにもいかない。ここは愛にのっていきましょう。


「よし!その意気だー!一匹でも多くのスモールケイブドラゴンを討伐し、一個でも多くの卵をゲットしていきましょう!というわけでシロ君!スモールケイブドラゴンはどんなモンスターか解説お願い!」


私はシロ君にサムズアップをし、今回のクエストの最重要モンスターであるスモールケイブドラゴンの解説を依頼する。シロ君は急な解説依頼に少し驚きながらも、解説を始めてくれる。


「あ、はい!スモールケイブドラゴンは堅い鱗に覆われた2メートルくらいのトカゲのようなモンスターで、タックルと尻尾による攻撃が強力です。また、見た目よりも俊敏に動くので注意が必要です!」


「ふむふむ。じゃあ愛はスモールケイブドラゴンに接近して興味を引きつつ回避を優先で攻撃!その隙にシロ君は魔法で、私は弓矢で遠距離攻撃!もしダメージを受けたらポーションですぐ回復!危なくなったらすぐ逃げる!この戦法で行きましょう!」


「うん、良いよー!でも、私の新しいスキル、剛拳(ごうけん)でみんな薙ぎ倒しちゃうから、二人の出番は無いかも!」


愛は力強く獰猛に笑う。仲間の頼もしさにクエストへの不安が和らぐ。

そんな中、シロ君が忘れていたことを思い出したように手をぽんっと叩く。


「あ、そうでした!愛さんはこちらを装備してください!」


シロ君はマグカからヤンキーが装備するようなメリケンサックを取り出す。


「なにそれ?」


「こちらはウィンドナックルといいます。(こぶし)で戦う冒険者のための装備で、固い鱗を持つスモールケイブドラゴンを叩いても拳を痛めるのを防ぎます!微量ですが攻撃に風属性も付与されるため、弱点を突いてダメージアップを期待できます!」


純粋の象徴のような少年少女が、暴力の象徴のようなメリケンサックを渡す光景が目の前に広がる。なんだろう、色々もやもやした気持ちになる。


「おー!ありがとう!私の拳は鍛えてるから装備なんて無くても大丈夫だと思うけど、美雪が失敗できないクエストって言うから一応装備するね!」


「武器は軟弱って言ってた愛が武器を…!ありがとう、愛!」


愛なりに考えてくれていたことに感謝し、頭をなでる。

ウィンドナックルを装備しながら愛は満面の笑みになる。


「うん、しっくりくる!武器を装備するのも悪くないねー!今ならどんな敵も一網打尽だよ!」


メリケンサックのようなウィンドナックルを装備した愛は、型の確認のためか鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ)の素振りを始める。


「油断は禁物ですよ!!洞窟竜の巣には、スモールケイブドラゴンの卵が好物のウィンドサーペントが稀に出現するんですから!!」


愛の楽観的な言葉に、シロ君は普段と違い口調強めに注意する。


「ウィンドサーペント?シロ君、解説お願い。」


私の質問にシロ君は表情を強めながらウィンドサーペントの解説を始める。


「ウィンドサーペントは蛇に似た5メートル以上のモンスターですが、体の大きさの割には俊敏な動きが特徴の風属性のモンスターです。適正討伐レベルこそ14とスモールケイブドラゴンより低いですが、風属性のため、地属性のスモールケイブドラゴンには天敵です。」


「ふむふむ、聞いた感じじゃスモールケイブドラゴンとあまり違いはなさそうだけど、シロ君はなんでウィンドサーペントにそんな怯えているの?」


「え?」


私に質問されて初めてシロ君は自分が震えていることに気付く。


「震えてないですよ!大丈夫です!!ウィンドサーペントは稀に出現するので、今回は気にしなくても大丈夫なはずです!!」


「シロ君、残念な話だけど、稀にってことは私達の場合は確実に遭遇するよ?」


「そうだねー。私達トラブルばっかだもんねー。」


転生してからの経験を考えると、ウィンドサーペントの遭遇は不可避だろう。愛も賛同する。

トラブルは起こるものと思って対策することが大事。対策の材料を入手するため、情報を入手しよう。


「転生してから起きたトラブルを考えると…、うん、確実に遭遇する。シロ君、辛いかもだけど、その震えの理由を話してもらえると助かる。大事なクエスト前だから。」


シロ君に向き合い、真摯に頭を下げる。

シロ君は少しの逡巡の後、少しずつ言葉を紡ぐ。


「そうですよね、美雪さん達には大事なクエストですよね…。分かりました、話します。」


覚悟を決めたシロ君を前に、愛と私は聞く姿勢を整える。


「恥ずかしい話ですが、ウィンドサーペントには苦い思い出がありまして…。冒険者として経験を積み、自信が出てきた時にダースとメイコと一緒にスモールケイブドラゴンの卵の納品クエストに挑んだことがありまして…。その時に失敗を…。」


スモールケイブドラゴンは一回で10個近く産卵し、その中で特に魔力の強い卵を数個選んで温める。

選ばれなかった卵がいくつか巣の近くに転がっており、卵の納品クエストは比較的簡単にクリアできるクエストなのだとギルドの受付が話していた。


「その時は、何回もクエストをクリアしていたことで油断していたのだと思います。余裕綽々と卵を集めていたときに、ウィンドサーペントに出会いまして…。ウィンドサーペントの話は聞いていたのですが、三人ならなんとか倒せるだろうと、ダースが止めるのを聞かず僕は魔法で攻撃をしてしまったのです。」


今の冷静沈着なシロ君からは想像がつかないが、昔は年齢相応にやんちゃだったのだろう。


「しかし、僕の使える魔法は地属性のため風属性のウィンドサーペントには全く歯が立たず、ダースとメイコに守られながら傷だらけになって必死に逃げるのが精一杯でした…。」


「つまり、ウィンドサーペントがトラウマになっていると。」


「はい、恥ずかしながら…。」


シロ君は杖を握り締めながら震えていた。

そんなシロ君を励ますため、私はつとめて明るい声で答える。


「じゃあ今日そのトラウマを吹き飛ばしちゃおっか。」


「え?」


自分の都合を優先してシロ君の過去のトラウマを呼び起こして悪かったなと思ったが、原因がウィンドサーペントなら、討伐することでトラウマを解消してあげればよい。


「ウィンなんちゃらがどんなモンスターか知らないけど、美雪と私が一緒なら余裕で倒せるよ!」


愛も胸を張り笑顔で応える。


「そういうわけだから、肩の力抜いてクエストに臨みましょ!ウィンドサーペントに出会わない可能性の方が高いんだし!」


私達の言葉にシロ君の表情が明るくなる。


「それもそうですね!まだウィンドサーペントに出会うと決まったわけではありません!先ほども言いましたが、僕の使える魔法は地魔法なのでスモールケイブドラゴンにも弱点は突けませんが、サポートは任せてください!」


「うん、頼りにしてる!」


そう言って私達は笑い合う。シロ君の不安が和らいだようで良かった。まだ出会うと決まったわけじゃない敵に怯えても仕方ないからね!


「私は強い敵と戦いたいからウィンなんちゃらってのに会ってみたいけどね!」


愛の言葉にシロ君と私は笑顔のまま冷や汗を流す。大丈夫、まだ出会うと決まったわけじゃない。

暗視ポーションをまぶたに塗りながら暗い洞窟の中へ歩を進める。大丈夫、ウィンドサーペントに出会うとまだ決まったわけじゃない。



そう思っていたのは、だいたい二時間前。

スモールケイブドラゴンの討伐数、卵の納品数がもう少しでクエスト達成数に届くというところで、ウィンドサーペントが入り口から這って現れた。


シロ君に聞いていたとおりの蛇に似たモンスターだが、実際に目にするとその大きさに驚かされる。

私達がいる洞窟は天井まで3メートル程度と広めだが、ウィンドサーペントが頭を上げると天井につきそう。胴体なんか木より太い。


幸いウィンドサーペントは私達よりスモールケイブドラゴンの卵を食べることを優先しているため、強私達は作戦会議を始める。


「はい、やっぱり出会いましたウィンドサーペント。思っていたより大きいけど、シロ君のトラウマ払拭のため、なんとしてでも倒しましょう!」


「すみません、僕のために…。」


「別にシロ君のためじゃないよー!スモールケイブドラゴンは物足りないと感じてたから、あのくらい大きなモンスターじゃないとねー!!」


愛はこの展開を待ち望んでいたかのように獰猛に笑う。


「じゃあ愛はその調子で敵に近接攻撃を。私が遠距離から弓と魔法で隙を作るから、シロ君はそこに地魔法で攻撃。これでいきましょう!」


「美雪さん、風属性のウィンドサーペントに僕の地属性の魔法では、あまりダメージを期待できませんよ…?」


シロ君は困ったような顔で私の言葉に返答する。

スモールケイブドラゴンと戦っている時にシロ君から聞いた魔法についての説明を思い出す。

魔力を主食とする各属性の精霊が、人から魔力をもらう代わりに現象を歪め魔法を発動させている。

各属性の精霊には相性があり、地属性は風属性に苦手、風属性は火属性に苦手、火属性は水属性に苦手、水属性は地属性に苦手と。

その時から気になっていた疑問を聞いてみる。


「シロ君、ずっと気になってたけど地属性って本当に風属性に弱いのかな?」


「え?実際、風属性のモンスターに地属性の攻撃は半減されてしまいますよ?」


「でも、シロ君が使ってる地魔法ロックシュートやロックブラストって魔法で岩を作って飛ばしてるよね?それはもう物理攻撃でしょ。私の矢と一緒じゃない?」


ロックシュート、ロックブラストはブラウンウルフとブラックウルフが使ってきた地魔法のことであり、ロックシュートは拳ほどの岩を、ロックブラストはボーリングの玉ほどの岩を飛ばす。

私の言葉にシロ君は驚きの表情を浮かべる。


「あと、もうひとつ気になっていたけど、魔力で岩を作って飛ばすのは非効率的じゃない?ここは洞窟だから、あちこちに岩あるよね。それを使っちゃダメなの?」


シロ君は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をし、言葉を失っている。

私の質問はこの世界の人たちにとって、かなり非常識なことだっただろう。そのことに気付き、シロ君がそんな表情をするのも当然と納得する。


「あ、ごめんごめん!つい不思議に思ったことを質問したけど、こっちの世界だったら非常識な質問だよね!!気にしないで!シロ君はグランドホールで敵の足止めをお願い!」


グランドホールは狙った場所に穴を開ける地魔法である。

この魔法でスモールケイブドラゴンの足の下に穴を開け、攻撃のタイミングをずらしてくれていた。


「いえ、そんなことないです!むしろすごい参考になりました!!ありがとうございます!」


シロ君の表情が先ほどまでと異なり明るくなる。

シロ君がぶつぶつと呟きながら何かを考え始めてしまったので、愛と作戦を練ろうとした時、遠くから大きな音が聞こえてきた。


音の出所を確認すると、愛がウィンドサーペントと戦っていた。

どうやら私達が話している間、待ってられず戦闘を開始してしまったようだ。説教は後でするとして、シロ君と私も慌てて参戦する。

突然現れたシロ君と私に、ウィンドサーペントは大きく口を開けながら尻尾で地面を叩き威嚇する。

近くで見ると本当に大きい。


「ゲイルアロー!!」


私は風属性の弓攻撃ゲイルアローをウィンドサーペントに向かって放つ。

この技はスモールケイブドラゴンと戦っている時に取得したウィンドアローの上位武技である。

スキル倹約のおかげで消費MPが減ったが、ロケットアロー、テンペストアローは消費MPが他の武技より多いため、まだまだ多用することが出来ない。


鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 壱の型 牡丹(ぼたん)!!」


私の不意をついた攻撃に重ねるように、愛も豪快な正拳突きを放つ。

しかし、ウィンドサーペントは予想以上に早い動きで両方の攻撃を避けてしまう。さらに口を開け、牙を剥き出しにし愛に迫る。


鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 弐の型 菖蒲(あやめ)!!」


ウィンドサーペントの噛み付き攻撃を限界まで引きつけた後、寸前のところでウィンドサーペントの頭の下に潜りこみ、あご下から蹴り上げる。弐の型はカウンター技。

鈍い打撃音が洞窟内に響き、ウィンドサーペントの頭が跳ね上がり天井にぶつかる。


この威力ならと思ったが、ウィンドサーペントは光の粒になることはないし、目の光りも消えていない。

跳ね上げられた頭を愛に向けて勢いよく振り下ろす。


「くっ!!」


愛は寸前のところで直撃を避けたが、跳ね上げられた地面の石が散弾のように愛を襲う。

愛は両手を交差し防御を試みたが、あちこちに傷を負ったのか道着に血が滲む。


「ロケットアロー!!」


負傷した愛からウィンドサーペントの注意を逸らすため、爆音響かせるロケットアローを放つ。

矢はウィンドサーペントの胴体に当たり、数メートルほど吹き飛ぶ。その隙に負傷した愛の安否を確認する。


「うえー、口に土入ったー。ぺっぺっ!!」


怪我よりも口に入った土?

無事そうなので、マグカから水筒と怪我を回復するためのポーションを取り出し愛に投げ渡す。


「愛、水筒とポーション!!」


「ありがとう!って美雪、そっちに蛇がいったよー!!」


愛が指差した方を見ると、ウィンドサーペントが牙を剥き出しにし私に向かってくる。

胴体が太かったため、ロケットアローのダメージが少なかったようだ。


「グランドホール!!」


シロ君が地魔法グランドホールで地面に穴を作る。

突然目の前に作られた穴に、ウィンドサーペントは突進を止めることができず頭から落ちる。


「うーん、私の蹴りも美雪の矢も有効打にならないし、困ったもんだねー。」


穴に落ちたウィンドサーペントを見ながら、愛は腕を組み困った顔をする。


「美雪さん!愛さん!僕はこれから魔法の詠唱に入ります!!この魔法は発動場所が固定になるので、ウィンドサーペントが穴から出ないよう阻止してください!!」


「「了解!!」」


シロ君の提案に、私達は力強く返答し穴の両側に陣取る。


鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 参の型 竜胆(りんどう)!!」


ウィンドサーペントの頭が穴から出たところに、愛は強烈な蹴りをくらわせる。

ウィンドサーペントは吹き飛び穴の中に落ちる。


「土の精霊よ、我が呼びかけに応じ大地から岩石を鋭く磨き上げよ。」


洞窟にシロ君の詠唱が響き渡る。


ウィンドサーペントは反対から出ようとするが、私がロケットアローで阻止をする。

ウィンドサーペントは再び吹き飛び穴の中に落ちる。


「磨き上げた岩石を(つぶて)とし、我が敵を押し潰せ。」


洞窟にシロ君の詠唱が響き渡り、魔力が集中するのが感じられる。どうやら魔法が完成したようだ。

シロ君がどんな魔法を使おうとしているか分からないが、練り上げられた魔力量からトドメの魔法であることを感じる。


しかし、ここで私達の予想外のことが起きる。

穴の中からウィンドスネークが飛んだ。


正確にはウィンドサーペントが地面に向かって風魔法を発動し、穴から飛び上がった。このまま穴にいては倒されることを感じ取ったようだ。

ドシャっという音と一緒にウィンドスネークが穴の外に降り立つ。

無理な方法での穴からの脱出だったため、ウィンドスネークはなかなか体勢を立て直すことが出来ず、今すぐ飛び掛ってくることはない。

今すぐ飛び掛ってくることはないが、シロ君の魔法発動地点である穴から出てしまったことに、私達に絶望が走る。


「美雪、どうしよう!!穴から出ちゃったよ!!」


「大丈夫!!こんな時のために秘策を用意してるから!!愛は私の近くに来て動かず静かに!!シロ君はウィンドサーペントが穴に落ちたらすぐ魔法が発動できるよう、そのまま魔法の発動準備をしていて!!」


私の早口の作戦指示にシロ君は声を出さずうなづく。声を出してしまうと魔法の詠唱が中断されてしまうからだ。

愛も私の言葉に従って、両手で口を押さえている。


沈黙の中、ウィンドサーペントは体勢を立て直す。私は秘策を発動する。

失敗しないよう意識を集中し魔力を操作する。使うのは温度操作魔法。


私の秘策が攻を奏したのか、ウィンドサーペントは私達がいないところを目で追う。

すると、ウィンドサーペントは突然、穴に向かって突進をする。愛は驚いた顔を私に向ける。

ウィンドサーペントが穴の中に落ちたのを確認し、声を張り上げる。


「シロ君、今よ!!」


「ロックブラスト!!」


シロ君の魔法が発動し、ズズンという重い音が響く。

一瞬なにも起きないと不安になったが、ものすごい音と共にウィンドサーペントのいる穴に大量の岩石が降り注ぐ。

あっという間に穴は岩石で埋まる。この量の岩石なら中のウィンドサーペントも無事でないだろう。


「さすがに倒せたよね?」


私の近くに駆け寄ってきた愛が、かつて穴だった場所を恐る恐る確認する。


「はは…、大丈夫です…、僕のレベルが上がったので無事に倒せましたよ…!」


過去のトラウマを倒せた安心からか、シロ君は気の抜けた顔で笑顔を浮かべながら返答する。

憑き物が落ちたようなシロ君の表情に愛と私も頬がゆるむ。


「へーい、美雪!シロ君!」


愛が満面の笑みで両手を上げる。私達は愛の意図を察し、笑顔でハイタッチをする。


「強敵撃破ー!やったねー!」


愛の勝利宣言に、さきほどまで張り詰めていた場の雰囲気が和らぐ。

しばしの間、私達は喜びを共有する。洞窟内に私達の笑い声が響く。


しかし、目の前で起きた事象に謎が残る。

ロックブラストは大きな岩を相手に飛ばす魔法のはずだ。決して大きな岩石をこんな大量に降らせる魔法じゃない。


「シロ君、安心したとこ申し訳ないけど、ひとつ教えて。今のロックブラストどういうこと?」


私の質問にシロ君は少し得意げな顔で回答する。


「美雪さんのウィンドサーペントと戦う前の言葉をヒントに、ロックブラストを天井の中で発動したのです!そしたら天井が崩れて、地魔法じゃない岩石が降り注いでウィンドサーペントを倒せるかなって…。成功して良かったです!」


「洞窟の中でしか使えないけど、今回は効果的な魔法の使い方だったね!でも…。」


私はシロ君の頬を軽くつねる。


「いたたたた!!」


「今回はうまくいったけど、危うく洞窟全体が崩落して生き埋めよ?私達は仲間なんだから、いちかばちかをする時は事前に教えるように!」


「ふみまへぇぇえん!!」


反省しているようなので、頬から手を離す。

頬を抑えるシロ君に、愛が怒られたーとからかう。愛の言葉にシロ君がムッとした顔を浮かべる。

タイプは逆だけど、同じくらいの年齢の二人のやりとりに思わず頬がゆるむ。


「シロ君がやったことはなんとなく分かったけど、美雪はどうやって蛇を穴に落としたの?」


「そうですよー!!僕からはウィンドサーペントが自分から穴に落ちたように見えましたが何したんですか?」


愛が純粋な瞳で、シロ君は頬を撫でながら質問をする。

さぁ、私は何をしたでしょうと発表をもったいぶっていると、愛が両手を挙げて飛び跳ねる。


「分かった!!」


愛には温度操作魔法の内容を話しているから正解に辿り着いてもおかしくないが、愛が蛇の特性を知っているとは…!


「お、意外!では、私はウィンドサーペントに何をしたでしょう?」


私のフリに愛は自信満々の顔で回答をする。


「美雪は、あの蛇を全力で睨んだ!!」


「あー!それでウィンドサーペントは恐慌状態になり、逃げようとしたところを体を滑らせ穴に落ちたと!!美雪さん、最初からやってくださいよーっていたたたたた!!」


「じょうらん、じょうらんらよー!!」


私は無言で愛とシロ君の頬をつねる。

少しの間、二人の頬をつねった後、私がウィンドサーペントにした秘策のネタばらしを行う。


「シロ君はもう仲間って感じだし、私が持ってるレア魔法を教えるわね。私は温度操作魔法という温度を低下したり上昇したり出来る魔法を使えるの。」


「温度を操作する…。なるほど、ウィンドサーペントのピット器官を利用したのですね。」


「ピット器官?なにそれ?」


さすが博識なシロ君、温度操作魔法という単語だけで私がしたとこに気付くとは。愛は逆にちんぷんかんぷんといった様子だ。

それでは、愛に解説をしましょう!


「ピット器官というのは、蛇が保有している赤外線感知器官のことで、温度を可視化することが出来るの。」


「つまり、どういうこと?」


難しい言葉を並べたためか、愛は首を傾ける。


「つまり、ウィンドサーペントは暗い中でも私達の場所が分かったってわけ。」


「え、ずるい!!」


「いやいや、私達も暗視ポーション使ったおかげで、暗い中でもばっちり敵の姿が見えるでしょ。」


「確かに!ごめん!」


愛が穴の下のウィンドサーペントに両手を合わせる。


「そんなピット器官を転生前の情報で知っていた私は、蛇に似たウィンドサーペントも同じ器官を持ってるかなって思って温度操作魔法を試してみたの。」


「え?いちかばちかだったのですか?」


先ほど同じ理由でほほをつねられたシロ君がジト目を向けてくる。


「うん。秘策とか大層なこと言ってたけど、いちかばちかでした。ごめんなさい。はい、どうぞ。」


私も頬をつねってもらおうと右頬をシロ君のほうに突き出す。

でも、シロ君にさすがにつねられないと断られる。ちょっとした冗談だったのに、そんな顔を真っ赤にして怒らなくても良いじゃない。


「ピット器官というのは分かったけど、どうやってウィンドなんちゃらを穴に落としたのー?」


「ウィンドサーペントが穴から出て襲い掛かってくるときに、私達の目の前の温度を下げて、反対側に人の大きさに温度を上げたの。」


「それですと、ウィンドサーペントからは僕達が急に反対側に移動したように見えたでしょうね。美雪さんは今回、ウィンドサーペントの暗いところでも相手が見えるという武器を逆に利用したんですね。」


「そう、そのとおり!武器は時に自分の首を絞めることがあるの。愛とシロ君も気をつけてね!」


「うん、気をつける!」


「よし!それじゃ、クエスト達成のために残りのスモールケイブドラゴンを倒してしまいましょう!」


「おー!」


愛は元気いっぱい拳を天に突き上げる。シロ君も笑顔で頷く。


その後は、目立ったトラブルもなく無事にクエスト達成のための討伐数と納品物を入手することが出来た。洞窟竜の巣から外に出た時には景色が夕焼けに変わっていたが、多くの素材と経験値を入手し、満足感に包まれながら帰路に着くことが出来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ