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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
ファストの町編 -初めてのクエストとダンジョンと多くの出会い-
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冒険者ギルドに行ってみよう!

前回のあらすじ:転生二日目が終わりを迎えた。


壁すら無い広い空間に私は立っている。無限に続く白い空間の中、なぜか弓を持ち、腰には矢筒を装備した状態で立っている。

うん、夢だね。なんとなくだけど、そう感じる。夢の中で夢と自覚できるのって何て言うんだっけ?


「それは明晰夢(めいせきむ)だねー。」


背後から聞き馴染みのある間延びした声が聞こえる。振り向くと、私を異世界に転生した張本人、この世界の創造神でもあるノアが立っていた。


「久しぶりー、美雪(みゆき)ちゃーん!異世界ライフ満喫してるー?」


転生前に会ったテンションそのままでノアは挨拶をしてくる。


「ノア、久しぶり。まだ二日目だけど、熊に追われたり、狼に襲われたり、魔王軍幹部に出合ったりと地球じゃ出来ない経験盛り沢山だったわ。よく生き残れたな、私って感じ。」


二日間の怒涛の日々を思い返し、自然と困り顔になる。そんな私を見てノアは満面の笑顔になる。


「満喫してるようで何よりだー!そんな美雪ちゃんに今日はプレゼントだよー!強くなりたいと願う美雪ちゃんのため、とっておきの特訓相手を用意しましたー!」


そう言ってノアが手を伸ばした先に、人のような何かがいる。女性のような体つきだが、肌は影のように黒く、水面のように波打っている。弓を手に持ち、腰に短めの刀、両手に籠手を装備している。


「美雪ちゃんにとって関連の強い子だけどー、さすがに本人は呼べないからデータを謎物質で再現したんだよー!同じ弓使いだから戦闘の参考になるかなーって!夢の中だから死ぬこともないし、思いっきり戦って経験積んじゃってー!」


ノアの言葉を聞いた黒い影は、ゆっくりと弓を構える。私も負けじと弓を構えながら、横に飛ぶ。先ほどまで私がいたところに矢が飛来する。一箇所に留まっていると射抜かれるため、横に移動しながら反撃する。動きながらでもスキル必中のおかげで狙ったところに矢が飛ぶ。


黒い影もギリギリのところで矢を避ける。黒い影が矢を放った後の隙をついた攻撃も、腰に装備していた刀で弾かれる。それならこれだ!!


「ウィンドアロー!!」


魔力を込めた矢を放つ。相手の出方が分からない現状では、MP消費量の多いロケットアローとテンペストアローは使えない。牽制の意味でウィンドアローを放つ。


しかし、黒い影は籠手でウィンドアローを難なく受け止める。普通の矢は避けたのに、風属性を帯びたウィンドアローは籠手で受け取める。あの籠手の効果で風属性の攻撃を無効化しているのかな?テンペストアローを使わなくて良かった。


お互い有効打の無いまま矢を射ち合っていると、痺れを切らしたのか黒い影が私に向かって前進する。今でもギリギリで避けているのに、さらに距離を詰めるなんて!!チャンス!!


「ロケットアロー!!」


現状で最も有効なロケットアローを黒い影に向かって放つ。

ドゴォォォォオオオンと轟音を響かせた矢が、黒い影の至近距離で炸裂する。この距離なら避けられないし致命傷だろう!!

しかし、ロケットアローの爆煙の中から黒い影が現れる。


私の放った矢が黒い影の左肩に深々と刺さっているため、間一髪のところで避けたのだろう。恐るべき瞬発力だ。

でもその肩では、弓を使えまい!!勝利を確信し、とどめの矢を腰の矢筒から抜いたところ、黒い影は右手で腰の刀を引き抜く。


あ、と思った時には既に手遅れ。私の心臓部分に深々と刀が突き刺さる。夢だからか痛みは無いが、確実に致命傷だ。意識が遠のく。


くそ、負けた!!でも得た経験は多いから良しとする!夢だから死んだ訳じゃないし!


「あー、残念ながら負けちゃったねー。まー、装備品も経験もレベルも違うからねー。明日以降も挑戦する機会をあげるから、準備が出来たら寝る前にリベンジしたいと念じてねー!」


黒い影の戦い方は近距離戦闘に課題を感じていた私にとって、すごい参考になるものであった。こんなに私に得が多い夢を見せて良いの?


「良いんだよー!理由はみゅ…ち…の……。」


ノアの言葉が途中から聞き取れなくなる。どうやら本格的に夢から覚めるようだ。私の状態を察したのかノアは話すのをやめ、私に手を振ってくる。

夢から覚める不思議な感覚の中、私の心に火が灯るのを感じる。また新しい目標が出来た。次こそは黒い影に勝つ!


夢から覚める。

窓から外を見ると朝日が昇ってきたところだ。夢から覚めた時に内容を忘れていないか不安だったが、今でも鮮明に先ほどの戦いを思い出せるし、私の火は消えていない。

ひとまずの対抗策として、近距離武器が必要だ。相手の戦法を真似るようで卑怯に感じなくもないが、強くなるためには模倣も大事な手段。遠慮せず真似ていこう。


しかし、予定より早く目覚めてしまった。手持ち無沙汰だ。

隣のベッドを見ると、(あい)はまだ寝ている。掛け布団が豪快に吹き飛ばされていたので、掛けなおす。瞬間、掛け布団は蹴られて吹き飛ぶ。暑いの?


愛を部屋に残し、朝の支度を終えた私は食事スペースに向かう。食事スペースでは、ナチュラさんが朝食の準備をしていた。


「おはよー!早いねー!朝ごはん今作ってるから、ちょっと待っててねー!」


私に気付いたナチュラさんが元気いっぱい笑顔で挨拶をしてくれる。


「おはようございます!朝ごはんは愛が起きてきてからで大丈夫です!」


「そんな畏まらないでよ!妹のピンチを助けてくれた恩人なんだから!昨日はありがとう!」


笑顔でお礼の言葉を述べるナチュラさん。昨日の夕食時に妹のラルチさんを酔っ払いの冒険者から助けたことを思い出す。


「いえいえ、私もうるさい男達にイライラしてたから気にしないでください!あ、気にしないで!」


「ふふ、そんな感じでよろしくね!」


仲良くなったナチュラさんと私は一緒に朝ごはんの準備をしながら、ファストの町情報を聞く。ポーション等の冒険者必須品を売っている店情報を聞くためだ。まとめると、大体はゴルド商店で手に入るが、武器や防具は専門店を回って気に入った物を探す方が良いとのこと。


準備が出来たところで、美味しい匂いが食事スペースを包む。その匂いに釣られてか、愛も食事スペースに下りてくる。

二人揃っての朝食。堅めのパンに、野菜の入ったスープ、茹でたソーセージといかにも朝食といった感じのセットだった。シンプルながらも素材の美味しさを引き出した朝食セットを完食する。


身支度を整えた愛と私は冒険者ギルドに向かうため宿屋を後にする。念願のマグカを手に入れるためだ。宿屋を出たところで見覚えのあるローブを着た少年が立っている。


「おはようございます!美雪さん!」


ローブを着た少年はシロ君だった。


「おはよう、シロ君!早いね!今日はどうしたの?」


「この後、冒険者ギルドに行くんですよね?場所をお伝えしていなかったので、案内させていただければと思います!」


どうやら私達が冒険者ギルドの場所を知らないかもと案内のために待っていてくれたらしい。断る理由も無かったので、シロ君の言葉に甘えることにする。昨日から年下のシロ君に甘えっぱなしだ。


少し歩いたところで、私達が泊まっている宿屋 銀字塔(ぎんじとう)より立派な建物の前で止まる。どうやら冒険者ギルドに辿り着いたようだ。


「ここが冒険者ギルドです!朝早いから冒険者は少ないですが、美雪さん達よりレベルの高い冒険者がいる可能性があります。変に睨まれないよう気をつけてください。」


シロ君の注意に無言で頷き、冒険者ギルドの中に入る。愛も無言で私の後に続く。


冒険者ギルドを見回す。朝早いが、あちこちに冒険者と思われる男女が数名グループでいる。値踏みをするような目でこちらを見てくる。私と愛は怯まずに奥の方にある受付を目指す。


しかし、一人の男が私達の前に立ちふさがる。


「おいおい、ここは冒険者ギルドだぜ?か弱い女子供だけで来るような場所じゃねぇが、迷子かな?」


どうやらこの冒険者は私達をからかっているらしい。お約束の新人いびりかな?

男の後には、仲間と思われる男女二人がニヤニヤと笑いながらこちらを見てくる。


「おいおい、だんまりかい?なにか言わないと俺の魔法が火を噴くぜ?」


おいおい、これ以上からんでくると私の生活魔法ドライヤーが火を噴くぜ?


…。


ぎろり。


「ひぃっ!!」


男の挑発に、私の使える魔法で挑発しかえそうと思ったら、なんとも言えない気持ちになった。そんな気持ちを誤魔化すため、からんできた冒険者を全力で睨みつける。

怖いと恐れられる目つきを利用することにもう抵抗はない。開き直ったのだ。


私の睨みに冒険者達は数歩後ずさる。道が空いたため、私は受付へ向かう。愛とシロ君も私の後をついてくる。


ビュン!!


突然の風切り音に後を確認すると、愛が拳を冒険者の鼻先で止めている。どうやら正拳突きを寸前で止めて威嚇したようだ。


「美雪は優しいから睨む程度だけど、私は容赦しないから!これ以上からんでくるなら、次は止めないよ!」


獰猛な笑顔で威嚇する愛。か弱い子供扱いされて愛も怒っていたようだ。

私達にからんできた冒険者達は、周囲の視線と愛の怒気を受け一目散に逃げていく。


逃げる冒険者を見送った後、私は呆然としている受付の女性の一人に話しかける。


「すみません。マグカが欲しいんですけど、こちらに申請で良かったですか?」


「え?あ、マグカの発行ですね!それでは、どうぞこちらへ!!」


先ほどの一部始終を見ていた受付の女性は、少し怯えながらもすぐに笑顔で対応をしてくれる。流石プロ。受付の女性は奥の部屋に私達を案内する。


「こちらにマグカの発券機があります!どうぞ!」


受付の女性は、力強く部屋の扉を開く。

部屋の真ん中に机があり、その上にマグカの発券機と思われる白い箱が置かれている。公衆電話くらいの大きさだ。


そんな白い箱の前面は、手のひら程のテレビのような黒い長方形がある。

その隣に、なんだかコインが入りそうな穴が二つ上下に並んでいる。下側の穴には小さな受け皿がついており、なんとなくコインが出てきても下に落ちないような構造になっている気がする。

二つの穴の真ん中にボタンがついており、このボタンを押すとコインが払い戻される予感がする。

そして、黒い長方形の下にマグカが出てくると思われる横長の穴があり、右側には回すためと思われるハンドルがついている。


うん、どう見てもカードダス。


転生前の日本の駄菓子屋とかに置かれていたカードダス。子供が百円玉を入れて、ハンドルを回すとトレーディングカードが数枚出るあれ。マグカ発券機は、日本のカードダスそのものだった。なんで異世界に日本のカードダス?


「あ、使い方ですか?説明いたしますね!」


私が戸惑っているのを使い方が分からないと受け取ったのか、受付の女性がマグカの発券機の説明をしてくれる。


「まず、本日マグカを発行するのはどなたでしょう?」


「はいはいはーい!私と美雪だよー!!」


受付の女性の質問に、手をピーンと伸ばし元気いっぱい答える愛。


「二名ですね。それでは、発券料として一人銀貨二枚が必要となりますが、お持ちですか?」


銀貨二枚だと20ゴールドか。カードダス一回、日本円にして約二千円。

結構良い金額するなー。いや、あの便利さなら安いくらいだ。財布代わりの布袋から銀貨四枚を取り出す。


「あ、銀貨は発券機に入れるので、それぞれでお持ちください。」


あー、多分あそこに入れるだろうなと思いながら、愛に銀貨二枚を渡す。


「それでは、実際に発券をしながら説明をしますね!元気いっぱいのあなた!こちらへどうぞ!」


「はーい!」


愛は銀貨二枚を握り締め、券売機の前に立つ。

なぜだろう、お小遣いをもらった子供がカードダスの前でウキウキしているように見える。


「まず、銀貨二枚をこちらに入れてください。」


愛は受付の女性の指示に従い、券売機の上の穴に銀貨二枚を入れる。カラコロ、カラコロとカードダスにコインを入れた時の独特の音が鳴る。


「次に、こちらの黒い部分に左手を置いてください。」


愛はテレビのような黒い長方形部分に左手を置く。すると長方形が白く光る。突然のことに愛はビクッとする。日本のカードダスにない機能に私も驚いたが、表情に出さない。


「個人情報を読み取っておりますので、手を離さないでくださいね!」


受付の女性の言葉に、愛は緊張した表情でうんうんと頷く。少し待ったところで長方形は青色に変わる。


「お疲れ様です!もう手を離しても大丈夫ですよ!最後に右のハンドルを回してください!」


愛は恐る恐るハンドルを回す。カラカラ、カラカラとカードダス独特の音が室内に鳴り響く。音に連動したようにマグカが徐々に出てくる。


愛がキラキラした目でこちらを見てくる!そうだね、楽しかったねー!

カードダスを楽しむ子供を見守る母親の気持ちだ。


「美雪ー!これ!カラカラしたら出てきた!!私のマグカー!!」


純粋な笑顔で出てきたマグカを上に掲げる愛。まさに無邪気。

愛の無邪気さに全員笑顔になり室内は温かい雰囲気になる。優しい世界がそこにはあった。


続いて私の番となる。愛を見て予習していた私に抜かりは無い。

銀貨を入れ、片手で黒い長方形に触れ少し待つ。長方形が青くなったところで、ちょいちょいと愛を呼ぶ。私に呼ばれた愛は首を傾げる。


「青い画面になれば、本人以外がハンドルを回しても大丈夫ですよ!」


私の意図を察したからか、受付の女性がアドバイスをくれる。


「愛、私これを回すの少し怖くて…。代わりに回してくれない?」


頬をかきながら困り顔を浮かべた私に、愛は仕方ないなーと言いながら目を輝かせる。


カラカラ、カラカラ。


室内には愛が券売機のハンドルを回す音のみが鳴り響く。みんなが優しい笑みで見守る。


「はい!美雪のマグカ!!私がカラカラしたよ!」


愛は満面の笑みで私にマグカを渡す。私も満面の笑みで愛からマグカを受け取る。


こうして私達はマグカを手に入れた。


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