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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
転生準備編 -異世界で魔王退治?要件定義で詳細化しましょう-
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受け入れることと納得することは違います

前回のあらすじ:どうやら私は死んだらしい。


そっかー。死んだかー。私まだ20代後半なんだけどなー。

うん、実感湧かない。本当に死んだの?体あるし昨日までと変わらず、ちゃんと動くよ?


「う~ん、美雪(みゆき)ちゃんはまだ死んだことが納得いかないって顔してるねー。大丈夫!ちゃんと死んでるよー!」


手をグーパー開いたり閉じたりしてる私に、妙に透き通った声をかけてくるノア。

中性的な見た目の子供だけど神らしい。ちゃんと死んでるって何だ?初めて聞いたぞ、そんな日本語。


「体は動くし、こうして話せるし。寝てる間に変な部屋に連れてこられただけって感覚が強くて死んだ実感が持てない。ノア、私が死んだこと証明できる?」


死んだことを実感するため、訝しげな表情でノアにそんなことを聞いてみる。


「そんな睨まないでよー。大丈夫、ちゃんと死んでるって!でも、死んだことの証明かー?なにかあったかなー?」


睨んでないよー。訝しげな表情なだけ。

私が死んだことを証明してよ、って我ながら変なことを言ってるなーと思ったが、ノアは少し逡巡した後、話し始める。


「死んだことの証明になるか分からないけど、その体はボクと会話するために一時的に作った体だから心臓の鼓動がしないはずだよー。」


私は鼓動を確かめるため、右手を自分の胸に持っていく。


静かだった。


手の当て方が悪いのかと位置を変えてみるが、変わらない。

昨日まで鼓動していた私の心臓は確かに止まっていた。


「動いてないね、私の心臓。ちゃんと死んでるわ、私。」


鼓動を止めてしまった心臓に触れることで死を実感した私は、混乱のあまり先ほどツッコミを入れた謎の日本語、ちゃんと死んでるを使ってしまった。

そっかー、本当に死んだんだ、私。今日まで精一杯生きてきたけど、死ぬときは一瞬だったなー。

もう私には未来がないのか。死ぬまでにやりたかったこと何も出来なかったなー。

やばい、涙出てきた。


「あ、泣くのー?どうせ泣くなら、とことん泣こうよー!ちょっと待ってねー!」


ノアの謎の提案に、流れかけた涙が引っ込む。

とことん泣くってどういうこと?と思い、ノアの方を確認すると、どこから取り出したのか妙に薄いテレビを持っていた。


「それでは美雪ちゃんには、これから号泣するための映像を見てもらいます!」


胸を張ってそう答えるノア。


「号泣するための映像?」


「そうでーす!社畜という日本の闇を一身(いっしん)に受けー、26歳という若さにも関わらず悲惨な過労死をしてしまった美雪ちゃーん!そんな美雪ちゃんのために今回、特別な映像を用意させてもらいましたー!」


急にテレビ番組の司会みたいな話し方をするノア。相変わらず間延びした声だけど。


「特別な映像?なにそれ?」


「それはー、普段ツンツンな妹が、姉の遺体と向き合い素直な気持ちで今までの想いや感謝の気持ちを伝えるドキュメンタリー映像でーす!」


「それ絶対泣いちゃうやつー!!」


私の制止を気にも留めず、映像が再生される。

実家のソファが映っている。どうやって撮影したかという疑問が沸いたが、妹が少し照れくさそうに出てくると、その疑問はすぐに払拭された。

そして、妹は私への想いを語りはじめる。


子供の頃、姉の後についてばかりの甘えてばかりの妹に優しくしてくれたこと。

男子にいじめられても、毅然と立ち向かいいつも助けてくれたこと。

学生になってからは妹が悩んでることにすぐ気付き、姉として真剣に話を聞いてくれたこと。

大学進学で一人暮らしを始めた時に、姉の門出を祝いながらも本当はすごい寂しかったこと。

たまに帰省した姉に、なんとなく気恥ずかしくなり、なんて声をかけて良いか分からず、話したいこといっぱいなのに、そっけない態度を取ったことを後悔してること。

そんな後悔よりも、がんばり過ぎな姉を止められなかったことを後悔していること。


つっかえながらも、私への飾らない想いを話す妹の言葉を、私は黙って最後まで聞いた。

一人暮らしを始め、少し疎遠気味になっていた妹がこんな風に思ってくれていたなんて。熱いものがこみ上げる。


映像は、常にストイックで高みを目指す優秀な姉に劣等感を抱きつつも、妹として憧れと誇りを持っていたという言葉でしめられる。


映像が終わったとき、無意識にノアに話しかけてしまう。


「私の妹って実家周辺で話題になる位の美人さんだったんだよ。いつもメイクを欠かさず、凛とした表情を崩さない自慢の妹。」


ノアは何も言わず穏やかな表情を浮かべている。聞き役に徹してくれるみたい。


「そんな自慢の妹だけどさー、今日は目の下が赤く腫れてたんだよね。あー私のために泣いてくれたんだー。妹を泣かせちゃうなんで悪いお姉ぢゃんだっだ、なぁ、っで。」


話してる内に涙が溢れてきた。

ノアが見てることなど忘れ、死んでしまったことへの後悔、もう戻れないことへの悲しみを子供のように泣き叫んだ。




どれくらいの時間が経過しただろうか。ひとしきり泣き叫んだことで落ち着いた気がする。

一言も話さず、最後まで優しく見守っていたノアが私に話しかけてくる。


「どうだい、感情爆発ですっきりしたかい?」


そういえばこうやって自分の気持ちを吐き出したのは久しぶりかも。泣いたのなんて何年振りかな?


「うん、すっきりした。ありがとう、ノア。」


素直な感謝の気持ちを伝えるとノアは無邪気に笑う。

最初は神を自称する胡散臭い子供と思っていたが、こんな不思議体験が続くとノアが神だということを信じてしまう。


「そっかー。すっきりしちゃったかー。頑固な父の普段見せない娘への想い編、慈愛に満ちた母のいつも娘が心配だった編がまだあるんだけどねー。」


だから、どうやって録画してるの!!

と一瞬思ったけど、つっこむのも無粋だなと思い、こう答える。


「ふふっ、見たいけど、これ以上の涙を流したら脱水症状で死んじゃうから遠慮しとく!」


妹の映像で泣き疲れた私はノアの提案を冗談交じりに断る。

目の前で号泣したからかな?この時には冗談を言えるほどノアに打ち解けていた。


「おー!やっと自然な笑いが出たねー。そっちの方がさっきまでの業務チックな笑いより素敵だよ~!」


ノアに言われて自分が笑っていることに気付く。

そう言われると営業スマイルばっかりで、こうして自然に笑うことを長いこと忘れてたかも。


生前のことを思い出す。

日々の仕事に追われ、家に帰っても次に出社した時のことばかり考えていた。

話題のテレビゲームを気晴らしにやってた時も、仕事のことを考えながらレベル上げしてた。

常に何かに追われてるような感覚で、仕事をしてる時は不安から逃げられていた気がする。

仕事の不安を解消するために仕事する。

そんな窮屈で救いのない負のループの中で生きてたんだな、私。

死んだ後にそのことに気付くなんて。勿体無いことしたな。


「ノアのおかげで大事なことに気付いたよ。どうせなら死ぬ前に気付きたかったけどね!これがノアの言ってた魂の救済ってやつ?」


「え、違うよ。」


「え、違うの?」


ノアの予想外の言葉に素で聞き返してしまった私。


「死んだ後に、自分を大切に想ってくれる人の言葉を聞き、自分の人生を見直し次の人生への活力を見出す。それが魂の救済と思ったけど違うの?」


「うん、違うねー。魂の救済を言葉にするのが難しいから、どう説明しようか迷ってるけどー。ひとまず自分の人生の見直しーとか次の人生の活力を見出すーとかではないねー。」


魂の救済に対しての自分の考えをまとめノアに再確認したが、やっぱり違うらしい。あれー?

ああでもない、こうでもないと魂の救済の説明の仕方について、あれこれ考え続けてるノアに違う切り口から確認してみる。


「えーっと、じゃあ魂の救済は一旦置いておいて、ノアが私をここに呼んだ目的って何?」


「あ、それなら簡単だよー!」


ノアの表情が明るくなったことに、切り口を変えたことは正解だったと実感する。

それじゃ自分がここに呼ばれた目的をしっかり聞きましょう!


「美雪ちゃんには、魔王を退治してもらうために異世界に転生してもらうよー!」


ふむふむ、私は異世界に転生して魔王を退治するのか!


「え?どういうこと?」


しっかり聞き頭の中で反芻したが、ぜんぜん理解できなかった。

魔王?異世界?転生?何それ?


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