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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
始まりの草原編 -新しい仲間と共に-
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馬車の上の侍

前回のあらすじ:馬車の上に変な侍がいる


着物、袴、羽織、刀を身に纏ったいかにも侍といった男が馬車の上に立っている。マフラーが風でなびいているが、侍は大股開きの腕を組んだポーズで直立不動。


「なにあの侍?(あい)の知り合い?」


馬車の上の侍を指差し、愛に確認するが首を横に振る。愛の知り合いでもないらしい。馬車の上の侍は、前が見えているのか不安になるレベルの細い目のため、表情も読むことが出来ない。私が侍の動向を確認していると、侍も私が見ていることに気付いたようだ。その瞬間、侍が消えた。

錯覚かと目をこする。もう一度、馬車の上を確認しても侍はそこにいなかった。愛と一緒に何だったんだろう?と首を傾げる。


「どこを見ているでござる?拙者はここでござる。」


首を傾げていた私の背後から聞き慣れない声がする。声が聞こえた方を振り向くと、そこには先ほどまで馬車の上にいた侍がいた。一瞬でこの距離を移動したというの!?私はとっさに後跳びで侍から距離を取り弓矢を構える。逆に愛は前に出る。


「先手必勝!!鬼火流剛術おにびりゅうごうじゅつ 参の型 桔梗(ききょう)!!」


愛は躊躇い無く侍のみぞおちに一閃の正拳突きを放つ。すごく怪しいけど、まだ敵と分かっていないから攻撃を仕掛けちゃダメだよ…。


「ふむ、とっさの判断としては悪くないでござる。転生直後にしては、反応速度も悪くないでござる。しかし、肝心の威力が拙者にダメージを与えるには遠く及ばないでござる。」


愛の一撃を受けたにもかかわらず、侍は直立不動のままであった。愛はひるまず殴る蹴るの連続攻撃を続けるが、侍はびくともしない。私は警戒度を上げ、弓矢を引き絞ろうとするが、それは叶わなかった。矢が無かったからだ。先ほどまで構えていた矢はどこに…?


「申し訳ないでござるが、矢は預からせてもらったでござる。拙者は戦いではなく話をしに来たので、二人とも臨戦態勢を解除してほしいでござる。」


私が構えていた矢は侍の手の中にあった。一体いつの間に…!?何かの魔法かスキル?それともステータスが高すぎるために私が捉えられなかったのか!?

分析を試みたが、分からないことが多すぎる。私は抗うことを諦め、侍の言うとおり弓を下ろす。愛も侍から離れ、私の隣に並ぶ。愛は歯を食いしばり、攻撃が通らなかったことへの悔しさを噛み殺している。


「話をさせてもらえるようで良かったでござる。まずは自己紹介。拙者の名はタツヒロというでござる。」


「タツヒロ…!?」


シロ君、メイドさん、ダースさんの三人が驚愕と戦慄の顔を浮かべる。有名人なのだろうか。


「シロ君、知ってるの?」


こういう時は博識なシロ君に確認する。シロ君は恐る恐るといった感じで答える。


「僕の知ってるタツヒロで合っていればですが…。ハンドレットオーバーであり、竜人族の魔族。魔王軍幹部の一人である瞬刀のタツヒロが有名ですか…、まさか…。」


ハンドレットオーバーというのは分からないが、目の前の侍は魔王軍幹部の一人らしい。まさか転生早々に目的の魔王に近い者に出会うとは…。そして、こんなにも実力の差があるとは…。


「そんな男がなぜここに?それに魔族なのに角がないようだけど…?」


魔族は、通常の種族の中で角を持って生まれたか、後天的に角が生えた種族のことだ。でも目の前の侍に角は存在しない。


「タツヒロは魔族でも角を隠すことが出来るらしいです…。本気の時に角が現れるらしいですが…。本当にあの男がタツヒロなのでしょうか…。」


「魔王軍幹部のタツヒロで間違いないでござる。そして、お詫びをさせてほしいでござる。美雪(みゆき)殿、(あい)殿、昨日から二人を観察させていただいたでござる。」


「ストーカー!?」


おもわず思ったことを聞き返してしまった私の発言に、タツヒロは片手をあごにあて思考する。


「うむ、確かにやってることはストーカーと同じでござるな。申し訳ないでござる。でも、ストーカーとは目的が違うでござる。拙者は、新たな転生者が同時に二人も発生したから様子を見てきなさいと魔王様から命令を受けて二人を観察していたでござる。」


「な…!?」


魔王には愛と私の行動が転生直後から筒抜けだというの!?


「そんなに警戒しないで欲しいでござる。魔王様には、人類滅亡の邪魔になるようなら消せと命令されたでござるが、拙者はそなた等を害するつもりはないでござる。」


昨日から私達を観察していたなら、人族と魔族の和平が目的というのもタツヒロにはバレているだろう。それはどう考えても人類全滅を妨げるものだ。

では、なぜ私達を害さないのか?


「拙者がそなた等をなぜ害さないのか、といった表情でござるな。それにはいくつか理由があるでござる。ひとつひとつ説明するでござる。」


そう言うと、タツヒロは人差し指を立てて私達に向ける。


「まず一つ目。魔王様が感知できるのは転生の門が開いた時のみでござる。拙者が二人を見逃しても魔王様にはバレないでござる。魔王様にも無害な少女達がモンスターに怯えていたので警戒する必要が無いと報告するでござる。」


タツヒロは二本目の指である中指を立てる。


「二つ目。昨夜聞かせていただいた美雪殿の目的である魔族と人族の和平に、実は拙者も賛成でござる。魔族人族の和平は初代魔王様の悲願であり、拙者の夢でもござる。不運が重なり、今は二代目魔王様を筆頭に戦争状態でござるが、美雪殿を生かすことで少しでも拙者の夢が叶う可能性が上がるなら、拙者はそれに賭けるでござる。」


タツヒロは三本目の指である小指を立てる。ねぇ、本当にその指で合ってる?


「三つ目。うむ、困ったでござる。本当は二つしか、いや、なんでもないでござる。三つ目は、転生者は前の世界で悲惨な死を迎えたと聞いたでござる。美雪殿と愛殿もそのような理由があって転生したはずでござる。そんな二人を転生早々に殺してしまうのは可愛そうでござる。よって、見逃すでござる。うむ、それが三つ目でござる。」


なんだか最後の方は怪しかったが、タツヒロが危害を加えないと言うのは本当らしい。私が見逃されていることに納得したところで、タツヒロの表情を伺おうとすると、その場に侍の姿は無かった。


「どこを見ているでござる?拙者はここでござる。」


声のした背後を振り返ると、馬車の上にタツヒロがいた。そこ気に入ったの?


「それでは、拙者は魔王城に戻るでござるが、最後にひとつアドバイスを言わせて欲しいでござる。」


そう言うとタツヒロは片手で腰の刀を抜き、天に向ける。宣誓の姿勢を取ったタツヒロは声を張り上げる。


「強くなれ!!そなたらの今の強さでは、魔王様どころか拙者の家臣たちにも勝てないでござる!!目標半ばで倒れたくなければ、強くなるでござる!!最低でもハンドレットオーバー、レベル100超えを目指すでござる!!」


「分かった!!絶対に強くなる!!その時はもう一度勝負だ!!タツヒコォ!!」


「愛、タツヒロね。名前を間違えるのは失礼よ。」


私は一呼吸置き、空気を真剣なものに戻す。


「タツヒロさん、私も強くなります。生半可な力では私の目標を達成できるとは思っていません。力が全てのこの世界で目標を達成するため、今は力をつけることを目標に邁進します!!」


愛と私の言葉が満足のいくものだったのか、タツヒロは微笑を浮かべる。


「その力強い言葉を聞けたなら一安心でござる。それでは、しばしの別れ!!さらばでござる!!!」


タツヒロが目の前から消える。何度も目の前から消えているため、もう驚かない。愛が覚悟を決めた顔で私を見る。


「美雪、私強くなりたい!私は突っ走るのが得意だけど、考えるのが苦手だから、美雪にそっち方面のサポートをしてほしい!」


「愛、私も強くなりたい!私は考えるのが得意だけど、考え過ぎて足を止めてしまうから、迷った時に愛に突っ走ってほしい!」


消えたタツヒロの代わりに、愛と私の心に強い炎が燃え上がる。そして誓い合う。互いの強みで互いの弱点を補い合い、強くなることを。

その気持ちを確かめるように愛は握った拳を向けてくる。少し気恥ずかしいが、私も拳を握り愛の拳にぶつける。


「ひとまず、町に行って準備を整えましょう。そして、目指すはダンジョン!ダンジョンは強くなるための近道だからね!」


「ダンジョンですか!それなら、ますます僕達のファストの町に来てください!最近、ファストの町にダンジョンの入り口が見つかったのです!見つかったばかりのダンジョンだから、他の冒険者もいなくて穴場ですよ!オススメです!」


私の言葉にシロ君は嬉しそうに提案する。おー、まるで誰かに(あつら)えられたような私にとって都合の良すぎる状況。

うん、おそらくダンジョンの管理者である(はじめ)さんだね。ちょっと卑怯な気もするけど、強くなると決めたんだから手段は選ばない。再開された馬車の修理を待ちながら、少しでも経験値が手に入るように近くのモンスターを愛と倒す。


程なくして馬車の修理が完了した。シロ君の話では今から街に向かえば、暗くなる前には着くそうだ。シロ君がマグカから出してくれた簡単なサンドイッチを昼食に食べながら馬車で移動する。色々あったが、無事に移動できていることにホッと一息つき肩を下ろす。


こうして私の始まりの草原での終わりを迎えた。

余談だが、馬車での移動中にシロ君にマグカの使い方を色々と教えてもらった。これで自分のマグカを手に入れた時に困らないだろう。ただ、説明を聞いてる間、ずっとメイドさんは私を睨んでいた。

愛は馬に乗ってみたいと二頭いる内の片方に乗っている。ダースさんはもう片方の馬に乗っている。つまり馬車には私、シロ君、メイドさんの三人。そんな中、メイドさんは私を睨む。気まずいことこの上ない。


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