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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
始まりの草原編 -新しい仲間と共に-
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激闘の中での新たな出会い

前回のあらすじ:転生一日目が終わりを迎えた。


その日、私は夢を見た。


見たことのない禍々しい装飾が飾られた部屋。壁はあちこちが崩れ、いつ天井が崩れてもおかしくないが、その心配はない。すでに天井は崩れきっており、どんよりとした曇り空が見える。そんな部屋の中で、少し成長した(あい)がもがき苦しんでいる。私は何が起きたのか分からず心配になり駆け寄る。


「我に触れるでない!!」


愛とは思えない話し方で私の手を振り払う。その話し方は、先ほどまで戦っていた***そのものであった。


「くっくっく、まさか我のシークレットスキルがこんな効果とはな…!!筋力バカのこの娘の体も、我の魔力と合わされば、貴様らを倒すことなど造作もないであろう!!さぁ、仲間だった者の手で絶望の中に沈むが良い!!」


愛の体は***に乗っ取られたらしい。私は目的達成を目の前にして、最大の協力者である愛を敵に回す。愛の差し出した手から容赦の無い魔法が飛んでくる。今はまだ避けられているが、スタミナが切れる前に決断をしなければいけない。このまま倒されるか、愛ごと***を倒すか。


魔法を避けながら愛を救う方法を考えるが、結局有効な手段を思いつくことは出来ない。私は覚悟を決め、手に持っていた弓と矢に魔力をこめる。辛い時、苦しい時を支えてくれた最高の相棒に向けて、涙でぼやける視界で弓を限界まで引き絞る。たとえこの状態でも私の矢はスキル必中のおかげで外すことはないだろう。最大限まで魔力を込めた矢を愛に向かって放つ。


「**********!!!」


がばっ!!

私の必殺の矢が愛の体を貫いたところで、夢から覚める。やけにはっきりとした夢だった。周囲を見渡しても、禍々しい装飾の壁はない。眠りに着く前と同じ草原。ひとつ違うのは、空が明るくなり始めていたことだ。草原には朝が訪れていた。


交代で監視をしようと言ったのに、私は朝まで熟睡してしまった。どうやら愛は私が疲れていることを気遣い、一晩中の監視をしてくれたようだ。なんていじらしい子だろう。監視を続けているであろう愛に謝罪と感謝の気持ちを伝えようと振り返ると、熟睡している愛が目に入る。寝てますやん。


混乱の余り普段とは違う言葉遣いが出てしまう。交代でするはずの監視を忘れ、愛は無用心に熟睡していた。可愛らしい無邪気な寝顔だが、これはお仕置きが必要だ。

MPは…、うん、回復してる。昨日の監視中に気付いたが、目をつぶってHPとMPを意識すると、視界の右上に赤と青のバーが現れる。魔法を使う際に青いバーが減っていたから青はMP、赤はHPだろう。両方とも満タンになっている。

さて、なぜMPを確認したかというと、そのMPを使って愛に寝起きドッキリを仕掛けるためだ!ロケットアローの爆音を利用して、テレビ番組でお馴染みのドッキリを仕掛ける!片手でマイクを持っているようなポーズをし、小声で話す。


「はい、それでは今日はこちらの鬼火(おにび) (あい)さんに寝起きドッキリを仕掛けたいと思います!いや~、しかしぐっすり寝てますね~。監視をほったらかして爆睡ですよ~。可愛らしい寝顔ですが、これはいけません!というわけでお仕置きをしたいと思います!」


まったく意味のない行動だが、雰囲気作りだ。前フリを終えた私は弓を真上に構え、ロケットアローの準備をする。ちょうど鳥が飛んでいたため、鳥に狙いをつける。


「起きろー!!ロケットアロー!!」


ドゴォォン!!!と轟音を響かせ、真上に矢が飛んでいく。


「ミユキはレベル4に上がった!HPとMPが全回復した!

攻撃が1上がった!防御が2上がった!魔力が6上がった!魔法防御が2上がった!速さが6上がった!スタミナが2上がった!状態異常耐性が1上がった!」


鳥に当たったためかレベルが上がった。ラッキー!ひらひらと羽根が数枚と、べちゃっと鳥もも肉が落ちてきた。ドロップアイテムは一旦保留で愛を確認する。


「ふーっ!!ふーっ!!」


愛は突然の爆音に対し、猫の威嚇のようなポーズで周囲をキョロキョロ警戒している。やがて私を見つけて声をかけてくる。


美雪(みゆき)、今すごい音が!!敵襲!?敵襲!?」


こんなに驚いてもらえるならドッキリをしかけた甲斐があった!

愛に寝起きドッキリだったことと夜の監視中に寝ることの危険性を説明する。ちゃんと反省している様子だったため、朝ごはんの準備を始める。鳥を倒した時に落ちてきた羽根と鳥もも肉も回収。昨日の夜ご飯の余りの肉と鳥もも肉を大剣(てっぱん)の上で焼く。


ノアからもらった転生特典のパンに手で無理矢理に切れ込みを入れ、焼き上がった肉をはさむ。簡易的なサンドウィッチの完成!二人で仲良く朝食を食べる。


「ふわふわなパンに鳥もも肉が合う~!美味しい!」


鳥もも肉は見た目どおり、地球で食べていたものとほぼ同じ味だった。だからこそ調味料がないことが悔やまれる。人のいるとこに着いたら調味料の入手を優先しよう。


朝食も終わったとこで愛と今日の作戦会議を始める。


「はい、作戦会議!今日の方針ですが、近くの人のいるとこを目指したいと思います。」


「異議なーし!でも近くにあるかな?」


「昨日、小さい子供を見かけたから、子供の足でも行ける範囲に町か村があるはず!そこを目指します!」


「おー!さすがの観察力!ただ、どっち方向に歩いてく?逆に遠ざかる可能性もあるよね?」


愛のもっとも過ぎる指摘に私は言葉を失う。頬を冷や汗が伝う。町か村は近くにあると思ったけど、どっちに向かえば良いかまでは考えていなかった。


「ふふふ、その辺りも私に抜かり無しよ!さぁ、出発をするから荷物をまとめましょう!」


荷物をまとめている間に、周囲を確認しながら人のいるところへ向かう策を考える。そして、あるものを見つける。


「りょーかい!荷物をまとめるよー!と言っても私の荷物はこの大剣だけだけどね!」


愛は身の丈もある大剣を苦も無く肩にかつぐ。愛は見た目とは違い、パワフルな女の子。肩に大剣をかついで立ち尽くす姿は、まさに歴戦の戦士のようだ。


「その大剣も持っていくの?」


「うん!ケンタローは同じ釜の飯を食った仲間だから置いていくことは出来ないよ!」


愛は笑いながら、つっこみどころ満載のことを言っている。私は呆れた顔でなんとも言えない曖昧な笑みを浮かべる。その顔を合意と受け止めたのか愛は満足気な笑みを浮かべる。


「それで、どこに向かうの?」


大剣で素振りをしながら愛が聞いてくる。しっかり寝たから元気を持て余しているのかな?


「目的地はあそこ!あそこに小さな丘があるでしょ?あの丘の上から人のいるとこを探してみようと思うの!」


「確かにあの丘なら周囲を見渡せるね!りょーかい!それじゃー行ってみよー!」


愛は素振りを止め、大剣を肩に担ぎ意気揚々と丘に向かっていく。丘に向かう間で現れた白マルモコは、私が弓を構えようとしたところで愛が大剣ではたき潰していく。残りの矢の数が2本と少なく補給が出来ない現状、愛がモンスターを倒してくれるのは嬉しい。難なく丘の上に辿り着いた。


「着いたー!それじゃあ確認してみよー!」


愛は片手を日除けにしながら周囲をキョロキョロ確認する。私は愛と反対側の確認を始める。メガネをかけているため視力が悪いと思われがちだが、伊達メガネのため全く問題ない。頼む!人のいそうなところ、もしくは案内してくれそうな人いてくれー!

そんな私の願いが叶ったのか、少し離れたところに人の乗ってるであろう馬車を発見する。人の乗ってるであろうと表現したのは、馬車は動かず茶色の狼のようなモンスター数匹に襲われていたからだ。


「愛、あそこ!馬車が狼に襲われてる!!」


愛は駆け寄ってきて私の指差す方を確認する。狼に襲われた馬車を視野に納めたのか声を張り上げる。


「美雪!大変!助けに行くよ!!」


迷わず助けに行くことを選択する愛。私は見たこともないモンスターと数に、助けるかどうか躊躇しているのに、すでに愛は大剣を放り投げ馬車の方へ走り始めている。ただ、今は卑屈になってる場合ではない。私も馬車に向かって走る。狼に襲われている馬車の中の人を助けるために。また、いざという時に愛を助けるために。

少しでも力になれるように近づきながら私に出来ることをする。私の武器は考えること。馬車を襲っている狼を分析する。まず、狼モンスターの数は6匹。馬車に噛み付いてる様子から牙を使った攻撃が主体のようだが、尻尾を振り回した後に石のようなものを飛ばしている狼もいる。モンスターも魔法を使えるとノアが言っていたが、どうやら狼は地魔法を使えるようだ。

また、狼の中に他より大きい個体が1匹いる。群れのボスだろうか。この大きい個体をボス狼と名づけるが、他の狼より大きい石を飛ばしている。結論、狼との戦いでは、地魔法の予備動作である尻尾を振り回す動作と群れのボスに気をつける。そんな分析をしている中、愛は狼のすぐ近くまで近付いている。


鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 参の型 竜胆りんどう!!!」


愛は駆け寄った勢いを殺さないまま、一番近い狼の頭に鋭い蹴りを繰り出す。狼は悲鳴に近い鳴き声を上げながら吹き飛んで光の粒子となる。怪力自慢である愛の不意打ちの一撃だが、狼は私たちでも倒せることが分かった。


「鬼火流剛術 壱の型 牡丹(ぼたん) さらに、裏牡丹(うらぼたん)!!!」


鋭い蹴りの続けざまに、近くの狼に豪快な正拳突きを繰り出す。狼は横っ飛びで愛の攻撃をギリギリ避ける。しかし、愛は空振りの勢いそのままに一回転し、避けた狼に豪快な裏拳を放つ。2匹目の狼も光の粒となって消える。愛一人で全モンスターを倒してしまう勢いだ。

そんな中、私も愛に追いつく。私に気付いた愛はサムズアップにウィンクをし、馬車と逆方向に走っていく。どうやら馬車から狼を離そうとしているようだ。狼の群れは吠えながら愛を追いかける。


私はその隙に襲われていた馬車に近付く。馬車は狼の攻撃を受け、あちこちボロボロであったが、元の造りが良かったからか馬車の形を保っていた。馬車の扉を開け、中を確認する。そこには金属製の鎧を着た大男、ローブに杖を持った如何にも魔法使いな少年、メイドの三人がいた。大男はモンスターの攻撃で怪我をしたのか、頭から流れる血を片手で押さえている。魔法使いの少年は怯えた様子で杖を力強く握り震えており、メイドは手を伸ばした状態でぶつぶつ呟いている。灼熱の爆炎、業火・・・?おや、メイドの呟きは魔法の詠唱じゃないか?


「ストップ、メイドさん!!私とあそこで戦ってる少女は敵ではありません!!あなたたちを助けに来ました!!だから魔法の詠唱を止めてください!!」


「嘘をついても無駄です!!そんな恐ろしい目つきで助けに来たなんて、見え透いた嘘を!!騙そうとしても無駄です!!私達がモンスターに襲われている隙に金目の物を盗んでいくつもりでしょう!!」


大男も頭を押さえた手とは逆の手で私に剣を向ける。助けに来たのに盗賊だと思われている?私の目つき、異世界に来てから悪影響をもたらし過ぎてない?落ち込んでいると、少年が二人に向けて手を伸ばす。


「ダース、剣を下ろして。メイコも魔法の詠唱を止めてください。盗賊だったら狼を倒そうとはしないはずなので、この方の言っていることは正しそうです。それに、ダースが怪我をした今、僕たちはこの方を信じる選択肢しかありません。見知らぬお姉さん、後ほどお礼をさせていただきますので、申し訳ございませんが、私達を助けていただけないでしょうか?」


誠実な態度で言葉を伝え、少年が頭を下げてくる。はっきりとした口調だったが、手は震えている。怖いのを我慢して仲間を助けるために頭を下げているようだ。

私は震える少年を安心させるため、少年の頭の上に手を置く。


「信じてくれてありがとう。もう大丈夫よ、私の仲間は強いから安心して助けられなさい!」


頭をポンと叩き、少年から離れる。つい長く話し込んでしまったが、愛は無事だろうか。私は愛の走っていった方向を確認する。

愛は片手を前に突き出した構えで狼と対峙している。狼の数は残り2匹に減っているが、群れのボス狼は健在だった。狼は2匹とも愛から距離を取り、隙をうかがっている。愛に警戒をしているためか、狼は私に気付いていない。

私はゆっくり弓を構えボス狼の方を狙う。魔力を込め、矢を放つ。


「ウィンドアロー!!」


愛の攻撃で倒せていることとMPの節約を考慮し、ロケットアローではなくウィンドアローを放った。ズヒュゥゥンという音とともに、必殺の矢がボス狼に向かう。しかし、もう1匹の狼が必殺の矢とボスの間に素早く移動する。矢の当たった狼は光の粒となって消えたが、ボス狼は無傷。モンスターが他のモンスターをかばった…?


「ワオオォォォォオオオオン!!!!」


残り1匹になったボス狼が天に向かって遠吠えをする。まるで、倒された仲間を嘆き悲しむように。まるで、倒された仲間を弔うように。そして、仲間を倒した私に対し、怒りの怨嗟をぶつけるように。

そんな遠吠えの中、ボス狼に変化が発生する。薄い光に包まれた後、先ほどまで茶色だった毛が黒色に変化する。遠吠えを止め、私達の方を睨んでくる。体を包んでいた光がボス狼の額に集まり、黒々とした角が生える。


「あいつ、強くなったね…!!」


「私が仕留め損ねた結果、最悪の事態になっちゃったね…。ごめんなさい。」


目の前のボス狼が見た目の変化だけでなく、強さも跳ね上がったことを本能的に私と愛は感じる。


「美雪のせいじゃないし、強い敵と闘いたい私にとっては好都合だよ!ちょうど茶色い狼じゃ物足りないと思ってたとこだしね…!!」


そう言って獰猛に笑い、突き出した片手を力強く握り締める愛。心なしか愛からオーラのようなものが薄っすらと見える。それを見た私は表情を緩め、弓を握る手からも力を緩める。気を緩めたわけではなく、冷静さに重点を置いたのだ。愛は直線的な強さだが、いつか不意打ちで手痛いダメージを受けないか心配だ。だから私が代わりに考えることに徹するのだ。いざという時を考え、MPはまだ余っているが、ショルダーバッグから青いポーションを取り出し一気に飲み干す。


「先手必勝!!鬼火流剛術 壱の型 睡蓮(すいれん)!!」


愛は一気にボス狼との距離を詰め、体をひねった体勢から豪快な蹴りを繰り出す。その蹴りをボス狼は後飛びでかわすあの蹴りをかわすとは…。やはりボス狼は強くなっているようだ。しかし、愛は蹴りの空振りの反動を活かし、体を無理矢理に反転させ、反対側の足で突き出すような後蹴りを放つ。後飛びをしたばかりのボス狼は蹴りを避けることが出来ず、角で攻撃を受ける。蹴りの衝撃に角は耐えることが出来ず根元から折れる。

ボス狼は角を折られたが、ひるむこと無く大きく口を開け、黒い輪の形をした衝撃波を愛にぶつける。愛はとっさに両手を交差し守りを固める。衝撃波を全身に受けた愛はふらつく。不自然にふらふらとしている。どうやら何かの状態異常にかかったようだ。

そんな愛の隙をつき、ボス狼は尻尾を振り回す。あの尻尾の振り回し方は地魔法の予備動作だ。このままでは愛に地魔法が炸裂してしまうが、それを防ぐのが私の役目。こんなこともあろうかと、いつでも矢を放てるよう弓を引き絞っていた。出し惜しみは無し。地魔法が発動する前にボス狼に向かって、私は必殺技を放つ!!


「ロケットアロー!!!」


ドゴォォン!!!と轟音を響かせ、辺りが土煙に包まれる。土煙…!?

ボス狼の遠吠えが聞こえる。遠吠えの後に、土煙の中からボス狼が現れる。どうやら、矢が当たる直前に地魔法を発動し、発生させた岩をロケットアローに当てたようだ。砕けた岩の破片がいくつか当たったのか、ボス狼はところどころ傷を負っている。傷つきながらも四本の足で立っているところを見ると、私の必殺の矢はボス狼に致命傷を与えることが出来なかったようだ。

ボス狼は大きなダメージを負ったためか、犬歯を剥き出しにし威嚇をするだけで攻撃をしてこない。立っているのもやっとのようだ。私は追撃のために矢筒に手を持っていく。そんな私の手は空を切る。あ、矢がもうない…。

頼みの綱の愛は状態異常なのか目がぐるぐるで、ふらふらしている。せっかくのチャンスなのに、ボス狼にダメージを与えるための有効な手段が無い。


「お姉さん!この弓矢を使ってください!!あと、ブラックウルフは地属性のため、風属性の攻撃が有効です!!先ほどのウィンドアロー、またはその上位技、ゲイルアローを使ってください!!」


少年の声が響き、足元に弓と数本の矢が投げ置かれる。どうやら少年が私に加勢のため、武器と知識の支援をしてくれたようだ。


「ありがとう!助かったわ!!」


私は木の弓を投げ捨て、足元の弓矢を手に取る。弓は竹で作られたよくしなる上質なものであり、矢は(やじり)が鉄で作られたものだ。少年が投げ渡してくれた弓矢は、木の弓矢が遊具に感じられる本格的なものであった。

私は正式名ブラックウルフと言うらしいボス狼をキッと睨む。ブラックウルフは負けじと犬歯を剥き出し威嚇する。ふぅっと息を吐き、目の前の敵に集中しながら弓矢を構える。少年が教えてくれたウィンドアローの上位技であるゲイルアローをイメージする。とはいえ、使ったことがない技。私なりにイメージを固めよう。

ウィンドアローを始めて使った時より強い風のイメージ。強風で最初に思いつくのは台風。ただし、台風ほどの大きな風はいらない。周囲に風の力を発散させることなく、台風の目を矢に置き換え、その矢を中心に圧縮された台風の力を渦巻かせるイメージ。視界の右上の方に小さな青いゲージが表示され、残っていたMPの半分ほどが減る。おい、半分なんてケチくさいことを言わずに残りのもう半分も使ってしまえ!再度、視界の右上に青いゲージが表示され、全てなくなる。

魔法のイメージが固まったところで、ブラックウルフが尻尾を振り回す。例え、ブラックウルフが地魔法を発動しても、その岩ごと貫いてやる。全身の魔力を矢に集中する。イメージと魔力を固めた矢を限界まで引き絞り、一気に放つ。同時にブラックウルフも地魔法を発動する。

私の放った矢は、キィィィンという甲高い音を鳴らしながら、ブラックウルフの放った岩の中心に吸い込まれる。ガイィンと大きな音が鳴り、小さな岩の破片がいくつか私にぶつかる。そんな私の足元に勢いを失った岩が転がる。その岩の中心には穴が開いている。どうやら私の矢は岩を貫通したらしい。

それでは、私の放った矢はどうなったか。狙っていたブラックウルフを確認する。矢はブラックウルフの角のあった額に深々と突き刺さっている。ブラックウルフは弱々しく鳴くと、光の粒となって消える。


「か、勝った…?」


強敵への勝利に、安堵のためか思わず頬がゆるむ。


「ミユキはレベル5に上がった!HPとMPが全回復した!

攻撃が2上がった!防御が2上がった!魔力が6上がった!魔法防御が2上がった!速さが5上がった!スタミナが3上がった!状態異常耐性が1上がった!」


勝利したことを確認する呟きに呼応するかのように、レベルアップの声が鳴り響く。機械のような声は続く。


「ミユキはレベル6に上がった!HPとMPが全回復した!

攻撃が1上がった!防御が3上がった!魔力が5上がった!魔法防御が3上がった!速さが5上がった!スタミナが3上がった!状態異常耐性が1上がった!」


取得した経験値の量によっては、一気に2レベル上がることがあるのか。こうして連続で聞くと、同じレベルアップでも上がるステータス量に違いがある。まだまだ知らないことが多いな。機械のような声は続く。


「武技テンペストアローを覚えました。MPを大きく消費して矢で放つ攻撃の威力が大きく上がります。また、攻撃に風属性が大きく付与されます。」


説明を聞く限り、私が放った矢は少年の言っていたゲイルアローではなく、テンペストアローという更に強化版の武技だったようだ。

機械の声が止まったため、仲間である愛に近付く。先ほどと変わらず目をぐるぐるとして、ふらふらしている。


「えいっ!」


どうしたらこの状態異常が治るのか分からないため、ひとまず愛の頭に軽くチョップをしてみる。愛はハッとした表情をし、はっきりとした表情に戻る。


「あ、美雪!あの黒い狼は!?」


正気に戻った愛は素早く攻撃の構えをする。どうやら状態異常の間のことは覚えていないらしい。


「黒い狼ならなんとか倒したわ。愛が角を折ってくれたのと、この弓矢のおかげでね!馬車の中の人たちも無事よ!」


「良かったー!!あの狼の黒い攻撃で気を失ってる間に、私たち倒されちゃうと思ったよー!!みんな無事でひと安心だよー!!」


私の言葉を聞いた愛は、無邪気に抱きついてくる。まさに喜び爆発といった感じだ。私も一緒に勝利の喜びを噛み締める。

大きな歓声を上げていた愛だが、突然ビクッとした後、視線を上に向ける。どうしたのかなと愛の様子を伺っていると、少しの沈黙の後、困ったような顔でにっこりと笑う。


「レベルアップは強くなるから嬉しいけど、頭に鳴り響く声はやっぱり慣れないなー。」


どうやら愛もレベルアップし、頭の中で機械音声が鳴ったらしい。ふと気になったため、愛に確認する。


「ちなみに愛は何レベルになったの?」


転生前の性分か、愛のレベルが気になる。愛の話では私と同じ日に転生したから、そんなにレベルの違いは無いだろう。私のレベルは6。愛のレベルはいかに!


「んー?さっきの声はレベル8って言ってたよー!」


愛は私より2レベル上だった。強者を求めて積極的に戦うスタイルの愛だから、倒したモンスターの数も私より多いだろう。だから、私よりレベルが高いのは仕方ない。と負けず嫌いの自分に言い聞かせる。そんな私の対抗心など、どこ吹く風といった感じで、愛は無邪気に笑って話しかけてくる。


「なんとか狼たちを倒すことが出来たねー!馬車の中の人たちも無事みたいだし、あの人たちに街とかに案内してもらおう!」


愛が指差した方を確認すると、馬車の近くで笑顔を浮かべた少年が手を振っている。近くに立っているメイドも、私の目つきを責めていた時より、どこか表情が柔らかくなっている気がする。馬車の窓からは大男のサムズアップが見える。

三人が視界に入った時、人のいるとこに案内してもらうという当初の目的とか、そんなものどうでも良くなった。私たちが人の命を救うことが出来たのだ。新しい目標に向かって意気揚々と転生して、最弱モンスターにこれでもかと苦戦した時、私なんかが世界を救うことが出来るのか不安になったが、こうして三人の命を救うことが出来た。世界の人口に比べたら三人なんてほんの一部だが、私の目標にとっては大きな一歩だろう。

満足感に包まれながら愛と二人で馬車に近付く。こうして、波乱ばかりの始まりの草原での冒険は終わりを迎えた。


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