美雪の真の目的
前回のあらすじ:鬼火 愛が仲間になりたそうにこちらを見ている!仲間にしますか?→はい。
ひとしきり笑い合った後、焼き上がった肉を愛に差し出しながら私は話し始める。
「愛、食べながらで良いから私の話を聞いて。大事なことを伝えるわね。」
「大事な話?なになに?」
愛は私から肉を受け取ると、次の肉を大剣に置く。食べながら次の肉を焼くことで、肉待ちインターバルを減らすようだ。というかまだ食べるの?
「私の目的は、必ずしも魔王退治ってわけではないの。それどころか魔王を倒さないっていう選択肢もあると思ってる。ノアの話を聞いてる中で、魔王退治が本当の要件ではないと思ったからね。」
「へ、どういうこと?」
愛はもぐもぐしながら聞き返してくる。私は愛の置いた肉をひっくり返す。
「順を追って説明するね。ノアは、マグノキスは地球で悲惨な死に方をした人が、ダンジョン攻略っていう目標と攻略後の美味しいご飯で充実した異世界ライフをすることで、磨り減った魂を回復させる場所と言っていた。」
うんうんと愛は頷いている。
「でも、魔族の王である魔王が誕生したことで、人族と戦争が始まって魂の救済どころではなくなった。だから魔王を退治してほしいとノアは言っていた。」
「それで魔王退治だよね?」
「じゃあ魔王を退治したことで、ノアの希望は完全に叶えられるかな?」
うーんと傾きながら愛は考えて結論を出す。
「んー、魔王退治が依頼だから、倒したら叶うんじゃない?」
私は両面を焼けた肉を鉄板の中央から遠ざける。遠火でじっくり火を通すためだ。
「魔王を倒した後に次の魔王が現れたら?そして、また戦争が再開されたらどう?」
「次の魔王も倒したら良いんじゃない?二番手なら楽勝でしょ!」
愛は力こぶを作って力強さをアピールしてくる。
「さらに次の次の魔王が現れたら?魔王が現れて私達が倒してを繰り返してる内に、私達の寿命が尽きたら?そんな時に、新しい魔王が現れたら?」
んー?と言いながら中まで火が通った肉を愛は食べ始める。次の肉を置かない。さすがにお腹いっぱいのようだ。
「結局、戦争が始まって振り出しに戻るわよね。つまり、魔王を倒すだけじゃダメなの。魔王退治は暫定解決ね。もっと根本の部分を解決しないと効果が無いわ。」
「根本?魔族を根絶やしにするの?」
根絶やしって…。相変わらず発想が野蛮ね…。私は両手をクロスさせる。
「ぶっぶー!魔族は人族・亜人族から稀に生まれる角を持った種族だから、根絶やしにするのは無理ね。」
「じゃあ根本的な解決っていうの無理じゃん!ギブアップ?」
「いえ、そんなことはないわ。人族と魔族の戦争をなくす方法は、魔王を倒したり、魔族を根絶やしにする必要はないの。」
私は人差し指を愛に向け、ここが大事なとこと強調する。
「人族と魔族が仲良くなれば良いの!そしたら戦争なんてなくなるでしょ!私の旅の本当の目的は人族と魔族の和平!人族と魔族が共生できれば、魔族の迫害はなくなるし、強力な魔力を持つ魔族とのダンジョン攻略は捗ると良いことづくめ!どうすれば実現できるかはマグノキスを旅しながら考えるけど、人族と魔族の和平が私の真の目的!」
私の説明を黙って聞いていた愛の表情を伺う。愛は急に立ち上がる。
「つまり、美雪の目標は…、世界平和ってことだよね!!」
この世界から戦争の原因を排除するんだから、確かに世界平和になるかな。
「え?あー、そうなるね。」
「すごい!すごい!!魔王退治するより、そっちの方が素敵!!絶対、二人で達成しようね!」
愛は私の両手を取って目をキラキラさせる。愛は簡単に私の真の目的を受け入れてくれた。私の相棒は心強すぎる。
正直に言うと、愛に反対されるのではないかと思った。愛の目的は強い敵と闘うため、戦争がなくなると強い敵と闘えなくなる可能性があるから。
正直に言うと、愛に馬鹿にされるのではないかと思った。人族と魔族の長年の確執を、たった一人で解消できるわけがない、と思われても仕方ないほど途方ない目的だから。
正直に言うと、愛に落胆されるのではないかと思った。難しすぎる目的に対して、肝心な挑む方針を考えていないから。
「いやー、やっぱり美雪は只者じゃないね!一目見たときから、溢れ出るオーラがとんでもないなと思ったけど、考えてた目標もとんでもないね!すごすぎる!来たばかりの世界の平和を考える?美雪クラスになると、考えるんだよー!すごすぎるね!これは、会う人会う人に美雪の目標を話して平和の心を広めていくべき!間違いない!」
心強すぎる相棒の賞賛が止まらない。恥ずかしくなってきたから愛を止める。
「愛、ストップ!褒めすぎ!恥ずかしい!!あと、私の真の目的は他の人に内緒ね!」
「えー、何で?ぜひ色々な人に聞いてもらって、みんなも一緒に平和を目指すようにしようよ!」
「ずっといがみ合ってた魔族と急に仲直りしましょうと言っても、何言ってるのこの人?ってなるでしょ。それに、戦争の裏には必ず大きな利益を得ている人がいるの。そういう人を敵に回しかねないから秘密!ゆっくり味方を探しながら平和を目指しましょう!約束!」
「約束?それじゃ、はい!」
愛は小指を差し出してくる。あぁ、指きりげんまんね。愛の小指に私も小指を重ねる。愛は一呼吸すると、高らかに言葉を発する。
「指きりげんまん、我ら二人、生まれし日、時は違えども仲間の契りを結びしからは、心を同じくして助け合い、困窮する者たちを救わん!指きった!」
そう宣言すると愛は小指を結んでた手を上に掲げる。私の知らない指きりげんまんだ。
「鬼火の里流?」
「鬼火の里流。とーえんの誓いってのを参考にしたって言ってた。」
愛はむふーっと満足げに頷く。よく分からないけど、愛が満足なら良いか。
「魔王と平等な交渉の場につくためにも、ひとまず当分は強くなるのが目標かな。私が弱すぎたら嘗められちゃうからね。」
「強くなるのなら私にお任せ!いっぱい戦うから、経験値っていうのの取得は任せて!」
力強い愛の言葉に、また少し不安が和らぐ。今日会ったばかりだけど、仲間という存在に心が熱くなる。これから異世界生活、大事な仲間を失望させないよう尽力していこう。その日、私の中の目標が確固たるものに変わった。
私の真の目的を話した後は、焚き火からなんとか大剣をどけ、火を絶やさないように薪をくべながら、お互いの生前の話をした。愛の元いた世界は、私にとって常識外の修羅の世界だったし、私の元いた科学の世界は、愛にとって常識外の世界だったようだ。
夜が深まって来たところで、愛があくびをする。もう遅い時間だし、眠くなってきたのだろう。周囲の警戒をしながら交代で眠ることにし、今にも限界を迎えそうな愛を先に寝かせた。
草原の上に直で寝転がっているのにぐっすりだ。警戒心のかけらも無い。まぁ、見知らぬ世界に転生して熊から逃げたりと波乱万丈な一日だったから仕方ない。私もだいぶ眠いが、寝落ちして寝込みを襲われたらひとたまりもないため我慢する。大丈夫、徹夜は慣れてる。
眠気をごまかすために、黒い熊への対策、魔法の活用法、武技とスキルの取得条件を考えながら周囲を警戒する。
月が少し高くなったところで、熟睡してるところ悪いなと思いながら愛を起こす。愛は目元をこすりながら起きる。
「う~ん、もう朝?」
「残念ながら、まだ夜よ。熟睡してたところ申し訳ないけど、見張りの交代よ。」
愛は、敬礼のポーズで応える。
「分かったー!見張りは任せてー!」
愛の力強い言葉を信用して、眠気の限界が近かった私は眠りにつく。
こうして私の長い転生一日目が終わりを迎えた。余談だが、私が寝静まった30分後に愛は寝落ちしたらしい。完全に無防備だった二人だが、夜はモンスターも寝静まっていたのか、無事に朝を迎えることが出来た。




