託された大剣は煉獄の炎に挑む
前回のあらすじ:熊から逃げている少女を助けた。懐かれた。
熊から助けた少女、愛と笑い合っていた私はふと周囲の変化に気がつく。青々としていた草と曇りなき快晴が広がっていた空は、少しずつ朱色に変わっていった。転生してから初めての戦闘、レベル上げ、強敵との戦闘で忘れかけていたが、着実に時間は経過していた。すっかり夕方になっていた。
どこまでも広がる草原が赤く色が変わっていく幻想的な様子に心奪われる。そして少し寂しさを感じる。夕方特有の寂しさは、子供の頃の友達との楽しい時間の終わりだったからかな?思わずこのまま時が止まれば良いのにと思ってしまう。
だって、夜が来るからー!夜を迎える準備してない!食べ物と飲み水が絶望的だー!脳内の私達、緊急で現状を整理だー!!
私が持っている食料は手のひらサイズのパンが2個。今日の夜ご飯で終わってしまう。飲み水に至ってはレベル上げ中に飲んでいたから皮製の水筒に入った水が残り少し。あ、やばい。
私は周囲を見回し、水場を探す。優先するべきは飲み水だ。食料より飲み水がないと人は生きていけないというのは有名な話だ。
「美雪、何キョロキョロしてるの?トイレ?」
のん気に愛が話しかけてくる。二人でパニック状態にならないよう落ち着いて返答する。
「いえ、水場を探していたの。飲み水が心許なくて。」
「水場?それならこっちにあるよ!私も飲んでたから飲み水にも使えるはず!」
そう言って愛は歩き出す。愛は水場を知っているらしい。助かった!
転生者特典を持たない愛は、水場を見つけて飲み水を確保していたようだ。私は大人しく愛の後をついていく。少し歩くと小さな池があった。
「ここが水場だよ!水は飲んでも大丈夫!私が保証する!」
そう言うと愛は両手で池の水を飲みだした。ごくごく飲んでる。愛のためらいのない姿に、飲んでも大丈夫そうかなと思ったが、念のため私は池を観察する。水は池の底が見えるくらい澄み切っており、モンスターが池の中に潜んでいるということはない。さらに、池の真ん中から小さな水泡が発生している。どうやら湧き水のようだ。
両手で水をすくい匂いを嗅いでみる。変な臭いもしない。本当は煮沸して安全性を高めてから飲みたいとこだが、鍋等の水を沸かす道具がないため、今回は煮沸消毒は諦める。恐る恐る水を口に含んでみる。転生前に飲んでいた水と違いは感じない。喉の渇きを潤すよう、ごくごくと飲む。水筒にも補充したところで、ひとまず飲み水の課題はクリアとした。(明日、お腹が痛くならないと良いなぁ…。)
次は食料だ。飲み水について愛に聞いたら課題解決に進んだから今回も相談してみる。
「愛、水場を教えてくれてありがとう。飲み水はこれでなんとかなったわ!次は食料の確保だけど、何か良いアイデア無いかな?」
「モンスター倒すと肉を落とすけど、それじゃダメ?」
そういえば黄色いマルモコを倒したら肉をドロップしていたな。焼けば食べられるかもしれない。
「確かにモンスターを倒すと肉が手に入ったから、火を通せば食べられるかも!フライパンや鍋の調理道具は無いけど、木を加工して串にすれば…いける!」
「串作るの面倒だから生で食べようよ!私モンスターと戦いながら食べてたから毒とか問題ないよー!」
愛がとんでもないことを言ってきた。恐る恐る確認する。
「え?いや、肉を生で食べるのはダメでしょ?毒はなくても寄生虫とか危険はいっぱいよ?」
「肉を生で食べるなんて鬼火の里じゃ当然だよ?剛を極めれば寄生虫を制す、だよ?」
「剛を極めれば…?」
「剛を極めれば何々を制す、は鬼火の里の教えだよ!例えば剛を極めれば風邪を制す、なら軟弱な体じゃ風邪とかにかかるけど、剛を極めれば風邪なんてへっちゃらって感じ!そんな剛を極めた武術が鬼火流剛術!剛を極めれば全てを制すが鬼火の里の教え!」
愛がマグノキスに来る前にいたという鬼火の里の常識がワイルド過ぎる。剛を極めれば全てを制す…?これからは私が愛に常識を教えていくことにしよう。
「ごめんなさい。私は剛を極めていないから、肉は火を通して食べなければいけないの。そこで分担!私は木を集めて火を起こすから、愛は食料を集めてきて!それで今日の夜を乗り切りましょう!ただし、あまり遠くにいかないこと!」
私はショルダーバッグの中に入っていた皮製の手提げ袋を愛に差し出す。ちょうど良い袋が入っていて助かった。神はこうなることがお見通しだったのかな?
「分かったー!火がないと真っ暗になって怖いから大事!火は美雪に任せて、私は肉を集めてくるね!!」
袋を受け取った愛はモンスターに向かって突撃していく。白マルモコを殴る蹴るで倒していく。あれ?私の近距離攻撃は白マルモコの毛に阻まれてダメージが通らなかったような?これが剛を極めればというやつ?まるで踊るようにモンスターを倒していく愛をしばらく眺めていたが、私は火起こしをしなければいけないことを思い出す。気を取り直して、近くに転がっている木を集める。
ある程度の木が集まったところで、石を円の形にして簡易的なかまどを作り、その真ん中に木を置く。着火材の代わりに木の皮を剥いで集め、そこに温度操作魔法で火をつける。ついでに、使った熱エネルギーの代わりに水筒の水を冷やす。火と一緒に冷たい水も確保できる。一石二鳥。
焚き火が出来上がったところで、薄暗くなってくる。完全に夜になるまで、少し時間があるが愛はまだ戻ってこない。少し寂しさを感じる。最初は一人でもなんともなかったのに、仲間が出来た途端にこんな気持ちになるなんて。夜の暗さだけじゃない寂しさを感じていると、愛が戻ってきた。片手の袋が、さっきより膨れている。
「美雪、ただいまー!お肉大漁だよー!肉なのに大漁とはこれいかに!魚かってね!あはははー!」
「愛、お帰り!お疲れ様!」
底抜けに明るい声に、先ほどの寂しさは吹き飛ぶ。愛の言うとおり袋の中にたくさんの肉を持っている。この量なら今日の夜だけでなく、明日の朝ご飯も足りるだろう!そんなことを考えていると、愛が肉を持っている方の手と反対の手で何かを引きずっていることに気付く。
「愛、そっちの引きずってるのは何?」
「これ?剣みたいだけど、落ちてたから拾ってきたー!」
愛が拾ってきたのは、愛の頭くらいの横幅で愛の身長より長い、鉄で出来た大きな剣だった。何で剣が落ちてるんだろうとか、落ちてたからって何で拾ってきちゃうんだろうとか、他の人が置いてた物なら泥棒になるなとか思った。元あった場所に戻してきなさいと注意しようと思ったが、大剣は持ってみたらそこそこ重く、夜の帳が下りた状態で戻しに行くのは危険すぎる。とりあえず、その辺に刺しておく。
大剣は文字通り一旦置いておいて、夜ご飯の準備に取り掛かる。池の水を汚さないよう、ポーションの空き容器に水を入れ、少し離れたとこで肉についた土を洗い流す。肉を串焼きにするため、木に刺そうとしてみたが、刺さらない。その辺で拾った木は尖ってなく、ナイフ等が無いため肉を刺せるような木に加工することが出来ない。やばい、どうしよう。
「私、名案が思いついたよ!かまどを少し高くして!」
少しの時間、途方に暮れていると愛が声を上げる。私は愛の言葉通り、火を気をつけながら石を重ねてかまどを少し高くする。
「かまどを高くしたけど、どうするの?」
「ふっふっふ!私に考えがあるのだよ~。あまりの名案に美雪は驚いちゃうよ~!ジャーンで披露したいから、ちょっと向こうを見てて!」
こういうところは本当に子供だなー。としみじみ思いながら愛の言われたとおり、後の方を見る。少し待っていると、じゅーという肉を焼く音が聞こえてくる。え?肉焼いてる?どうやった?
「美雪ー!オッケーだよ!こっち見てー!」
私は愛の声に振り向く。そして音のする方を確認する。そこには、さっき拾ってきた大剣がかまどに横渡し状態になっており、その上でモンスターの肉が焼かれていた。端的に言うと、大剣を鉄板代わりに焼肉。
「てってれー!」
じゅうじゅうと焼ける肉に向けて、愛が両手を広げてドヤ顔をする。じゃーん!じゃないの?って一瞬思ったが、それどころじゃない!!
「いやいやいや、確かに焼肉は出来そうだけど、誰のか分からない大剣を鉄板代わりにしちゃダメでしょ!!」
大剣を拾おうと思い、持ち手を掴んでみる。
「あっつぅぅぅうううう!!!」
水筒を両手に持ち火傷した手を冷ます。焚き火の上に置かれた大剣は刃だけでなく、持ち手もすでに熱くなっていた。うん、無理。諦めよう。
というか、大剣の上で焼かれている肉を見たら、止めようという気持ちは消えた。焼かれる肉の匂いとじゅうじゅうという音は、マグノキスに来てから何も食べていなかった私の食欲を聴覚と視覚から刺激する。
ふと、愛の方を見ると、しょんぼりしている。大剣を鉄板代わりにすることを名案だと思っていたのに、私が怒ったからか。私は愛に向き合い、謝罪する。
「ごめんなさい、愛。愛は肉を焼かないと食べられない私のためにやってくれたのよね。それを怒るだなんて…、本当にごめんなさい。」
愛は私の言葉に顔をパァッと明るくする。ただし、すぐに唇を尖らせる。今度は愛が怒る番のようだ。
「もー、美雪は目つきが怖いんだから怒る時は注意してよー!殺されるかと思ったよー。」
「あん…?」
「すみませんでした。調子に乗りました。」
愛は90度の綺麗なお辞儀をする。
「もう、変な冗談を言ってないで食べるための準備をするよ?」
そう言いながら手元の枝を折って箸を作る。愛も怯えながら同じように枝を折る。私は作った箸で肉をひっくり返す。片面は綺麗な焼き色になっていた。
「へぇ、美雪は上手に肉をひっくり返すね。」
愛は両手に一本ずつ木の枝を持ってひっくり返していた。どうやら鬼火の里に箸の文化は無いらしい。いつか時間があったら箸の使い方を教えても良いかもしれない。
そんなこんなで肉が焼けた。ちょっとしたステーキのようだ。肉はまだ大量にあるが、2枚も食べればお腹いっぱいになりそうなサイズ。
「いただきまーす!!」
そう言うと愛は肉にかぶりつく。
「んまーい!肉は焼くとこんな感じなんだねー!」
愛はほっぺたを両手で包みながら満面の笑みを浮かべる。愛を毒見みたいにして申し訳ないが、美味しそうに食べるのを確認してから私も食べる。んー、前に食べてた肉に比べると少し獣臭いし、パサパサして少し堅いけど、空腹だったためか美味しく感じる。味付けもしていない焼肉だが、夢中になって一枚食べきる。
しばらく他愛のない会話をしながら、二人で肉を食べる。気がつくと三枚食べていた。愛はまだまだ食べている。肉が焼けたところから食べていく。愛の食べる肉が、五枚を超えたところから覚えていない。
お腹がいっぱいになったところで、愛の食べる肉を焼いてあげる。私は友人と焼肉に行くと焼く側に回るのだ。鍋奉行ならぬ焼肉奉行になる。肉を焼きながら火を見てまったりしていたら愛が真剣な顔で話しかけてくる。
「ねぇ、美雪。ちゃんと言ってなかったから今言うね。私も美雪の魔王退治の旅に連れて行ってほしい。」
「あれ、私の目的が魔王退治って言ったっけ?」
肉をひっくり返してた手を止め愛の方を見る。
「ノアのとこで隠れてる時に聞こえてきたんだ。二人の話は難しかったから、ほとんど分からなかったけど、美雪が魔王を倒すために旅するってのは分かった。」
「そっかー。でも良いの?右も左も分からない異世界での魔王退治は苦労や困難も多いだろうし、危険も伴うよ?」
「私は強い敵と闘うためにここに来たから危険はへっちゃらだよ!それに、美雪は苦労あり困難あり危険ありの旅に行くんだよね?」
「うん、そうだよ。だから本当に一緒に行くか確認してるんだけど?」
「だからこそだよ!友達がそんな危険なとこに行くのを見過ごせないよ!今日、美雪が私を助けてくれた代わりに、私がどこかで美雪を助ける!」
まっすぐな瞳でまっすぐな言葉を伝え、まっすぐに私に片手を伸ばしてくる愛。昼に友達になった時に、握手をしながら頬をつねっていたことを思い出す。私は思わず頬がゆるむ。
正直マグノキスに来てから不安が大きかった。最弱モンスターに苦戦。強力な熊からは逃げることしか出来ず。転生後は食料と水の確保を優先と思ったのに、うっかり失念。あんなにノアと創さんに多くのことを聞いたのに、転生してすぐは予想外のことばかりで、本当に一人で目的を達成することが出来るか不安を感じていた。正直、愛の申し出はすごく助かる。思わず愛の手を取りそうになるが、躊躇して引っ込めてしまう。私のせいで愛の命を危険にさらしたら、と思ったら急に怖くなったのだ。
「愛がそう言ってくれることは、すごく心強いけど、愛の命を危険にさらすと思うと、正直まだ決断することが出来ない。今日の夜にしっかり考えられるから、結論は明日にさせ…。」
愛は、躊躇している私の腕を無理矢理つかみ、握手をする。
「はい、握手ー!はい、魔王退治パーティここに誕生!決定ー!」
とっさの出来事にキョトンとしていると愛は笑顔で宣言してくる。
「まぁ、美雪がダメって言っても私はついていくから!よろしくね!」
どこまでもまっすぐな少女。色々と考えてから行動する私には無い強さ。愛に腕を取られた時、魔王退治への不安と緊張が和らいだように感じた。握り合った手から伝わってくる力強さと温かさに思わず、涙腺がゆるむ。一筋の涙が頬を伝う。
「ふふ、負けたわ!過酷な旅になると思うけど、キャンセルは聞かないわよ!よろしくね!」
もう片方の手で涙を拭う私の様子を見て、愛は一言つぶやく。
「鬼の目にも涙?」
「あん…?」
「ははははは、こわー!!美雪の目つきこわー!!」
ありったけの眼力で威嚇したはずが、愛は爆笑する。でも、こういうやり取りって友達っぽいなと思い私も爆笑する。
暗闇の草原に二人の笑い声が響く。こうして、私達は仲間になった。




