剣のダンジョン挑戦④
前回のあらすじ:剣のダンジョン四層へと進行を開始した私達の目の前に、周囲のモンスターを集めるクライングゴートが二匹現れる。クラインゴートが呼び寄せた八匹のモンスターの群れとの戦闘が始まる。
「こういうのを待ってたんだよ!!鬼火流剛術 壱の型 牡丹!!」
モンスターの群れを目の前にうきうきな愛は、剛力を圧縮した豪快な正拳突きを、ミノタウロスのみぞおちへと放つ。ミシミシと骨を打ち砕く音が、遥か後方にいる私の耳にも聞こえてくる。
さすが、剛の者こと愛!自分の倍くらいの大きさを持つミノタウロスの巨体が、愛の正拳突きで吹き飛んでいる!
「八雲流柔術 鳥の型 翡翠!!」
剣型のモンスターことリビングソードの攻撃を不思議な動きで受け流し、銀色のギターの武器(?)でワイルドターキー二匹をまとめて叩き潰すのは、銀琴の異名で知られるトウカさん。
あれ?あなた支援キャラでしたよね?愛に負けず劣らずの攻撃力と突破力ですが…?あと、不思議な動きでモンスターの攻撃を受け流している八雲流柔術って何ですか…?
「スキル魔法剣発動!!ウェーブスラッシュ!!」
水属性魔法を波魔法に進化させ、スキル魔法剣で大剣デュランダルにのせてリビングソードを薙ぎ払うのはユウジ。
安定して強いよね、ユウジ。デュランダルで大抵のモンスターは一刀両断するし、反撃も神盾アイギスで難なく防ぐし。攻撃力は高いけど防御力が低く、どこか危なっかしい戦闘をする愛に比べて、ユウジはどしっとした強さを感じる。
「光の妖精よ。我が呼びかけに応じて聖なる力で皆を癒したまえ。光の守護を宿したまえ。グランドヒール!!」
シロ君が杖を天高く掲げると当時、愛とトウカさんとユウジの体が淡い赤色に光る。
数人まとめて回復する治癒魔法グランドヒールは、戦闘でダメージを受けることが多い愛、トウカさん、ついでにユウジの前衛三人のHPを大きく回復する。
私達のパーティが安定して戦闘を続けられるのは、回復役のシロ君がいるおかげと言っても過言じゃないだろう。
「ぽーん、ぽーん、ぽーん。鳴り響くんは聞くものを緩慢へと誘う調。怖いモンスター達は、大人しくした方が良ぇねん!!闘気を鎮める、悠久の奏鳴曲!!」
今回は通路のような狭い場所でのバンブー・フォートレスの展開でないため、バンブー・フォートレス本来の力を遺憾なく発揮している。
ササラさんが発する間延びした金属を叩くような独特の音によって、目の前のモンスター達の動きが遅くなっていく。
普段はあんなだけど、バンブー・フォートレスを展開して防御を固めながら、相手の行動を阻害する彼女の戦い方は、敵にとっては厄介この上ない物だが、味方にしたらすごく力強い。
愛、トウカさん、ユウジ、シロ君、ササラさんのそれぞれの戦い方を確認しながら、私は手に持つ弓をより強く握る。
「私も負けてられないわね…って、予想通りの警戒してた展開が発生…!!スキル必中発動!!からの、ロケットアロー!!」
戦闘が始まってからずっと警戒していた場所へ、私はオリジナル武技であるロケットアローを放つ。
仲間達が戦闘する遥か後方に向かって放たれたロケットアローは、スキル必中の発動によって私が思い描いた場所への精密射撃を実現する。
私が放ったロケットアローは、モンスターの群れを相手に善戦をするユウジとトウカさんの間を通り抜け、通路の奥に迫っていたモンスターに突き刺さる。
私の精密射撃によって不意を突かれ、光の粒へと変わるのはクライングゴート。
このプチモンスターパニックを作り出したモンスターであるクライングゴートの接近を、私はスキル気配感知によってずっと警戒していた。
増援として現れたクライングゴートを、他モンスターを呼び寄せる叫び声を上げる前に仕留める。
仲間五人の安定した戦闘を見守りながらも、私は通路の奥にずっと警戒していた。
私のロケットアローが目の前を通り過ぎていったトウカさんとユウジの二人から「危ないなぁ…!!」と言わんばかりの非難の視線を感じるが、目線を逸らして無視する。
クライングゴートに更にモンスターを呼ばれたら、戦闘が長引いて集中力が切れて危機を招く可能性がある。呼ばれるモンスターの種類によっては致命傷な状況にもなりかねない。
だからこその精密ロケットアローだ。考えての行動だ。だから、矢が前髪をかすめたからといってトウカさんはそんなに睨まないでほしい…。
「美雪!!てめぇ、やるならやるって言え!!驚いただろ!!お前のロケットアローは爆発音の後に、急にくるから怖ぇんだよ!!」
あ、はい、すみません。一声かけてからやればよかったですよね…。でも、更なるピンチを防いだんですよー…。
そんな言い訳を心の中でしながら、仲間達と息を合わせて残りのモンスターへトドメを刺しにかかる。
「鬼火流剛術 壱の型 睡蓮!!」
「八雲流柔術 獣の型 白虎!!」
「スキル魔法剣発動!!波魔法の魔力をデュランダルに集中!!横薙ぎの一閃!!流波斬!!」
「地の精霊よ、最大硬度の金剛石で槍を作り、我が敵を貫きたまえ!!ロックランス!!」
「なんか久々に使う気がするけど…、爆発魔法の威力を竜槍に込めて投げ放つ!!神槍投擲による神罰!!」
「…。ササラはバンブー・フォートレスを展開しとると攻撃手段が無いから…、…見守ることしか出来へんな!!みんなー、がんばるんやー!!」
愛の豪快な蹴りとトウカさんのシルバーグリフォンの豪快な振りがミノタウロスを吹き飛ばし、ユウジの流波斬とシロ君のロックランスがリビングソードを打ち砕き、私の投げ放った爆発する槍が増援のモンスターを吹き飛ばす。その様子をササラさんが見守る。
部屋にいたモンスター達は全て光の粒へと変わり、私の頭の中でレベルアップの音声が聞こえる。
四層に辿り着いてすぐの出会い頭のクライングゴート二匹によって生まれたプチモンスターパニックも、仲間達との連携を駆使することでなんとか切り抜けることが出来た。
「ふぅ…、なんとかなったわね。」
危機を乗り切った安堵から深い溜息がこぼれたところで、愛、トウカさん、シロ君、ササラさん、ついでにユウジから歓喜の声が上がる。
「鬼火流の剛の前には、この程度のモンスターじゃあ相手にならないね!!まだまだ物足りない!!追加モンスターはまだか!?」
「うっし!さすが私!!支援だけじゃなく、前衛としてもバリバリいける!!でも、まだまだ戦い足りない!!おい、追加モンスターはまだか!?」
「追加モンスター!?せっかく美雪さんが増援を吹き飛ばしてくれたんですから、ここは一旦休憩しましょう!!ポーション使って、態勢を整えましょう!」
「シロくんの言う通りやで、トウカはん!!愛はん!!まだ戦い足りない言うんなら……、……えぇっと……、その……。……そうや!ユウジはんが相手になるわ!頑丈やからな!」
「ササラさん!?なんてことを言うんですか!?って、おいこら!!嬉々として殴ってくるな、愛!!トウカさん止めて…って、なんでトウカさんも殴ってくるんですか!?ニヤニヤ笑いながら、この状況を楽しむ感じで、理不尽な暴力を振るってくるのやめてください!!」
…歓喜の声、訂正。
血の気の多い愛とトウカさんはまだ戦い足りないらしく、更なるモンスターとの戦闘を所望している。
そんな二人を、シロ君とササラさんとついでにユウジが止めて…。いや、ユウジが体を張って、二人の猛攻を神盾アイギスで止めてる。
危険なモンスターパニックを乗り越えたところなんだから、大人しく感傷に浸らせて欲しい。
でも、愛とトウカさんの暴走は止まらない。神盾アイギスが攻撃を防ぐ甲高い金属音を聞きながら、私は目の前の戦闘への感想を、ボソッと呟く。
「いやー…、ユウジに神盾アイギスを進呈して正解だったね。並じゃない愛とトウカさんの猛攻を、余裕で受け止めてる。私だったら、一瞬で消し炭だよ。」
「褒めてもらえるのは嬉しいんすけど、助けてもらって良いですか!?」
私の呟きを、ユウジは聞き逃さなかった。悲痛な声で助けを求めている。
モンスターパニックを切り抜けたところなのに、なんで新たな戦闘が始まっているんだろう?疑問の中、愛とトウカさんの攻撃が増していく。
「咲かせて魅せよう!拳撃による花!!奥義!百花繚乱!!」
「奥義を使うな!!痛ぇ!!おいこら、愛!!トウカさんのニヤニヤしながらの一撃と違って、お前の攻撃は痛ぇんだよ!!」
「私の攻撃が愛ちゃんより痛くない!?てめぇ、ユウジ!!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!!本気出してやるよ!!」
「火に油を注いだ!!痛い!!レベル70超えのトウカさんの攻撃が、愛の奥義と相まって痛い!!まじで痛い!!助けて!!」
「ヒール!!ヒール!!ヒール!!」
「シロの回復は有難いけど、焼け石に水!!美雪さん、助けて!!」
「…仕方ない。愛、トウカさん。攻撃をやめて私の話を聞いてくださいね。」
私の言葉に、愛とトウカさんは攻撃をやめて私の顔を見る。
もう攻撃が止まったから良いかな…と思いつつも、再発防止のために私はスキル眼光威圧を発動しつつ、声色を落として暴走しがちな二人に注意をすることにする。
モンスターパニックを乗り越えた達成感に浸りたかったところを邪魔された怒りをのせて…!!
「その辺にしろよ、戦闘バカ二人…。縄で縛ってモンスターの群れの中に、突き落とすぞ…。あぁ…?」
「「ごめんなさい…。」」
私の眼光威圧を利かせた睨みの言葉に、ユウジに殴り掛かっていた愛とトウカさんは大人しくなる。
反省した様子の二人を横目に、私は二人の暴走をけしかけた根本原因を取り除くことにする。
「あと、ササラさん…。腑抜けたこと言ってユウジに負担をかけるな。防御の要だぞ…?なんなら、お前が二人の攻撃を受け止めろよ。あぁ…?」
「すんまへん…、堪忍どす…。」
漲る愛とトウカさんをユウジに攻撃するように仕向けたササラさんも、スキル眼光威圧で反省してもらう。
全員が大人しくなったのを確認しながら、私は手に持っていた弓をマグカにしまう。一息吐いたところで、戦闘に勝利した実感が湧き上がってくる。
よし、これでモンスターパニックは完全に鎮圧できたわね!
なぜか怯えるシロ君と一緒にMP回復ポーションを使って態勢を整えながら、剣のダンジョン攻略に戻る。
順調なダンジョン攻略を進める中、五層の攻略途中で私の隣を歩くシロ君がボソッと呟く。
「レベルの上りが、僕の想定より早いですね…。推奨挑戦レベルより上のダンジョンに挑んでいる上に、トドメを譲ってもらってるとはいえ、一日で3レベルアップは異常です…。」
「え、そうなの?前から集中してモンスターとの戦闘に臨めば、このくらいのレベルアップは普通だったけど…?え、異常なの?」
「異常です。普通なら、推奨挑戦レベルが上のダンジョンに挑んでも、レベルアップには一週間以上を要します。こんなにポンポンとレベルが上がるのは聞いたことがありません。」
「そうなの…?」
大げさなーと思った私の疑問に、シロ君は真面目な表情で頷く。
どうやら私達のレベルアップが異常に早いのは、シロ君の常識的に異常らしい。んー…?なんでー…?と思った私の疑問に、トウカさんが解説をしてくれる。
「レベルアップが早く感じるのは、スキル転生者の効果のおかげだよ。」
「「スキル転生者?」」
シロ君と私の疑問の声に、トウカさんは首を縦に振る。
「スキル転生者は、経験値が多く手に入るって効果だろ?それがパーティ全員に効果ある上に、重複もするみたいだからな。私達のパーティには転生者が五人もいるから、効果が倍の倍の倍の倍の倍の…、えーっと…。二の五乗で…。」
「32倍やな。」
「そうそれ!32倍にもなってるんだよ。だから、レベルアップが早いんだ!」
妙にレベルアップが早いなー…と以前から思っていたが、私達のパーティーには転生者が五人もいるから経験値が通常の32倍も入っていたのか…。スキル転生者…。恐ろしいスキル…。
確かにファストの町に来たばかりの頃にスキル転生者の効果は確認していたけど、そんな波状効果があるのは知らなかった。
これがユウジの言ってたチートってやつかな…?
スキル転生者の効果を実感していたところで、申し訳ない気持ちが湧き上がってくる。
だって、この世界の人が苦労しながら経験値をためている中で、何倍も多く経験値を得るなんて…、なんかズルしてるみたいだもん。
「嬉しい限りですけど、なんだか少しズルい気がしますね…。」
「確かにズルい気もするけど…。これには、理由があるんだよ。」
「「理由…?」」
「この世界の住人が小さい頃からモンスターを倒してレベル上げが出来るのに対し、私達のようなある程度の年齢の転生者は、年齢に反してレベル1でスタートするって状況だからな。2歳のレベル50がいるかもしれない中で、80歳のレベル1の転生者がいてもおかしくない転生システムの救済策だよ。年齢とレベルの差を埋めるために、スキル転生者は経験値を二倍にしてるらしいぜ。だから、何にも後ろめたいことは無いんだ。」
トウカさんの説明に、私とシロ君はなるほどと手を打つ。
妙にレベルアップが早い現状に納得したところで、ダンジョンの攻略に戻る。その後の私達は目立ったトラブルも無く、順調に四層から六層を攻略した。
六層で再度の夜営を挟み、剣のダンジョン挑戦は三日目を迎える。
少し眠たい目をこすりながら七層へと向かうところで、お約束になりつつあるシロ君の解説が始まる。
「七層から九層のモンスターは、今までの階層のモンスターと比べて特殊で…、というか、剣のダンジョンの中でもかなり特殊なモンスターしか現れない、かなり特殊な階層になります。」
「特殊?どういうこと?詳しく説明をお願い。」
「一言で言うと、七層から九層のモンスターは単独でしか出現しません。」
「単独?今までの階層だと二から四匹が群れになって現れたけど、この先は一匹でしか出ないってこと?それって、すごい楽なんじゃない?」
「残念ながら、そうはいきません。一匹一匹のモンスターがボスモンスター級に強敵ですので。七層から九層のモンスターは、ミノタウロスの進化モンスターのブラックミノタウロス、全身に剣のような鱗を持つソードドラゴン、マグマを纏った蛇型のモンスターであるボルケーノバイパー、毒攻撃が厄介な蜘蛛形のモンスターであるポイズンタラテクトの四種類が出現します。四匹とも適正討伐レベル60近くの強敵モンスターです。」
適正討伐レベル60…。
適正討伐レベルは冒険者ギルドが定めるモンスターの強さを表す指標で、適正討伐レベル60といったらレベル60の冒険者パーティー四人で勝てるかどうかの強さよね…。私達の現状のパーティーは六人だけど、平均レベルは60に届いていない。つまり…。
「モンスターとの遭遇が、毎回ボスモンスターとの戦闘になるって感じ…?」
「はい、そうなります。」
「そっかー…。大変な戦いが予想されるけど、逆を言えば…。」
「一層から十四層の中で、一番得られる経験値が多いエリアですよ!」
「それだけじゃなくて、敵も必ず一匹だけで現れるから、不測の事態が起きづらいエリアだぜ!実は戦いやすくて経験値を稼ぎやすいボーナスエリアなんだぜ!」
「なるほど。」
シロ君とトウカさんの説明に加え、うずうずとした表情の愛の後押しも加わり、私は一つの結論に辿り着く。
「それじゃあ、七層から九層ではレベル50の壁に阻まれるまで、レベル上げに集中しようか!」
「「異議無ーし!!」」
こうして、私達は七層から九層で効果的なレベル上げを実施することを決めた。
ここでレベル49になって、レベル50の壁はダンジョンの中ボス相手に超える!そんな計画を立てながら、私はモンスターとの戦闘を重ねていく。
九層と十五層で待ち侘びる悪意に気付くことも無く…。




