剣のダンジョン挑戦③
前回のあらすじ:フィーネさんが金等級冒険者だったという意外な事実が発覚し、ササラさんは相変わらずポンコツだった。
ササラさんが竹製要塞バンブー・フォートレスを狭く天井が低い通路で発動し、バキバキミシミシと音を立てながら押し殺されそうになる、というポンコツっぷりを遺憾なく発揮した後は、特に目立ったハプニングも無く、剣のダンジョン挑戦を進めた。
脅威と思われたサンダーキャットも、優先して倒せば問題にならなかった。
順調なのが逆に心配という感覚になりながらも、薄暗い通路を歩いていると、奥に階段のある広い部屋に出る。あれは四層へと続く階段ね。
「やっと四層への階段だな。ここから先は出てくるモンスターが変わるけど…、今日はもう遅い時間だし、そこのセーフティストーンで夜を越すぞ。」
トウカさんの言葉に、マグカで時間を確認すると午後六時だった。
もう定時退社の時間か。ダンジョンの中は、ずっと薄暗いため時間の感覚が分からなくなりがちだ。転生前の社会人時代ならここから残業へと移行するだけだが、異世界のダンジョンではそうはいかない。
疲労状態で進行できるほど私達のレベルは高くないし、ダンジョンも甘くない。
休む時はしっかり休む。
トウカさんの今日のダンジョン攻略中止の言葉に頷いて、私達は夜営の準備を始める。まずは焚き火のための火おこしね。
「美雪、見て見てー!!お肉ー!!」
「どうだー!!この大きい肉ー!!ワイルドだろーう?」
ユウジと一緒に準備をしていた焚き火の火が安定してきたところで、鉄串に刺さった大きなお肉を両手に持った愛とトウカさんが得意気な表情を浮かべながら現れる。
バーベキューかな?大好きなお肉を前に、愛はにこにこである。私もつられて笑顔になる。
にこにこの愛に笑顔を浮かべつつも、疑問が湧き上がってくる。
…あれ?あんなワイルドなお肉、今回のダンジョン挑戦のために準備した食材の中にあったかな?
どうやら二種類のお肉があるけどー…、鳥の手羽っぽい肉に、赤身が強い肉は牛肉かな?
なんとなく嫌な予感がした私は、二種類の肉について愛とトウカさんに確認することにする。
「ねぇ、愛。そのお肉…、なんの肉かな?」
「え?ハーピーとミノタウロスの肉だけど?」
「あー、そうか…。今日戦ったモンスターから手に入れた食材ねー…。そっかー…。」
「持って来た食料にも限りがあるから、自給自足は大事だろ?」
「そうですよねー…、なるほどー…。」
「今から焼くから、楽しみにしててねー!!いっぱいあるから、いっぱい焼くねー!!」
にこにこ表情の愛とトウカさんは、鉄串に刺さったハーピーの手羽先とミノタウロスの肉を焚き火の近くに刺して、次の串の準備にとりかかる。
そんな愛とトウカさんを横目に、私は先ほどまで戦っていたケンタウロスとハーピーについて考える。
ハーピーは人の上半身に両腕が鳥のような大きい羽をしており、下半身は人と鳥の間のような姿をしたモンスター。
ミノタウロスは牛の頭に筋骨隆々な人の上半身をしており、下半身は人と牛の間のような姿をしたモンスター。
愛とトウカさんが次の串焼き肉を準備するために声が聞こえないところまで移動したのを確認した後、隣で呆然とするユウジに話しかける。
「ハーピーとミノタウロスって、結構人の部分が多いモンスターだけど…。ユウジいける?」
「こう串に刺さって出てくると、もう食材にしか見えないけど…。肉の出所をしっちまうと、やっぱり抵抗はあるな…。ハーピーの方の肉は見ようによっては大きな手羽先って感じだから、なんとなく食えるだろうけど…。ミノタウロスはどこの部位か分からないから結構チャレンジだよな…。」
「やっぱり抵抗あるよね…。でも、あの愛のにこにこ嬉しそうな笑顔…。絶対、一緒に食べないとすねちゃうわね…。」
「私の肉が食えないってどういうことだー!?そんなんだから軟弱なんだぞー!!って、俺も怒られそうだな…。」
転生者として同じ感覚を持つ私とユウジは、お互いに顔を見合う。
「「はぁ…。」」
二人の憂鬱な溜息が重なる。この後の食事で待ってるであろう未来を予想して、ユウジと目の前の食材の攻略法について考える。
「今の内に串に刺さった状態で焼かれる肉を見守りましょう…。そうすれば、食材にしか見えなくなるはずです…。」
「臭い消しのハーブも多めにかけておこうか…。獣臭かったら正直食べきる自信が無い…。」
「ハーブソルト名案ですね…。あー、もう美味しい肉にしか見えない。じゅうじゅうと肉汁が溢れてきて意外と美味しそうですよ。」
「ハーブソルトのおかげで、良い香りがしてきた。あ、私いけるかも。」
ユリ特製のハーブソルトをハーピーとミノタウロスの肉にかけながら、滴る肉汁とハーブの香りに、私とユウジは目の前のミノタウロスとハーピーの肉に食欲を上げていく。
これなら食べられるぞ…!!と確信を持ったところで、愛の元気いっぱいの声が聞こえてくる。
「あー!味付けしてくれたのー!?ありがとー!!」
「気が利くじゃねぇか!それじゃあ、こっちにも味付け頼んだ!!運良くドロップしたレア食材だぜー!!」
にこにこ笑う愛とトウカさんは、私とユウジの目の前に何か分からない食材が刺さった二本の串を差し出す。
でろーんと垂れる紫と赤の中間色の肉が刺さった串と、ピンクの薄い何かに包まれた赤い血管の浮かんだ濃いオレンジ色の球体が刺さった串…。今まで見たこと無い異世界特有の不思議な食材が使われた何かである…。
嫌な予感が沸々と湧き上がってくるの感じながら、二種類の未知の食材について愛とトウカさんに確認する。
「これは、何かな…?」
「ミノタウロスのタンと、ハーピーのキンカン!!」
「タンに、キンカン?え、えーっと…。」
「大丈夫だ、美雪!安心しろ!ハーピーのキンカンは、串に刺しても黄身が流れ出ないように、薄くて丈夫なハーピーのホルモンで包んでるぜ!!」
「いや、そうじゃなくて…、タンは舌ってのは予想できますけど…。キンカンって何ですか…?」
「キンカンは、一言で言うとハーピーの体内にある成長途中の卵だ。ハーピーは卵生だからなー。成長途中の卵は殻も無いし、白身も無いんだよ。オレンジ色の感じが、果実のキンカンに似てるからキンカンって呼ばれるけど、要するに卵の黄身だよ!濃厚な旨味がすごいぜー!!でも、多少パサつくから、型崩れ防止を兼ねてのジューシーなホルモンで包んでるぜー!!さすが私!!絶品間違い無し!!」
「そうですかー…。なるほどー…。」
美味しい食材を上手に調理できて満足感いっぱい!って感じのトウカさんが、大きな胸を張りながら目の前の食材について解説をしてくれる。
巨乳のトウカさんが胸を張ったことで、ぷるんと大きな双丘が揺れるが、今の私はそちらに注視している場合ではない。
苦虫を噛み潰したような表情で、同じような表情を浮かべるユウジとお互いの顔を見合う。
ミノタウロスとハーピーの肉までが、私にとっては許容できるとこだな…。でろーんなミノタウロスのタンと、ハーピーの体内で作られた成長途中の卵ことキンカンは私には無理だ…。
そんな感想を抱きながら、ユウジと一緒に焚き火で焼けていく個性豊かな串焼きを見守った。
タンとキンカンだけでも私達にとっては衝撃的だったが、更なる衝撃食材の情報が私とユウジを襲う。
「トウカはーん…、ササラ…、こんなん手に入れたでー…。うぅ…。」
「ん?なんだ、ササラ…って、まじか!!おい、愛ちゃーん!ササラが超レア食材の、ハーピーのホビロンをくれたぜー!!塩茹でにして食おうぜー!!」
「ホビロン!?何それ!?って、うぎゃあ!!おい、アホトウカ!!ふざけんな!!こんな気持ち悪い物、食えるわけねぇだろ!!うえー!!気持ち悪いー!!滅びろー!!」
「滅びろーじゃなくて、ホビロンなー!見た目はこんなんだけど、美味いんだぞー!!」
「絶対に嫌だー!!うえー!!気持ち悪いー!!近付けんな、クソトウカー!!鬼火流剛術 参の型!!桔梗!!」
「痛ぇ!!殴るって相当な拒否じゃねぇか…。拒絶か…?」
「早くマグカにしまえー!!そんな気持ち悪いのを、私に見せるんじゃねぇ!!ぶっ殺すぞー!!」
「分かったよー…。愛ちゃんがそこまで言うなら、ホビロンは今日は食べないようにするよ…。見た目こんなんだけど、美味いのになー…。」
ミノタウロスのタンとハーピーのキンカンに怯まなかった愛が、ハーピーのホビロンという謎食材に怯んでる…?
グロテスクな見た目のでろーんなミノタウロスのタンと、血管が浮かんだ成長途中の卵ことキンカンを美味しそうと言っていた愛が、ホビロンには怯んでいる!?
「ど、どんだけグロテスクなのよ…、ホビロン…。」
「ホビロン…。地球にもあるぞ…。」
「え…?本当…?」
「本当だ。俺は転生前に鶏のホビロンをネットで検索して画像を見たことがあるけど…。あれはやばい…。絶対に検索とかで確認しない方が良い…。しかも、ハーピーってことは半分は人間だろ…。想像するだけで、吐き気が…。うぅ…。」
「そこまで…?」
「そこまでっす…。」
「そこまでかー…。なるほどー…。」
青ざめた顔で震えるユウジから聞いた情報で、私は絶対にホビロンを確認しないことを心に決める。
未知の食材であるホビロンのことを思考の外に追い出し、火が安定してきた焚き火にサっちゃん特製の鍋置きを設置し、マグカに保存しておいたユリ特製のスープを温め始める。
この場にいない仲間にも感謝をしながら、私達は夕食の準備を進める。
程なくして、食事の準備が出来たところで、トウカさんが片手に持った木のグラスを高く掲げる。
「ユリが作ってくれた栄養満点スープの温めに、ハーピーとミノタウロスの肉とレア食材を使った串焼きオッケー、食った後にすぐ寝るための簡易テントの準備オッケー、武器や防具の点検、明日に向けての準備もオッケー。オールオッケーか?」
夜営の準備状況を確認したトウカさんは、焚き火を囲む私達をぐるりと見渡す。
みんな疲れこそあるものの、多くのモンスターを倒し、無事に一日目を終えた満足感に満ち溢れた活き活きとした表情をしている。
「いっぱいモンスター倒したから、腹減ったー!!早く飯にしよう!!」
特に活き活きとした表情でご飯を催促するのは、戦闘狂の愛。強いモンスターといっぱい戦えたからか、すごい満足そうな表情である。
愛が嬉しそうで、私も嬉しいよ。隣に座る愛の頭を撫でていたところで、トウカさんが声を張り上げる。
「よーっし、それじゃあ、ダンジョン一日目お疲れ様ー。明日以降もあるし、今日もまだ夜の交代交代の監視があるから、お疲れ様ーってわけにはいかないけど、ひとまずゆっくり飯を食べよう!いただきます!!」
「「「いただきます!!」」」
トウカさんのいただきますの掛け声に、空腹で堪らないといった感じのみんなは元気に声を上げ、目の前の串焼き肉に豪快にかぶりつく。私とユウジ以外は。
仲間達の盛り上がる雰囲気に、うまくついていけない私とユウジはお互いの表情を確認し合う。うん、困惑を感じながらも覚悟を決めなきゃ…って表情ね。うん、分かるよ、ユウジ…。
目の前にあるのは、人間に近い見た目のミノタウロスの肉と、ハーピーの肉…。じゅうじゅうと肉汁を滴らせながら、美味しそうな香りを私の鼻腔へと届けてくる。
目の前で焼き上がる串焼き肉を観察しながら、この世界に来たばかりの頃を思い返す。
「ファストの町の初めてのクエストの報酬として食べたスモールケイブドラゴンの卵も…、黄身は青色で、白身は濃いピンクだったわね…。あれに比べたら、現状で私の目の前にあるミノタウロスとハーピーの肉は、色も見た目も普通ね…。スモールケイブドラゴンの卵はすごい濃厚な卵って感じで美味しかったから…、目の前の肉も美味しいに違いない。うん、そうだ。そうに違いない。」
ぶつぶつと呟く私に、ユウジは必死な自己暗示…?と思ったらしいが、集中している私は気付くことがなかった。覚悟を決めた私は、目の前で肉汁を滴らせるハーピーの肉を手に取り、豪快にかぶりつく。
「あー…、やっぱり美味しいー…。」
お肉特有の旨味とジューシーな肉汁が口の中に広がる。獣臭さを感じるかと思ったが、ハーブソルトの香りと爽やかさがそれを打ち消し、肉の旨味だけを私に届ける。
悔しいけどミノタウロスとハーピーの肉は美味しかった。
素材のモンスターのことを考えることをやめ、串焼き肉を堪能する。
「ミノタウロスのタンもうめぇ!!美雪も食べる!?」
「ハーピーのキンカンもうめぇぜ!お酒に合う!!美雪も食べるか!?」
目の前にでろーんなミノタウロスのタンと、血管が浮かぶハーピーのキンカンを差し出してくる愛とトウカさん。私はにこりと笑って二人に手を差し出す。ただし、指先は上を向けて。
「すみません、ご遠慮させていただきます。」
お肉はいけても、見た目がグロテスクなタンとキンカンを食べる勇気は無い。今回は縁が無かったってことで、私は謹んで辞退させていただいた。
シチューと串焼き肉の食事を終えた私達は、三班に分かれて夜の監視の順番を決めた後、寝床の準備を進める。
私と愛の監視はトウカさんササラさん二人の次だから…、今の内に休んでおかなきゃね…。よーっし、寝るぞーと寝袋に横になるが、とあることが気になってくる。
「んー…。ダメだ。全身がベタベタする…。」
一日中モンスターと戦っていたからか、汗で体がべとつく。焚き火の煙で、髪もキシキシだし…。
このまま寝るのは気分が良いものではないな…と思った私は、シロ君とユウジのテントを訪れる。
「シロ君ー、今ちょっと大丈夫かなー?」
「はい!どうしました?」
テントからシロ君が顔を出す。声に元気こそあるもの、どこかぼんやりとした表情で、目はトローンとしている。
今は20時をだいぶ過ぎた時間。普段、21時頃には眠くなってしまうシロ君には少し辛い時間だ。
「お眠なところ、ごめんね。光魔法クリアーをお願いして良い?」
「あ、そうですね!不浄なる物を浄化せよ!クリアー!!」
光魔法クリアーを受けた私達の体は白く光り、さっぱりとした気持ちになる。光魔法クリアーは、体の汚れなどを浄化し、清潔な状態にするとても便利な魔法だ。
私に光魔法クリアーを発動したシロ君は、次に監視しつつの酒飲みを始めたトウカさんとササラさんに駆け寄り、光魔法クリアーを発動する。
「んおー、シロ坊ー!!クリアーなんて、気が利く魔法もってんじゃねぇかー!!」
「んなー…。これがクリアーなんか…。体中すっきりで良ぇ気分やなー!おおきに!」
「シロ坊、クリアーのお礼に、このシルバーブルのしぐれ煮を一口あげよう!!ほら、あーん!」
「あ、あーんって、いや、その…!!」
「おいおい、そんな恥ずかしがるなよー!ほら、あーん!」
すでに酔っ払い始めているトウカさんは、シルバーブルのしぐれ煮を箸でつまんで、真っ赤な顔のシロ君に差し出す。まるで新婚夫婦のいちゃつき。
これは、あの方が黙ってないぞー…。と思っていたところで、いつの間にか隣に座っていたササラさんが大口を開けてトウカさんの差し出すシルバーブルのしぐれ煮に食らいつく。
「って、なんでササラが食うんだよー!?おいこらー!!」
「むぐむぐ…、つーん!!」
「なんで怒ってるんだ!?こっちを見ろ!!そっぽをむくな!!シロ坊ー、お前が早く食べないから、ササラに盗られちまったぞー!!もう一回!ほれ!」
もう一回差し出したシルバーブルのしぐれ煮も、ササラさんの口の中に消える。
「なんでまた食うー!?おい、ササラー!!」
「むぐむぐ…、つーん!!…あほう!!」
「アホって、なんで!?」
「ははは…。お酒は程ほどにしてくださいね…。」
酔っ払いに絡まれてるシロ君に助けをいれつつ、トウカさんとササラさんに監視をお願いして、私達は眠りについた。
代わる代わるの監視で夜を明かした私達は、腹八分程度の簡単な朝食を食べた後、四層の攻略を開始する。
四層へと続く階段を下りていたところで、シロ君がこの階層のモンスターについて事前情報をくれる。
「四層から六層に出て来るモンスターは五種類です。上の階層に引き続きのミノタウロスに、宙を飛ぶ生きた剣型のリビングソード。庶民の強い味方の美味しい鶏肉こと大きい鶏型のモンスター、ワイルドターキー。弓持った人の骨のようなモンスター、ボーンアーチャー。そして、大きな鳴き声で周囲のモンスターを集める山羊型の厄介なモンスター、クライングゴート。以上の五種類のモンスターです。複数のクライングゴートに遭遇すると、モンスターパニックになる可能性があるので、要注意です!」
モンスターを呼び寄せるクライングゴートは注意。オッケー、心の中にメモした。
あと、そんな効率的なモンスターとの戦闘方法が…と目をキラキラさせる愛にも注意。オッケー、心の中のメモに追記した。
「確かに、クライングゴートは厄介だが、昨日戦ったサンダーキャットに比べたら戦いやすいぞ。クライングゴートは遭遇してもモンスター呼んで終わりだけど、サンダーキャットは他のモンスターと一緒に現れて、戦闘中に麻痺攻撃を仕掛けてくるからな。」
「トウカはんの言う通り、クライングゴートは大したことないで!一匹のクライングゴートが呼べるんは、最大でも四匹やからな!五匹くらい、ササラ達なら楽勝やんな!」
ササラさんが大したことないと言うと説得力があるが、なんとなく不安になる。特に得意気に語るところが…。こういうのユウジがフラグって言ってたっけ?
「美雪はんが信用ならんって顔してるんが気になるところやけど…。クライングゴートはうまく使えば、美雪はん達の目的のレベル上げが効率的になるで!モンスター探す時間が省けるからな!この階層でレベル上げを進めるで!シロはんはどんどんトドメを狙うんやでぇ!」
モンスターに最後の攻撃をすると、ボーナスなのか少し多く経験値が入る。
私達のパーティーの現状のレベルはそれぞれ、トウカさんが73、ササラさんが62、ユウジが48、愛が47、私が45、シロ君が41といった具合だ。
「がんばります!早く皆さんに追いつかないとですからね!!」
シロ君が両手に杖を握ったまま、気合いを入れる。シロ君の健気な言葉に、よし、私もサポートに徹するぞーと気合いが入る。
「私も負けな…むぐぅ…。ふぁにふうおー?ひうひー?」
シロ君に対抗しようとする愛の口を両手で塞ぐ。んー?と不思議そうに見上げる愛に、私は説明をする。
「トドメを刺すことが多い愛は、ボーナスいらないでしょ。すぐにレベル50の壁に阻まれちゃうよ。そしたら経験値が無駄になっちゃうんだから、大人しくしてなさい。」
確かに!といった表情をした愛は、うんうんと首を縦に振る。理解してくれたようだ。良かった良かった。
そんな会話をしていたところで、四層に到着する。
階段下りてすぐの大部屋で、周囲の様子を観察することにする。
石のレンガの床と壁と天井。そんなに上の層と変わらないかなー…と思っていたところで、通路から現れた二匹のモンスターと目が合う。
ンメー…。
小さく鳴く二匹のモンスター。見た目はまさに山羊。うん、これはあれね…。クライングゴー…。
ンメェェェェエエエエ!!!!ンメェェェェエエエエ!!!!
山羊型のモンスターであるクライングゴートが、部屋を震わせるくらいの大声で鳴き声を上げる。
「「うるせぇ!!」」
鳴き声に怒った愛とトウカさんが、一人一殺でクライングゴートを殴り殺すが、時すでに遅し。
通路の奥からミノタウロス三匹、リビングソード二匹、ワイルドターキー二匹が現れる。
「美雪さん、危ない!!」
状況把握に努める私の前に神盾アイギスを構えるユウジが立ち、ガキィンという甲高い音と共に何かを弾く。足元に転がった物を確認すると、細長い骨だった。
「ユウジ、ありがとう。ボーンアーチャーもどこかにいるってことね…。」
つまり、八匹以上のモンスターに囲まれているということになる。
「モンスターパニック!?」
「くそ、四層に下りたってすぐにこれかよ!!ついてねぇ!!ササラが変なフラグを立てるからだ!!」
「ササラのせいなんかー!?そうなんかー!?堪忍なー!!」
「大量のモンスター!!望むところだー!!全員、塵に変えてやる!!」
「ははは…。ステッキな状況…?素敵なステッキ、今はそんな冗談いらないですよ…。」
私はため息を吐きながらも、手に持つ弓に力を込め、もう片方の手で矢を三本持つ。スキル必中を持ってしても、この三連射は命中率が下がるけど…。これだけ敵がいたら、問題ないわよね。
「三連ボムアロー!!」
私が放った三本の矢は、すぐに爆音を部屋中に響かせる。突然の爆発音に、私の前に立つパーティー仲間が勢いよく振り返る。
「呆けた顔してるんじゃない!!私達なら楽勝な相手よ!!愛は目の前のモンスターに集中!!ユウジはスキル挑発を発動しつつ防御に集中!!シロ君は回復に集中!!トウカさんは支援魔法でなく、前衛に立ってもらってモンスターの数を減らしてください!!ササラさんはこの広さならバンブー・フォートレスを展開できますよね!?敵の行動阻害の支援魔法をお願いします!!」
「「「了解!!」」」
私の指示に、仲間達は正気を取り戻す。目に力強さを取り戻して、私の指示に従ってくれる。
「いつも通りの戦闘を、いつも通りこなせば倒せない数じゃないわ!!このピンチ、無事に切り抜けるわよ!!」
「「「了解!!」」」
仲間に鼓舞をしながら、目の前のモンスターとの戦闘へと集中する。このくらいならなんとかなる。
波乱いっぱいの剣のダンジョン挑戦二日目は、こうして小さなハプニングから始まった。




