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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都滞在編 -新しい仲間と共に王都での生活基盤を整え強くなる-
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謎の黒い箱が庭に置かれている

前回のあらすじ:夢の中で大量のモンスターに襲われる危機的な状況、モンスターパニック対策の修行を行っていたが、慌てた様子のサっちゃんに無理矢理起こされる。


「おはようサっちゃん、って、もしかしなくても私に頭突きした…?」


私の質問にサっちゃんはぷるぷる震え、目をうるうるしながら首をこくこくと縦に振る。

頭突きをされた私より、頭突きをしたサっちゃんの方がダメージが大きいような?

え?私の頭ってそんなに硬い?ステータス差だよね?


「なんかごめんね?それで、異常事態って何かな?」


「あ、そうでした!!ちょっとこっちに来てください!!」


頭を押さえていたサっちゃんは、私を無理矢理起こした理由を思い出したのか、勢いよく立ち上がる。

慌てた様子のサっちゃんは、事情を呑み込めていない私の手を取り部屋の外へと駆け出す。


サっちゃんに連れられるまま少し移動した私は、ホームの裏庭のスペースに到着する。

元気なサっちゃんと手を繋いだまま、空を見上げるとまだまだ薄暗く、東の空が少し明るくなってきたところだった。完全に早朝である。


「サチおばあちゃん、早起きすぎるよ…。」


「美雪さん!空を見ている場合じゃないですよ!!あと、おばあちゃん扱いしないでください!!これです!!見てください!!」


早朝から元気なサっちゃんの声を聞きながら、指差す先を確認すると、見たことが無い黒い箱が置かれていた。

横幅約1メートル、奥行き0.5メートル、高さ約1メートルってところかな?大きな蓋のついた真っ黒な箱が、裏庭とホームをつなぐ扉の脇に置かれている。

いや、なにこの箱?三分の一から下くらいの位置には、日本の自動販売機の取り出し口のような物もついているし…。

サっちゃんが異常事態と言って私を起こしたのにも納得である。まったく意味も用途も分からない謎の黒い箱を指差し、サっちゃんに確認をする。


「サっちゃん、昨日こんな箱あったっけ?」


「いえ、ありませんでした。昨日の夕方まで私はここで簡易炉を作製してましたが、その時にこの箱が無かったのは間違いありません。今日の朝、いつの間にか置かれていました。」


「そうよね…。昨日、サっちゃんが簡易炉を作っていたところを私も見ていたけど、こんな箱なかったわよね…。誰が何のために置いたのか…。」


いつの間にか置かれた謎の黒い箱…。

スキル気配感知を発動してみるけど、人やモンスターの気配は感じない。黒い箱の中に誰かが隠れているとかではないようだ。


じゃあ何?怪しすぎる。まさか爆弾とか、危険物?

怪しい黒い箱の扱いに警戒しつつも、状況を打破できる何かがあるわけでもない私とサっちゃんは途方に暮れる。そんな中、ふと名案を思い付く。


「ちょっと待ってて、サっちゃん!」


「え?あ、はい!待ってます!!」


私の言葉を聞いて、素直に首を縦に振るサっちゃん。


程なくして私は、眠たげに目をこする愛と共にサっちゃんの前に現れる。


「なにー、美雪ー?大量の襲い掛かってくるモンスターをボッコボコに倒してる夢を見てたのにー…。」


「大量のモンスターと戦う夢…って、もしかして私が見てたモンスターパニックの夢の続き?」


愛に夢の内容を確認すると、無口な少年の体に入って、大量に押し寄せてくるモンスターに立ち向かって戦ったらしい。

あー、やっぱり私のシークレットスキルの夢の効果は一緒に寝てる人に影響が出るんだな…。って、そんなことを考えてる場合じゃない。愛を無理矢理起こした本題に入りましょう。


「愛。眠そうなとこ本当にごめんね。この黒い箱に、スキル罠感知(わなかんち)を使ってくれる?」


「罠感知…?あー…、前にダンジョンで取得した、あのスキルねー…。オッケーオッケー…。」


愛は両手を前に突き出して、スキル罠感知を発動する。

ファストの町のダンジョンで、あまりにもトラップの多さに、激怒した愛が取得したスキル罠感知。

もしこの黒い箱にトラップが仕掛けられていても、トラップを見抜くことが出来るスキル罠感知を使えば、箱を開ける前に脅威に気付くことが出来るだろう。

サっちゃんと一緒に、愛が発動したスキル罠感知の結果を待つ。

待つ。

待つ。

待つ…。

いくら待っても、愛から結果が返ってこない。ん?と思っていたところで、サっちゃんがポツリと呟く。


「美雪さん…。愛さん、立ったまま寝てませんか…?」


いや、まさかまさかー!と思う私の言葉を否定するように、愛からスースーという寝息が聞こえてくる。


「完全に寝てるわね…。」


「完全に寝てますね…。」


「愛ー、起きてー。その黒い箱が時限爆弾とかだったら、残り時間が無いかもしれないから、なるべく早めにお願いね!!」


「…んぁ!?んーんぅ…。あー、この黒い箱にスキル罠感知だったよねー…。うんうん、大丈夫、その箱にトラップは無いよー…。オッケーオッケー…。ほらねー…。」


あ!と思ってた時には遅かった。

寝惚けていたのか、それとも、突然起こされて面倒になってきたのか、愛は突然黒い箱の蓋を掴んで豪快に開く。

やばい、爆発するかも!?と咄嗟にサっちゃんに抱きつき、全身を包み込むように守ったが、黒い箱は爆発などしなかった。身構える私とサっちゃんに対し、箱の中から妙に元気な声が聞こえてくる。


「みゃーっはっはっはー!!怪しげな黒い箱を開けた勇敢なる者の前に、我現る!!いや、正確には現れてなくて、録音石の音声なんだけどー、細かいことは無視みゃー!!お前らも気にするみゃー!!みゃーっはっはっはー!!」


あれ?この声はどっかで聞き覚えがある。どこで出会ったんだっけな?記憶を必死に呼び起こす。

んー?と考えていたところで、さっきまで寝ぼけていた愛が元気を取り戻して大声を上げる。


「この声は、トラップタワー跡地で出会った、かっこいいポーズのお姉さん!!でも、箱にはお姉さんいない!!この石からお姉さんの声が聞こえる!!前にトウカが言ってた魔石ってやつー!?」


「そう、魔石の中のひとつ、録音石だと思うけど…って、え?トラップタワー跡地で会った、かっこいいポーズのお姉さん…、っていうと…。原初(げんしょ)の鍛冶屋こと武姫(たけひめ)さんのこと?録音石っていう魔力を込めて話した内容を記録する、っていう効果の魔石の録音石から武姫さんの声が?なんで突然?」


原初(げんしょ)の鍛冶屋こと武姫(たけひめ)さま!?え!?美雪さんと愛さんは、彼女に会ったことがあるんですか!?武姫さまは全鍛冶屋の憧れ…、鍛冶屋の端くれである私も、もれなく彼女みたいになりたいって思っちゃう程のレベルの憧れの人なんですが、武姫さまに会ったことがあるんですか!?え!?羨ましい!!羨まし過ぎる!!」


キラキラした目で箱の中から聞こえてくる武姫さんの音声を、うっとりとした表情で、彼女の言葉の端も聞き逃さないぞーって感じで、集中して目を瞑るサっちゃん。

トラップタワー跡地で出会った武姫さんは、みゃーみゃー言ってる変な人だったけど、原初の鍛冶屋という異名だけあって、やっぱり伝説的な鍛冶屋さんだったんだな…としみじみ思う。


「この我の音声を聞いている鍛冶屋たち、突然黒い箱を置いてごめんみゃー!この黒い箱を置いたのは、我だみゃー!世の鍛冶屋のおみゃー達は、原初たる我の突然の出現に驚き、聞こえてくる音声を箱と一緒に崇め奉っているところだと思うけど、どうか頭を上げて、これから我が話す内容をしっかり聞いてほしいみゃー!!」


音声を聞いている鍛冶屋たち?ん?この武姫さんのメッセージは、鍛冶屋向けのもの?

私の質問に答えるように、録音石から聞こえてくる武姫さんの声は説明を始める。


「我が黒い箱を、おみゃー達の鍛冶スペースに設置したのは、理由があるみゃー!原初の鍛冶屋として、我は鍛冶屋であるおみゃー達にお願いがあるみゃー!」


「お願い!?なんでしょう!?私に出来ることなら、なんでも言ってください!!」


「…ん?今なんでもって言ったみゃー…?」


キラキラした目で、元気いっぱい武姫さんの声に答えたサっちゃんに、録音石の中の武姫さんが声を落として答える。

え?これ録音石よね?なんでサっちゃんの声に反応を…って、まさかサっちゃんの言葉を先読みして録音してるというの…!?

さすが武姫さん…、只者じゃない…。


「みゃー、冗談は程ほどにして、おみゃー達へのお願いの本題に入るみゃー!我のお願いはおみゃー達が鍛冶屋ってことに関係があるみゃー!この黒い箱は、武器、防具、装飾品といった装備品を作る、我やおみゃー達…、鍛冶屋にとって革命的なシステムなのみゃー!!」


システム?最近忘れがちだけど、私は昔はシステムエンジニアをやっていた。元システムエンジニアとして、システムと聞いたら黙っていられない。これは気になるところね…!!

私は大人しく、キラキラ目を輝かせるサっちゃんと、少し眠たげに目をこする愛と一緒に、武姫さんの言葉の続きを待つ。


「これは鍛冶屋あるあるだと思うんみゃけど、装備品を作ってて、失敗品まではいかないけど、なんとなーく出来が悪いと感じる、納得いかない物が生まれることってあると思うみゃー。失敗品じゃないから、溶かして再作成ってのも微妙だし、そもそも再作成するための素材が無いー、って状態があると思うみゃー。それを解決するのが、目の前の箱みゃー!」


私は鍛冶屋じゃないから、なんとなくピンと来ないけど、サっちゃんはうんうんと頷いている。どうやら鍛冶屋あるあるらしい。

でも、失敗までいかないけど出来の悪い品…、言うなら粗悪品がこの黒い箱と何が関係あるのだろう?

私の質問に答えるように、武姫さんは説明を続ける。


「みゃあ、説明よりも実際にやってみるのが早いみゃー!試しに、何かいまいちな装備品を入れてみてみゃー!失敗品でも、最近使わない古い装備品でも、なんでも良いみゃー!」


「こう言ってるけど、どうする?サっちゃん?何か適した物あるかな?」


「いまいちな装備品や、失敗品、古い装備品ですかー…。私は簡易炉を作ったばかりですから、適当な物が見つからないですね…。武姫さまの要望に応えたいところですが…、困りました…。」


「んじゃ、これあげる!青熊との戦闘でボロボロになっちゃったんだけど、もらい物だから捨てれず困ってたんだよねー!ラッキー!」


黒い箱を開けた愛は、マグカから取り出したボロボロの長い赤い布を黒い箱の中にポイっと投げ入れる。あれって、ファストの町の冒険者ギルド長にもらった力のハチマキ…よね?少し前まで頭に巻いていた力のハチマキが、なんであんなにボロボロになるの?

疑問がいっぱい浮かぶが、今は黒い箱に入れられた力のハチマキの行く末を見守ることにする。

力のハチマキを飲み込んだ黒い箱は、ぷるぷると震えた後、自販機のような取り出し口から、白い長い布と、赤い染料の入った小瓶と、銀貨二枚を吐き出す。

ん?と警戒していたところで、サっちゃんは箱から出てきた物を拾う。


「これは力のハチマキの原料である白いハチマキと力の塗料に…、銀貨二枚…?」


「そういうことか…。なるほど。この箱は、入れた装備品の時間を戻し、素材の状態に戻すのね…。」


「それじゃあ、銀貨は?」


「ごめん。銀貨は分からない…。」


愛の純粋な視線の質問に、私は正直に謝る。美雪でも分からないことはあるんだなーという愛の言葉に落ち込んでいたところで、箱の中から武姫さんの声が聞こえてくる。


「早速装備品を入れてくれたおみゃー達に感謝するみゃー!この黒い箱…、名前を付けるならリサイクルボックスは、箱に入れた装備品を我がもらう代わりに、それを作るために使った素材を全ておみゃー達に返す代物なんだみゃー!!しかも、少しばかりのゴールドをおまけしてー!!みゃー!!」


箱に入れた装備品を武姫さんがもらう代わりに、それを作るために使った素材を全て私達に与える物?

あれ?装備品の時間を戻して、素材の状態に戻す物じゃないの?

なるほど…。どうやら、私の仮説は誤っていたらしい。大人しく武姫さんの言葉を聞くことにする。


「我は理由あって、装備品を集めてるんだみゃー!それこそ、職人がいまいちと思っても、冒険者としては普通に使える装備品ですらも大量にもらいたいほど!!我の倉庫に眠ってる大量の素材を、おみゃー達に分け与えてでも手に入れたいほど!!みゃー!!」


武姫さんの説明を聞くと、この黒い箱は装備品を素材の状態まで時間を戻す物じゃなくて、転移魔法とか何かしらの技術で武姫さんが装備品を手に入れて、その装備品の元の素材と少しばかりのゴールドを交換する物らしい。

武姫さんが大量の素材を犠牲にしてでも、装備品を大量に手に入れたい理由…。…なるほど。

全然理由が分からないため、武姫さんの言葉を待つ。


「おみゃー達は失敗品やそれに準ずる物を、作る前の素材と交換出来てハッピー!我は装備品が大量に必要になる現状の突破口になってハッピー!みんな、ウィンウィンウィーンの最高のシステム!それの一端が、この黒い箱ー、リサイクルボックスみゃー!」


確かに、このリサイクルボックスは職人気質な鍛冶屋にとって、自分の作りたい最高の武器を、素材を気にせずに作れる良い物だ。しかも、少しばかりとはいえ、この世界で生きていくのに必要なゴールドまで手に入ってしまうなんて…!!

怪しい…!!怪しすぎる…!!武姫さんにメリットが無さすぎる…!!

そんな私の怪しむ考えに対して説明するためか、武姫さんはみゃははははーと前置きをしてから説明を始める。


「我の説明を聞いた中には、なーんで我がそんな得をしないことをわざわざー?あっやしいーみゅー!って思ってるかもしれないみゃーねー!でも、なーんにも怪しいことなんて無いみゃー!ちゃーんと、我にも得があるみゃー!ほんとー?って思ってる疑り深い人は、トラップタワー跡地に来ると良いみゃー!トラップタワーを失って活気を無くしちゃってる、北大陸の王都セカド・エーデルワイス在住のおみゃー達のために、我が活気づけるための新たな施設を用意したんみゃーよ!我、優しいー!!みゃっははー!良いみゃ?トラップタワー跡地みゃーよ?絶対来るんみゃーよ!!知り合いの冒険者とかと一緒に来るんみゃーよ!!損はさせないみゃー!!そっれじゃあ、みゃっははーい!!みゃははははははは!!」


武姫さんの笑い声と共に録音石の音声は途絶える。

突然の武姫さんの音声でもたらされた、あまりにも多すぎる情報を頭の中で整理していたところで、愛がポンッと手を打つ。


「そういえば、トラップタワー跡地でお姉さんと会った時に、何か作るみたいなこと言ってたね!きっと作ってた物が出来上がったってことだよ!」


「トラップタワー跡地…?あー…、憎きガイドさんのせいで忘れかけてたけど…、確かにそんなことを武姫さんが言ってたわね…。」


「私との面接の時にもガイドさんのことを話題に出したら怒られましたよね…?私と中央通りで別れた後、一体なにがあったんですか…?」


毒を盛られて、所持金ぜんぶ奪われました。

そんな恥ずかしいことをサっちゃんに言うわけにもいかず、私はふふっ…曖昧に笑う。ちょっとした気まずい時間が訪れる。


「それにしても、武姫さまの呼び出しですか…。」


リサイクルボックスこと黒い箱をチラチラ見ながら、ソワソワするサっちゃん(236歳)。

まるで、おもちゃ屋のショーウィンドウを前にした子供のような雰囲気。

気になるけど、言い出せないって感じの表情のサっちゃんへ、私は声を大にして今日の予定を告げる。


「剣のダンジョンに挑戦するための準備は一旦置いておいて、武姫さんの言葉も気になるし、今日はトラップタワー跡地に行ってみましょうか!」


「良いんですか!?ありがとうございます!!」


欲しくて欲しくて仕方ないおもちゃがクリスマスプレゼントとして贈られてきた子供、って感じのキラキラした目で、私の声に答えるサっちゃん(236歳)。

そんなサっちゃんに対して、愛と私は目を合わせて、ニヤニヤ笑いながらサっちゃんの言葉に答える。


「サっちゃんにそんな気になって仕方ない、って感じでソワソワされたら、ねー?」


「ねー?」


「そんな態度に出ちゃってましたか!?」


愛と私のニヤニヤしながらの言葉に、顔を赤くしながら慌て始めるサっちゃん。

そんなわけで、今日はダンジョン挑戦の準備を後回しにして、トラップタワー跡地を訪問することにした。

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