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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都滞在編 -新しい仲間と共に王都での生活基盤を整え強くなる-
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パーティのホームを確認する

前回のあらすじ:サっちゃんの鍛冶に必要な素材集めのため、石像の荒野へと赴いた美雪(みゆき)(あい)、ユウジ、サっちゃんの四名。フィールドボスモンスターである、ミスリルゴーレム、ウィンドドラゴとの戦闘も挟みつつ、多くの素材と経験値を得た。


フィールドボスモンスターである、ウィンドドラゴとの死闘の次の日。

私達が素材集めをしている間、トウカさん達がパーティのホーム候補として見つけてくれた物件を訪れていた。


「ここがトウカ達が見つけたホームかー!!広いー!!きれーい!!でっかーい!!」


パーティホーム候補の物件は、大きな正門をくぐると同時、愛が歓声の声を上げながら、はしゃぐレベルの豪邸だった。

愛がはしゃぐ気持ちも分かる。目の前の豪邸を見ながら、手元の図面に目を落とす。

いや、何台の車がとめられるだよって位の広大な庭に、なんエルディーケイだよって思ってしまう部屋数を持つ豪邸。

さすがにファストの町の領主であるシロ君の家ほどではないが、十人のパーティメンバーが生活するには充分すぎる大きさの物件だ。


「すごい物件ですね…。」


「だろー?没落貴族が建てたは良いけど、お金を支払えないってんで売りに出された、新築同然の物件だぜー!普通はこの値段じゃ買えない、超お得な物件だー!」


「バカトウカのことだから、その辺の洞窟とかって思ってたけど、すごい豪華な家じゃん!!え!?こんな豪邸に私達なんかが住んで良いの!?」


「良いんだぜー…って、今バカトウカって言ったか?よし、広い庭使ってケンカするか。」


「望むところだー!!」


「やめなさい。」


すぐに喧嘩を始めようとする愛とトウカさんを、睨んで止めようとするが、今日の二人の喧嘩は止まらなかった。

芝生のような短い草の生えた庭で、二人は取っ組み合い、転げ合いながらの喧嘩を始める。


「サっちゃん。喧嘩を始めちゃった二人は放っておいて…、素材集めをしてた私とサっちゃんは、中の確認に行こうっか!」


「良いんですか?喧嘩してる二人をこのままにして?」


「喧嘩といっても、庭の感触を楽しむためのじゃれ合いみたいなものだから、放っておいて良いでしょ。喧嘩なんていつものことだし。そんなことより、豪邸の確認をしましょう!ほら、早く!」


「あ、はい!分かりました!」


「ササラが案内したるでー!」


喧嘩をする愛とトウカさんは放置して、案内役のササラさんと一緒にホーム候補の確認を始めることにする。

ちなみに、昨日の内に確認済みのシロ君、ユリスキーさん、レッズメッグァナーイさん、ユリの四人は、ダンジョンでシロ君のパワーレベリングをしている。

昨日の素材集めで私はレベル40、愛とユウジはレベル42になったが、シロ君のレベルは31。

ちょっと調子にのって、ウィンドワイバーン相手にレベル上げし過ぎちゃった。反省をしながら、ホーム候補の入り口へと向かう。


「おい!!俺のこと忘れてねぇよな!?俺も美雪さんとサっちゃんと一緒に素材集めしてて、確認できてないんだからな!!」


突然の大声に振り返ると、そこには無駄に大柄な冒険者ことユウジが立っていた。


「ごめんごめん、そういえばいたね。」


「そういえばいた!?俺ってそんなに存在感ない!?」


そういえばいたユウジに適当に謝っていると、後方からサっちゃんとササラさんの声が聞こえてくる。


「なんで美雪さんと愛さんは、ユウジさんにあんなに厳しいんですか?」


「前に美雪はんに聞いたんやけど、ユウジはんとの一番最初の出会いが、ナンパやったらしいで。ニヤけたいやらしい顔で、安全な俺の宿で一緒に一夜を過ごそう、げへへへって言うてきたらしいな。」


「う…。それは、ちょっとあれですね…。」


想像したのか、サっちゃんは引きつった顔でユウジから一歩離れる。気持ち分かるよ、サっちゃん。あの日のユウジは、ちょっとあれだった。


「ユウジはんの件からササラ達が得るべき教訓は、第一印象はすごく大事なもんで、それを取り戻そうとすると大きな苦労が必要になる。やから、どないな人にでも初対面の時は印象良く、ってことやな。」


「あー。あの日をやり直してー…。」


「ユウジも私みたいに夢で予知みたいなことが出来れば、最悪の初対面は起きず、もう少しマシな出会いが出来たかもなのにね。」


「いや、美雪さんの夢関連のシークレットスキルって、まじでチートだからな?簡単に真似できるような代物じゃないからな?」


「ほんまやで。そんなんあったら、ササラはポンコツにならんかったわ。」


過去に何かがあったのか、じとーっとした視線を向けてくるササラさんとユウジ。やっぱり、夢の中で何かを得る私のシークレットスキルは、だいぶ異常なものらしい。


「やけどな、ユウジはんやササラん中にも、同じようなシークレットスキルがあるって思うと、夢が膨らむもんやで。どんな力がササラん中に眠っとるんやろう?ササラん危機ん時にも目覚めるんかなー?って思うてまう。夢がある話やなー。」


自分の中のシークレットスキルに思いをはせているのか、ササラさんは自分の胸に手を当て、儚げな表情で空を見上げている。

上品さの中に、色っぽさと妖艶さと色香を感じさせる、大人なササラさんの表情に、私とサっちゃんとユウジは思わず言葉を失う。

いや、ほんとトウカさん絡まないと、ササラさんは…。

どこか寂しさも感じさせる表情の残念美人ことササラさんに、私はふと名案を思いつく。


「ササラさん、今夜私と一緒に寝ませんか?」


「「「!?」」」


私の提案に、ササラさん、サっちゃん、ついでにユウジも目を見開く。


「はえ!?と、突然なんなん!?ササラが、美雪はんと一緒に!?」


「一緒に寝るって、え!?え!?」


「美雪さん!?急にどうした!?」


なぜか慌て始めるササラさんとサっちゃんとユウジに、私はさっき自分が言ったことの意味に気付く。

あー…、そういう意味になるよね…。なるほど…。

自分が口走った言葉の意味に気付いた私は、顔が赤くなるのを感じながら、三人の誤解を解くために説明を始める。


「あ!!そういう意味じゃないです!!愛に聞いたんですけど、私の近くで寝ると、たまに不思議な夢を見ることがあるそうなんです!だから、もしかしたら私の近くで寝れば、ササラさんもシークレットスキルの片鱗を…、いや、セクレト自身にスキルの効果を直接聞くことも可能かも、って思っての、私の近くで一緒に寝ませんかって提案です!!」


「そういう意味かえ…。てっきりササラ、同衾のお誘いかと思うたわ…。びっくりしたで…、美雪はん…。ほんま、びっくりしたで…。」


私の説明に、ササラさんは赤い顔で胸を押さえながら息を整える。しかし、同衾って…。なかなか聞かない古い表現ね…。

ノアが日本から消耗した魂を過去未来現在問わず、この世界に転生させるって言ってたけど、ササラさんは過去から転生してきた人なんだろうな。普段着ている着物もそうだし。

そんなことを考えていたところで、ササラさんは笑顔を浮かべながら、私の先ほどの提案への回答をする。


「美雪はん、ありがたい提案やけど、先に愛はんやトウカはんにしたってや。多分、あん二人は優先せんと怒ってまうからな!」


「確かに…!!簡単に想像がつく…!!ふふっ、そうさせてもらいますね!」


ギャーギャー文句を言う愛とトウカさんを想像しながら、思わず笑ってしまっていたところで、サっちゃんが私のスーツの端をくいくいと引っ張る。


「ちなみにですが、美雪さんのシークレットスキルの効果が、他の人に影響する範囲ってどのくらいなんですか?」


「範囲がどのくらいかー。んー…?今までの経験から、3メートルくらいかな?同じ部屋じゃないとダメなのは確実ね。」


私の説明を聞いたサっちゃんは真面目な表情で、両手を目の前でクロスしてユウジに向ける。


「ユウジさんはダメですからね!!」


「分かってるよ…。だから、そう睨むなって…。」


サっちゃんの普段見ない表情に驚きながらも、私はユウジのシークレットスキルについて考えてみる。

シークレットスキルって、控えめに考えても、異常な力なのは間違い無しよね。

私達のパーティの防御の要になってるユウジに、シークレットスキルの効果まで加わったら、大きな戦力になるのは間違いない。

得られる利益を考えて、導き出した結論を何気なく告げる。


「いや、ユウジのシークレットスキルが必要な状況になるくらい、四の五の言ってられない状況になったら、私はユウジと寝るわよ。」


「美雪はん!!」


「美雪さん!!」


ササラさんとサっちゃんが大きな声で叫びながら、私の頭をスパーンと叩く。

ササラさんに右脳を、サっちゃんに左脳を揺さぶられる。いきなり何をすんのー?と抗議しようとした私の言葉は、真っ赤な顔になったユウジの、俯きながらの言葉によってかき消される。


「俺のシークレットスキルは、俺自身で覚醒させるから…。美雪さんはそんな気を使わなくて大丈夫だから、そんな不用意な発言はしないでくれ…。あと、言い方を気を付けて…。」


ユウジの表情と言葉と、サっちゃんとササラさんの尋常じゃない剣幕で、私のさっきの言葉の意味に気付く。なるほど…。

文句いっぱいって表情のサっちゃんとササラさんに、両手を広げて私は説明をする。


「私への説教は後で受けるから、今は本題のホームの確認を優先しましょう!!」


三者三様の視線を誤魔化すため、私は説教を後回しにして本題のホーム確認を優先させる。

何か言いたそうな三人の背中をぐいぐい押しながら、庭から屋敷の入り口へと移動を促す。


「美雪はん、後でササラと話そうな?」


「私ともです。美雪さんには、ちゃんと貞操観念について説明が必要そうですので。」


誤魔化せなかったー…。

背中をぐいぐい押されながらも、ササラさんとサっちゃんから説教の約束が取り付けられる。

あー、昨日の素材集めについてのトウカさんの説教も後回しにしてるのにー、どんどん説教がたまっていくー…。説教借金地獄だー…。

少し憂鬱な気持ちになりながらも、広い庭から屋敷の玄関を目指す。



「ほな、気を取り直して…、ホーム候補地である屋敷の中を、順に案内していくでー!」


「「「おー!」」」


色々あったけど、なんとか屋敷の入り口に到達した私達は、ササラさんの声に元気に返答をし、屋敷の中の確認に移る。

バーンと入り口の扉を開けたササラさんは、両手を広げて説明を始める。


「ここが玄関や!!」


「玄関からすでに広ーい!!」


「ここがリビングや!!」


「綺麗でひっろーい!絶対にくつろげるー!!」


「ここがキッチンや!!」


「調理器具いっぱーい!!高機能キッチンー!!」


次々とササラさんがホームを紹介してくれ、その度にサっちゃんが歓喜の声を上げる。

私もサっちゃんと同じ感想を抱きながらも、サっちゃんがキラキラした瞳で喜ぶため、へー…思ったよりもすごいじゃん。くらいの表情で強がってみる。

内心、こんな良い物件が私達のパーティのホームに…!?私達じゃ身分不相応だろう…!?と困惑を隠しきれないが、セクレトにもらった絢爛豪華な腕輪は、この豪邸を一括購入できる価値があるらしい。

いや、本当にセクレトには足を向けて眠れない…。セクレトに深い感謝をしながら、ササラさんの案内の続きを聞く。


「三階は各個人の部屋やー!!」


「個人部屋ー!!夢が広がるー!!」


「一階に戻って、ここが男女それぞれの風呂やー!!ダンジョンから持って来た罠が魔石によってフル稼働しとるから、セキュリティもバッチリやでー!!」


「分かれてる上に、セキュリティまでー!!安心ー!!」


「なんで俺を見る!?覗きとかハプニングとか無いからな!?」


「ここが謎のちょっとした空間、屋敷の裏庭ー!!」


「謎のちょっとした空間ー!!わーい!!」


謎のちょっとした空間、というワードにすら、

キッチンのすぐ近くにある裏口から出ると、裏通りに面したちょっとした空間が広がっていた。

表の庭に比べて、かなり狭い裏庭。約3メートル四方のちょっとした空間。

裏庭の使い道を考えていたところで、サっちゃんの希望を思い出す。


「この裏庭には炉を作って、サっちゃんの鍛冶スペース…って思ったけど、サっちゃんの鍛冶をやるスペースとして、裏庭は少し狭いかな?」


「そうですね…。簡易的な炉なら作れそうですが、本格的な炉は難しそうです…。本格的な炉は加熱スペースと空気を送り込むスペース…、それに熱した金属を冷まして成型する場所など、そこそこのスペースが必要ですので…。正直、この裏庭のスペースでは厳しい、というのが本音ですね…。表の庭は充分過ぎる広さがありますが、さすがに冒険者パーティのホームの表の庭に、鍛冶のための大きな炉を作るのも変ですもんね…。」


「なるほど。表の庭も裏庭も無理となると、他に良いスペースあるかなー?サっちゃんの鍛冶をしたいという気持ちは優先したいところなんだけど…。」


「ありがとうございます!でも、そうですねー…。充分なスペースとなるとー…。うーん…。」


「うーん…。」


サっちゃんと一緒に腕を組んで考えていたところで、ササラさんが片手の人差し指を左右に振りながら、得意気に説明を始める。


「そのへんは心配いらへんで。サっちゃんが鍛冶するん場所は、屋敷脇に建てられた蔵を改装して、鍛冶専門の建物を建てる予定や!」


「「鍛冶専門の建物?」」


「そうや!鍛冶専門の建物!!言い換えれば、サっちゃん専用のスペースやけど…、半月もあれば出来るそうやで!美雪はんの絢爛豪華の腕輪を売ったお釣りで、この家の家具全部や、サっちゃんの鍛冶するん場を作ることまでサービスしてもらえるんやで!事故物件でもないのに、このお値段!こんな良い物件、お得に入手できるんは今の内や!他に変なとこ無いかは、昨日のうちにトウカはんと一緒に調査済みや!やから、安心してな!」


私の質問に対しての回答どころか、懸念点まで先回りで答えていくササラさん。

なんとなくだけど、ササラさんからもうここに決めてしまおうって圧が感じられる気がする。

今まで見てきた豪邸の内覧の結果と、これからサっちゃん専用の鍛冶スペースが出来上がる事情を踏まえて、考えてみる。


「で、どないするん?美雪はん?」


「よし!それじゃ、ここを私達平和への旅路(ピースロード)のホームに決めちゃいましょう!」


「「賛成!!」」


「それじゃ、私はササラと一緒に案内所に行って手続きをしてくるから、まだ屋敷の中を見ていない愛ちゃんを案内してやってー。」


パーティのホームを決定したタイミングで、いつの間にか私達の背後に、トウカさんと愛が立っていた。

二人とも体中、細かい草と土まみれで、何回も庭で転がりまわったのが見て取れる。トウカさんに絢爛豪華な腕輪を渡しつつ、泥だらけ草だらけな愛に近寄って汚れを手で払っていると、愛は悔しそうにボソリと呟く。


「まだ今日も勝てなかった…。もうちょっとな気がするけど…、まだダメだった…。」


「いや、全然もうちょっとじゃないからな?愛ちゃんの弱点の、魔法も状態異常攻撃も私は使ってないんだからな。まーぁ、愛ちゃんの良いパンチやキックになってきたけど、まだまだ私の八雲流(やくもりゅう)柔術の敵じゃないねー!!ぷーくすくすくす!!」


「ぐぬぬぬぬぅ…!!」


トウカさんの明らかな挑発に、反撃とか反論とかするかと思ったけど、愛は悔しそうに歯を食いしばって睨むだけだった。

柔よく剛を制す?剛の極みのような愛の攻撃を受け流しちゃう八雲流柔術の存在が気になるところだけど、今はトウカさんに負けて悔し気な愛のフォローの方が大事だな。

愛の頭をポンポンと叩き、なにー?といった感じの表情を浮かべる愛に、私は笑顔で話しかける。


「ホームも無事に手に入れたことだし…、引っ越しが終わって落ち着いたら、王都のダンジョンに挑戦しようか!ダンジョンで経験を積んでレベルを上げて…、ゆくゆくはトウカさんにも勝てるようになるわよ!」


「ダンジョン!?行こう!今すぐ?今すぐだよね?わーい!!」


落ち込みから復活した愛は、元気いっぱい両腕ぶんぶん、どこかに向かって走り出そうとする。

こうなることを予想していた私は、猪突猛進モードの愛の頭をなんとか捕まえて、両のほっぺをつかんだ状態で注意をする。


「こらっ、猪突猛進に走り出すなー…、引っ越しが終わって落ち着いたらって言ったでしょ!ダンジョンは落ち着いた後!!トウカさんとササラさんが戻るまで、一緒にホームの中を確認するわよ!!」


「わはっはー。おっへーおっへー。」


私の睨みと言葉でようやく落ち着いた愛に注意をしながら、サっちゃんとユウジと一緒に、愛にホーム候補の中を案内する。


「うっわー、中やっばー!!きれいでひっろーい!!すっごーい!!」


「そうですよね、愛さん!!広いですよね!?すごいですよね!?」


広くて綺麗なホームに、先ほどのサっちゃんに負けないくらい喜びいっぱいの愛。にっこにこの笑顔でぴょんぴょん跳ねる様子は、見ているこっちが嬉しくなるくらいだ。

無邪気に喜ぶ愛と共に、ホームの三階を確認していたところで、一階からトウカさんの呼び声が聞こえてくる。


「おーい、美雪たちー。案内所との交渉も無事に終わったぞー。晴れて、今日からここは私達パーティのホームになったぞー!!引っ越しだー!!」


「引っ越しー!!」


「各々、荷物をまとめたら集合!!シロ坊たちが帰ってくるのは夕方くらいだろうから、今の内に引っ越しして、夜に開催するホーム入手祝いの準備をしようぜー!!」


「「おー!!」」


「数日前もパーティ結成祝いをしたような…?祝いすぎじゃないですか?」


「めでたかったら、祝うもんだ!!頻度なんて関係ねぇ!!それじゃ、解散!!」


私の疑問はトウカさんの声にかき消され、各々引っ越しの準備に移る。私と愛と、ついでのユウジは滞在している宿屋金字塔へ移動する。


置かせてもらっていた荷物を、マグカへと収納していく。引っ越しと言ったら、業者を呼んで荷作り運搬、車に揺られて数時間、そして荷解きで数日簡単に潰れてしまうが、マグカを使っての引っ越しなら簡単に収納と運搬が出来てしまう。

10分もせずに荷作りを完了したところで、宿屋金字塔の看板娘であるラクレさんとレトチさん姉妹が私達の部屋を訪れる。


「美雪ちゃん達も巣立っていっちゃうのー!?ポン…、ササラやトウカさんと一緒にパーティを組んだのってまだ数日前じゃん!?もうホーム!?寂しくなるよー!!ポン…、他の仲間と一緒に、たまには立ち寄ってねー!!夜ご飯を食べにくるとか、なんでも良いからさー!!」


「私もお菓子を作って待ってる…。ポン…、ササラやトウカと一緒に、いつでも食べに来て…。」


ぽん?

何度が聞こえてくる謎の単語に疑問を感じながらも、ぎゅうっと抱きついてくるラクレさんとレトチさんの背中に手を回す。


「ありがとうございます。ラクレさん、レトチさん。」


「…ポン、ササラやトウカのことをよろしく…。私達、美雪の…平和への旅路(ピースロード)の活躍を祈ってる…!!ポン…、みんなの門出を祝って、特製の料理を作ったから、持っていってね…!!」


「…ポン…、ササラのことをよろしく…。今日は、ポン…、みんなで食べるために差し入れのお菓子を作ったから、持っていって…。」


ところどころポンって単語が入ってくるせいで、話が入ってこない。え?差し入れのお菓子って、ポン菓子のこと?と誤解するレベル。

ラクレさんとレトチさんに聞いた話では、トウカさんとササラさんも昔は宿屋金字塔のお世話になっていたらしい。そのため、私達がトウカさんやササラさんと一緒にパーティを組んだことは、感動も一押しのようだ。


名残惜しい気持ちに後ろ髪を引かれながらも、ラクレさんとレトチさんと別れ、宿屋金字塔を後にする。

本当にお世話になりました。

私達は新しいホームで、冒険者として実力をつけて…、この世界に平和をもたらしてみせます。

名残惜しそうに大きく両手を振るラクレさんとレトチさんを背後に、私は決意を固め新しい生活に向けて一歩目を踏み出す。

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