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魔王退治は要件定義から!  作者: 荒井清次
王都滞在編 -新しい仲間と共に王都での生活基盤を整え強くなる-
100/150

二日酔いに負けず新しい武器と防具の性能を試す③

前回のあらすじ:ミスリルゴーレムが召喚するウィンドワイバーンを、MPを回復しながら召喚されては倒す、という効率的な狩りを調子に乗って行っていたところ、新たなフィールドボスモンスター、ウィンドドラゴを呼び寄せてしまう。


天高く頭を向け、討ち取られた仲間の仇を取らんと、クロロロロロと鳴き声を上げるウィンドドラゴ。怒り狂う翼の生えた蛇のようなウィンドドラゴを見上げながら、私は臨戦態勢の(あい)に指示を出す。


「ウィンドドラゴの牙の毒と風属性攻撃のブレス攻撃は、状態異常耐性と魔法防御が低い愛にとって致命傷になるから、愛は回避を中心に弐の型で反撃を狙って!!」


「オッケー!!」


強い敵には正面から堂々と殴り合いたい愛だが、今日は我慢して私の言葉に素直に了承をしてくれる。感謝をしながら、ユウジに指示を出す。


「ユウジは神盾(しんたて)アイギスで愛をフォローしながら、突進攻撃を警戒!!いくらユウジでも、あの巨体での突進攻撃は防げないから、無理して止めようとしないこと!!」


「分かった!!」


神盾アイギスを構えながら、ユウジは大声で私の声に頷く。


「サっちゃんはポーションの残りを教えて!!」


「HP回復ポーションが残り11!!MP回復ポーションが残り6です!!」


「了解!!鷹目(たかめ)眼鏡(がんきょう)をサっちゃんに貸すから、離れた安全なところから全体を警戒しながら、回復ポーションを使って!!MP回復ポーションはユウジ優先で!!私はウィンドドラゴのブレスを風食魔(ふうじきま)の籠手で吸収してMPにするから、MP回復ポーションは不要!!ゴーちゃんは不足な事態に、いつでも動かせるように待機!!」


「分かりました!!」


サっちゃんに鷹目の眼鏡を渡し、私はマグカからいつもの眼鏡を取り出して装備する。視界が狭まった感覚を、両目を開いて閉じたりして慣らしながら、周囲に対してスキル気配感知を使う。

幸いなことに、ウィンドドラゴ以外にモンスターの気配は無い。イレギュラーなフィールドボスモンスターだが、他モンスターが出現しなくなる、というフィールドボスモンスターの特徴は変わらないようだ。

安心をしながら、サっちゃんへの指示を続ける。


「ポーションの残りが少ないから、耐久戦は出来ない!!だから、攻撃主体でいくけれど、焦って攻撃のタイミングを誤って致命傷をもらわないように!!各自、お互いをフォローしながら警戒して戦うこと!!勝つわよ!!」


「「りょーかい!!」」


「分かりました!!」


私の指示に、愛とユウジとサっちゃんの声が重なる。

よし、準備万端!と思ったところで、土煙を上げながら、クロロロロロと鳴き声を上げたウィンドドラゴが、私に向かって突進攻撃をしかけてくる。


「おいこら、私を無視するな!!」


「美雪さん、危な…、スキル挑発!!」


声を荒げる愛とユウジを気に留めることなく、ウィンドドラゴは私に向かって真っ直ぐ突進攻撃を繰り出してくる。


「まぁ、やっぱり標的は私よね。あんなにあなたの仲間を倒したんだもの。でも、残念ながら想定済み。ウィンドムーブ!!」


転生前の世界での自動車を思わせるようなウィンドドラゴの突進攻撃に、私はギリギリのところで風属性の移動魔法であるウィンドムーブを使って上空に避ける。


「回避からの、ロケットアロー!!」


攻撃を避けるだけでなく、追撃として私のオリジナル武技ロケットアローを放つ。

魔力をのせて放った矢は、爆発による推進力も得てウィンドドラゴへと迫る。しかし、私のロケットアローは、チュイーンと甲高い音を響かせ、空の彼方へと消えてしまう。


「美雪さん!!ドラゴン系のモンスターの硬い竜鱗は、ちょっとやそっとの攻撃じゃダメージを与えることが出来ません!!」


私のロケットアローがちょっとやそっとの攻撃か…。サっちゃんの無慈悲な解説を聞きながら、ウィンドドラゴを確認すると、私に向けて突進攻撃を繰り出していた。


「ウィンドムーブ!!」


なんとか避けられたけど、想定よりも速い…。続け様に繰り出される驚異的なスピードのウィンドドラゴの突進攻撃に驚きながらも、ウィンドムーブで回避に集中する。

突進攻撃をウィンドムーブで避けながら、ボムアローで攻撃する私の耳に、ひゅるるると逆巻く風切り音が聞こえてくる。え?と思ったところで、風食魔の籠手が風属性攻撃をMPに変換するのを感じる。

まさか…?と思った時には遅かった。声を上げようとしたところで、私の耳に愛の大きな声が届く。


「美雪にばっかり攻撃してんじゃねぇ!!私を無視するな!!鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 参の型!!竜胆(りんどう)!!」


「愛、ストッ…」


ウィンドドラゴへ鋭い蹴りを繰り出す愛に、危機感を感じた私は声を張り上げようとする。しかし、私の声はウィンドドラゴの放つ風切り音でかき消えてしまう。

ウィンドドラゴに鋭い蹴りを放とうとした愛に、かまいたちのような鋭い斬撃の風が幾重にもなって襲い掛かる。

逆巻く風によって全身を切り裂かれ、大きく吹き飛んだ愛だが、鬼火の戦意は少しも衰えず、ググっと力をこめて立ち上がろうとする。

しかし、ウィンドドラゴの反撃は想像以上に愛のHPを削り取った。全身から血しぶきを上げた愛は、その場に倒れて動かなくなる。


突然の愛の負傷に、私は自分の考えが甘かったことを悟る。

昨日見た夢で、私は魔王と対峙するまでは愛の無事は保証されるとどこか安心していたのかもしれない。

シークレットスキルを司るセクレトが、魔王と対峙した末に私が愛を射殺すことは、数ある分岐未来の中のひとつ、と言っていたため、悲劇の未来を変えることにばかり気を取られていたが、その考えが甘かった。

数ある分岐未来の中のひとつに、魔王と対峙する前に私達が殺される未来があってもおかしくない。

そのことに気付いたのは、実際に目の前で悲劇が起こってからだった。

目の前で起きてから、事の重大さに気付かされるなんて…、私は大馬鹿ものか!!

後悔と自責の念が押し寄せてくる中、私の鬱屈した思いをかき消すかのような大声が、私の耳に届く。


「美雪さん、危ない!!」


思考が停止し、目を閉じてその場に固まることしか出来なかった私の耳に、大きな怒声が届く。

怒声に対して疑問を感じる間も無く、ウィンドドラゴの牙と何かがぶつかり合う金属音が聞こえてくる。


「今の音は…?」


突然の轟音に目を開くと、大きく口を上げるウィンドドラゴの前に、神盾アイギスを構えるユウジが立っていた。視界に収まらないくらいのユウジの大きく頼りになる背中は、呆けた私に向かって突進攻撃をしてくるウィンドドラゴの突進攻撃を、手に持つ神盾アイギスで難なく受け止めている。

ウィンドドラゴの周囲を渦巻く風によって、ユウジも頬と肩など盾と防具で防ぎ切れない部分を切り裂かれているが、少しも留めることなく、ユウジは私に大声を上げる。


「美雪さん、しっかりしてくれ!!光の粒になってないってことは、愛はまだ愛は死んじゃいねぇ!!しっかりしてくれ!!」


ユウジの大声にハッとし、愛が切り裂かれて倒れた場所を確認すると、そこにはサっちゃんが立っていた。サっちゃんは傷だらけの愛を優しく抱き上げ、片手に持ったポーションを愛の口へと押し付けている。

ゆっくりながらも、愛の全身をポーション特有の赤い光が包みこむことを確認したサっちゃんは、普段は出さないような大声を上げる。


「美雪さん!!愛さんは深手を負っていますが、ポーションで回復可能な怪我です!!私が治療をしますから、ウィンドドラゴの討伐に専念してください!!」


全身を切り裂かれながらも、目の前でウィンドドラゴの突進攻撃を防御するユウジ。

自分の身を顧みず、ウィンドドラゴの攻撃範囲に入りながらも、愛の回復を優先するサっちゃん。


おい、私。なに、呆けてやがるんだ。二人がすぐに自分のやるべきことを理解して動いてるってのに、お前はアホみたいな顔をひっ下げて、つっ立ってるだけか!?お前が私利私欲のために、この危機を生んだったのに、お前はボーっと間抜けに口を開けて突っ立ってるだけか!?良いご身分だな、美雪さんよぉ!?

自分を戒める自分自身の言葉に対し、うるせぇ、私はまだ終わっちゃいねぇよ。と悪態を吐きながら、仲間からもらった力で、自分を奮い立たせる。

愛は大ダメージを食らったけど、サっちゃんが回復をしてくれてる。私が呆けてた間のウィンドドラゴの攻撃は、ユウジが盾で防いでくれてる。

それじゃ、私が攻撃に回れば、自然と優勢に回れるじゃないか。何も悲観することは無いじゃないか。

目の前の状況を冷静に分析しながら、私はゆっくりと立ち上がる。


「ユウジ、サっちゃん、ありがとう。」


目の前でウィンドドラゴの突進攻撃を必死に防ぐユウジと、額に汗を浮かべながら傷だらけの愛にポーションを使うサっちゃんへ感謝の気持ちを伝える。


「どういたし、ま…!?」


私のお礼に返答しようとしたユウジの表情が、凍り付く。まるで、何か怖い物を見たかのような表情。

一体、どうした?と疑問に感じつつも、ユウジのことは一旦無視し、目の前の敵に集中する。


「ウィンドドラゴ…。お前、私の大事な愛に、何をしてくれてんだ?あ?」


愛が大ダメージを負ったのは、そもそも私が効率的な素材と経験値集めをしたのが原因、というのは棚に上げ、ウィンドドラゴへの怒りの力を魔力に変え、魔法の詠唱を始める。


「渦巻け、逆巻け、吹き荒べ!!荒れ狂う我が怒りのごとく吹き荒ぶ風よ!我が呼び声に応じて、弾けて、炸裂して、ぶち殺せ!!ウィンドボム!!ウィンドボム!!ウィンドボム!!」


ユウジが盾で防ぐウィンドドラゴの大きく開けた口の中へ、風属性魔法と爆発魔法を合わせた混合魔法、ウィンドボムを放つ。

ボボボンッという爆発音の後、全てを切り裂かんとする爆風がウィンドドラゴの口の中で吹き荒ぶ。

荒れ狂う風によって、ウィンドドラゴの口の端々が切り裂かれ、緑色の血を周囲にまき散らす。


ウィンドドラゴのHPが六割程度まで減るのをマグカで確認するが、ウィンドドラゴはまだまだ止まらない。

ギョロリと大きな目を私に向けながら、ユウジの盾を砕かんと何度も噛みつき攻撃を繰り出す。

神盾アイギスじゃなかったら、この攻撃を防げただろうか。セクレトにもらった盾に感謝をしながら、目の前で鋭い牙を剥き出しにするウィンドドラゴを睨む。


ユウジが盾で受け止めるウィンドドラゴの蛇によく似た大きな二本の牙からは、紫色の液体がポタポタと滴り落ちている。

この液体は…?という私の疑問に答えるように、謎の紫の液体が触れた地面は、しゅわしゅわと音を立てながら溶けていく。サっちゃんがウィンドドラゴの牙には毒があると言っていたが、毒性だけでなく強力な酸性の性質も持っているようだ。

恐ろしい酸性の毒液に怯んでいた私に、ユウジの大きな声が聞こえてくる。


「俺も負けてらんねぇ!!シールドバッシュ!!」


突然の怒声に驚く私を無視して、ユウジは盾での防御から攻撃に移る際に使われる武技シールドバッシュを使う。自分の左下へとウィンドドラゴの牙を弾いたユウジは、右手に持つデュランダルを大きく上に持ち上げる。


「危険な毒を持つ牙はこいつか!!こんなもん、ぶった切ってやる!!」


巻き散る毒液によって頬を焦がすことも厭わないほど激昂したユウジは、力任せに片手に持ったデュランダルをウィンドドラゴの牙に向けて勢いよく振り下ろす。

先ほど盾とぶつかった時に金属音を上げた硬度のウィンドドラゴの牙だが、ユウジの持つ神話級の大剣デュランダルによって、難なく切り落とされる。

ユウジが切り落とし牙を毒を注意しながら拾ってみると、鉄のように硬い。こんな硬度の牙を易々と両断するなんて…。私は感嘆の溜息を吐く。

さすが神話級の大剣デュランダルと思ったが、ユウジの迷いの無い太刀筋も見事だから切り落とすことが出来たのだろう。


「このまま、その長い首を切り落としてやるよ!!」


感嘆する私を気にすることも無く、牙を切り落としただけで満足できない様子のユウジは、もう一度デュランダルを持ち上げる。追撃とばかりに、牙を切り落とされてもがくウィンドドラゴの頭へと振り下ろそうとする。

しかし、ユウジの大剣はウィンドドラゴの頭を捉えることなく、風切り音を残して空を切る。

ユウジのデュランダルでの一撃を避けたウィンドドラゴの頭は、天に向かって高く持ち上げられていた。


「まさか、このまま頭を打ちおろして私達を潰そうっていうの!?」


「単純な質量での攻撃か!!美雪さん、俺の後ろに!!絶対に守る!!」


空に向かって上がるウィンドドラゴの頭は、時計で言う0時の高さすらも超える。

そそくさと盾を構えるユウジの背中に隠れ、ウィンドドラゴの頭を振り下ろす攻撃に備える。

…備えたが、いつまでたってもウィンドドラゴの攻撃は来ない。


あれ?おかしいぞ?いつまで経っても振り下ろし攻撃が来ない?

なんとなく、ウィンドドラゴの意志で持ち上げられている攻撃じゃないような…?


「愛さん!?まだ回復が終わってないのに…!!あぁ…!!」


慌てるサっちゃんの声に、私の血の気が引くのを感じる。え、まさか…?


「お前の風の反撃は、さっき受けて克服済みだ!!私の剛に同じ攻撃は通じねぇ!!鬼火流剛術(おにびりゅうごうじゅつ) 壱の型!!凌霄花(のうぜんかずら)!!」


突然聞こえてきた声のする方を確認すると、先ほどまで血まみれで倒れていた愛が、両足で力強く立っていた。ニヤリと笑った愛は、ウィンドドラゴの長い尻尾を両腕で抱え、柔道の一本背負いのような豪快な投げ技を繰り出す。

ウィンドドラゴから発生する、反撃の逆巻く風で愛の体が切り裂かれるが、彼女は少しも気にしていない。全身を切り裂かれ、血を噴き出しながらも、愛はウィンドドラゴの頭を硬い地面へと力強く豪快に打ち付ける。


地面が割れるような轟音が周囲に鳴り響き、ウィンドドラゴのHPが大きく減る。

ぐったりと力を失い、動かなくなるウィンドドラゴを横目に、私は愛へと駆け寄る。

全身血まみれで、ふーっと息を吐きながら空手の残心のようなポーズをしていた愛は、駆け寄る私に気付き、笑顔で片手を上げる。

おそらくハイタッチを求めているのだろう。全身血まみれで、どこか得意気に笑顔を浮かべるながら、私のことを待っている。そんな愛のおでこに、私はビシッとチョップをする。


「痛いっ!?」


「全身ボロボロじゃん!!さっき吹き飛んだばっかりじゃん!!すぐに無茶するのやめなさい!!サっちゃん!!HP回復ポーション!!」


私の声に応えるように、愛の頭にHP回復ポーションが飛んでくる。パリンと瓶が割れた音が響き、愛の体が赤い光に包まれる。


「でも、見てよ!羽の蛇に大ダメージだよ?」


「こっちも大ダメージ食らってたら、意味ないでしょ!!自分のダメージは少なく、相手にだけダメージを与えるようにしなさい!!」


「どうやって?」


「どうにかしてよ!!」


「指示が雑!!」


「美雪さん!!愛との言い合いは後にしてくれ!!ウィンドドラゴはまだ倒せてない!!追い打ちをかけるぞ!!」


慌てたユウジの声で、私は正気に戻る。

ウィンドドラゴを確認すると、頭をググっと持ち上げようとしているところだった。


「私の奥義を受けても、立ち上がろうとするなんて、大した奴だ!!トドメを刺してやる!!」


「ゴーちゃん。愛が無理をしないように、押さえておいて。」


「なんで!?」


マグカでウィンドドラゴのHPを確認すると、残り二割ほど。これなら、負傷を顧みずに無理をしがちな愛抜きでも、トドメを刺すことが出来るだろう。

そんなわけで、負傷した愛には大人しくしておいてもらうことにする。


「美雪さん、私のゴーちゃんは召喚主である私が指示を出さないと動か…な?」


私の声に応じたゴーちゃんは、愛の両肩をグッと掴む。そんな掴み方じゃ愛は止まらない、と思った私の気持ちに気付いたのか、ゴーちゃんは愛の両肩を掴んだまま地面にズボッと埋まる。


「なんだこれ!?首から下を地面に埋められた!!頭しか動かない!!これじゃ、さすがの私も動けない!!なにすんだー!?」


愛は頭だけを地面から生やした状態になる。

土で作られたゴーちゃんだからこそ出来る拘束術。愛は頭を左右に振りながら、ワーワーと文句を言うことしか出来ない。

これなら、さすがの愛でも動くことが出来ず、無茶な戦いが出来ないだろう。

しかも、ゴーちゃんは愛の行動を防ぐだけでなく、愛の前にあぐらみたいに座って両腕を広げる。

これは、まさか防御の構え!?ゴーちゃん、その身を犠牲にしても、愛を守ろうって言うの!?

拘束だけじゃなく、防御も出来るなんて…!!ゴーちゃんのナイスな拘束術に、私が親指を立てると、ゴーちゃんも満足気に頷く。ゴーちゃんと意思疎通が取れて満足をしたところで、サっちゃんに向き直る。


「サっちゃん、さっき何か言おうとした?」


「いえ…、何でもありません…。」


ゴーちゃん…と呟くサっちゃんに首を傾げながら、私はウィンドドラゴにトドメを刺すために、マグカを操作しながら、ユウジとサっちゃんに声をかける。


「ユウジはいつでも防御に回れるように、反撃に警戒をしながらデュランダルで攻撃!!ポーションが少ないから、大ダメージは受けないようにね!!サっちゃんはユウジのHPの減りを気にかけながら、ゴーちゃんで攻撃!!私はトドメを刺すため、新しい魔法を取得する!!」


「りょーかい!!」


「分かりました!!」


「私も戦わせろー!!」


三者三様の声を頷きながら、私はマグカを操作する。レベル35の時のスキル取得ポイントを使って、私は氷魔法を取得する。

爬虫類系のモンスターは、体温を下げることで動きが鈍くなる。見るからに蛇のウィンドドラゴには、氷魔法は効果抜群だろう。

温度操作魔法でもウィンドドラゴの体温は下げられるだろうが、温度操作魔法には少し使いづらい部分がある。温度操作魔法は火魔法と氷魔法を同時に使うため、繊細な魔法操作が求められる上に、消費MPが大きい。そのための氷魔法の取得だ。


「ミユキは氷魔法アイスストーン、アイスブラスト、アイスウォールを取得しました。爆発魔法と複合してアイスボムも取得しました。」


氷魔法の取得と同時、氷魔法の基本魔法をいくつか覚える。

氷の塊をぶつけたり、氷の粒を複数放ったり、氷の壁を作ったり、氷のとげを周囲にまき散らしたりする魔法ねー…。なるほどー。

いや、せっかくの氷魔法なんだから、もっと相手の音頭を下げて凍らせるとかに重みを置こうよ…。

この魔法じゃ、うまく相手の体温を下げることが出来ないでしょ?これじゃ、他の魔法と変わらないわよ?という私の疑問に答えるように、魔法取得の機械音声が頭の中で響く。


「風魔法と結合してアイスウィンドを取得しました。氷魔法の取得により、生活魔法クーラーの威力が上がりました。」


生活魔法クーラー?なんだっけ、それ?昔の記憶を呼び返してみる。


「美雪ー。この冷たい風が出る魔法、風呂上がりの火照った体に最高だね!!クーラーって言うの?便利な魔法だね!!」


愛の呆けた声と共に、私は生活魔法クーラーについて思い出す。

あー、そういえば異世界に転生して早々、宿屋銀字塔に初めて泊った時に取得したな。そんな魔法。

でも、あれって、涼しい風が出る魔法よね?それが強化されたってこと?って、そういうことねー。なるほど。

あの頃は魔法がよく分かってなかったから、涼しい風が出る程度だったけど、風魔法への理解を深め、氷魔法を取得した私なら、もっと攻撃に特化することが出来るわけだ。

私は進化した生活魔法クーラーを使って、冷風をウィンドドラゴの周辺に循環するように渦巻かせてみる。


ユウジの追撃と私の冷風攻撃を受けていたウィンドドラゴが、体から赤いオーラを浮かべながら立ち上がろうとする。しかし、ウィンドドラゴは体中からギシギシと音が聞こえそうな程、動きが鈍い。


「ちゃんと氷魔法が効いてる!!相手がスキル背水で強化してるけど、これならいける!!ユウジ、サっちゃん、ゴーちゃん!!いくわよ!!」


私の問いかけに、ユウジが大きな声で応えるかと思ったが、予想を反して非難めいた悲鳴が聞こえてくる。


「寒いっ!!急に寒い!!美雪さん、何した!?」


「上は大吹雪、下はほんのり暖かい地面。これなーんだ?」


「上は洪水、下は大火事なら、よくあるなぞなぞですけど…。って、そんなこと言ってる場合じゃないですね!!さっきまであんなに快晴だったのに、なんで急に吹雪になったのでしょう!?」


三人の疑問の視線が私に突き刺さる。私はそっと三人を魔法の範囲から外そうとするが、吹き荒ぶ冷風はどんなに遠ざけても、少しは吹き込んできてしまう。

寒さに震える三人に申し訳なく感じながら、私は冷風の説明をする。


「そんなわけで、私はウィンドドラゴの体温を下げて動きを鈍くしようってわけ。」


「ここここの寒さは、みみみ美雪さんが原因ってのは、わわわ分かったけどよ…。さささ寒い…。さささ寒すぎる…。」


寒さで口が回らないのか、壊れたオーディオ機器のようになったユウジに、首だけ地面に埋まった愛が、得意気に話し始める。


「ユウジは、やっぱり軟弱だなー!こんな、寒さ…、くしゅ…、鬼火流剛術の熱さにとっては、くしゅ…、こんな軟弱な寒さごときには、くしゅ…、ま、負けないぞー!!いっくしゅん!!くしゅん…!!あー…、眠くなってきたー…。」


「寝ないでください、愛さん!!寝たら死んでしまいますよ!!」


私の進化クーラーは、敵であるウィンドドラゴだけでなく、味方の愛とユウジとサっちゃんも凍えさせる程だった。

吹雪で遭難したような状況を思わせる仲間達に、私は溜息を吐く。


「このままじゃ元も子も無いわね…。」


クーラーと一緒に覚えた生活魔法ヒーターを使って三人を温めながら、余った冷気を集中させていく。しかし、この冷気をどうしよう、という疑問に答えるように、頭の中に機械音声が響く。


「生活魔法クーラーは、氷魔法と風魔法の派生魔法ブリザードへと進化しました。」


ブリザード?疑問を感じながら、私はなんとなくそれっぽい詠唱を考えながら、冷気と魔力を集中し、ブリザードを発動してみる。


「風の精霊、氷の精霊。互いに手を取り、吹き荒ぶ吹雪を生み出し、我が敵を凍らせ、凍てつくせ!!ブリザード!!」


私のMPが大きく減るのを感じながら、ウィンドドラゴの周囲に氷の粒がキラキラと光る嵐が発生する。

始まりの草原でバッタの群れを倒す時に使った、炎氷双嵐(アイスフィアストーム)の片方の氷の嵐によく似た嵐は、赤いオーラを身に纏い、クロロロロロと鳴き声を上げて冷風に耐えていたウィンドドラゴを包みこむ。


「さ、寒い…。ユウジ、温かいお茶とか無い…?」


「愛、マグカなら温度そのままに温かいお茶もしまっておけるんだぞ…。って、温かいお茶が、あっという間にキンキンに冷えちまった…。悪いな、愛…。お茶のアイスしか無いや…。」


「そんな雪山で遭難したみたいな雰囲気出さないでください…。お茶が一瞬で凍り付くくらいの寒さですが…、私が火魔法で温めますから…、気持ちを強く持ってください…。」


ブリザードが放つ凍てつく冷気が私達にまで届く中、ウィンドドラゴの鳴き声が止まる。

冷気の嵐がかき消えると、そこには凍り付いたウィンドドラゴが物言わぬ氷像へと変わっていた。

カチコチのウィンドドラゴの氷像を目の前に、私は仲間の一人に声をかける。


「ゴーちゃん、愛の拘束を解いてあげて。」


「え?良いの?」


ズボッという音と共に、愛が地面から解き放たれる。

自由を取り戻した愛は、首をぐるぐる回しながら、ボキボキと全身の骨を鳴らす。

暴れたがりの愛からしたら、地面に埋まった状態はかなり窮屈だっただろう。心の中で、ごめんねと謝りながら、愛に声をかける。


「愛!!トドメよ!!」


「よっしゃー!待ってましたー!!鬼火流剛術 壱の型!!牡丹(ぼたん)!!」


ウィンドドラゴの氷像に、愛の豪快な正拳突きが突き刺さる。

ぴしぴしと細かいヒビが入ったウィンドドラゴの氷像は、シッ!!という愛の残心と共に、細かい氷の粒へとなって砕け散る。

さすがのウィンドドラゴでも、これはさすがに倒せただろう。マグカを確認すると、ウィンドドラゴのHPゲージはゼロになっていた。

体から放たれるかまいたちのような風によって、何度も私達を苦しめたウィンドドラゴの討伐成功に、場の雰囲気が和らぐのを感じる。

ほっと一息吐いたところで、愛の元気な声が聞こえてくる。


「美雪!ん!」


「ん。」


愛の伸ばしてきた右手に、私も右手を伸ばしてハイタッチで応える。

危ないところもいっぱいあったウィンドドラゴとの戦闘。反省点はいっぱいだが、後で考えることにし、今は勝利の余韻を楽しむことにする。


「きれい…。」


思わずこぼれたって感じの小さな呟きのした方を確認すると、氷の粒に負けないくらい、キラキラと目を輝かせたサっちゃんが立ち尽くしていた。

サっちゃんが思わず呟いてしまうのも分かる。

キラキラと空中を漂る細かい氷の粒が、光の粒へと変わる幻想的な光景は、今まで見た景色の中で五本指に入る綺麗さであった。

しばしの間、私も幻想的な光景に見とれていたが、ふっと緊張の糸が切れたのか、サっちゃんはその場にペタリと座り込む。


「はは…、ミスリルゴーレムだけじゃなく…、本当にウィンドドラゴを倒してしまいましたよ…。」


レベル40に上がった機械音声が頭の中に響くが、今はそんなことどうでも良くなってくる。

強敵を倒した満足感と共に、私は仲間とキラキラ光る氷の粒をしばらく眺めるのだった。


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