第7話 アステリス観光
今回から漢字をひらがなに直すのはセリフ部分だけにして書こうと思います。
アステリス内に入ると、馬車はまっすぐにミュルゲ家の屋敷に向かった。ここで『アルノーさんの友だち』と会い、お昼を食べに行くらしい。
アルノーさん達は直接王宮に行くということなので、夜までお別れだ。
馬車に乗っていただけだけど、お腹が空いた。
早くご飯を食べたいな。
「よーし、敷地に入ったぞ!」
御者をしている恐い顔のおじさんが嬉しそうに言う。その言葉の通り、もうすぐ到着だ。
やっとご飯だ!
「おっちゃん、腹減った! 早く食べに行こうぜ!」
「あたしもー! もうお腹ペコペコだよー」
デニスもネリーも同じことを考えていたみたい。馬車では何も食べなかったもんね。エレニはパズルをしてて酔っちゃったし、途中からカラは寝ていた。前の二人は疲れたのかため息をつくだけだから静かだ。
……カイさん、半日の間ずっとカラを膝に乗せてて、大丈夫だったのかな? 一応、途中で休憩時間はあったけど、カラが寝てからは座りっぱなしだったよね……?
「はしたねぇぞ、お前ら! 田舎者だと思われちまうだろうが! ちったぁカイを見習って静かにしてろ!」
「おっちゃんの方が田舎っぽいよ! 仕方ないだろ、腹減ったんだから。なあ、カイも早く食いた……」
おじさんが前を向いたまま怒ると、すかさずデニスが言い返す。でも、その言葉は途中で途切れた。後ろを向いたところで言葉を止めたってことは……
「すいません、テオドールさん。早く……馬車を停めてください……」
弱々しい声はカイさんのものだ。大丈夫……じゃないよね。
恐い顔のおじさん──テオドールさんというみたいだ──は慌てて道の端に馬車を停めた。ぼく達も急いで降りて、後ろのカイさんが降りられるようにする。おばさんがカラを受け取ると、カイさんはゆっくりと立ち上がって……座り込んだ。
「まだ立てそうにないです……」
顔色が悪いし、けっこう汗をかいてるみたい。カイさん、すごく具合が悪そうだ。
「とりあえず、足を伸ばして座ってな。水をもらって来るから」
そう言っておばさんが屋敷へ走っていく。
カイさんの青白い顔を見ていると不安がむくむくと膨らんで、ぼくの心を占拠する。
それは皆も同じようで、心配そうにカイさんを見ている。
「カイ、大丈夫かな……」
「水分を摂って横になれば直ぐに良くなるよ」
「っ!?」
不安になってデニスが呟いた声への返事についびっくりしてしまった。その声が知り合いの声とそっくりだから。
デニスを安心させるように言う声に、自然と体が緊張する。この深くて艶のある声はまさか──
いや、ありえない。あの人は今、王宮にいるはずだ。
「エレニ、この子が新しく来たっていう子だね?」
「そうだよ! オノマって言うんだ!」
エレニの弾んだ声がきこえる。馬車酔いから回復したらしい。じゃあ、後ろにいる人が『アルノーさんの友だち』か。
よりによってあの人と似た声なんて、ムカ様は意地悪だな。ぼくをびっくりさせたいの?
……もし、本当にあの人だったらどうしよう。ぼくにアルノーさんを殺せって言いに来たに違いない。
でも、ぼくは殺したくない。
「こんにちは。えっと……オノマ、君?」
振り返らなきゃ。振り返って、にっこり笑って、元気な声で「こんにちは!」って言わなきゃ。
そう思うのに、ぼくの体は金縛りにあったように動かない。
「オノマ君」
優しげな声とともに、肩にポン、と手を置かれる。
それだけ。それだけなのに、ぼくの肩はびくりと跳ね、胸の辺りがドキドキ言っている。
確かめなくては。
恐る恐る後ろを振り向くと──
「ポニリア、さん……」
「よろしくね、オノマ君」
掠れた声で呟いた名前は、被せるように放たれた言葉に消された。
そこには、今一番会いたくない人が立っていた。
*
あの後、ぼく達はお昼を食べに美味しいけどお客さんが少ないという食堂に来ていた。
ぼくの呟きはポニリアさんにしか聴こえていなかったようで、「きしさまがいると思わなくてびっくりした」という言い訳で誤魔化した。
ポニリアさんが正に騎士、という格好をしてくれていて良かった。本人が言うには、見回り後の空き時間らしい。
ああ、でもそんなこと、今のぼくにはどうでもいい。
予約したという大テーブルに皆で座ろうとしたら二席足りなくて、ぼくとポニリアさんだけ少し離れたテーブルで向かい合わせになっているんだから。ポニリアさんとぼくが増えたから足りなくなったということで、ぼく達だけ別のテーブルに座ることになったんだ。
因みに、カイさんは「皆といた方が早く治る」と言って無理矢理着いてきた。皆で止めようとしたけど、直ぐに歩けるまでに回復したし、普段我が儘なんて言わないカイさんの言うことだからと、一緒に行くことになったんだ。皆、カイさんらしくないと不思議がっていたっけ。さっきも、ぼく達が初対面で二人きりだと気まずいだろうと言って最後までこの席割りに反対していたのはカイさんだった。
頼んだ料理が運ばれて来て、それぞれ食べ始める。ぼくも何か食べなきゃ怪しまれるよね……。さっきまでお腹がペコペコだったけど、今は違う。何か食べたら吐いちゃいそうだ。昨日の気持ち悪さを思い出して、なんとなくキャベツの酢の物に伸ばした手を引っ込める。
「食べないのかい? オノマ君」
「うん。すっぱいものはきらいなんだ」
「そうだったのか。知らなかったよ」
「オレとポニリアさんが会うのは初めてだもん」
オレと、を強く言ってみたけど、ぼくがいつまでオノマでいられるのか分からない。
ポニリアさんが然り気無く周りを確認する。ああ、もう終わりか。短かったな。
「ところでレイ君。これはどういうことかな? 私は君と昼食を取る予定ではなかったのだが」
「……」
ポニリアさんの親指が人差し指を擦る。あれはポニリアさんがイライラしている時の癖だ。落ち着きなく座っているし、かなり怒ってるんだろう。
ポニリアさんから王に失敗の話が伝わってリリの従者を降ろされたらどうしよう? ぼくはどこで何をすればいい?
とっても、とっても恐い。……でも、だからといってアルノーさんを殺そうと思うわけじゃない。
「黙っていては何も伝わらないと知らないのかな?」
「……ポニリアさんは、アルノーさんの友だちなんですよね? なんでそんなに……? アルノーさんはあんなにいい人で、ポニリアさんのことを信用して──」
「君は」
ぼくの反論はポニリアさんの低い声に遮られる。
「勘違いしているようだね」
「かんちがい……?」
「そうだ。アルノーの死を望んでいるのは私ではない。陛下なんだよ。友人を殺したいなど、そんなこと有り得ない」
ポニリアさんは怒った顔で言った。必死に声を抑えているのか、息が混じって掠れている。
今言ったことが本当なら……ぼくはとんでもなく失礼なことを言ってしまった。ポニリアさんだって辛いはずなのに。
「すいません、ポニリアさん」
「良いんだよ。私だって君と同じ立場だったらそう考えただろうからね。彼はこれ以上ない善い友人だ」
今度は優しい声で言う。聞いていると心が落ち着くような、深みのある声だ。なんだか穏やかな気持ちだ。
しばらくの間、黙って料理を食べる。……ここのキャベツの酢の物は甘めの味付けだった。
「……君、酢の物も食べられるじゃないか。こほん。レイ君、アルノーを助けるために何か良い案を思い付いたら会いに行くよ。陛下の方は私が何とかしよう」
呆れたように何か呟き、咳払いをしてポニリアさんは言った。最初がよく聞こえなかったけど、考えを纏めてたのかな?
まあ、いいや。それより、ポニリアさんが王を抑えてくれるなら良かった。暫くはぼくがリリのそばを離れることへの心配は必要なさそうだ。
「ありがとうございます。ぼくは連らくを待っていればいいんですね?」
「ああ。ミュルゲの誰にも正体がバレないように気を付けてくれ」
「……正体ですか。ポニリアさんはぼくのことをどれくらいご存知で?」
「レイ君のことを……? 王女殿下の従者兼護衛、且つ暗殺技術に秀でていて、普段は王宮内の小屋で暮らしている……ということくらいかな」
「そうですか。ありがとうございます」
「教えてくれるのかい?」
「まさか」
「それは残念だ。君の生まれには興味があったんだけれどね」
そうか、聞かされていないのか……
なんだか安心した。ぼくはまだ完全にポニリアさんを信じられたわけじゃないみたいだ。
*
「ありがとさん」
店のおじさんの声に送られて食堂を出る。ちゃんと食べきれて良かった。もうお腹一杯になっちゃったから、屋台の串焼きはまた今度かなあ。残念。
「ポニリアさん、今日はありがとうございました。……ご馳走になってしまってすみません。みんな楽しかったみたいです」
「いいんだよ、私も久し振りに子ども達に会えて嬉しかったからね。……カイ君もまだ成人前のはずなのだが、君と話していると大人を相手にしている気持ちになるよ」
カイさんとポニリアさんが挨拶を交わしている。ポニリアさんの方は苦笑気味だ。カイさんって大人っぽいもんね。
「ねえねえ、ポニリアさん! 次はいつ会えるの……会えますか?」
「すまない、エレニ。今は色々と忙しくてね、予定が決まらないんだ」
「えー! 残念だったな、エレニ!」
「本当に本当に分から……えっと、分からないんですか?」
「アルノーと相談して、なるべく早くミュルゲに遊びに行くよ」
「約束ですよ! この前の『次会うときにたくさん話す』っていう約束を守ってくれなかった……ですから!」
エレニは不満そうだ。でもぼくのせいじゃないから! こっちをチラチラ見ながら話すのを止めて!
「エレニ、ポニリアさんはまた来てくださるそうだから、そろそろ我が儘は終わりにするんだ。誰が悪いわけでもないし、立派な騎士は自分の感情で動くものじゃないんだろう?」
「わかってるよ……」
カイさんが宥めると、エレニはすぐに遊びに来るように念を押して引き下がった。顔には『不満だ』と書いてあったけど、一応は納得したみたいで、ぼくを見るのを止めてくれた。カイさん、ありがとう!
「今日は時間がなかったから、また今度ゆっくり遊ぼう。それまで元気でアルノーの言うことをちゃんと聞くんだよ」
ポニリアさんが子ども達に声を掛けるなか、解放されたぼくは輪から少し外れてそれを眺める。ポニリアさんとカイさんが並んでいるのを見ると、なんだか王を連想する。カイさんは王と同じ金髪碧眼で、ちょっとつり目なところも似ている。そこに王専属騎士のポニリアさんが並ぶと、不思議とカイさんが王に被って見えて──こないな。性格なんかはまったく似てないもの。
「……レイ君?」
後ろからおずおずと声を掛けられる。この声は!
「ルー!」
「やっぱり。いつもと何かちがったから、まちがえたかと思ったの」
声を掛けたのは、予想通りアステリスに住んでいるぼくの友達、アネクスィ家のルーハだった。まあ、ぼくはルーって呼んでるけど。迷子になっていたところを助けて以来の親友なんだ。
「あ、今は『オノマ』って名前だから、そう言って!」
いつものようにルーの左手を右手で握る。ルーは迷子になるのが怖いのか、遊ぶ時は手を繋いでいないと不安がるんだ。
「オノマ……? レイ君、お名前が変わったの?」
ルーはおさげにした茶髪を揺らしながら首を傾ける。うーん、そうだけどそうじゃなくて……
なんて言ったら伝わるかな?
「よく分かんないけど、今のレイ君はオノマ君なの?」
「うん。だから、オノマってよんでね?」
「……レイ君はレイ君なのに」
困ったなあ。まだ誰もこっちに気付いてないけど、皆の前で本名を呼ばれたら「オノマ」が偽名だってばれちゃう。
……そうだ!
「えっとね、ルー。ぼく、今日で十才になったでしょ?」
「うん! おたんじょーびおめでとうって言おうと思って探してたの!」
「それでね、新しいぼくになったから名前も変えてみたんだ」
「そうなの?」
「うん」
小声で説明、というか嘘を吐くと、ルーも声を抑えて返事をくれた。納得してないけど、疑ってるわけでもないみたい。よし、このまま勢いでいっちゃえ!
「そんな決まりあったっけ?」
むむむ、と唸るルーを納得させるため、小声での説得を再開する。ルーには悪いけど、ぼくだってピンチなんだ!
さっきからカイさんがチラチラとこっちを見てるから、きっとポニリアさんとのお話が終わったらルーについて訊かれる。その前に呼び方を何とかしないと!
「そうじゃなくて、ぼくが変えたかったから変えたの! ぼくのことはオノマってよんで!」
「……二人で遊ぶときはレイ君でもいい?」
「しょうがないなあ。それでいいから、今はオノマでお願い! ね?」
「……わかった」
ルーが渋々とだけど頷いてくれた。間に合って良かった……
ぼくはルーの質問に答えながらカイさん達のことを教えてあげる。
「オノマ君、その子は?」
ぼく達に声を掛けたのは、意外なことにポニリアさんだった。
ニコニコと優しそうな笑顔を浮かべている。
「ルーはレ、じゃなくて、オノマ君の友だちのルーハだよ、きしさま! この前九才になったの!」
「へえ、オノマ君のお友達か。私は騎士のポニリアだ。宜しくね」
ルーを見ると、よろしくと言われて曖昧な笑みを浮かべていた。ポニリアさんはルーに好かれなかったみたい。ルーはかなり警戒心が高いんだ。
「そろそろ次の当番の時間が迫っているから、私はこの辺りで王宮に帰るとするよ」
ポニリアさんは苦笑しながら帰って行った。皆との別れはもう済ませていたらしい。エレニとカラはその後ろ姿に大きく手を振っていた。
「それじゃあ自由行動になるわけだけど……大人と離れるんじゃないよ」
「わかってるよ」
ふてぶてしくデニスが答える。離れたら迷子になっちゃうもんね。きっとエレニがしっかり見張っていることだろう。
「お小遣いは慎重に大切に使うこと。全部使いきる必要はないからね」
「お土産はまた買いに来れるんだよね? 無駄遣いなんて頼まれたってしないよ!」
そわそわしながらエレニが答える。昨日、美味しいお菓子のお店があるって言ってたから、早くそこに行きたいのかもしれない。
「何よりスリに気を付けるように。今日は祭りで人が多いから、特にね。財布を鞄の奥に仕舞ってから店を出るんだよ」
「心配ないわ! 奴らの手口なんてよく知ってるもん!」
どん、と胸を叩くネリー。頼もしい。まあ、ちょっと反応に困るけど。
「……スるのも禁止だからね? カラ、ネリーとしっかり手を繋いでいるんだよ。しっかりとね。ネリーの右手と繋ぐと良い」
「だいじょーぶなの! ネリー、おてて!」
「もうしないわよ……」
カラが左手を差し出すと、ネリーは頬を膨らませながらその手を握った。
もしかしてカイさん、それぞれに合わせて注意してるのか? デニスとカラは迷子、エレニは無駄遣い、ネリーは、盗んだことがあるのか……
「オノマ君も大丈夫かな? 歩き慣れないと人混みは大変だと思うけど……」
「オレもちゃんとわかってるよ! 大丈夫!」
人が多い時に王都を歩いたことは無いけど、道に迷うことは無いから問題ない。
「じゃあ、行く前に決めたグループに別れて行動しようか。イアンタさん、オリオンさん、テオドールさん、よろしくお願いします」
「任せときな! しかしカイ、あんたほんと保護者みたいだよ!」
おばさん改めイアンタさんがからからと笑いながらカイさんをからかう。とても楽しそうだ。
カイさんは照れたような笑みを浮かべて子ども達を急かす。ぼくはイアンタさんとカイさんと一緒に行動する。
「じゃあ、行くとしようかね」
そう言って手を出すイアンタさん。えっと、この手はなんだろう? ……出発前のハイタッチ?
「えっと……?」
「オノマ君、迷子になるといけないから、僕かイアンタさんと手を繋いでね」
どうすれば良いのかわからず困っていると、カイさんが優しい声音で正解を教えてくれた。
ああ、手を繋ぐのか。
空いている左手でイアンタさんの手を掴む。
ルーを守ってあげることはあっても、こうして大人に守ってもらうことがないから、なんだか新鮮でくすぐったい。
カイさんとイアンタさんが微妙な顔をしているけど、ぼくは大満足だ。
「……ルーハちゃん、おうちの人は?」
さあ出発、というところで、カイさんが、ルーに問う。
ルーがぼくの手をぎゅっと握った。ぼくはその手を握り返す。
「ルーのお母さんは、お仕事に行ってるの」
ルーは不安そうな声で言った。この国、特にアステリスでは、子どもは誰かの家の中か庭、広場で遊ぶように言い聞かされている。世界的に見て治安は良い方だけど、何があるかわからないからね。人が多いと、その分悪人も他より多くなるのは仕方ない。と、リリが習っていた。だからこそアステリスの治安維持に努めなければならないとも。
親や信頼できる大人の目が届かないような場所で遊んでいると、注意されるんだ。帰るように言われないといいけど……
「お母さんが帰ってくるのは何時くらいかな?」
「えっと、お日さまがしずんだら帰ってきて、お夕飯を食べたらすぐにお仕事に行くの。ニケとミロスがねたらルーもねるの! お母さんは、朝帰ってきたらまたお仕事にいくの。だから、えっと、お母さんが帰ってくるのは六時すぎだよ!」
ルーは最近の生活を思い出しながら答えた。ルーの家はお父さんがいないから、三人の子どもを育てるためにお母さんが頑張って働いている。一日中仕事に出ていて忙しいお母さんの代わりに、ルーが弟妹の面倒を見ている。ニケが妹でミロスが弟だ。
「そっか。お母さん、忙しいんだね。偉いな、ルーちゃん」
「ルーちゃん、弟と妹がいるのかい? 賑やかで楽しそうだねぇ」
イアンタさんも会話に混ざる。わいわい騒ぐことがあまりないから楽しいのか、ルーは満面の笑みを浮かべている。人見知りなところがあるから心配だったけど、どうやらルーは二人と仲良くなれそうだ。良かった。
「ルーちゃん、このままおばちゃん達と一緒にアステリスを観光するかい? 案内してくれると嬉しいんだけどねぇ。弟君や妹ちゃんが心配しちまうようなら帰った方が良いよ」
イアンタさんの言葉に、ルーはブンブンと首を横に振る。
「ルーは四時までに帰ればだいじょうぶ! 今日はレ……オノマ君におたんじょーびおめでとうって言いにいくって言ってあるから!」
「ル、ルー! 今日がお誕生日っていうのは、ぼくがてきとうに考えたやつなの! 今日じゃないかもしれないから、おいわいしなくていいって!」
ルーの言葉を慌てて否定する。ぼくは孤児ってことになってるんだから、誕生日なんてわかるはずないのに!
ちらりとカイさんとイアンタさんを盗み見ると、二人とも怪しんでいるわけではなさそうだった。
「今日は……ああ、王女殿下の誕生日だったかね」
「王家の誰かと同じ日に誕生を祝うのはよくあることだし、オノマ君の誕生日も今日ってことでいいんじゃないかな? デルフィナ王女殿下はムカ様に愛されていると聞くしね」
「そ、そうだね……」
そんな慣習があるとは知らなかった。誕生日がわからない人ってけっこういるのかな?
リリがデルフィナ王女殿下って呼ばれるのは当たり前だし、本当ならぼくもそう呼ばなきゃいけないんだけど、なんとなく違和感を感じちゃう。それだけリリが仲良くしてくれてるってことなんだけど。
ぼく達は、色んなお店に寄りながら、大通りや中央広場、弁論広場なんかを見て回って今日の観光を終えた。
読んでくださりありがとうございました。
評価やブクマ、感想、誤字脱字の指摘等お願いします。