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第4話 明日は誕生日

今回はリリとその護衛の視点からです。

長くなってしまいましたが、どうぞ!

 ごきげんよう! わたしはデルフィナ。大陸風に言うと、デルフィナ・リリ・アステルよ。仲の良い人からは、リリと呼ばれているわ。この国、アステル王国の第一王女で、あした十才になるの!

 つまり“ひとみ”をさずかるのよ! それに、次の日には社交界デビューをするの! あしたがとってもたのしみだわ!

 まどの外を見てわくわくしていたら、後ろから声がかかった。


「まあ、こちらにおいででしたか! お探ししたのですよ!」


 げ。面どうなのに見つかったわ。

 わたしの教育係のアエロ。この人、王女らしくってうるさいの。

 それが仕事ってわかってる。でも……

 言っては悪いけれど、あまりすきじゃないわ。


「……そうでしたの。どうなさいました?」


 外を見たまま答える。今のわたしはきっとむくれた顔をしている。なんとなく、イライラするのだもの。

 今日はわたしの誕生パーティーだけれど、出席するのはあしたから。使用人はほとんどかり出されているし、お父さまもお母さまもしゅさい者としてご出席なさっている。話し相手になってくれそうなかんりもいない。

 今日は自由でたのしい日になると思っていたのに、じっさいはそんなことはなかったわ。ただただ、つまらなくてさびしいだけ。


「殿下はこの国の第一王女、そして次期女王でいらっしゃるのですよ。お願いで御座いますから、王女らしくなさって下さいませ! まずは式典のお復習(さらい)を。さあ、シエナ殿がお待ちですよ」


 その言葉に、心の中ではあわてつつも、上品にふりかえる。

 シエナさまがいらしてるですって?

 行く! 行くわ! すぐに!


「シエナさまが? お待たせするわけにはまいりませんから、すぐに行きますわ!」

 少し早口になってしまったけれど、気にしない、気にしない!


「では、そのように伝えて参ります」


 アエロはほっとしたように言うと、急ぎ足で歩いて行った。

 わたしにはゆっくり、上品にとガミガミ言うくせに…… と思うけれど、ここにいたのはわたしのわがままだし、めいわくをかけたようだから、仕方ないわね。

 うっ、そう考えるとざいあく感が……


「仕方ないわ。今日はレイがいないんだもの」


 小声で自分に言いわけをする。

 いつもはこんなわがままなことしない、いえ、する必要がないわ。だって、レイがいるから。レイは、わたしを“リリ”として見てくれるの。王女だとか、次期女王だとか、そんなくくりでは見ないわ。


 むかし、お父さま、ハリミルト、アエロの三人といっしょにおしのびで王都に行ったことがあるの。あ、ハリミルトはお母さまのお付きの()()だけれど、特別にかしてくださったのよ。たしか、五才のときだったかしら。同じくらいの年の子どもたちがたのしそうに走りまわってあそんでいたのがうらやましくて、わたしはそちらをじっと見ていたの。

 わたしが同じことをしたらおこるだろうアエロは言ったわ。


 ──この子たちの笑顔を守るのが両陛下のお仕事なのですよ。殿下もお二方のようになれるよう、しっかりお勉強なさって下さいね。


 そのとき思ったのよ。ああ、王女(わたし)には自由にあそぶことさえゆるされていないのだわ、と。


 なんだかむしょうに悲しくなって、大泣きしたわ。

 それからだったかしら。わたしが王女らしくいようと努力し始めたのは。死ぬときに、せめて、わたしの一生をかけてよかったと思いたいから。そう決めたのがそのときなのか、あとから思い返してなのかは、もうわすれたけれど。


「だめね。こんなことを思い出すなんて。しっかりしなくては」


 自分で自分を注意し、きもちをきりかえる。

 とりあえずあしたの練習に行きましょう。




 *




 王宮内の、ムカさまのほこらがまつられている部屋につくと、そこにはシエナさまがいらした。

 ここさいきんはおいそがしかったようで、お会いしたのは一年ぶり。でも、おかわりないようね。おばあさまと同じくらいのお年だから、五十才くらいかしら? もうご高れいでしょうに、お元気そうでよかったわ。


 シエナさまのおすがたは遠くからでも目立つの。

 ひざあたりまでのばされた銀髪(・・)をゆったりと結い、つねにほほえんでいらっしゃる。ふくよかな体型も手伝って、そのすがたは()()()()()()()にみちているの。

 わたしはやさしくてあたたかいシエナさまがだいすきなの!


「シエナさま! おまたせしてもうしわけありませんわ」


 本当はかけよってだきつきたかったけれど、部屋の中にいるのはわたしたちだけではない。がまん、がまん。


「お久し振りです、殿下。一日早いですが、お誕生日、おめでとうございます」


 シエナさまはそう言って礼をした。

 あいかわらず、すてきなえがおだわ。わたしもああいうほんわかとしたえがおがにあうようになりたい……

 つり目がちだから、ふわっとした表情があわないのよね、この顔。レイのかわいい顔がうらやましいわ。

 と、そんなことはどうでもよくて。わたしも礼を返す。


「ありがとうございます。さっそくでもうしわけありませんが、あしたの練習をはじめましょう?」


 にっこりわらう。不本意だし、できればやりたくないけれど。本番はあしたなのだからしかたないわ。それに、いやなことは早くすませておきたいの。

 式てんでは、わたしはただ立っているだけ。まあ、本番では“ひとみ”をさずかるという、大切な仕事があるけれど。

 ラクではないから気が進まないのよ。“ひとみ”をいただくのはたのしみだけれど。

 そうそう、終わったらレイと教えあいっこするやくそくなの!


「そうですね。では、殿下は一度、お部屋の外にお願い致します」

「はい。よろしくおねがいしますわ、シエナさま」


 シエナさまのふわっとしたえがおをまねてみる。

 ……顔がひきつっているような気がするわ。

 うーん、むずかしいのね。




 *




 やっと練習が終わったわ……

 ふと外を見ると、日がしずみ始めていた。

 寒期が終わったこの時期は日がしずむのが早いわけではないのに……


 ドレスをきがえ、ごえいのきし、イソラティスとろう下を歩く。

 いつもはレイがごえいがわりなのだけれど、いないと知ったアエロがあわててイソラティスを手配したみたい。伝わっていなかったのかしら? というより、もっと早く気づくべきだと思うの。気にかけられないって、いがいとさびしいのね。


 そういえば、わたしはレイのよていをレイからではなく、ポニリアから伝えられたのよね。あらためて考えるとおかしいわ……

 ん? あそこにいるのはポニリア?

 なにやらソワソワしているようね。どうしたのかしら?


「あ、副隊長! こんな所で油売ってたんですか! 早く持ち場に戻って下さいよ!」


 うーん、トラブル?

 とりあえず、このままものかげから見ていましょう。

 だっておもしろそうだもの!


「ん? ああ、アレクか。丁度良かった。明日の当番なんだが、君、確か昼に街の見回りだったね?」


 え? このえが王都を見回り? どうして?


「そうです。なんで近衛にこんな仕事が回ってくるんだか……」

「仕方ないよ。今、アステルの騎士は大部分が魔王討伐のための『人族国家連合軍』に駆り出されていて、国を留守にしているのだから」


 ああ、それが原いんなのね。

 大陸の国々がむりなんだいをおしつけてきて、お母さまが大変そうにしてらしたわ。アステルは立場がよわいから……


「うちは島国だから関係ないのに、大陸の国々と同じ人数を出せなんて、横暴ですよね。お陰で、近衛も残された騎士達も大忙しですよ、全く。これで失敗でもしたら目も当てられませんね」

「アレク」

「すみません。で、明日の当番がどうしました?」

「それが、明日の昼、少し街に出なければならない用事ができてね。パーティー会場の警備を抜け出すことは出来ないから、代わってほしいんだ」

「隊長の許可は取りました?」

「いや、今からだ」

「じゃあ、許可が取れたら教えて下さい。喜んで代わりますから」

「ありがとう、アレク。すまないね」

「貸し一つですからね。とりあえず、持ち場に行って下さい」


 アレクとポニリアが去る。それにしても……


「ねぇ、イソラティス」

 となりに立つごえいにたずねる。

「持ち場って、あんなにかんたんに変えられるものだったかしら?」


 このえの自由度は、ほかに比べて低かったはずよ?

 たずねると、イソラティスは目線をはずして答えた。


「……副隊長ですから」


  ……ふうん? あやしいわね。


「そうなの。ところでイソラティス、少し話がしたいのだけれど」


 時間、あるわよね? わたしのごえい中なのだもの。


 イソラティスがギクリとした。何か問題があるのね。

 かれはこのえの中でも正直(わかりやすい)ってひょうばんだから、きっときけば答えてくれるわ。

 わたしだって王ぞくだもの。国をよくするために、お母さまのようにはたらいてみせるわ!




 *




 俺の名前はイソラティス。しがない近衛騎士であり、努力が報われて今日から王女殿下の護衛をすることになった。

 今までは両陛下の「護衛は従者がいるから足りている」というお言葉により、殿下に護衛はついていなかった。だが、とうとう反対の声を抑えきれなくなったようで、俺が護衛となったのだ。

 ……今までよく抑えられたと思う。あの従者、まだ十歳かそこらだよな?


 明日の式典、つまり“拝瞳の儀(エディカ・マティア)”の練習後に殿下にお会いしたが、どうやら疲れておいでらしい。気丈に振る舞っていらっしゃるし、所作も優雅だが、如何せん目に輝きがない。早くお部屋で休んで頂かなくては。


 なんて心配していた道中、副隊長とアレクの会話を盗み聞きすることになってしまった。

 殿下の問いについ嘘をついてしまったが、断言出来る。絶対にバレたと。

 ああ~! 何をやってるんだよ、俺! これを正義感の強い殿下が放っておかれるはずがないだろ! もう少し顔に出さないように気をつけないと……


 現在俺は殿下の質問攻め、もとい、尋問にあいそうになっている。どうにか躱せないものか。

 誰か、憐れな俺を助けてくれ……

 自業自得なのは重々承知してるんだけどさ……


「さて、イソラティス。今からあなたにいくつか質問をします」

「はい」

「正直に答えてくれますね?」


 真剣な眼差しを俺に向け、それでいて少し弾んだ声音で確認なさる。

 殿下は母君である女王陛下が大好きと専らの噂だが、どうやら本当だったようだ。憧れの陛下の御仕事を手伝えると喜ばれるとは、なんて真っ直ぐな御心なのか……


「……はい」


 どうやらこれは、腹を括るしかないらしい。

 あんなキラキラした目で見られたらはぐらかす気なんて失せるよな。そもそもそんな事をしたら、俺を妬んでいる奴らに口実を与えることになり、騎士を辞めさせられるかもしれないけど。この状況で嘘をつこうと思う者がいるだろうか?

 何があろうと俺は真実をお伝えする……!


「まず、持ち場って、あんなにかんたんにかえられるのかしら?」


 やっぱりそれだよなぁ……

 俺が何かしたわけでもないっていうのに、答えにくい……


「いえ、()()()変えられません」

「では、どうしてポニリアはあんなことを言えたの?」


 流石、未来の女王陛下だ。俺の言葉の意味をしっかり捉えていらっしゃる。


「それについて説明させて頂きたく思います。宜しいでしょうか?」

「ええ、話してごらんなさい」


 殿下は重々しく頷いたおつもりだろうが、口元がにやけている。

 本当に陛下の事がお好きだよなぁ。

 さて、どこから話したものか…… まあ、そう難しい話でもないんだが。


「ではまず、今のアステル王国の政治体制の確認から始めさせて頂きます」


 そう断って説明を始める。


 この国では、他国のような貴族制度は取っていない。貴族の代わりに陛下をお支えしている、三つの機関があるからだ。

 政治や経済、外交において陛下の手足となる政務部。ここでは大臣や官吏が働いている。

 王宮の秩序を守る近衛騎士団と国の秩序を守る騎士団が属し、もしもの時の民兵の管理を行う軍部。

 王家の直轄地である王都以外、つまり地方都市とその周辺を治める領主達からなる領主連合。


 政務部に勤めるには筆記試験と面接に合格する必要があるが、それさえ出来れば誰でも受け入れてもらえる。貧しい家の子どもが一生懸命勉強し、やがて大臣に…… なんて話は、学校で一度は聞かされる。


 軍部に入るには、これまた試験に合格する必要がある。内容はいたって分かりやすい。武を示す。それだけだ。まあ、近衛騎士になるには筆記試験や面接も合格しなければならないけどな。


 領主連合に入るには、領主になる必要がある。領主連合は元々政務部の一部で、街の領主には役人が派遣されていたのだが、上手くいかなかったらしい。その特殊性から独立し、今は世襲制だ。街の治め方は学校では習わない上、民の生活に直結するため、人選ミスは許されない。政務部や軍部と違い、この機関だけは世襲制の方が有用だと判断されたのだ。


「ここまで大丈夫でしょうか?」

「ええ、先生にならっているわ」


 なんと、このお年で政治体制をご存じとは。俺がこれくらいの頃なんて、近所のガキどもと棒切れを振り回して遊んでたぞ……

 殿下が優秀で正義感が強い、そして優しいとなれば、この国は将来安泰だな。

 ……殿下が大変だろうけど。まだ十歳なのになぁ……


「イソラティス、続きを」

「失礼しました」

 気を引き締めなくては。相手は王女殿下だぞ。


「この三機関の内、仕事が特殊な領主連合は世襲制をとっていますが、中央政庁、つまり政務部と軍部は実力主義です。実際、自分も親は普通の商人ですが、軍部に入り、こうして殿下の護衛をさせて頂いております」

「仕事をするのは本人だもの。それが本来のあり方ね」

「ええ。まあ、小さな頃から武術を嗜んでいる方が実力を付けやすいですから、どうしても騎士が多い家というものはありますが」


 向き不向きがあるから絶対じゃないが、代々近衛騎士、なんて奴らは周りに沢山いる。ポニリア副隊長やアレクサンドロス──アレクのことだ──なんかはそういった家の出だ。


「たしかに、ポニリアの父親は前のこのえの隊長だったわ」

「そして叔父殿は騎士団の団長です。姉殿はゲイトニディオ家の次期当主殿に嫁いでいます」


 ゲイトニディオ家とは、国の南の方の荒れ地にある街、ゲイトニクスを治めている家だ。荒れ地や近くの街は治安が悪いが、ゲイトニクスの中は驚く程に安全で、周りに比べてかなり発展している。盗賊共と協力関係にある、なんて噂が流れるような家だ。


「ゲイトニディオ家…… いいうわさはきかないわね」

「そうですね。つまり父親が前近衛騎士隊長、叔父が騎士団長、姉がゲイトニディオ家次期当主の妻。ポニリア副隊長は本人の肩書きよりも遥かに大きな権力と影響力を持っています」

「それであんなにかんたんに持ち場をかえられたのね」

「はい」


 どうにか正さなくてはならない問題だが、この国は女王の権力が他国ほど強くない。簡単にはいかないだろう。

 まあ、今のところは目立ったトラブルが起きてる訳じゃないから、そのうちでいいと思う。

 副隊長の“用事”が何なのかは気になるところだけどな。

 それに……


「どうもありがとう、イソラティス!」

「いえ、お役に立てたようで嬉しいです」


 この笑顔に比べれば、そんなのは些細なことだからな!

評価や感想をお待ちしてます!

……イソラティス、ロリコン疑惑が……

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