表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオスヒューマノイド  作者: 大南極ちわわ
2/2

魔界統一戦争編 【一節】

 突飛な出来事から状況も把握できないままどれほどの時間が経過したかは分からない。朦朧とした意識のままルキア少年は目を覚ました。


「うぅ…。」

 

 暗い場所から一転して夕暮れのような西日の射す空間に置かれてまぶしさで目がしっかりと開けられない。そして何かしら衝撃を受けたのか背中に軽い痛みがある。


 半目で日光を遮りながら上体を起こした。周囲は何も無い荒野で時折吹く風で粒子の細かい砂が舞い上がる。少なからず自分が元居た町の風景とは違い、人工的なものすら存在しなかった。


「どこだ…ここ。さっきのは夢じゃなかったのか?」


 まだ夢の続きかと思うほど意識が蒙昧としている。現実的に考え難いその状況をしばし座りながら考えた。ハリケーン級の災害に巻き込まれたのか、それとも突如他国が攻めてきてミサイルでも食らったのか。呆けた頭がすこしずつクリアになり始めた頃自分の置かれている異常性に気付いた。


「いやいやありえないだろ。さっきまでコンクリートの上を歩いていたし、田舎道って言っても目の前に民家くらいあっただろ。何だよここは!」


 体に付いた砂を払って立ち上がると傍らに転がっていたスクールバッグを持ち上げて辺りを見回した。足元の水分が完全に失われた木の枝を右足で踏み、有機性の危険な気体が空気中に漂っていないか鼻呼吸で確認した。


 砂嵐などではっきりと見えないがおおよそ東西南北どの方角を向いても地平線まで何も無い。あるのは辛うじて立っている枯れた木と所々に点在する岩石のみ。どちらに向かって歩けばいいのかすら分からない。それよりもここが日本のどこに位置するのかすら分からない。しかし立ち止まっているだけでは一向に物事が把握できないと考えルキアは太陽の方角に向かって歩き始めた。


 所持しているものはスクールバッグとその中に入っている筆記用具一式と白衣。それと不幸中の幸いだったのが500mgのペットボトル満タンに入った飲料水と眠気覚ましのガム。食料は心もとないが未開封の飲み水があるがあることはほんの些細な安心感であった。


 「距離感がまるでつかめない。どれほど歩いたんだ…さっきより暑くはないがいくら歩こうと何も無いのは精神的に堪える。」


 まだ二十分程度しか歩いていないが高校生の徒歩だとそろそろ2キロは歩いた頃だろう。いつもの町だと2キロも歩けば学校から自宅まで到着するしそれまでに色んな建物を通る。それがスタートした地点から景色がまるで変わらない。砂漠は距離感を麻痺させるというがまさに今同じような状況だった。


 さらに数分あるくと2メートル弱はある巨大な岩石を発見した。ルキアはその岩石に近寄ると手のひら程の大きさの石を握ってバツ印の目印をつけた。


「本当に俺はどこにいるんだ。どうして誰も居ないんだ…。」


 徐々に迫りくる不安に下を向く。節約気味に水を口に含むとどうにか歩こうと気を強く持つ努力をした。


 しかしその不安は実体として彼の前に押し寄せた。


「ーゴゴゴゴゴ…」


 今しがた印を刻んだ大岩から鈍い何かが動く音を感じた。


 ズシン…。岩の裏から何かが動く気配を感じた。ルキアは脇に抱えたかばんのベルトを握りしめると不安から一歩下がり身構えた。


「嘘だろ…何だよ何がどうなってるんだよ!?」


 岩の後ろから現れたのは2メートルは有に超える身長の大男が立ち上がった。大男と言うだけでも現実離れを感じるにも関わらず皮膚の色は鬱血したような青さをしており、所々にイボが目立ち極めつけはその顔がブタだったことだ。


 左手に身長の半分以上はある巨大な木の棍棒を握っており右手で岩を掴んで立ち上がって来たのだ。


 ルキアと目が合うと自分より小さい少年を見下すように睨み付け握りしめた棍棒を天高く振り上げた。


「やばい…!!!」


 ルキアは攻撃の意思を感じるとその棍棒の射線から逃げるように横に跳んだ。


 棍棒はルキアの居た地に振り下ろされ、学校の校庭ほどの固さのある大地を抉り取った。人間の力ではスコップも通さないほど頑強な地に易々と穴を空けた。


「何なんだお前!?冗談はやめろ!」


 ルキアの言葉が通じないのか鼻息を荒らげ再び棍棒を振り上げた。


 ルキアは狂気を帯びた魔物から逃げるべく自分の進もうとしていた方角道に走りだした。しかしブタの魔物もルキアを追って巨体を揺らしながら走りだした。


「何で追ってくるんだよクソッ…!」


 巨体に比例した歩幅から繰り出される速度は短距離走の選手より早く、大地を踏みしめる度に軽度の地響きを起こした。


 しかしその時ルキアはあることに気付いた。本来ならば人間が逃げ切れない速度で追われているのにも関わらず自分がスピードでリードしている。しかも本来ならば息切れを起こす速度で走っているのにまるで苦しさを感じない。この馴れない感覚に驚くよりも先に生き抜くための好機と自覚しさらに速度を上げた。


「何だか分からないが撒けたのか…?」


 一心不乱に走ると背後に魔物の気配を感じなくなっていた。少しため息をつく程度の疲労感しかない。周りの安全を確保すると改めて自分の身体能力の異常性を認識した。


「自分じゃ分からなかったがあんなに速く走れたか俺…。クラスでも短距離走は別段得意じゃなかったが。」


 足を曲げ伸ばしたり、足首を動かしたりしてみたが特に変わった様子もない。少し深く足を曲げ垂直跳びの要領で真上にジャンプしてみた。


「えっ?」


 ルキアがジャンプした瞬間その場から上空4メートル程体が浮き上がった。


 驚きのあまり着地時にふらついて手をついた。さっきまで自分がものすごい速度で走っていたことは半分無自覚の範疇であったが今度は明確な実感となった。


「やっぱりだ。どうしてかは分からないがとてつもなく脚力がついてる。夢かと思ったがこんなに意識もはっきりしていて物事の理解が追い付く夢なんてあるか。ますますこんな所で往生してられない。」


 再び歩を進めようとした時、追いかけて来ていたブタの魔物が小さく見え始めていた。


「また来た…しつこいな。」


 夢でも何でもいい。ルキアは心のどこかで都合のいい身体強化が応用できるかも知れないと踏んでいた。そしてルキアは自分の近くに落ちていた林檎程の大きさの石を持ち上げた。


「そういうことか…!」


 ルキアが確信したことは脚力だけでなく身体全体が大幅に強化されていたことだった。通常2キロはある石を野球ボール以下の重量で持てたことだ。つまり今それだけの腕力が備わっているということは反撃の機会が巡ってきたということだ。


 ルキアは持ち上げた石を近付いてくるブタの魔物に向けて勢いよく投擲した。


「当たれよ!!」


 高速で一直線に投げられた石はブタの魔物の左肩に直撃すると砕け散ったと同時にその巨躯を怯ませた。


 石の直撃で持っていた棍棒を落とし、それを拾いあげようとした刹那ルキアはかばんを投げ捨てて猛スピードで魔物に向かって走りだした。


「さっきの礼だ!!」


 膝をついて姿勢が低くなっている魔物の顔面に渾身の飛び蹴りを見舞った。石よりも遥かに質量のあるルキアの脚はブタ顔の右頬に食い込むようにヒットし、そのまま後ろ方向に吹き飛んだ。


「これ以上やるっていうならこっちも本気だ。ぶっ殺してやる!」


 勝敗を悟ったのかブタの魔物は武器を拾い上げるとルキアを見つめた後背を向けて後退っていった。


「はぁ…。終わったか。」


 自己防衛のためとはいえ本気で暴力のぶつけ合いやどしたことがなかったルキアにとって、闘いを終えた後腰のひけるような安堵感に全身が包まれた。


 投げ捨てたかばんを拾って再度太陽の方角に歩き出した。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ