1:序
はじまりのはじまり、すべてが生まれる前。
世界は混沌に包まれていた。 上下も光闇すらも混ざり合い、時の概念すらなく。
あるものがただあるがまま、あり続ける。
そういう状況が永遠とも一瞬ともとれぬ間続いていた。
ある時、その混沌の中から音が生じた。
混沌にあって生じた音は、次の音を呼び、音と音が重なり調和が生まれた。
調和が生まれることにより、混沌の中で初めて差異が生まれた。
差異から自我が生まれた。
自我は観察を生んだ。
観察は意志を組み上げた。
互いの意志が交差して、時間が誕生した。
混沌は不和を生じさせて調和を排除しようと試みたが、調和は混沌を追い返した。
最初の諍いは永遠に埋まらぬ溝を生み、長い間調和と混沌は争っていた。
調和と混沌は拮抗しており、争いに結末が訪れないと悟り始めた。
そして調和と混沌は互いに同じだけ、世界を分け合った。
各々は自らの領域を作り始めた。
調和は世界を整ったものにしようとした。
天と地を創り、昼と夜を生み、山と海を拵えた。
そして最後に生と死を生んで一つの形に落とし込んだ。生き物の始まりである。
調和の世界は美しく整えられた。
混沌は、自ら分けられた領域に対して関心を持つことはなかった。
ただひたすら、世が再び混沌で満たされることを望んだ。
混沌は自らのうちにこもり、不満と呪詛を繰り返すうちに自我を失い、やがて世界を一つの混沌にする力そのものとなった。
やがて混沌は調和の世界を蝕み始めた。
調和は混沌に呼びかけるも、自我を失った混沌は応えることが出来ない。
調和はやむなく混沌を滅ぼそうとするが、それはかつての差異のない、単一の世界になることを意味していた。
調和は非常に悩んだ。どちらが滅んでも、世界はただ一つで満たされてしまう。
差異から生じた均衡は調和にとって非常に美しく、また誇らしいものだった。
世界を守るためには、均衡を維持せねばならなかった。
調和は、混沌に立ち向かう為の知性ある生き物を創った。
光と風からエルフを
大地と水からドワーフを
そしてエルフとドワーフの資質を半分づつ継いだものを作った
これが人である。
調和はそれぞれに男と女を創り、先んじた動物同様つがいを以て調和となした。
しかし混沌の蝕みはかれらには耐え難く、調和はイクイブリードと呼ばれる意志なき巨人を四体作り上げた。
太陽のベルタイン
月のエルヴェイティ
星のアルセスト
地のリザンクシア
男女のつがいでなければ乗ることすら許されない。
これらを用いることで、ようやく世界に均衡が訪れた。
滅びもせず、しかし滅びの気配は消えず。
永久に備え、永久に戦いを続けていく。
どちらかが滅びるか、滅ぼされるまで。