前編
ガルシアがディウスの元に愚痴りに来ます。長かったので前後編の二分割にしました。
「ひどいんだぜみんなして俺のこと!リズなんかおれに3回以上も馬鹿って、ばかってぇえええ!!」
「う…」
っとおしい。
魔王ディウスは口から出かけた言葉を飲み込み、騒がしい客にため息をついてペンを置いた。
目の前のソファには、その上に乗ってクッションを抱え、金の髪を振り乱して大げさに悲しむ“フリ”をする熾天使ガルシアがいた。
動くたびに彼のエメラルドグリーンの羽が散る。
掃除を誰がすると思っているのだ。
今は人間界で召喚された悪魔たちのサポートをしているディウスは、かつて天使であった。
そのため、ガルシアは彼の元同僚であり、古い友人でもある彼の元に暇を見つけては愚痴を言いに来るのだ。
人の姿に変化しているディウスは、ネクタイを緩めてため息をついた。
ガルシアは大げさに言うたびにチラチラとこちらを伺ってくる。
あの悲しむそぶりも演技であるのはディウスは見破っている。
悪魔の、しかも魔王のディウスにウソは通用しない。
「だからな、俺…」
(今日の夕飯はなんでしょうかね)
どうせ全て話して仕舞えばすっきりして帰っていくのだから。
ガルシアの言葉に適当に相槌をうち、時々窓の外に目をやり関係のないことを考える。
目を閉じると野菜と肉を煮込む香りがしてきた。
(ポトフ、ですかね)
「堕天しようと思って」
「は?」
突然聞こえてきた言葉に聞き返すと、ガルシアはもう一度繰り返した。
「堕天しようと思って」
「誰が?」
「俺が」
ガルシアの言葉がうまく頭に入ってこない。
あまりにも予想外の言葉におうむ返ししかできなかった。
「俺が?」
指をさして確認すると、ガルシアは頷いた。
「何を?」
「だから堕天!だーてーん!」
「え、何故です?!」
「だから、……もー聞いてなかっただろお前!」
驚いて立ち上がり聞き返すと、ガルシアは途端に脱力したようにがっくりと肩を落とした。
「あまりにも予想外の言葉で。すみません、えぇと、堕天してどうするんですか?」
椅子に座ってもう一度聞き直す。
「あいつらをギャフンと言わせる」
ディウスの問いに握りこぶしを作る。
あいつらとは誰だろうと、聞き流していた会話の内容をたどり、聞こえてきた名前から天使仲間のリズとシャミィだと思い至る。
彼らも古参の天使であり、ディウスとも顔見知りだ。
「ギャフンと、ですか…具体的にどうやって?」
最も彼らは堕天宣言したところでギャフンとなんかしないだろうが。と思い、ため息まじりに聞く。
「えっと…それは……」
「何も考えていなかったんですね。思いつきで滅多なことを言わないほうがいいですよ」
呆れて言うと、だん、と足をついて立ち上がって叫んだ。
「思いつきじゃねぇ!」
「でも熾天使の位にいるあなたが堕天したら天界は大変なことになるのでは?」
ディウスの指摘にガルシアは人差し指を指した。
「そう!それが目的!失って初めてわかる、俺という偉大な存在を思い知らせるのだ!!」
ふはははと高笑いするガルシアの頭の中には、泣いて戻ってきてくれとすがるリズとシャミィの姿が想像されているのだろう。
ふふふ、と怪しげな笑みを浮かべているその様子は少し不憫だった。
だって大事なことを忘れているのだから。
「で、彼らがギャフンと言ったらどうするんです」
とりあえず何を考えているのか詳しく聞こうと姿勢を正す。
「俺の大事さがわかった奴らは俺を労わり大切にする!いい考えだろ?」
どうだと腕を組み仁王立ちする彼に頭痛がして、額に手を当ててやれやれとかぶりを振る。
堕天したら天界では暮らせなくなるということが、どうやら頭から抜け落ちているらしい。
そんな彼にどう伝えればいいのだろう。
「ガルシア…」
だが、なぜか伝えるのが途端に面倒になり、残りの言葉はため息にしかならなかった。
前回上げたガルシアの帰還の続きです。
期間で終わるはずがなぜか続きが浮かんでしまいました。
お付き合いいただけると嬉しいです。