竹原 悠二(2)
おれの目の前に広がっているのは、どこにでもある緑の草原だ。そこにおれは立っていた。どこにでも溢れる風景。一つだけ言えることは空気が違うことだ。おれの世界では自動車の排気ガスやコンクリートの匂いが凄かった。でもこれは、草や森の匂いだ。
「ははっ、来たんだな」
このBNSのシステムを考えた人は凄い天才なんだろう。ある意味、仮想現実旅行もそう遠くない未来になりそうだ。そう実感する。その時だ。おれのお腹がなったのは。仮想現実と言えど、ある程度は現実地味の所がある。そのうちの一つが空腹だろう。専門学校から帰ってきてBNSを起動させたからな。とりあえずは腹こしらえだ。
「この辺に村はあるか?」
《はい。この位置からだと南に一キロメートルにあります》
「そうか」
このBNSは"仮想現実"を安全にできるようシステム……ナビゲーターがほどかされている。なのであまり心配はしていない。
しばらく歩いて、村が見えてくる。こういう時に村が近くにあって素晴らしいと実感する。だけど、その村は何処か慌ただしかった。それに家に煙が上がっている。
「どうかしたんですか?」
「おおっ、旅のお方……」
おれに気付いたのか、村人達はおれに近寄ってくる。
「この村は盗賊に襲われて……」
「…………マジ?」
直訳すれば、おれを迎え入れる余裕はないらしい。仮想現実も手を混んでいるんだなと思う。
「おれが倒してこようか?」
何気ない発言なんだが、おれの言葉で村人達はおれの方を一斉に見る。
「よろしいのですか?」
「ああ。だから武器かなにかを……」
さすがに盗賊相手に素手では戦いたくない。
「すいませんが旅のお方。ここは平和な村なんで、そう言った道具は扱ってないんじゃ」
「……マジ?」
おれは二度目の蒼白になる。素手で盗賊を倒すということになる。さっきに言っておくがおれは男の癖に握力が低い。オマケに戦闘になるような訓練も受けていない。ある意味、お先が真っ暗だ。
《初期武器をどうなさいますか? 剣、銃、槍、弓……様々な武器がありますか》
その言葉でおれはホッとする。そりゃそうだよな。武器なしで仮想現実をクリアしろって事はないよな。
「とりあえずは銃で……」
村人達に聞こえないようにナビゲーター……ナビに囁く。
《了解しました。武器の銃を用意します》