凶暴怪獣アモレー
正輝が部屋の明かりをつけた時、時計の針は十一時を回っていた。
部屋は出かけた時と何も変わっていない。
「はぁ」と溜息をひとつついて、ベッドに腰かけネクタイを緩める。
「疲れた…… なんで自分だけがこんなに辛い思いをしなければいけないんだろう」
帰って来たそのままの姿でベッドに横たわった。
気持ちが沈む。楽しみも思いつかない。
明日なんか来なくていい。このまま世界が破滅してしまえば……
「逃げたい」正輝がそう呟く。
彼は横になったままズボンのポケットをあさった。
そして携帯電話を取り出すと、アルバムアイコンを選択した。
記録されている写真が画面に映し出される。
何枚かをめくり、八枚ぐらい進んだところで彼の手が止まった。
そこには学生服を着た正輝とにこやかに笑いながらVサインをしている坂田比呂子のツーショットが映っていた。
× × ×
「いくらいい飲み屋がないからって、うちに集まらなくってもいいじゃない」
「だって、ここだとお客さん少ないから気兼ねないし、お兄さんサービスしてくれるし」
理紗が屈託のない笑顔で答えた。
「そうそう」
と真紀もあいづちを打つ。
「お客さん少ないって、全然誉めてない」
比呂子は少しむくれた表情で二人を睨んだ。
今日は比呂子の高校時代の同級生である理紗と真紀が〈ほとり〉に来ていた。
比呂子にとって何よりも楽しい時間、普段の病院での苦労はここで愚痴って解消する、そんな場なのである。
「そう言えば真紀はその後どうなの」
「まぁ、倦怠期ってやつかな」
何の脈絡もなく、主語も無いこの問いに真紀は的確に答える。
「そう言う理紗は」
「右に同じ、なんか昔みたいに熱いものがないんだよねぇ」
真紀が大きく頷いた。
そんな二人の顔を見比べながら比呂子が眉間にしわを寄せる。
「ちょっと、私を置いていかないでよ」
「じゃぁ、比呂子はどうなの」
真紀は焼き鳥をついばみながら質問をする。
比呂子は理紗に向かって
「話題、変えようか」
そう言うと、理紗は笑いながら
「比呂子は相変わらずってことか」
と、真紀の方を向く。真紀も
「比呂子は理想が高いから」
と理紗の意見を後押しする。
「放といてくれる!」
比呂子は目の前のビールジョッキを一気に開けた。
理紗もビールを一口飲んでから、そうそうと思い出したように厨房を指さした。
「でもさ、この店に結構いい男が働き出したって聞いたけど」
比呂子は理紗の指さす方向に目をやった。
そこには洗い物をしている勇一がいる。
「あぁ~」
比呂子の口から歯切れの悪い答えが返ってきた。
その歯切れの悪さを理紗は見逃さなかった。
「どうなの、口説かれたりしてないの」
「ない!」
比呂子がきっぱりと否定した。
「それに好みじゃないし」
彼女は以前、魚屋の玄さんから聞かれた時と同じ答えを口にした。
そう答えた後に何故か、自分を助けるために怪獣に向かって走る勇一の姿が目に浮かんだ。
「この際、好みとか言ってる場合じゃないよ。まず男を見つけないと。こんな田舎じゃ男いないし」
「なんかそれって、私が男に飢えてるみたいじゃない。私ってそんなに持てない女に見える?」
比呂子が人差し指を真紀の方に突き出す。
それ以上言うと目を突くぞと言わんがばかりの勢いである。
「でも、比呂子って高校時代付き合ってた彼がいたよね」
とりあえず理紗がフォローに回った。
「えーと、なんていう子だっけ」
理紗は腕組みをして考える。でも名前が出てこない。
「森井正輝君」
比呂子が答えると、
「そうそう、そんな名前だった。隣町に住んでた目立たない陰気な子」
「陰気ってなによ!」
今度は比呂子が理紗に指を向けた。
「確かにおとなしい人だったけど、陰気は失礼でしょう、人の彼氏を」
「ごめん、ごめん」
理紗は薄笑いを浮かべながら謝った。
「彼、今何をしてるの」
と真紀が刺身を口に運ぶ途中で質問する。
「東京の大学へ進学して、そのまま東京の会社に就職したはず。
確か今は横浜の方の事務所で、住んでるのも横浜だったかなぁ」
比呂子は目の前のサラダを突きながら、テストで暗記した答えを思い出すように正輝のデータを喋った。
「横浜! いいじゃん。そうだ比呂子、今からメールでもしてみたら」
口に刺身を頬張りながら、真紀は良い提案でしょうと言わんがばかりにニコニコしてそう言った。
「えぇ、なんで?」
「今でも好きなら付き合って下さいって」
「なんで私から告白しなきゃいけないの。第一横浜遠いよ」
「今の世の中、それぐらいの遠距離恋愛でビビってたら恋なんてできないよ」
真紀は目を閉じ、自分は良いこと言ったなぁと感じ入った表情を浮かべた。
「そうそう、できないよ」
と理紗がここでも後押しをする。
「やめとく」
比呂子が素っ気なく返事した。
「なんでぇ」
と真紀と理紗はハモるように声をそろえる。
「だって、もう何年も会ってないし、どんな風に変わってるかも分からないもん」
「大丈夫だって、当たって砕けたらいいじゃん。ダメなら次を探せば」
「そうそう、ほら!」
と真紀は机の上に置いてあった携帯電話を比呂子に渡した。
「ほら、ガンバレ!」
と携帯のボタンを押すジェスチャーをする真紀。
「しょうがないなぁ。なんて書こう」
「やっぱり最初は、今付き合っている人いますか、って聞くんじゃない」
真紀の助言を無視して比呂子は携帯を操作する。
『比呂子です。元気ですか? 今日は理紗と真紀と一緒に飲んでます。
こっちに帰ってきたら〈ほとり〉に来てください。四人で飲みましょう』
「なんか〈ほとり〉の宣伝みたいじゃない」
不足そうな理紗を無視して比呂子は送信ボタンを押した。
「これで新しい恋が始まったらいいね」
真紀が無邪気にそう言うと
「ないない」
と比呂子は冷ややかに答えた。
× × ×
正輝は横浜のIT企業でシステムエンジニアとして働いていた。
ここ数年でコンピュータシステムは複雑化し、業務内容も多岐に渡り、ひとつのシステムを完成させるのに時間がかかっている。
それに加え、近頃は不景気の煽りで人手がどんどん減らされていっている。
正輝の仕事量は日ごとに増える一方だった。
客先との打ち合わせが終わり、彼が事務所に帰って来たのは午後四時を回っていた。
事務所にはいつも通りの緊張感が感じられる。
納期に追われる同僚たちは、彼が席に戻ってきていることを気付かないのか、何事もなかったように仕事を進めている。
彼が席に着くなり
「おい、森井!」
と雛壇から正輝を呼ぶ声がする。
慌てて向かうと、上司がパソコンを見続けている、そしてあまり彼を見ていない。
「なんですか」
恐る恐る質問する正輝に、
「この得意先の件、納期が明後日までだぞ。間に合うのか」
上司はパソコン画面を指してそう言った。
画面にはスケジュール管理表が映し出されている。
「はぁ、頑張ります」
「あのなぁ、頑張るでは困るんだよ。
俺が聞きたいのは見通しだ。三日で仕上げるシナリオが知りたいんだ」
正輝は心の中で、そんなに言うのであればシナリオを描ける時間をくれ、
つべこべ言っている時間があるなら仕事を兎に角進めさせてくれ、
と叫んだ、が口からはその言葉は出せない。
「納期は重要だからな、ちゃんとシナリオを描いてから仕事しろよ」
「はい」
と元気のない返事をすると、上司も帰って良し、
と言わん画ばかりに手の甲を向こうに押し出した。
席に戻ってメールをチェックすると新着メールが39件もある。
時間がない、もう見るのを諦めて仕事を進めようとした時、一件【至急】と題名に付けられたメールがあった。
しぶしぶ開いてみると
『xx株式会社からの納期前倒しの件、午後6時よりxx会議室で打ち合わせしたく、お忙しい中申し訳ありませんがご参集ください』と書かれていた。
「はぁ」
と溜息が漏れる。
申し訳ないと思うのならこちらに仕事をまわすなよ。
そもそもこの件、営業がちゃんと処理してくれれば、こんなややこしい話にならなかったのに。
彼が心の中でぼやいている時、後の席に座る先輩の山田がニコニコしながら近付いて来る。
正輝は嫌な予感がした。
「すまんが、これ処理しといてくれ」と書類を一式正輝に手渡そうとする。
「すみません、今一杯一杯で……」
正輝が書類を押し返そうとした。しかし山田も諦めなかった。
「そうか、まぁ出来る範囲でいいから。納期は気にすんな」
と更に書類を突き付けた。
「はぁ、それなら」
正輝は気乗りしなかったが止むを得ず書類を受け取ってしまった。
× × ×
正輝は会社を出た時間を覚えていない。
とにかくクタクタで早く寝たい、そう考えながら会社を出た記憶しかなかった。
寒かった。温まりたかった。
彼は道端で、自動販売機にコインを入れ、暖かい缶コーヒーのボタンを押した、しかし出てこない。
「くっそ!」
と彼は自動販売機を蹴飛ばしす。しかし出てこない。
「付いてない」
と正輝は肩を落とした。
コインが釣銭口に落ちてきていないか確認のために腰をかがめた時、自動販売機の下にチラシらしい物が落ちているのに気付いた。
何気なしに拾うと
『あなたは疲れていませんか? もし怒りや憎しみで心が一杯になった時には現代心理研究所まで、住所はxx区xx町』
と書かれている。
正輝はそのビラの文句が気になった。疲れている、確かに。
その妖しそうな研究所に行くつもりもないが、なんとなく気になってチラシをポケットに仕舞った。
チラシを仕舞う手に携帯電話が触れた。
何時だろう?、ポケットから携帯を出して時間を確認しようとした時、メールの着信があることに気付いた。
誰からだろう?、今日は付いていないので碌でもないメールかもしれない。
見るのを止めようか、そんな思いがよぎるなか彼はこのメールに賭けてみようと思った。
会社からなら凶、それ以外なら吉。そして思い切って開いてみる。
それは比呂子からであった。
『比呂子です。元気ですか? 今日は理紗と真紀と一緒に飲んでます。
こっちに帰ってきたら〈ほとり〉に来てください。四人で飲みましょう』
正輝は賭けに勝った気がした、大吉である。
比呂子、高校時代に付き合っていた彼女。
東京に出てきてから会っていない。そんな彼女がメールをくれた。
「あの頃は良かったな」
と心で正輝が呟く。あんな時代に戻れるんだろうか。
そう考えた時、再び漠然とした不安が蘇った。たぶん戻れない。
今の状態が続く、明日も明後日も、何年後かも。正輝の気持ちは元の状態へと戻って行く。
彼は体の隅々まで疲れが染みて行く感じを覚えた。
携帯をポケットに仕舞い、彼は重い足を自宅へ向けた。
× × ×
二日後、徹夜して何とか納期に間に合わせた正輝の頭は朦朧としていた。
やっと終わった。
それは達成感でなく安堵の叫びである。
とりあえず終わった。
彼が作ったプログラムを所定のファイルに格納し終えると、いつもの溜息とは違う、ホッとした時の息を吐いた。
その時、彼の後ろから声が掛った。先輩の山田だった。
「森井、あれどうなった」
「あれ?」
正輝は二日前に山田から押し付けられた書類を思い出した。
「あゝ、まだ何も手が付けられていません」
「こまるなぁ」
山田が眉間にしわを寄せる。
「でもこの間、納期は出来る範囲でって」
「まあそう言った俺も悪いけど、出来る範囲にも常識ってもんがあるだろう」
山田の剣幕に正輝は押された。
「兎に角早く頼むよ」
と言い残して山田はその場を離れた。
正輝はいつもの溜息に戻って、山田から渡された資料を探そうとした。
机の上の資料の山が崩れる。
「チッ」と舌打ちをし、机の資料の山から山田の資料を見つけ出した時、パソコンにメールの着信表示が、またタイトルに【至急】の文字。
たぶんこの間の納期前倒しの打ち合わせの続きであろう。
「もう、いい加減にしてくれ!」
と小声で叫んだが周りは誰も気付いていない。
そんな中、今度は他部署の岩崎が正輝の席に勢い込んでやって来た。
「おい、森井! これどうなってる」
「はい?」
正輝は何のことを言っているかも分からず生返事をした。
「はい? じゃない。このプログラム、バグってる」
「え、どこです」
岩崎が持って来たノートパソコンを開く。
沢山の文字が並ぶ中から彼は指でそのバグの場所を示した。
「でも、ここは僕じゃなくて岩崎さんのところの部署で……」
「もう、そんなことはどっちでもいい。今日中に直してくれ」
「今日中!」
正輝の叫びを聞かずに岩崎は
「頼むよ!」
と言い残して去って行った。
正輝は椅子にへたり込んだ。そして一言、
「辞めよう。田舎へ帰ろう……」
その言葉も周りの誰もが聞いていなかった。
× × ×
木曜日、正輝は西に向かう列車に乗っていた。とにかく比呂子に会いたい。
会えば何かが変わる。そんな思いだけで新幹線に飛び乗った。
比呂子が笑顔で迎えてくれることを信じて。
会社には体調不良と偽って休暇申請を出している。
必要ならば、彼女が望めば、会社など辞めてもいい。
そのまま東へ帰らなくてもいい。
いや帰らない。正輝の思いはただ西にだけ向いていた。
最寄り駅に着いた頃、日はとっくに落ちて当たりは薄暗くなり始めている。
都会の駅は夜でも明るく感じるが、この駅は夕方でももう十分暗い。
自分が住んでいた頃よりも暗く感じるのは、この駅が変わったのだろうか、
それとも都会慣れした自分が変わったんだろうか、
もし自分ならば寂しいと考えながら彼は駅前の古びた喫茶店に立ち寄った。
会える日を確認するため、正輝は新幹線から比呂子にメールをしていた。
今日は夜勤だから会えない、金曜日の昼か日曜日なら大丈夫という返信だった。
本当なら今すぐにでも病院に行って彼女に会いたい、だが焦って失敗したくない、だから少し我慢することにした。
ただ今の彼女の様子が知りたい。
この古びた喫茶店に真紀と理紗を呼んだのはそのためだった。
「久しぶり、正輝君変わってないね」
と真紀が笑顔で言う。
「真紀も変わってないよ」
とお愛想で正輝が答えた。
「それって子どもっぽい、てこと?」
「いやいやそんなことはなくて」
正輝は返事に困った。
「私は?」
と今度は理紗が聞く。
「あ、理紗は大人っぽくなった」
と前回の反省からそう答えると、
「それって老けたってこと」
と理紗はむくれて見せた。
「いや、それはその……」
そんな正輝を見て真紀と理紗は顔を見合わせて、
「相変わらず真面目ね」
と二人は笑った。
「でも、そんなところが比呂子は良かったんだろうね」
真紀の言葉に正輝が反応した。
「比呂子は元気?」
「元気、元気!」
と、勢を付けて真紀が答える。
正輝は少し笑った。今までとは違う気持ちが表情に現れた。
「やっぱり、あのメールを見て帰って来た訳?」
「あ、いや、その……」
当惑する正輝に、少し冷ややかに真紀が、
「男って単純よね、比呂子はメール出すの、ためらっていたのに」
「えっ」
ためらっていた? 正輝は耳を疑った。
あのメールは比呂子が自分を思って出してくれたメールではないってこと?
「真紀、そんなこと言ったらだめじゃない。せっかく比呂子にも恋が巡って来るかもしれないのに。
正輝君心配しないでもいいよ、比呂子はしばらく会ってないからって、躊躇しただけだから。それに比呂子は今、彼氏いないし」
理紗がいつも通りフォローに回った。
正輝は少し安心したが、それと同時に不安も広がった。
比呂子は今自分をどう思っているんだろう。今の話からでは推測ができない。
「でも、早くしないと有力なライバルがいるからね。
比呂子と一緒に住んでいる男がいるから」
「一緒に?」
正輝の不安が心の中でどんどんと広がって行く。それってどういう意味?
「真紀、そんな勘違いする表現したら比呂子に怒られるよ。
別に一緒に住んでるって言っても、〈ほとり〉で、住み込みで働いてる男の人のことだよ」
再びフォローに回る理紗。
「でも、早くしないと取られるよ。
彼、結構比呂子のタイプかもしれないし」
真紀はいたずらっぽい笑顔で正輝の顔を伺っている。
彼女がからかっていることは正輝にも分かった。
彼女の言動は気分が落ち着いている時には笑えるのだが、今は笑えない。
彼女の近くに彼女が好きになるかもしれない男がいる。
例え今、彼女がその男を好きにならなくても、もしかしたら……
「早く、横浜に連れて帰りなさいよ」
真紀が相変わらず茶化した様子でニコニコとしながら彼をあおる。
「こんな町、働くところも無いし、遊ぶところも無い。
比呂子が羨ましいな。横浜に行けるかもしれないなんて」
「横浜もそんな良いところじゃないよ」
正輝は本心でそう思う。
ここで比呂子と暮らせる方が良い。あの街にはもう戻りたくない。
「でも、正輝君の同級生でこの町に残ってる男の子いないよ。仕事ないからねぇ」
今度の理紗のコメントはフォローになっていなかった。
「そうそう、私の彼も漁港じゃなくて正輝君みたいにIT企業だったらいいのに。女ってそういうカッコいいのに弱いんだよね」
正輝は比呂子も同意見なのかと思った。
そう、都会でスーツを着てオフィスビルで働いて、そういう男が自分を幸せにしてくれると。
そうであれば、今の自分では失格である。
仕事を辞めて、この田舎に逃げ帰って来た男なんて、彼女が振り向く訳がない。
「頑張って告白しなさいよ。横浜へ一緒に行こうって、なんかいいな、ドラマみたいで」
真紀の励ましとも冷やかしとも取れる言葉に正輝は困惑した。
駄目かもしれない。彼女は自分を選ばないかもしれない。
比呂子に会っても何も変わらないかもしれない。
まだ彼女に会ってもいないのに、言いようのない絶望感が彼を覆っていた。
× × ×
「久しぶり、正輝君変わってないね」
比呂子が真紀と同じ言葉を言った。
次の日の昼、正輝は海岸に比呂子を呼び出した。
今日は穏やかな日和であるが、やはり冬の海辺は風が冷たい。
それでもここに比呂子を呼び出したのは誰にも邪魔されず会えるから、それと……
「夜勤明けなのにごめんね」
「いいのよ。それより正輝君に久しぶりに会えてうれしい」
冬の日は弱々しく、それが故に海に反射する光も心もとない。
「どう仕事は」
「えっ」
正輝にとって一番聞かれたくない質問だった。
「まぁ、ぼちぼちってところかなぁ」
彼は少しだけ見栄を張った。でもなぜか心が痛んだ。
「東京は楽しい?」
「別に、それほどでも」
そう答えながら、昨日真紀が言っていた、都会でスーツを着てオフィスビルで働いて、そういう男に女は弱いという言葉を思い出した。
やはり比呂子も同じなのか、だから今の質問につながるのか。
「比呂子の仕事はどう」
「うん、頑張ってるよ。まぁ仕事一筋ってやつかな」
「そう、頑張ってるんだ」
正輝は自分と違って頑張っていると言う比呂子のことを羨んだ、と言うより彼女にとって自分は魅力がない人間と思われそうで怖かった。
会話が途切れた。海鳥が大きな声で鳴きながら二人の上を飛んで行く。
二人の沈黙を波の音が代わりに埋めて行く。
しばらく続いた沈黙の後、比呂子が口を開いた。
「確かここよね、正輝君に私が声を掛けたの」
そう、正輝はここで比呂子と知り合った。
その思い出の場所を彼女は覚えていてくれた。
彼は少し勇気が湧いて来た。
「あの時、東京へ行くか地元に残るか悩んでた時だったんだ」
「独りで海見てたでしょう。なんか気になって声を掛けたのよね」
「あの時も弱っていたからなぁ」
比呂子が正輝の顔を見る。
そしてさっきから気になっていたことを口にしてみた。
「今も弱ってるの?」
「えっ」
正輝は少し焦った。
さっき見栄を張ってついた嘘がばれているのか?
「どうしてそう思うの」
「だって今、あの時も、も、って言ったよ」
彼女は自分の言葉尻から弱っていることを推察したにすぎない。
一瞬、比呂子が自分を心配して心の中を推し量ってくれたのではと想像した自分が嫌になった。
「疲れたから帰って来たの?」
「うん、まぁ、それもある」
本当はそれ以外何もないのに、また虚勢を張った。張る必要もないのに。
「でも、正輝君なら大丈夫よ、頑張り屋さんだから。きっとうまく行くよ」
比呂子の言葉は気休めにならなかった。
皮肉に取れば、彼女なしでも独りででも問題は解決できるよ、と言われているように聞こえる。
「ありがとう」
正輝がそう答えた後、再び沈黙、波の音だけが二人の周りを包み込んだ。
正輝は自分の本当に言いたいことが言えなかった。
自分の支えになって欲しいと。
そう彼が考えている間、比呂子がずっと首筋を撫でていた右手を今度は反対の腕に持っていき再び撫で始めた。
正樹が寒いのかと思った時、彼女が次の話題の口火を開いた。
「そうそう、今うちで働いている人少し変わってて……」
正輝はハッとした。
そう言えば比呂子の家には真紀の言っていたライバルがいる。
「その人、記憶がないんだよ。海辺で発見されてね、全然過去のこと覚えていの。ドラマみたいですごいでしょう」
正輝は「なぜ」と思った。なぜ今その男の話をする。
「それにね、ここ最近、怪獣騒ぎがあるじゃない。
なんかその次の日に寝込んだりしてさ、変な人なの」
比呂子が笑った。彼女の手はもうどこも撫でてはいなかった。
正輝は自分の体の中の血が煮えたぎるような感覚に陥った。
なんで自分の前で他の男の話をする? しかも嬉しそうに笑った。
「そう、ここにも怪獣が来たんだよ。怖かったんだから。しかも私の目の前まで……」
比呂子の声が遠のいて行く。正輝の心の中で、なぜ、がぐるぐる回っていく。
「聞いてる?」
少しむくれて見せる比呂子に
「ごめん」
と慌てて正輝が謝った。
彼女の機嫌を損ねたかと正輝は焦った、だが次の言葉が出て来ない。
やはり次も比呂子の方から話題を振ってきた。
「いつ帰るの」
「日曜の朝」
「なら明日の夜、もう一回会えるね。明日七時に〈ほとり〉に来てよ。
たぶん私もその時間なら仕事終わってるはずだから」
「あゝ、そうしようかな」
穏やかな波音でなければ聞こえないような、そんな声で彼は返事をした。
× × ×
次の日、昼食時を終えて店の前で後片づけをしていた勇一に声を掛ける男がいた。
声の方向に振り返って勇一は思わずたじろいだ。
その男の全身から赤い炎の様なものが立ち昇っているからである。
「こんにちは」
男の目が笑っている。しかし言いようのない殺気を感じる。
勇一は恐る恐る、失礼のないように軽く会釈をした。
「僕は、比呂子さんの高校時代の同級生で森井正輝と言います」
「あゝ」
と勇一は答えた。
この間、真紀と理紗が〈ほとり〉に来て、比呂子とそんな話題をしていたことを思い出した。
「実は、今日、本当は比呂子さんと夜会う約束をしていたんですけど、急用があって帰ることになったんです。すみませんが、伝言をお願いできますか」
勇一は彼が嘘を付いていると感じた。
彼の目的が自分に会いにきたことも薄々感じられた。
何よりの証拠に、彼の炎が自分と喋れば喋るだけどんどん大きくなってきている。
「あの、直接病院に行って伝えなくてもいいんですか」
「急ぎなので」
その言葉も嘘な気がした。この人はなぜ嘘を付いているんだろう。
「あなたが勇一さんですか」
「はい」
「町の人から聞きました。あなたも大変ですね」
彼が勇一の何を大変だと思っているのか分からないが、取りあえず「はぁ」と頷いておいた。
「じゃぁ、比呂子さんによろしく」
正輝の言葉がさっきと違って優しく感じられた。
いや優しいと言うより何かを諦めたと言うような、そんな感じがした。
正輝の去ろうとする後姿に勇一が
「また来てください。比呂子さんも喜ぶと思いますから」
と声を掛けた。
「ありがとう」
と振り返った時、正輝にあの赤い炎はもうなかった。
× × ×
「そう、帰っちゃったの」
比呂子は少し安堵の表情を浮かべた。
「なんで僕に話し掛けたんだろう」
勇一はあの赤い炎とともに殺気だった彼を思い出して身震いがした。
〈ほとり〉の夜はいつも通り二、三人の客が今日一日の憂さを酒で晴らしている。
カウンタには特にすることのない勇一と、いつもと違う比呂子がいた。
今日の比呂子は水色のブラウスにスカート姿。
私服でスカート姿の比呂子を見るのは初めてである。
比呂子も正輝が今日来ることを意識していたのだろう。
勇一は少し複雑な思いで比呂子の姿を見ていた。
「でも、ちょっとホッとしてるのよ。昨日もなに喋っていいか分からなくって」
「で、なに喋ったの」
比呂子は少し首を傾げながら
「何だっけ、昔話とか、そうそう勇一さんの話もしたっけ」
「僕のこと?」
勇一は納得がいった。
なぜ正輝が自分を訪ねてきたのか。
彼は自分に比呂子を取られると思ったに違いない。
その憎悪が赤い炎として自分には見えたのだと。
でも別れ際に炎は見えなくなっていた。なぜだろう。
「比呂ちゃんはどう思ってるの、彼のこと」
「どう、って」
比呂子が頬杖をついた。
「よく分からない。なんか遠い国の人みたいだった。共通の話題も無いし」
比呂子は目を閉じて昨日の様子を思い出してみた。
「なんか疲れている感じで、だからなんか声を掛けてあげたいけど、何言っていいか分からないし、彼も何も言ってくれないし……」
「助けて欲しかったんじゃないの、比呂ちゃんに」
「えっ」
勇一の言葉で彼女は目を開いた。
「何か、向こうであって、それで不安で、だから帰ってきたんじゃないかなぁ」
不安で助けを求めたい気持ち、勇一には痛いほど分かる。
そして今の自分は比呂子がその痛みを癒してくれていることも。
彼もまた同じ癒しを求めたのではないかと。
「もしそうだとしたら、私、悪いことしたかなぁ」
比呂子が少し泣きそうな顔になった。そんな顔をされると勇一も辛くなった。
「今の話は僕の思いすごしかもしれない」
ただ勇一には確信があった。
正輝は比呂子に助けを求めに来た。そして彼の思いは比呂子に通じなかった。
勇一は思った、他人は自分が望んでいることを理解できない、いや、できるはずがない。
それなのに、それを頭で分かっているのに人間は相手に理解してくれることを求めてしまう。
そして理解されずに傷ついてしまう。
「もし仮に、僕の想像が正しかったとしても比呂ちゃんが気にすることはない。だって彼が何を考えているかなんて分かるはずないから」
勇一は慰めるつもりでそう言った。
でも同時に比呂子が自分のことをどう考えているのかも分からない、自分の期待通りでないかもしれない、彼は正輝の辛さが分かる気がした。
× × ×
月曜日、正輝はいつも通り出社した。
会社は水曜日と何も変わっていない。
唯一正輝だけが以前にも増して光を失っていること以外は。
正輝は思った。比呂子は助けが必要な弱っている人のそばにいてあげたいと思う女性だ。
自分よりもあの男の方が大変な状況にある。彼女なら自分ではなく彼を選ぶだろう。
席に着く前に正輝は携帯電話の比呂子との写真とメールを消去した。
席に着くと上司が
「体調は大丈夫か」
と聞いてくる。
「大丈夫です」
ずる休みの手前少し心苦しいが上司に話しかけられるのはもっとうっとうしい。
どうせ上司も部下に対する注意義務とかなんとかで気を使っている振りをしているだけなのだから。
「まぁ、無理するな」
上司が通り一辺倒の注意義務を果たした後、それ以上何もいわずにその場を離れて行った。
パソコンを立ち上げると休んでいたせいもあってメールが百八十五件未読になっている。
いつも通り溜息をつきながら一件、一件開いて行く。
でも内容が頭に入らない。どうでもいい内容ばかりに思えてくる。
なぜ自分はここに戻って来たんだろう、なぜ田舎に残らなかったんだろう。
そう考えていた時、また岩崎がやって来た。
「おい、森井。この間のトラブルまだ直ってないぞ」
「え、でもそれは岩崎さんの部署の石川さんが修正してくれるって」
正輝の反論に岩崎が眉をひそめた。
「俺は聞いていないし、石川もそんな話は知らないと言っていたぞ」
「えっ」
正輝は信じられないと言う表情をした。
だが岩崎はお構いなしにクレームを続ける。
「とにかく急げ、客先は怒ってるんだから」
と言い残して去って行った。
正輝は拳を握りしめた。なぜここにいる。
なぜ帰って来た。あの男がいたからだ。奴さえいなければ……
正輝は誰にも何も言わずに事務所を飛び出した。
「このままじゃぁ殺される。みんな敵だ」
正輝は街に出た。そして行く当てもなく歩いた。
どこへ行けばいい。会社には戻りたくない。
田舎にも帰るところがない。
彼がどこをどう歩いてここにたどり着いたか、覚えていない。
気付けば「現代心理研究所」と書かれた看板の前に立っていた。
正輝がポケットをまさぐる。中から同じ名前の書いたチラシが出てきた。
『あなたは疲れていませんか? もし怒りや憎しみで心が一杯になった時には現代心理研究所まで』
彼は思い切って戸を開けた。
中は薄暗く、絨毯張りの床と、テーブルと椅子が置かれているだけの質素な部屋だった。
「ようこそおいで下さいました」
振り返るとそこに上品そうな黒衣の背広を着た中年男が立っている。
「あなたは必ずここにお越しになると思っておりましたよ」
黒衣の男は優しく微笑みながら正輝に近付いて来た。
× × ×
勇一が手に熱い物を感じたのは、夜の開店準備をしている最中だった。
なぜ今? 勇一は肩を落とした。
しかしここで姿を変えてしまえば、坂田に自分の正体がばれてしまう。
坂田は厨房で仕込みをしている。
「すみません、ちょっと二階へ上がってもいいですか」
「どうした、気分でも悪いのか?」
坂田は手を止めない。勇一は申し訳ないと思いながらも
「え、あゝそうなんです」
と嘘をついた。
「しょうがないな」
と坂田が言う。了解を取り付けて勇一が二階の自室に入る。
そして目を閉じる。頭の中にハンマーのような腕を持つ怪獣の姿が浮かんだ。
その瞬間、彼の体が空気のように軽くなって行く。
そして目を開けると知らない街の風景が広がった。
彼がいる場所は、周りをビルで囲まれた都会である。
ビルが一つ、耳を劈くほどの音をたてて崩れた。
崩れたビルの向こうにあのハンマー怪獣がいる。
勇一が自分の左手を見ると、そこに青い炎が燃えている。
早く変身してあの怪獣を倒さなければ街がめちゃめちゃになる。
そう思った時、
「待って!」
と彼を呼びとめる声が聞こえた。
振り返えると、そこには勇一を真っすぐに見つめる里子がいた。
「里子! なぜ君がここに!」
「勇一さん、戦ってはダメ。あの怪獣を、アモレーをよく見て」
勇一は彼女の言う通り怪獣の方に向き直った。
そしてじっと見つめてみる、すると怪獣にラップするように正輝の顔が重なる。
「あれは!」
勇一が里子の方に振り返る。
「そう、あれは森井正輝、あなたと同じ、心が傷付いた人間」
「なぜだ! なぜ彼が怪獣に」
「彼はこの世界に失望した。会社にも比呂子さんにも、そしてあなたにも」
勇一の質問に里子が悲しそうに答える。
「彼のあなたへの恨みは、あなたがどうやっても勝てない。だから戦ってはダメ! 今度こそ死んでしまうわ」
里子が必死に呼びかけた。
勇一にはその言葉が里子の本心なのか、それともそうでないのか分からない。
「里子、どうして君は色々なことを知っているんだ」
「今は言えない」
里子の目が潤んだ。勇一は彼女の言葉を信じたかった。
その瞬間、破壊された建物の破片が二人の方角へ飛んでくる。
勇一が咄嗟に左手を上げる。
飛んできた破片は現れたシルバーマンの背中に遮られて落ちた。
里子はシルバーマンの影で無事だった。
見上げる里子は悲しげだったが、勇一はそれを無視してアモレーの方へ振り返った。
「やめろ、君は人間なんだ。こんなことはもうやめるんだ」
勇一がアモレーに向かって叫んだ。アモレーの動きが一瞬止まった。
「こんなことをすれば比呂ちゃんが悲しむ」
その言葉を聞いて、怪獣から声がした。
「お前は勇一か」
勇一は一瞬躊躇したが「そうだ」と答えた。
「そうか、君か…… 勇一、君さえいなければ、君がいたから!」
アモレーが再び暴れ出した。
更に凶暴に、周りの建物をその腕の金槌で破壊して行く。
そしてシルバーマンに襲いかかる。
シルバーマンがその金槌の攻撃を右へ左へと動きながらかわそうとする。
しかし周りの建物が邪魔をする。
シルバーマンは後方のビルに倒れ込んだ。
ビルが大音響と共に崩れて行く。
倒れ込んだシルバーマンにアモレーが飛びかかり金槌を振り下ろす。
それをなんとか体を捻りながら避けるシルバーマン。
空振りした金槌が地面を叩く。
怒るアモレーが大きく振りかぶって金槌を振り下ろした、それをシルバーマンが両手で受け止める。
そして両足を天に向かって伸ばしアモレーの体を投げ飛ばした。
一回転して地面に叩きつけられるアモレー。
立ちあがったシルバーマンが今度は仰向けになっているアモレーに飛び付く。
そして何度か頭部を殴りつける。そして両手を抑え込みその動きを止めた。
「お願いだ、これ以上暴れないでくれ、お願いだ!」
勇一の叫び声をアモレーは聞いていない。
今度はアモレーの尻尾がシルバーマンを攻撃した。
殴り飛ばされシルバーマンが、ビルの中に突っ込み倒れ込んだ。
ビルの瓦礫がシルバーマンに降り注ぐ。その重さに体の自由が効かない。
そこにアモレーがやって来て、シルバーマンに馬乗りになり再度頭を殴ろうとする。
シルバーマンは頭を腕で抱えた。そこに金槌が容赦なく振り下ろされる。
振り落とされ金槌の一撃がシルバーマンの頭を直撃した。
意識が朦朧となる勇一、それでもアモレーは容赦なく金槌を振り下ろして来る。
必死で頭を守ろうとする勇一。
「ダメだ、このままでは殺される」
その時だった。またあの声が聞こえる。
「アモレーの弱点は脇」
勇一に躊躇する時間はなかった。
金槌を振りおろそうとするその脇に彼の左手が突き出された。
青い光線はアモレーの脇へ命中。
アモレーが大音響とともに後ろ向きに倒れる。
そして暫く手足を痙攣させる。
「……」
勇一の耳に何か聞こえた気がした。
それは恐らく正輝の声。しかし何を言ったのかは聞き取れない。
その声を再び発することもなくアモレーは動かなくなりそして消えて行った。
× × ×
破壊された横浜の街から正輝の遺体が発見されたのは事件から三日経った後である。
その訃報を聞いて比呂子は部屋で塞ぎこんでいた。
「大丈夫?」
心配した勇一が部屋を覗いてみる。
彼女は独り机の前で携帯電話を眺めていた。勇一の声にも反応はない。
「こんなメール出さなきゃよかった」
ぽつりと声が聞こえた。
比呂子が見ているのはこの前、真紀と理紗とで一緒に送ったメールである。
「正輝さんが亡くなったのは比呂ちゃんのせいじゃないよ」
勇一が比呂子に近付く。彼が近付いても彼女は微動だにしない。
「もし、あの日、私が引きとめれば彼は死なずに済んだかもしれない」
「それは考え過ぎだよ」
勇一は自分の言葉によそよそしさを感じた。
なぜなら、正輝が死んだ原因は比呂子であり自分なのだから。
でもそれを比呂子には告げられない。
「でも、せめてもう少し優しくしてあげれば、彼はとても疲れてたのに。
それよりなにより彼が横浜に帰った時、私はホッとしたのよ。
彼は私に助けを求めていたかもしれないのに。私はそれを突き放した」
比呂子が勇一の方を見た。
「私って冷たい女?」
勇一は何も言わず首を横に振った。
そしてそっと彼女の肩に手を置いた。
「そんなことない。比呂ちゃんは沢山の人の救いになってるよ」
比呂子の目から涙がこぼれた。
こぼれた涙が更に涙を呼びもう比呂子には止められない。
彼女は勇一の胸に顔を埋めた。
勇一の心は痛んだ。
比呂子が悲しんでいるのは自分が正輝を殺したから。
そしてそれも自分の特殊能力のなせる技、彼は自分の能力を、そして運命を恨んだ。
比呂子は泣きやまない。
いつまでも勇一の胸でまるで子どものように泣きじゃくっている。
勇一はただそれを見守るしか出来なかった。