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朝美の挑戦 2

 和志は何が起こったかを、全てテレビを通して知っていたようだった。朝美の試みが上手くいかなかったのを知っていた。彼は落ち着いた笑みを浮かべてこう朝美に告げる。

「お帰りなさい。朝美。そしてお疲れさま」

 朝美はたまらず、和志の胸に飛び込んで泣きはらした。悔しい、悔しくて、悲しくて、切なすぎる。だがこれが同時に、自分達が六度の一週間を経験して、勝ち得た結果の一つでもあった。

 雨の中、二人は抱き合い、朝美の涙が枯れるまで待つ。そしてそっと静かに家屋へと戻って行った。

 七度目の8月17日。朝、もう何度目かを数える必要もなくなったかもしれない朝。朝美は和志の待つ居間へと向かう。そこでは和志が習字紙を広げて、墨をすっている。

「さぁ、朝美、これからどれだけの時間、二人で過ごすか分からないが、出来るだけ充実したものにしよう。僕は習字。君はピアノ。やれることは幾らでもある。毎日を楽しんで行こう」

 朝美はその和志の言葉に、何かをまだ捨ててはいない一つの光を見出した気がした。だがそれは、泡沫の夢のように瞬く間に掻き消えてしまった。

 気持ちの整理のつかない朝美だが、淡々と和志の方は新しい一週間へと身を投じていく。彼は趣味の習字に没頭するつもりのようだ。

 朝美はキッチンへ向かい、水をコップ一杯飲み干すとフッと笑みを零す。

「悪くないわね。こんな生活も」

 そして「ただ」と一つの考えを自分自身に添える。

「和志は本当には諦めていない。どんな方法を考えているのか分からないけど、私は彼の力になれるだろうか」

 その疑問に答えてくれる人間は誰一人としていなかった。孤独の中で朝美は和志と暮らし、何がしかの希望を終わりのない毎日に見出していく。それしか現状では出来ないようだ。

 そうと心を決めると朝美は明るい表情を取り戻し、居間へと向かう。朝美はピアノを派手に爪弾く。

「さぁ、和志、新しい一週間の始まりよ。より充実したものに変えていきましょう!」

 その朝美の様子を見て、和志は心から嬉しかったのか、「ああ!」と大声で応えた。

 それ以来、和志は「麗華の外」への介入をやめた。

 丸一週間、習字に没頭し、時に麗華の街外れへ出掛けては風景をスケッチしてくる、という生活を和志は送った。

 それは朝美も同様で、ピアノに集中し、もう一つの趣味、裁縫も嗜んでいった。


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