大幅な変化 1
午後、増川から連絡が入る。彼は予想通り、興奮した口振りだ。増川は、桑原から接触があったことを、和志に伝える。
「桑原さんが僕にコンタクトを取ってきた。あの二巨頭の一人がだよ」
増川の口調は高ぶり、時に混乱している。
「それに桑原さんは、僕しか知り得ないと思っていた、『繰り返される一週間』、和志達、君達のことを詳しく知っていた。どういうことだ?」
その疑問に和志は一つ一つ丁寧に答えていく。更に和志は言葉を連ねていく。
「桑原さんと、何か約束事をしましたか。二人なりに対策を練って、高橋首相や不破さんの企みを止める何かを」
「いや、それはまだ何もしていない。取り敢えず二人で連携して事態に対処していこう。ということにはなった」
「では」と和志は話を続ける。
「昨日、増川さんは、馬淵さんにブラフを掛けておきましたね。『内通者が誰だか知られつつある』と」
「ああ、よく分かったね。……そうか! 君達は既に一度、僕に何がしかを伝えた一週間を経験している。だから分かったのかい?」
増川の事態の飲み込み方は早い。それは和志にとって好材料だった。和志は応える。
「そうです。その点については今は詳しくお話する必要はありません。それよりも肝心の明日ですが、東京港倉庫で不破さんと加藤長官が密会することも明らかになったはずです。だから増川さんは」
増川はリズミカルに和志の言葉を引き継ぐ。
「そう。俺はその一部始終を録画しようとしている。関俊則というフリーランサーの力を借りて」
ここまでテンポよく意思疎通が出来るのならば、話は早い。和志は早速切り出す。
「そのアイデア、破棄してください」
「なぜだ?」と問い掛ける増川に、和志は理由を告げる。
「それは関俊則が、協力するよりもむしろ反戦グループを政府に引き渡すからです。前回の『一週間』ではそれか原因で、増川さん、あなたも含めて反戦グループが大々的な検挙を受けました。それでは、ダメなんです」
「なんだって? あの関君が」
増川は驚きを隠せない。だが彼の切り替えは早い。すぐさま代案を訊く。
「ではどうしたらいい?」
和志の畳みかける事実の前に、増川はついていくので精一杯だ。その増川に「それは」と和志は、自らのアイデアを伝える。
「今回の港倉庫での密会。出来るならば増川さん、単独で音声なり何なりを収録してください。そしてその音源の取り扱いについては、マスメディアには決して売り渡さないように。マスメディアは高橋首相の傀儡と化しつつありますから」
状況が明らかになるにつれて、増川も閃きが増したようだ。和志に話をする。
「それならば、その音源をせめて反戦グループに携わる面々には伝えておいた方がいいかもしれないな」
「はい。その通りです。小さな干渉ですから僅かな変化しか望めないかもしれませんが、それで充分です」
その時朝美が何か閃いたのか、和志から電話を譲り受ける。
「増川さん、私です。野宮です。一週間の最後の7日目、高橋首相は開戦宣言をします。それに合わせて私達はネットに、不破さんと高橋首相の企みについて、情報を拡散するつもりです」
増川の感度も鋭くなっているようだ。
「つまりそれとリンクするカタチで?」
増川はまるでもう何年間もの間、和志達と共闘戦線を組んでいたかのような、理解力があった。朝美は感謝と喜びの余り、口元を一度左手で抑える。
「そうです。それとリンクするカタチで反戦グループと市民の、反戦デモを組織しておいてください。大きく時が変わる瞬間です。増川さん一人では難しいかもしれません。ただ」
増川は朝美のアイデアを受け取る
「桑原さんがいれば、ということか。確かに何とかなるかもしれない。その準備を進めておく。ありがとう。朝美に和志。君達を信じるよ。そして同時に君達が麗華を離れられるよう願っておく」
こうして大幅に事態を進ませる増川とのやり取りは終わった。和志と朝美は興奮の余り、肩で息をしていた。
二人はこれから始まる「本当の戦い」である残り4日間に全ての神経を集中していった。




