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暗殺未遂 3

 騒ぎの最中、そこでは何か起こっている? 朝美と和志の視線の先。高橋の乗る車が垣間見える。

 その光景は、和志と朝美を落胆させるに充分だった。

 高橋は何事もなかったかのように、涼しげな様子で、車から降りて民衆を宥めている。

「どうなってるんだ?」

 痛恨のミステイク。

「だがなぜだ?」 

 和志はしばらく動揺する。朝美は、不思議と冷静に状況を確かめる。

 見ると、高橋の乗るオープンカーは、高橋の座席だけ防弾ガラスでしっかりと仕切られている。

 あれほど正しく情報を得ていたはずなのに。

 あれほど覚悟を決めたはずなのに。

 朝美は口を塞ぎ、和志は右手で頭を抱える。激しい後悔と痛恨の思いが二人を襲う。和志は呻くように叫ぶ。

「失敗だ!」

 事実、二人の高橋暗殺は、未遂に終わった。

 自分達は正しかったのか? それとも間違っていたのか? 成功させるべきだったのか? 失敗することでむしろ救われたのか?

 様々な想いが朝美の胸をよぎるも、一度は決めた方向性を、二人は修正しようがない。和志は声をあげる。

「情報が確かじゃなかったのか? いや、それとも……。どうなってる!」

 和志は真っ先に不破に連絡を取る。

 朝美は機器類を片付けだす。

 和志はうなだれて不破に伝える。

「先生。すみません。暗殺は失敗しました」

 不破は状況をよく分かっているらしい。和志と朝美に急ぎ忠告する。その言葉には二人への思いやりが溢れていた。そこにまた不破の魔術めいた魅力も潜んでいる。

「館山君、野宮君、政府は血眼になってこの未遂事件の犯人を捜すだろう。君達二人が捕まれば、反戦運動は鎮まる」

 不破は、和志と朝美を気遣う。

「早く麗華へ行き、身を隠しなさい。私とのコンタクトもしばらく途絶えさせよう。君達二人の無事を願う」

「分かりました。先生」

 和志は目元を抑えて通話を切る。

 失敗だ。あらためてその事実を確認し、朝美に視線を送る和志。朝美はその失態をも視野に入れていたのか、和志よりは冷静だ。

 朝美を見て、和志は我を取り戻したのか、呼び掛ける

「行こう。朝美」

 和志と朝美の二人は慌ただしく、機器類をケースに仕舞い、ホテルをチェックアウトする。

 二人は停めてあった愛車に乗り込むと、池袋をあとにする。高速道路を北上する途中、沈み込んだ和志は捻り出すように口にする。

「麗華。霧が濃いという以外何もない街だ。そこでほとぼりが冷めるのを待つ。冬は冷える。二重の意味で、胸が痛いよ。俺達の未来が開けているといいが」

「和志……」

 朝美は、和志の「二重の意味」という言葉の指すところを知っていた。

 それは、暗殺の失敗と、事件に手を染めてしまった事実。

 朝美は、和志の落胆ぶりに胸が締め付けられる思いだった。朝美のウェーブした髪は、二人の心と裏腹に、涼しげに風へ揺られている。

 和志と朝美の二人は「霧の街」と呼ばれる麗華に向かう。

 和志が口にした「二つの苦み」を噛みしめながら。

 その日から二人の不可思議な逃亡生活が始まった。


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