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変転 2

 夜の7時過ぎ、夕食も早めに済ませた和志と朝美は、刻々と変化していく政治情勢をテレビで見つめる。二人が待つのは、増川からの何かしらの報告。

 だが残念なことに増川から連絡が入る気配はない。ただただ虚しく時間が過ぎていく。時計の針を刻む音が、寂しくも切なく二人の胸に響く。

 夜の11時50分も過ぎた頃、朝美は掌を合わせて、両肘を机につく。彼女が半ば諦めかけても、和志は最後の1分、1秒まで増川に望みを託している。

 5分、4分と残り時間が過ぎ行き、やがて時計の針は夜の12時をさした。その瞬間、テレビに映る映像。高橋首相の開戦宣言の映像は、長閑なスポーツ番組に切り替わる。

 テロップで報じられる日銀総裁辞任のニュース。和志と朝美の二人を既視感にも似た感覚が襲う。

 何も変わらなかった。完全な敗北。そのことを確かめた朝美は立ち上がり、和志に話し掛ける。

「この1週間は……、負けね。でもまだ新しい1週間が待っているわ。諦めることはない」

 和志ももちろんその事実を分かっている。だが和志の落胆は想像以上に大きく、彼の胸には、「失望」という二文字が刻まれていた。和志の声は寂しげだ。

「なぁ、朝美。戦争が一方の世界では始まりつつあるのに、俺達は家に閉じこもり、ひたすら時が経つのを待つしかない。そんなやるせない思いにとらわれた時、どうしたらいい?」

 和志はショックを隠せずにいる。今回の敗北が予期出来たものであったとしても、和志は打ち沈んでいる。和志は言葉を連ねる。

「そんな時、どんな気持ちでいればいいんだ? 何を支えにすればいい?……なぁ? 朝美」

 朝美には和志にかける言葉がなかい。和志の気持ちを時が和らげてくれるのを待つしかない。彼が今一度気を奮い立たせるのを、朝美は待つだけだ。朝美は、和志の苦渋に満ちた声に耳を傾ける。

「なぁ、どうしたらいい? 朝美」

 朝美は、戸惑う和志を労り、新しい一週間に目を向けてもらう他ない。朝美は優しく和志の肩に触れる。

「自分一人で全てを抱え込まないで。和志。今日はゆっくり、休みましょう?」

 二人を包む静寂の夜が過ぎて行く。その時間は味わうには余りに痛ましく、余りに苦々しかった。

 やがてベッドに就いた和志と朝美はそれぞれ、眠れない思い、辛く切ない思いを抱える。

 だが容赦なく時間は過ぎて行く。和志達にはもう一度やるべきことがあった。いや、やらなければいけなかった。

 目覚めれば8月17日。繰り返される一週間の第一日目、新しい一日が二人を待っていた。


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