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ハッキング 1

 3度目の8月23日。繰り返される一週間の最後の一日。正午過ぎ、朝美達にとっては予想通り、高橋の緊急会見が行われる。

 和志はどこか暗いが、必死に希望を見出そうとモニターを見つめる。

 和志は演説が進むにつれて、計略にまんまと利用された事実を、苦々しくも、改めて噛みしめる。

 だが和志にはやるべきことがあった。朝美とともに、不破と高橋の繋がり、計略をネット上で広げるということが。不破の演説は同じように締めくくられる。

「我が祖国日本の勝利を願って」

 その言葉を聞き届けると和志は、「さぁ」と言って、パソコンの前に座る朝美に近づく。

 朝美は昨日から、政府公式サイトへ不法侵入する手筈を整えている。あとはサイトに記事を混入させるだけだ。和志は朝美の肩に優しく触れる。

「この演説を機会に、アクセスが恐らく集中するはずだ。この機会を活かすしかない」

 ハッキングの知識や技術については詳しくとも、初めて不法に他サイトへ侵入することになる朝美は、少し緊張した面持ちだ。

「これで多分、大丈夫だとは思うけれども」

 そう言って朝美が、用意していた手順を踏んで、サイトの乗っ取りを仕掛ける。すると瞬く間に朝美と和志の作った記事が、政府公式サイトのページを覆っていく。

 高橋の計略、不破克彦という人物の裏切り、内通。そして今回の開戦宣言に至るまでの高橋の自作自演。あらゆる要素を盛り込んだ記事が人々の目に触れる。

 いや少なくとも二人はそう期待する。しばらく様子を窺うと、朝美はやや自信あり気に口にする。

「簡単には記事を削除できないように、細工してあるから。しばらくは大丈夫。その間にどれだけ本当のことが人々のもとに届くか、ね」

 そんな朝美を和志はとても心強く思っていた。和志は朝美を労わるように、一度彼女の肩をポンッと叩くと、今度はテレビの前に陣取る。

「さて、何か変化がないか。期待すべきは、僅かばかりに残るこの国の『良心』だ」

 昨日からの作業で疲れ切っていた朝美は、目頭を軽く押さえる。

「そして増川さんが、どんな連絡をしてくれるかね」

 やり取りする朝美と和志はある種の希望にも満ちている。

 自分達が介入することで今日1日では変わらなくとも、「次の1週間」では、という気持ちが二人にはあったからだ。

 和志は宣戦布告のニュースを眺める。

「さて、増川さんしか外部の正確な変化を伝えてくれる人はいない。増川さんがどんな話をしてくれるか。それからだ。考えるのは」

 和志は最後の一日での展望を見据えている。だが同時に「繰り返される」次の一週間をも視野に入れていた。


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