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暗殺未遂 2

 「東京港倉庫」から、そして不破から離れた朝美と和志は、とあるマンションの一室に身を置くと計画を練る。

 二人の計画は、未熟だが、成功の余地は十分にある。高橋の演説ルート、池袋、新宿、霞が関の三ヵ所の内、池袋だけでのみ高橋はオープンカーに乗る。和志は地図を指さす。

「オープンカーの走行コースにある、改装中の『クリエイト・ビル』の屋上から、高橋首相を狙う」

 淡々と冷たくも進んでいく暗殺計画。和志は心の奥に潜むある種の「影」に気づかない。いや気づかない素振りを見せる。

 朝美はその和志にひたすら想いを委ねるだけだ。

 和志は地図上のクリエイト・ビルを軽く指先で叩く。

「首相は、そこでは、明らかに無防備になるわね」

 地図を確かめる朝美に、和志は機関銃を手入れしながら告げる。

「もちろん銃は遠隔操作をする。俺達は照準を定めるだけだ」

 照準を定めるだけ。たしかにやることはそれだけだ。だが二人が手をくだすことはそれ以上の因果を背負っている。

「事後の逃亡ルートはどうなってるの? 和志」

 振り切っていく。朝美はその因果を。和志のために。

 朝美の問いに、和志は慎重に山形への北上ルートを地図で辿る。

「山形にある『麗華』。2020年に政府が区分けした過疎街。別名『霧の街』と呼ばれる」

 「霧の街」。霧が濃いだけではない。何かを感じさせる。二人の不穏な気持ち、心情とも重なるようだ。

 和志は「麗華」と書かれた地図上のポイントを指さすと一呼吸置く。

「麗華は田舎町で長年放置されている。あそこなら、しばらくは身をひそめられるだろう」

「それで大丈夫ね」

 朝美は確かめるようにそう頷く。機器類を整備する和志、彼に朝美は両手を広げて尋ねる。

「準備は、これで万全?」

 和志は徴兵時代、銃の腕前に秀でていたとしても、実戦経験はまるでない。ましてや暗殺など。

 その危うい事実をも覆い隠す気持ちで、和志は満ち満ちている。 

 和志は、機器類のメンテナンスを終えると、人差し指で口元を軽く拭う。

「全て上手くいくと信じているよ。あとは機械が期待に応えてくれるよう願うばかりだ」

 二人は、互いを支え合うように、瞳を閉じて頷く。それしかない。自分達で決めた道なのだから。その瞬間、二人の退路は永遠に閉ざされる。

 数日後、決行の日を迎えた二人は、不破が紹介してくれた「同志」との連絡をスムーズに終える。

 朝美と和志に伝えられた情報によると、高橋は予定通り、オープンカーで池袋を巡回するらしい。

 着々と進んでいる。全てが万全だ。そう確信するも手が震えているのを二人は知っていた。

 朝美と和志は、機関銃を設置した「クリエイト・ビル」から一キロほど離れた「エンパイヤ」という名のホテルに滞在している。

 二人は、その一室で、高橋の乗る車が予定地に来るのをひたすら待つ。

 近づいてくるその瞬間。高鳴る鼓動。「その時」に二人が目にするものは何か。様々なイメージが二人に去来する。 

 和志は手元にある小型のモニターを、神経質に何度も見ると、朝美に告げる。

「来たぞ。彼だ。銃の射程圏内に車が近づいている」

 いよいよだ。二人は一線を超える。もう戻れない。張り裂けんばかりの想いで朝美は、汗の滲んだ掌を握り締める。

「いいのね。和志」

「決めたことだ。もう後に戻るつもりもない」

 そう言葉を交わす和志と朝美の手は冷たく凍る。果たして、二人の、未成熟な若者の暗殺計画は、首尾よく成功するのか。和志は指を折り、秒読みをしていく。

「5、4、3、2、1」

 淡泊に、寂寞と響き渡るカウントダウン。そして和志が、「0」と声をあげると同時に、「クリエイト・ビル」の銃が乱射される音が鳴り響く。

 その時二人は、一つの境界線を越えた事実を無自覚に知った。

 焦り、逸る心。二人の視線は一点に注がれる。和志は叫ぶ。

「どうだっ!?」

「彼は!? どうなったの!?」

 和志は身を乗り出し、朝美は顔を両手で覆うと、モニターを覗きこむ。成功か? 失敗か? いやそれとも全てがそもそもの間違いだったのか。

 和志と朝美の心に不安と葛藤が入り混じる。

 やむなくも、境界線を踏み越えた二人は、戦争を止めるべく高橋を暗殺出来たのだろうか。それとも失敗した方が幸せだったのか。

 和志と朝美はモニターで、現場の様子をしっかりと注視した。

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