開戦 2
朝美は沈痛だ。和志も自分が、高橋の自作自演物語の脇役として利用されていたのを、今一度知ったようだ。
和志は言葉を無くし、まるで時が止まったかのように、画面から視線を逸らさない。朝美はたまらずに和志へ呼び掛ける。
「和志?」
和志は言葉に出来ない思いにとらわれていて、朝美の呼び掛けに一切応じない。朝美には和志の心情が手に取るように分かった。
和志は自分の「負け」を、そして軽々しくおかしてしまった「失態」の大きさを、苦々しくも噛みしめている。そんな様子だった。
和志は無言で席を立つと、自室に閉じこもり、黙りきってしまった。
朝美は、何とか冷静さを保ち、何か手が打てないかを探ってみる。だが、ただ一つ分かるのは、和志にも朝美にも気持ちの整理が必要ということだけだった。
外の豪雨は穏やかになり、やみ始めていた。
その晩、二人はメディアの情報を、一切シャットアウトして、静かに二人きりで夕食を摂った。
口数の少なかった和志はぽつり、ぽつりと言葉を零していく。それは彼なりに練ったプランの一つでもある。
「とりあえず明日、不破さんに連絡する。戦争が始まる前に、何か試すべきアイデアがないか訊いてみる」
和志はこう胸の内を打ち明ける。
「俺はどんなアイデアが示されようと、それに従うつもりだ」
和志の決意は固い。朝美のどんな意見も受け付けないようだ。
和志は、朝美を巻きこんでしまった自戒からか、朝美がゆったりとこれからは自分と別行動を取るように促す。
「その時、朝美。君は自由にしていい。政府に内通する人間が、不破さんの周りにいる限り、どんなアイデアであっても危険が伴うのだから」
和志はコップの水を一気に飲み干す。
それは彼の苦々しく痛切な思いが託されているようでもあった。
「俺は、自分のしたことの責任をとるつもりだ。だがこれ以上君を協力させたくないし、そうすべきじゃない。本当に、すまなかった」
違う。私は巻き込まれただけじゃない。自分自身でも選んだこと。
そう思うと朝美は、和志に、何かを言いたくなったが、言葉にならない。
朝美は和志の手助けをする気持ちでいたが、和志はそれを拒むだろう。それは簡単に予想出来る。
言葉をなくし、箸を止めて和志を見つめる朝美に、出来ることはもうないようにも思われた。
和志と朝美、二人きりの晩餐は物悲しく、憂い気に過ぎて行った。




