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シフォンケーキ 2

 簑島は、ケーキ一式を小気味良く片づけると、品のある物腰で玄関へと向かう。朝美は彼女に連れ添った。

 和志は、ソファーに腰掛けたまま動かない。ひとえに和志の置かれた状況が彼にそうさせていた。簑島の帰り際、朝美は簑島の耳に囁く。

「気を悪くなされたなら、すみません。彼、少し神経質になっているんです。本当はああいう人ではないんだけれど」

 簑島は、和志の態度と言葉を、まるで気にしていないようだった。軽く頷いて微笑む。

「私が政治の話なんてしたものだから。館山さんがナイーブになるのも分かります。それじゃあ朝美さん、また」

 朝美は、簑島を見送ると、複雑な面持ちで座っている和志に語り掛ける。

「和志、どうしてあんな言い方するの? 簑島さんと親しくしておいて損はないわ。それに霧の街とシフォン。素敵じゃない。ホントに童話みたいで」

 和志を嗜める朝美の言葉を、和志は受け流す。朝美の和志への配慮にも気付かない素振りを見せる。

 和志は表情をほとんど崩さないままこう言い放つ。

「ケーキなんてどうでもいい。大切なのはこの国の行く末だ。童話みたい? 冗談じゃない。俺達は否定されたんだぞ。じゃあ何か? 朝美。君は彼女に軽々しく批判されて平気でいられるのか?」

 朝美は、テーブルを布巾で拭き、和志に視線をやる。和志は少し冷静さを失っている。現在の状況が和志を掻き立てていたとしても。

 宥めて、平静に、先を見据えるよう朝美は和志に促す。

「それでも、普通に接することは出来たはずよ。あれじゃご近所付き合いもろくに出来やしない。いつまでこの街にいるのかも、わからないんだから」

 和志は鬱屈した様子で、俯きがちに左手を軽くあげる。

「それは……、知ってるさ」

 和志の表情は沈みがちだ。彼は好き好んで気短になっているわけではない。彼は自分の仕出かした失態を心底悔やんでいる。

 朝美は、その時あらためて、和志がどれだけ今回の計画に賭けていたのかが分かった。

 報復心。その感情があったとしても。和志は身を削ってまで世界を変えようとしていたのだ。そしてそれは、和志を慕った朝美でさえも同じだった。

 そう。同じだった。でもミスを犯してしまった。それは取り返しがつかない。

 朝美は和志を労わる言葉を投げ掛けようしたが何も思いつかない。朝美が黙り込み、和志も場を取り持つ言葉を思い付かずにいる。

 ソファに座り込んだ二人を包み込む時間が、切なくも痛々しく過ぎて行った。


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