星空の河原で寝そべりながら君と
※作品のあらすじを読んでから読むことを推奨します
「あの星の名前――」
「え、どの星」
「ほら、アレ」
「……いや、いっぱいありすぎてどれのことだかサッパリ」
「夏の大三角形の右手にある星」
「いや、絞れたようで絞れてませ――うわっ」
「ほら、これでわかるかしら」
「ちょ、ヘッドロックダメ絶対」
「それは私の一部分が硬いと、遠回しに言っているのかしら」
「ち、違っ」
「つまり柔らかいと」
「いや、そうは言ってな――柔らかいデス」
「つまり私がデブだと」
「もうこの人何言ってんの!」
「それで、あの星なのだけれど」
「え、あ、うん。赤いの?」
「いいえ、その隣の」
「あ、見つかった」
「あの星、なんて名前なのか――知っているかしら?」
「全然」
「少しは考える姿勢を見せなさい」
「ん……えー、わかりません」
「ダメね」
「くっ……で、答えは?」
「知らないわ」
「ダメねぇぇっ!?」
「あの星が何なのか、気になったから聞いたのだけれど」
「え、クイズとかじゃなく?」
「あら、私がいつそんなことを言ったのかしら」
「いや、普通あんな言い方だったら思うってば」
「心外ね。私は己の無知を恥じながら貴方に聞いたというのに、まるで馬鹿にするような態度で」
「面倒臭ぇぇ!」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「俺は、お前のそういう面倒臭いところも含めて全部が好きだっ!」
「ぎゃぁぁあ」
「貴方が私に言った言葉よ」
「あの時はここまで面倒臭いとは思わなかったんデスヨー」
「なら、今は私のことが好きじゃないのかしら」
「好きだけど」
「…………」
「……えっ」
「…………」
「……ちょ、あれ?」
「…………」
「…………」
「……貴方」
「……うん」
「私を殺すつもりかしら」
「ない……けど」
「私は、死ぬかと思ったのだけれど。今も顔から火が出そうで、貴方の顔もロクに見られないわ」
「あれ、今僕見えてませんか? 目、合ってますよね。合ってますよねガン見ですよね」
「もし貴方が殺し屋、私が標的だったとしてだけれど。今の台詞で私を殺せるのだと思ったら、それは大間違いよ」
「あっれ無視? インビジブル? 自分インビジブル? 目の焦点が僕に合っていない?」
「大間違いよ!」
「なんで二回言ったし」
「私を萌え殺そうと思っても無駄よ」
「なんで足したし」
「ところで」
「急な転換だな」
「私は今、恥ずかしくて貴方を直視出来ないのだけれど」
「と、依然目を合わせながら言われましても」
「できないのだけれど」
「なるほど、僕の目を見ているんじゃなくて、その目前の空間を見ているわけか。二〇センチくらいしかないのに」
「出来ないのだけれど」
「はい」
「このまま私が貴方を見られなくなったらどう責任を取ってくれるのかしら」
「いや、ガン見ですよね……あ、すいません」
「そうなったら、私は貴方を見失わないために、ずっとこうしておかなければならないと思うのだけれど」
「どう?」
「こうして……手を繋いでおけば、もし仮に貴方が見えなくなっても、どこにいるかが分かるわ」
「…………」
「……なにか反応をしてくれないと、流石にいたたまれないのだけれど」
「あ、いや、うん。なんか、そっちから手を握るのって初めてだからさ」
「…………」
「…………」
「……死ぬわっ!」
「落ち着いて!?」
「なるほど、早速繋いだ手が役に立ったのね」
「犬のリードを持っているみたいな気分」
「……貴方は犬派かしら」
「猫か犬かで言ったら犬かなぁ……」
「……わん」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「で、でも、猫も好きかな」
「にゃー!」
「ちょ、痛、引っ掻くの禁止!」
「私は豚派よ」
「鳴き真似をしろと」
「豚のように鳴きなさい!」
「やりづらいわ! ……いや、やらないけど!」
「ねえ」
「うん」
「レジャーシートを持って来るべきだったかしらと今更思うのだけれど」
「急な思いつきだったからねぇ……」
「確かに下草は柔らかいし、土も渇いているわ」
「服は汚れないと思うよ」
「当たり前よ、貴方は服を着ていないのだから。汚れる服が、そもそも無いもの」
「会話だけ聞いている人が万が一にでもいたら、僕がまるで全裸でいるみたいな言い方は――」
「下草、これ、芝かしらね。チクチクするわ」
「無視ですよね。服着てますから。着てますからね」
「だから、なにか茣蓙でも持って来るべきだったかと」
「次からは気をつけよう」
「それなら、今回はどうするのかしら」
「我慢する、しか?」
「何か考えなさい」
「命令系?」
「考えなさい」
「はい」
「…………」
「…………」
「僕の……上?」
「全裸の貴方の上に乗れと。とんだ変態ね。河原で何を言っているのかしら」
「服! ほら見て服! 着てますよね! ね?」
「…………」
「貴方の上に乗りたいのはやまやまなのだけれど」
「え、まさかのノリ気」
「私にも一般に羞恥心と呼ばれるものがあるわ」
「なぜ一般論からの引用なのかはわからないけれど」
「それに」
「それに?」
「貴方の上だと星が見えないわ」
「そういえば天体観測だっけ……仰向けで?」
「幽体離脱は私のネタではないわ」
「いや、僕のでも無いのだけれど」
「…………ッ!」
「驚きに息を飲む演技は上手だけれど、幽体離脱が僕のネタであった事実は過去一度も無い」
「確かに、貴方の上に乗れば、私が芝にチクチクされる――チクられることはなくなるわ」
「意味変わってませんかね略したことで」
「でもね貴方。うら若き乙女が、猛り狂う全裸の上に乗るなどと」
「服! 服! 着てる! あと言い方自重!」
「というわけで、今回は我慢してあげるわ」
「次からはレジャーシート持って来るよ」
「ええ、気をつけなさい」
「……僕の記憶が確かなら、コンビニ行った帰りに、突発的に星を見に行こうと言い出したのは」
「――貴方ね」
「なるほど認めないわけだ」
「私のせいにするつもりかしら」
「いや、そんな気は無いのだけれど」
「そもそもコンビニに行こうと言い出したのが貴方で」
「いやいや、急にプリンが食べたくなったと言い出したのは」
「――貴方ね」
「なるほど」
「わかったかしら」
「ちなみにだけど、急にプリンが食べたいと言い出したのは僕では無いのであって」
「あ、流れ星」
「え? あ、見逃し――あ、また流れ星」
「願い事を三回言えば叶うのだったかしら」
「流れ星が流れている間に三回なんて、言えるはずが」
「金金金っ!」
「言ったーっ! 言ったけど釈然としねぇーっ!」
「権力権力権力」
「言えてねー! 足りてねぇよ!」
「ヒトラーだって、きっと流れ星に三回」
「言ってねぇよ! 過去のあらゆる権力者が流れ星に叶えてもらったわけじゃねーよ!」
「それなら貴方は、何を三回繰り返して言うのかしら」
「き、君と永遠に――」
「黄身黄身黄身っ!」
「……いや、なに? 卵になられる御予定が?」
「三回言える内容じゃないと叶えられません」
「神の声っ!」
「貴方が卵になりたいのは分かったし聞き届けたわ。でも、流れ星が流れ切る前じゃないと叶えることが出来ないわね」
「え、なに? 明日にでも僕、卵になるの? てか君が叶えるの?」
「さあ、二文字以内くらいじゃないと三回繰り返せないわよ」
「二文字……」
「流れ星っ!」
「ぬぁっ、あ、愛愛愛っ」
「愛する? 愛される?」
「んー、君の名前の方ごっ」
「セイッ!」
「目がぁぁぁあ!」
「つ、つまり、私がほ、欲しいということ……かし、ら」
「三回言えなかったなぁ!」
「ごまかさないでくれるかしら私は真剣なのだけれど」
「ハハッ!」
「似ていないわ」
「ハハッ! 僕ミッ」
「似ていないわ」
「ごめんなさい」
「流れ星っ!」
「愛愛愛! はっ、つい反射で!」
「流れていないわ」
「誰か助けてください!」
「でも」
「ん?」
「私がその願いを叶えてあげるわ」
「え? どういう……?」
「黙りなさい。そして、耳を澄ませて良く聞きなさい? 全神経を私の言葉を聞くために傾けなさい。わかったかしら?」
「…………」
「……よろしい」
「…………」
「私はプラトニックな付き合いをするつもりだったし、これからもそうするつもりだけれど、そうね、今日は星が綺麗だから、見蕩れちゃって、唇の触覚だけが麻痺しちゃうかもしれないわ」
「……そんな部分て――ごめんなさいでした」
「唇だけだったら、なにをされてもわからないかもしれないわ」
「それはつまり、キスまでならしても――」
「あら、そうは言っていないわ。唇に限り、なにをされても気付かないと言っているだけで」
「そうか、それなら僕が悪かった」
「そう、わかったのなら良いわ」
「じゃあ、僕も、星に見蕩れちゃって、君と唇同士が接触してしまうかもしれないけれど、それは星に見蕩れていたからの事故であって、僕と君との間にあるプラトニックは決して崩れないのだと――んッ!」
「――……ふぅ。まだるっこしいのは、嫌いよ」
「ッ! っ!? 今、僕は何を――」
「そうね。唇の上にでも流れ星が落ちたと思えば良いわ」
「犬に噛まれたみたいな!」
「あら、私が犬だというのかしら。なるほど――――わん」
あとがき。
みなさまこんにちは。たしぎです。
この小説書いて、書き終わって、それで印刷しようかな、でもテスト期間だし終わってからで良いかな、とか思って、忘れていまして。昨日買って来た、「化物語〈下〉」の、「つばさキャット」を、今さっき呼んだのですが――モロかぶりじゃねえか! パクったと思われるよ畜生! どうしてくれるんだ――ってことで、急遽ラスト書き直しました。だって、当初のモノだと、「……キス、しても良いかしら」で終わっていたのですから。まんまじゃねえか! それにしゃべり方も、どことなく阿良々木さんと戦場ヶ原さんに似てるし! 書き直せと! 書き直せと!? よっしゃ、ラストは完璧に書き直してやらぁ←そしてこうなった。これはダメだ。一から書き直さないと脱却できない。でもまた違うのを書き始めるのもちょっと……
閑話休題。今回、前回ので散々釘を刺されたので、「文学作品」を意識して、「会話文」の習作みたいな感じです。テーマは「愛し合う二人の世界には、二人以外の何物も存在しない」。だから、あえて地の文が無いわけですね。一瞬で書き終わりました。二時間でした。作業時間。今は、これを提出して良いものかどうか迷っています。書き直すにも、他の小説を書かなければならないので時間がないし。書き足すしかない、のかも。
ではではたしぎでした。
※今からでも作品のあらすじを読むことを推奨し(ry