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大好きな人へ

「やっぱり可愛いなぁアニマルトリュフ。ねこさんに、かえるさんに、わんこさんに──でも、こんなんじゃ子供っぽ過ぎるって思われちゃうかなあ……」


 色とりどりに並べられたチョコ菓子を前に、セララが困ったような声をあげる。

 本人は心のそこから悩んでいても、どうにも微笑ましく聞こえてしまう声だ。

 彼女を挟んで立っていたミノリと五十鈴は、セララの後ろでこっそりと苦笑し合った。


「ほらほら~、早く決めないとさっきみたく売り切れちゃうよ?」


 先ほどからなかなか買う物を決められないセララに向けて、五十鈴がしょうがないなぁという響きで話す。


「でも……どれも可愛くて、でもにゃん太さんは大人だから可愛いのは嫌かもしれないし……」

「にゃん太さんなら、どんなものでも喜んで受け取ってくれると思いますよ? 紳士ですもん」


 ミノリの言葉にさらに眉を下げながらセララは呻く。


「ううう、そうかなぁ。でもでもあげるなら絶対喜んでもらいたいしっ」

「でしたら、やっぱり先ほどのマカロンがいいんじゃないですか? すごくおしゃれだったし、にゃん太さん紅茶が好きだからお茶請けに喜ぶと思います」


 ミノリの提案を反対側から五十鈴もサポートする。


「だよね。あたしも今まで見たヤツならあれが一番好きそうだなーって思ったよ」

「そう……? じゃあ……うん、よし決めた!」


 意を決して顔を上げたセララに他の二人がほっとしたのもつかの間、「あの、これください!」とセララが今まで見ていた動物を模したチョコを指差したので驚いてしまう。


「えっ、あれ?! なに、決めたってそっちに決めたの?」

「わたしも…てっきりマカロンのほうにしたのかと思いました」


 二人の反応を見て慌てたセララが両手を振る。


「あ、ち、違うの! にゃん太さんへはマカロンにして、でもこのチョコは可愛すぎて諦められないから自分用にしちゃおうかなって……えへへ」


 見つめ合った五十鈴とミノリはしばらく我慢していたが、とうとう堪えきれずにふきだしてしまった。

 馬鹿にする意図ではなく彼女を可愛らしいと思ったからなのだが、セララは他に思うところがあったのか顔を赤くしてもじもじし始めてしまった。


「ところでミノリは? もう全部買うもの終わった?」


 そんなセララをフォローするように、五十鈴が話を別の方へ向ける。

 ミノリは「うん」と頷きを返して、手に持っていた紙袋を広げて見せた。


「トウヤの分と、シロエさん、直継さん、にゃん太さん、ルディさんので合計五つ」

「って、あれ? 五個とも同じ包装じゃない? まさか全部同じのにしたの?」


 五十鈴の驚いた声にミノリが戸惑っていると、立ち直ったセララも袋を見て目を丸くする。


「あ、ほんとだ。ねえミノリちゃん、シロエさんの分は? それもみんなと同じ?」

「うん。そうだよ、どうして?」


 なぜそんな事を訊かれるのかまるで理解できない様子でミノリが返す。

 今度は五十鈴とセララが視線を合わせて、どうしたものかと思案顔になった。


「みんなと一緒なんだぁ~」

「ってか、弟と一緒っていうのがねー。もうちょっとさー、もうちょっとねえ?」

「えっ、なになに? なんで?」


 おろおろするミノリの肩に五十鈴の腕が回る。


「ダメでしょー、こういう特別な日はもうちょっと頑張らないと」


 するとセララもミノリの手を握って訴えてくる。


「そうだよ。せっかくのバレンタインだもん、ミノリちゃんも勇気だしてがんばろ!」

「えっとごめんね? 何の話をしてるの?」

「だ~からぁ、シロエさんの話っ。皆に同じチョコあげるだけなんて悲しすぎるよ!」

「せっかくだもん、チョコは同じでも、せめて何かプレゼントとかつけようよ」


 何がせっかくで何がいけないのかもよく分からないまま、ミノリはずるずると引きずられていく。

 誰か一人を特別扱いするのはよくない気もしていたけれど、途中、使いやすそうなアイピローを見つけてつい買ってしまった。フクロウの目元を模した、温めて使える一点ものだ。

 これは、日ごろお世話になっている分。

 それを言ったらにゃん太や直継、アカツキにだって同じ気持ちだけれど、他の人には何かいい物を見つけた時に贈ることにしようと決めた。


「喜んでくれるといいね」


 にこにこと笑うセララの横で、五十鈴も少しおどけて続ける。


「これでちょっとは目の下のクマ、消えるかもしれないよね」

「もう、失礼だよ五十鈴ちゃん! でも……よく眠れるといいな、あんまり無理しないでほしいし」


 何やら師匠直伝とでも言えそうな難しい顔になったミノリの背中を五十鈴が叩く。


「ほらほら、やっと全部終わったんだから帰りましょ? あんまり遅くなると心配かけちゃう」

「ご、ごめんねっ、わたし、選ぶの遅かったから」


 慌てるセララに残る二人が笑う。

 並んだ帰り道、白い息が穏やかに解けていった。



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